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chapter,7 Naha → Tokyo
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「ちょ、やめてよ!」
「ほかにも傷つけられてないか確認するだけだよ。オレにまかせて」
「やだ……ッ」
無慈悲にジッパーをおろされ、はらりとドレスが肩から落ちる。
着ていた下着はカナトが選んでくれたものだったのですこし安心したが、それでもこの状態は危険すぎる。首筋だけでなく、腕や胸元にも刻まれているカナトの証を暴露されたマツリカは慌てて自分の腕で胸元を隠そうとするが、マイルに腕をとられてそのまま抱きしめられてしまう。
「オレはりいかのこと、姉だなんて思ったこと、一度もなかった。あの男に奪われたと知って、気が気じゃなかった。もう、誰にも媚を売る必要なんかないよ。オレのもとにずっといればいい。そのためにオレは父さんの会社をおおきくしているんだ。オレがりいかや義母さんを苦しめた鳥海を蹴落としてやる。だから」
「違う、違うのマイくん! あたしは鳥海に復讐しようなんて思ってない! バパのことだって誤解だってカナトが教えてくれたし、彼はずっとあたしのことを」
「りいか。オレの言うことがきけないの? 困ったなあ」
先ほどとは打って変わった表情で、マイルはマツリカを突き放す。ぽすん、とベッドに投げ出されたマツリカを見下ろして、くすりと嗤う。
「やっぱりさきに消毒しないと駄目かあ」
「消、毒……?」
「あの男と過ごしたこと、されたことをなかったことにするのさ、コレをつかって……ね」
どこか誇らしげに上着のポケットから取り出したちいさな注射器を見せられ、マツリカは恐れ慄く。
「クスリ……? なんで、マイくんがそんな危ないモノ」
「なんでって? これが手っ取り早いからさ。海外進出には金とコネがどうしても必要になる。大陸で出回っているコイツはすこしの量で願いを叶えてくれるって評判なんだぜ? イヤな記憶を忘れて新しく作り替えるんだ……りいか、君のなかからあの男を消し去って、オレとイチからやり直すんだ」
「っ……!?」
――あたしの記憶のなかからカナトのことを消すって、なにおかしなこと言ってるの?
透明な注射器のなかには淡い紫色の薬液がたぷんと揺れている。得体のしれない禍々しい液体を前に、マツリカは凍りつく。
すでに身動きを封じられている状態なのに、自分の言うことを従わせるために記憶を消そうとしている義弟は、すでにマツリカがよく知っている彼ではなかった。
「マイくん……いつから」
「りいかが大学を卒業して日本に戻って来るって信じてたのに、そのままアメリカに居ついちゃうんだもの。それも鳥海の孫会社だなんて親父もよく許したものだよ。オレが社長になったらりいかを呼び戻して妻にすることにも反対してたから、誰にも邪魔されないようにすこしずつ計画を練っていったんだ」
クスリの出どころについてマイルは口をひらかなかったが、彼が旅行でしょっちゅう台湾まで行っていたことは義父から知らされている。たぶんそのときに違法薬物のバイヤーと知り合い、大金と引き換えに販路を整え、海外進出の足掛かりとしたのだ。
非合法に、罪を犯して。
カナトや王氏が危惧していたことを知らされていたとはいえ、彼が犯罪に手を染めていた事実にマツリカは絶句する。
「まさか……お義父さんにも?」
「ああ。医者に不審がられないようすこしずつクスリを増やして、キャッスルシーの社長の椅子を譲らせたんだ。物忘れがひどくなったと本人は思っているけど、クスリが抜ければ後遺症もなくもとに戻る。だから正気に戻る前にマツリカ、俺は君を妻にする」
「言ってることが無茶苦茶だよ! あたしのなかからカナトの記憶を消したところで、マイくんになびくなんてこと、ぜったいないんだから!」
「そんなのやってみないとわからないよ。あの男にされたことをぜんぶ上書きしてあげる。オレの方がりいかを気持ちよくさせてあげられるってその身体に思い知らせないと……もう二度とあの男にりいかを盗まれないように、ね」
「いや、やめて、やめ……ッ」
猛禽類のような瞳が、弱った獲物を追い詰める。
逃げられないことをいいことに、ベッドにのぼってマツリカのうえに馬乗りになったマイルは彼女の腕を恭しくつかみ、注射器の針を一息に――……
「ほかにも傷つけられてないか確認するだけだよ。オレにまかせて」
「やだ……ッ」
無慈悲にジッパーをおろされ、はらりとドレスが肩から落ちる。
着ていた下着はカナトが選んでくれたものだったのですこし安心したが、それでもこの状態は危険すぎる。首筋だけでなく、腕や胸元にも刻まれているカナトの証を暴露されたマツリカは慌てて自分の腕で胸元を隠そうとするが、マイルに腕をとられてそのまま抱きしめられてしまう。
「オレはりいかのこと、姉だなんて思ったこと、一度もなかった。あの男に奪われたと知って、気が気じゃなかった。もう、誰にも媚を売る必要なんかないよ。オレのもとにずっといればいい。そのためにオレは父さんの会社をおおきくしているんだ。オレがりいかや義母さんを苦しめた鳥海を蹴落としてやる。だから」
「違う、違うのマイくん! あたしは鳥海に復讐しようなんて思ってない! バパのことだって誤解だってカナトが教えてくれたし、彼はずっとあたしのことを」
「りいか。オレの言うことがきけないの? 困ったなあ」
先ほどとは打って変わった表情で、マイルはマツリカを突き放す。ぽすん、とベッドに投げ出されたマツリカを見下ろして、くすりと嗤う。
「やっぱりさきに消毒しないと駄目かあ」
「消、毒……?」
「あの男と過ごしたこと、されたことをなかったことにするのさ、コレをつかって……ね」
どこか誇らしげに上着のポケットから取り出したちいさな注射器を見せられ、マツリカは恐れ慄く。
「クスリ……? なんで、マイくんがそんな危ないモノ」
「なんでって? これが手っ取り早いからさ。海外進出には金とコネがどうしても必要になる。大陸で出回っているコイツはすこしの量で願いを叶えてくれるって評判なんだぜ? イヤな記憶を忘れて新しく作り替えるんだ……りいか、君のなかからあの男を消し去って、オレとイチからやり直すんだ」
「っ……!?」
――あたしの記憶のなかからカナトのことを消すって、なにおかしなこと言ってるの?
透明な注射器のなかには淡い紫色の薬液がたぷんと揺れている。得体のしれない禍々しい液体を前に、マツリカは凍りつく。
すでに身動きを封じられている状態なのに、自分の言うことを従わせるために記憶を消そうとしている義弟は、すでにマツリカがよく知っている彼ではなかった。
「マイくん……いつから」
「りいかが大学を卒業して日本に戻って来るって信じてたのに、そのままアメリカに居ついちゃうんだもの。それも鳥海の孫会社だなんて親父もよく許したものだよ。オレが社長になったらりいかを呼び戻して妻にすることにも反対してたから、誰にも邪魔されないようにすこしずつ計画を練っていったんだ」
クスリの出どころについてマイルは口をひらかなかったが、彼が旅行でしょっちゅう台湾まで行っていたことは義父から知らされている。たぶんそのときに違法薬物のバイヤーと知り合い、大金と引き換えに販路を整え、海外進出の足掛かりとしたのだ。
非合法に、罪を犯して。
カナトや王氏が危惧していたことを知らされていたとはいえ、彼が犯罪に手を染めていた事実にマツリカは絶句する。
「まさか……お義父さんにも?」
「ああ。医者に不審がられないようすこしずつクスリを増やして、キャッスルシーの社長の椅子を譲らせたんだ。物忘れがひどくなったと本人は思っているけど、クスリが抜ければ後遺症もなくもとに戻る。だから正気に戻る前にマツリカ、俺は君を妻にする」
「言ってることが無茶苦茶だよ! あたしのなかからカナトの記憶を消したところで、マイくんになびくなんてこと、ぜったいないんだから!」
「そんなのやってみないとわからないよ。あの男にされたことをぜんぶ上書きしてあげる。オレの方がりいかを気持ちよくさせてあげられるってその身体に思い知らせないと……もう二度とあの男にりいかを盗まれないように、ね」
「いや、やめて、やめ……ッ」
猛禽類のような瞳が、弱った獲物を追い詰める。
逃げられないことをいいことに、ベッドにのぼってマツリカのうえに馬乗りになったマイルは彼女の腕を恭しくつかみ、注射器の針を一息に――……
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