99 / 111
Tier45 視線
しおりを挟む
一日の授業も終わり、僕達は放課後に入ろうとしていた。
部活に入っていない僕は、放課後は特にやることもないので帰り支度をすることにした。
机の中の教科書を自分のロッカーにしまいに行くために廊下に出ると、マノ君が一足先に教科書をロッカーに片付けていた。
「マノ君も今日はもう帰るの?」
僕がマノ君に後ろから声を掛けると、ちょうど教科書をしまい終わりロッカーを閉めて振り返ってきた。
「そうだね。今日はこれといった用事もないし、もう帰ろうかな」
「そうなんだ。それだったら帰りも一緒に帰らない?」
「良い……なんだか、視線を感じない?」
言い淀んだところで、マノ君が声を潜める。
「え? そうかな?」
僕はパッと辺りを見回す。
すると、目の端で僅かに廊下の角の方で数人の女子が死角に隠れて行くところが見えた。
「マノ君、もしかしてアレって……」
「いや、八雲関連の連中じゃない。動きが完全にずぶの素人だ。伊瀬にすらバレているのがその証拠だ」
マノ君は僕にしか聞こえないような小さな声量で囁く。
「じゃあ、どうして僕達のことを見ていたんだろう?」
僕が転校生だから?
でも、それだとマノ君も見ていたというのはおかしい。
それなら、マノ君はカッコイイからファンとかかな?
それだと、今度は僕も見られていたというのはおかしいことになってしまう。
「それはね、ある界隈の生徒の間で広がっているとある写真のせいなんだよ」
「うわっ!」
いきなり僕の真後ろから声がして、思わず驚いてしまった。
振り返ってみると声の主は清水さんだった。
「ごめん、ごめん。そんなに驚かせてしまうつもりは無かったんだけどな」
「あ、いえ、僕の方こそ大袈裟に驚いちゃったみたいですみません」
「そんな、伊瀬君が謝る必要はないよ。いきなり後ろから声掛けられたら多かれ少なかれ驚いちゃうよね。本当、ごめんね」
清水さんは胸の前で両手を思い切り小さく振って、僕に謝った。
「さっきの清水さんの口ぶりからして何か知っているみたいだけど、それボク達にも教えてくれる?」
「もちろんだよ!」
マノ君のお願いに清水さんは快く引き受けてくれた。
「でも、ちょっとここじゃ話しづらい内容だから場所を移した方が良いかも」
--------------------------
清水さんの提案で、あまり人通りが少ない階段付近まで僕達は移動してきた。
「この辺なら、大丈夫かな」
周りをキョロキョロを確認してから清水さんは話を始める。
「二人とも『腐女子』って知ってる?」
出だしから思いもよらない単語が清水さんの口から出てきた。
「え~と、たしかBLが好きな女子のことだよね?」
「ボクも伊瀬君と同じような認識かな」
「そうそう、その認識で全然大丈夫。で、その腐女子なんだけどね、この学校にも一定数いるわけなんですよ。あ、私は別に腐女子ってわけじゃないよ」
なんだか、今の清水さんの語尾がそこはかとなく強かったような。
「それでね、実は二人はこの学校の腐女子達に標的にされているみたいなんだよ」
「え!?」
僕は衝撃的な内容に甲高い声を上げてしまう。
「ちょっと待って欲しいんだけど、どうしてボク達が腐女子の子達から標的にされることになっているの」
マノ君が多少たじろきながら清水さんに説明を求める。
「あぁ、それはね、伊瀬君が転校して来た日に二人とも途中で早退したでしょ。その時に天野君が伊瀬君の手を引っ張って学校を出て行く姿をたまたま腐女子の子の一人が見ちゃったみたいんなんだよね。それが二人のルックスも相まって、攻めの天野君と受けの伊瀬君で『いせあま』なんて呼ばれて腐女子界で大盛り上がりしちゃったわけなんだ」
そんな……
まさか、マノ君に手を引かれていたというだけで腐女子の方達から標的にされてしまうなんて……
「そんなことで、標的になっちゃうんですか?」
「全然なるよ」
清水さんが綺麗な瞳で断言した。
「それにしても清水さんって、どうしてそんなに腐女子に詳しいの?」
「え? それは……クラス委員だからだよ」
うん?
それは、理由にはなっていないような。
「とりあえず、ボク達が標的になったのは分かったけれど、とある写真っていうのはどういうこと?」
そうだった。
清水さんはとある写真が広がっていると言っていた。
標的になってしまっているという衝撃的な内容のせいで、すっかり忘れていた。
「そう、この話の肝はそこなんだよね。二人が手を繋いでいた場面が目撃されただけだったら、二人のことはここまで広がらなかったと思うよ。だけど、今日の昼休みぐらいから出回った写真が拍車を掛けちゃったんだ」
「その写真っていうのは、どういう写真なの?」
興味と不安を半々に感じながら、僕は清水さんに伺う。
「口で説明するより見てもらった方が早いかな」
清水さんがブレザーの内ポケットから一枚の写真を慎重に取り出す。
「はい、これ」
取り出された写真をマノ君と二人で覗き込むと、そこには今朝の僕達が写っていた。
「この写真が出回っているの?」
「そう。と言っても、写真の数はとても少ないよ。私も特別な手段を使ってなんとか手に入ったくらいだから」
なんとか?
「へぇ~、そうなんだ」
僕はそう言いながらさり気なく清水さんから写真を受け取ろうと、手を出した。
すると、写真に触れる寸でのところで避けられた。
念のためもう一度、手を出してみたけれど結果は同じだった。
「あの、清水さん。その写真って貰えないかな?」
「だ、駄目じゃないけど、良ければ私が後でちゃんと処分しておくよ」
「ここまでしてもらったのに、処分まで清水さんにしてもらうなんて申し訳ないよ」
さらにもう一度、写真を受け取ろうと手を出したけれど、やっぱり避けられた。
「僕が写真を取ろうとすると、どうして避けるの?」
「よ、避けてなんかないよ」
清水さんは一向に否定する。
「もしかして、清水さんって腐女子なの?」
清水さんの言葉の節々から感じていた疑念を本人にストレートにぶつける。
「え!? そ、そんなこと全然ないよ! あっ! 私、この後、クラス委員の仕事があるんだった! ちょっと急ぐから、お先に失礼するね!」
「あっ、ちょっと待って!」
写真を持ったまま清水さんは逃げるように行ってしまった。
「あれは、図星だな」
マノ君の呟きに僕は黙って頷く。
清水さんへの腐女子の疑念は既に確信へと変わっていた。
部活に入っていない僕は、放課後は特にやることもないので帰り支度をすることにした。
机の中の教科書を自分のロッカーにしまいに行くために廊下に出ると、マノ君が一足先に教科書をロッカーに片付けていた。
「マノ君も今日はもう帰るの?」
僕がマノ君に後ろから声を掛けると、ちょうど教科書をしまい終わりロッカーを閉めて振り返ってきた。
「そうだね。今日はこれといった用事もないし、もう帰ろうかな」
「そうなんだ。それだったら帰りも一緒に帰らない?」
「良い……なんだか、視線を感じない?」
言い淀んだところで、マノ君が声を潜める。
「え? そうかな?」
僕はパッと辺りを見回す。
すると、目の端で僅かに廊下の角の方で数人の女子が死角に隠れて行くところが見えた。
「マノ君、もしかしてアレって……」
「いや、八雲関連の連中じゃない。動きが完全にずぶの素人だ。伊瀬にすらバレているのがその証拠だ」
マノ君は僕にしか聞こえないような小さな声量で囁く。
「じゃあ、どうして僕達のことを見ていたんだろう?」
僕が転校生だから?
でも、それだとマノ君も見ていたというのはおかしい。
それなら、マノ君はカッコイイからファンとかかな?
それだと、今度は僕も見られていたというのはおかしいことになってしまう。
「それはね、ある界隈の生徒の間で広がっているとある写真のせいなんだよ」
「うわっ!」
いきなり僕の真後ろから声がして、思わず驚いてしまった。
振り返ってみると声の主は清水さんだった。
「ごめん、ごめん。そんなに驚かせてしまうつもりは無かったんだけどな」
「あ、いえ、僕の方こそ大袈裟に驚いちゃったみたいですみません」
「そんな、伊瀬君が謝る必要はないよ。いきなり後ろから声掛けられたら多かれ少なかれ驚いちゃうよね。本当、ごめんね」
清水さんは胸の前で両手を思い切り小さく振って、僕に謝った。
「さっきの清水さんの口ぶりからして何か知っているみたいだけど、それボク達にも教えてくれる?」
「もちろんだよ!」
マノ君のお願いに清水さんは快く引き受けてくれた。
「でも、ちょっとここじゃ話しづらい内容だから場所を移した方が良いかも」
--------------------------
清水さんの提案で、あまり人通りが少ない階段付近まで僕達は移動してきた。
「この辺なら、大丈夫かな」
周りをキョロキョロを確認してから清水さんは話を始める。
「二人とも『腐女子』って知ってる?」
出だしから思いもよらない単語が清水さんの口から出てきた。
「え~と、たしかBLが好きな女子のことだよね?」
「ボクも伊瀬君と同じような認識かな」
「そうそう、その認識で全然大丈夫。で、その腐女子なんだけどね、この学校にも一定数いるわけなんですよ。あ、私は別に腐女子ってわけじゃないよ」
なんだか、今の清水さんの語尾がそこはかとなく強かったような。
「それでね、実は二人はこの学校の腐女子達に標的にされているみたいなんだよ」
「え!?」
僕は衝撃的な内容に甲高い声を上げてしまう。
「ちょっと待って欲しいんだけど、どうしてボク達が腐女子の子達から標的にされることになっているの」
マノ君が多少たじろきながら清水さんに説明を求める。
「あぁ、それはね、伊瀬君が転校して来た日に二人とも途中で早退したでしょ。その時に天野君が伊瀬君の手を引っ張って学校を出て行く姿をたまたま腐女子の子の一人が見ちゃったみたいんなんだよね。それが二人のルックスも相まって、攻めの天野君と受けの伊瀬君で『いせあま』なんて呼ばれて腐女子界で大盛り上がりしちゃったわけなんだ」
そんな……
まさか、マノ君に手を引かれていたというだけで腐女子の方達から標的にされてしまうなんて……
「そんなことで、標的になっちゃうんですか?」
「全然なるよ」
清水さんが綺麗な瞳で断言した。
「それにしても清水さんって、どうしてそんなに腐女子に詳しいの?」
「え? それは……クラス委員だからだよ」
うん?
それは、理由にはなっていないような。
「とりあえず、ボク達が標的になったのは分かったけれど、とある写真っていうのはどういうこと?」
そうだった。
清水さんはとある写真が広がっていると言っていた。
標的になってしまっているという衝撃的な内容のせいで、すっかり忘れていた。
「そう、この話の肝はそこなんだよね。二人が手を繋いでいた場面が目撃されただけだったら、二人のことはここまで広がらなかったと思うよ。だけど、今日の昼休みぐらいから出回った写真が拍車を掛けちゃったんだ」
「その写真っていうのは、どういう写真なの?」
興味と不安を半々に感じながら、僕は清水さんに伺う。
「口で説明するより見てもらった方が早いかな」
清水さんがブレザーの内ポケットから一枚の写真を慎重に取り出す。
「はい、これ」
取り出された写真をマノ君と二人で覗き込むと、そこには今朝の僕達が写っていた。
「この写真が出回っているの?」
「そう。と言っても、写真の数はとても少ないよ。私も特別な手段を使ってなんとか手に入ったくらいだから」
なんとか?
「へぇ~、そうなんだ」
僕はそう言いながらさり気なく清水さんから写真を受け取ろうと、手を出した。
すると、写真に触れる寸でのところで避けられた。
念のためもう一度、手を出してみたけれど結果は同じだった。
「あの、清水さん。その写真って貰えないかな?」
「だ、駄目じゃないけど、良ければ私が後でちゃんと処分しておくよ」
「ここまでしてもらったのに、処分まで清水さんにしてもらうなんて申し訳ないよ」
さらにもう一度、写真を受け取ろうと手を出したけれど、やっぱり避けられた。
「僕が写真を取ろうとすると、どうして避けるの?」
「よ、避けてなんかないよ」
清水さんは一向に否定する。
「もしかして、清水さんって腐女子なの?」
清水さんの言葉の節々から感じていた疑念を本人にストレートにぶつける。
「え!? そ、そんなこと全然ないよ! あっ! 私、この後、クラス委員の仕事があるんだった! ちょっと急ぐから、お先に失礼するね!」
「あっ、ちょっと待って!」
写真を持ったまま清水さんは逃げるように行ってしまった。
「あれは、図星だな」
マノ君の呟きに僕は黙って頷く。
清水さんへの腐女子の疑念は既に確信へと変わっていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる