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Tier44 登校
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僕とマノ君は無事に遅刻をせずに教室に入ることが出来た。
教室の中は既に多くのクラスメイトでにぎわっていた。
「二人とも、おはよう」
僕とマノ君がそれぞれ自分の席に着くと、クラス委員の清水さんが声を掛けてくれた。
「お、おはよう」
こんな風に自然と教室で挨拶をすることなんて久しぶりで、僕は声が少しつっかえてしまった。
「清水さんも、おはよう」
マノ君はいつの間にか僕が最初に会ったマノ君に戻ってしまっていた。
本当に六課に居る時のマノ君とは大違いだ。
「ところで、天野君と伊瀬君はいつからそんなに仲良くなったの?」
「え?」
僕は清水さんの質問に不意を突かれた気分だった。
「だってほら、二人とも今日は一緒に登校してきたでしょ。伊瀬君が転校してきてから今日で二日目だっていうのに天野君と一緒に登校するまで仲良くなっているんだから」
あ、そうか。
清水さんにとっては、僕とマノ君は初めて会ってからまだ二日と経っていないんだ。
僕からすると事件のことや六課のこと、それからマイグレーションのことと濃密な数日間をマノ君と一緒に過ごしているから距離感がぐっと縮まったように感じているんだな。
「伊瀬君とは、駅に行く途中でたまたま会ったから一緒に来たんだ。別に、待ち合わせして一緒に来たわけじゃないよ。まぁ、いずれは待ち合わせをして一緒に学校に行けるほど伊瀬君とは仲良くなっていきたいと思っているけどね」
マノ君は一つも嘘はついていなかった。
だけど、なんだろう……
この清水さんを騙しているような後ろめたい気持ちは。
「なんだ、そういうことだったんだね。私はてっきり、この前の天野君が伊瀬君の手を引っ張って教室から出ていく姿を見て二人は……」
なぜか清水さんは途中で黙り込んでしまった後、はっとしたように気を取り直した。
あれ?
今の清水さんの反応どこか既視感があるような……
「あ、ごめん。なんでもないよ。でも、そうだったんだぁ~天野君の最寄りの駅辺りで伊瀬君と会ったってことは帰る方向は私と逆なんだね。私も伊瀬君と一緒に登下校したかったのに」
「そんな風に思ってくれるなんてありがとう。一緒に登下校するのは難しいかもしれないけど放課後どこかに遊びに行ったりするのはどうかな? もちろん、清水さんが嫌じゃなければだけど」
「本当に!? いいね、行こ行こ! 伊瀬君は何したい? 定番はカラオケとかボウリングだけど」
清水さんは僕が想像していた倍くらい乗り気でいて楽しそうだ。
「う~ん、俺はやっぱカラオケかな。テンション上がる系の曲はほとんど俺の十八番だから任しときな! あ、でもボウリングも捨てがたいな。ストライクが決まった時なんか超気持ちいいもんな!」
「私は佐藤君にじゃなくて、伊瀬君に聞いたんだけどな」
「悪い、悪い。楽しそうな話しをしていたからついな」
佐藤君は運動をしてきたのか首にタオルを掛けていた。
ほのかに柑橘系の汗拭きシートの匂いがする。
こういうところにもちゃんと気を使っているのだなと僕は感心してしまう。
「佐藤君は朝から部活だったの?」
「ん? あ、そうそう。今日は朝練だったんだよ」
「部活って何やっているの? もしかして、サッカー部?」
「お、当たり! なんで俺がサッカー部って分かったの?」
佐藤君もまたクラス委員とサッカー部というマノ君とは少し違うモテる要素を持っていた。
「佐藤君って何となくサッカー部っぽい感じがするからかな」
「確かに、そうかも。佐藤君ってサッカー部っぽい」
「そうか? そんなに俺ってサッカー部っぽいか?」
佐藤君自身はイマイチ納得いっていないような様子だ。
「ところでさ。今、気付いたんだが祐介が敬語を使わなくなってないか?」
「……あ、本当だ! ずっと話してたのに気づかなかった」
「あれ? 本当だ。なんでだろう?」
僕も指摘されるまで気付いていなかった。
「いや、俺は嬉しいよ。これからも気兼ねなく話てくれ!」
「うん、こっちの方が自然で良いと思うよ」
「あ、ありがとう」
ちょっと小恥ずかしいな。
「よし! じゃあ気を取り直して、祐介はカラオケとボウリングだったらどっちが良いんだ?」
「う~ん、強いて言えばボウリングかな。僕、歌はあんまり上手じゃないし、人前で歌うのはちょっと恥ずかしいからさ」
「そうなのか。でも、カラオケも楽しいぞ。もし、歌うのが恥ずかしかったら俺も一緒に歌ってやるよ!」
「う、うん。ありがとう」
「ちょっと、佐藤君。伊瀬君はボウリングの方が良いって言ったんだよ」
「分かっているよ。ボウリングだって祐介と行くに決まっている。もし、カラオケにも行くことになったらって話しだよ」
「私には佐藤君がカラオケに行きたいようにしか見えないけど?」
「あ、バレた?」
佐藤君はひょうきんな顔をする。
「これだけ分かりやすかったらね」
「あ~カラオケのこと考えてたらカラオケ行きたくなった~! 祐介、今日の放課後暇だったらカラオケ行こうぜ!
「いきなり何言ってんの。それに、せめてボウリングでしょ」
「え~! カラオケ行こうよ~!」
佐藤君が僕をカラオケに行こうと猛烈に誘い始めた時、ちょうど始業の合図である鐘が鳴った。
それでも佐藤君は席に着くこともなく、勧誘はそれでも止まらなかった。
これは佐藤君の席が僕の前の席だということが一番の原因かもしれない。
「そのうち、機会があれば行ってみようかな」
僕のこの言葉を聞いて佐藤君はやっと引いてくれた。
よっぽどカラオケに行きたかったみたいだ。
始業の鐘はなったが、教室に先生はまだ来ていない。
それと、隣の席にいるはずのマノ君が知らない間にいなくなっていた。
「ねぇ、佐藤君。マノ君がどこに行ったか知らない?」
前にいる佐藤君の肩をポンポンと叩いて、僕は尋ねた。
「マノ君?」
「あっ、えっと、天野君」
「あ~、悠真は数学係だから先生を呼びに行ったんだよ。うちの学校では授業の担当の係が先生を呼びに行くことになってるんだよ。先生によっては呼びに行く必要もない授業もあるけどな」
「そうなんだ」
だから、先生がまだ来ていないんだ。
「それより、なんで祐介は悠真のことを『マノ』だなんて呼ぶんだ? 呼ぶなら『天野』じゃないのか?」
痛いところを突かれてしまった。
マノ君と呼び方は六課でしかしていない。
呼び方だけで六課についてバレてしまうとは思わないけれど、気を付けないとな。
「えっと~、さっき一緒に登校して来た時に考えた天野君のあだ名だよ。『あまの』の『あ』をとって、『マノ』ってあだ名にしたんだ」
「ふ~ん、一文字しか違わないんならあだ名じゃなくて普通に呼んでもいい気もするけどな」
「けど、あだ名があった方が親しみやすくない?」
「それもそうだな!」
佐藤君の指摘はもっともだと思う。
僕も六課でマノ君という呼び方を聞いた時は佐藤君と同じように思った。
本当にどうして天野君のあだ名がマノ君なんだろう。
教室の中は既に多くのクラスメイトでにぎわっていた。
「二人とも、おはよう」
僕とマノ君がそれぞれ自分の席に着くと、クラス委員の清水さんが声を掛けてくれた。
「お、おはよう」
こんな風に自然と教室で挨拶をすることなんて久しぶりで、僕は声が少しつっかえてしまった。
「清水さんも、おはよう」
マノ君はいつの間にか僕が最初に会ったマノ君に戻ってしまっていた。
本当に六課に居る時のマノ君とは大違いだ。
「ところで、天野君と伊瀬君はいつからそんなに仲良くなったの?」
「え?」
僕は清水さんの質問に不意を突かれた気分だった。
「だってほら、二人とも今日は一緒に登校してきたでしょ。伊瀬君が転校してきてから今日で二日目だっていうのに天野君と一緒に登校するまで仲良くなっているんだから」
あ、そうか。
清水さんにとっては、僕とマノ君は初めて会ってからまだ二日と経っていないんだ。
僕からすると事件のことや六課のこと、それからマイグレーションのことと濃密な数日間をマノ君と一緒に過ごしているから距離感がぐっと縮まったように感じているんだな。
「伊瀬君とは、駅に行く途中でたまたま会ったから一緒に来たんだ。別に、待ち合わせして一緒に来たわけじゃないよ。まぁ、いずれは待ち合わせをして一緒に学校に行けるほど伊瀬君とは仲良くなっていきたいと思っているけどね」
マノ君は一つも嘘はついていなかった。
だけど、なんだろう……
この清水さんを騙しているような後ろめたい気持ちは。
「なんだ、そういうことだったんだね。私はてっきり、この前の天野君が伊瀬君の手を引っ張って教室から出ていく姿を見て二人は……」
なぜか清水さんは途中で黙り込んでしまった後、はっとしたように気を取り直した。
あれ?
今の清水さんの反応どこか既視感があるような……
「あ、ごめん。なんでもないよ。でも、そうだったんだぁ~天野君の最寄りの駅辺りで伊瀬君と会ったってことは帰る方向は私と逆なんだね。私も伊瀬君と一緒に登下校したかったのに」
「そんな風に思ってくれるなんてありがとう。一緒に登下校するのは難しいかもしれないけど放課後どこかに遊びに行ったりするのはどうかな? もちろん、清水さんが嫌じゃなければだけど」
「本当に!? いいね、行こ行こ! 伊瀬君は何したい? 定番はカラオケとかボウリングだけど」
清水さんは僕が想像していた倍くらい乗り気でいて楽しそうだ。
「う~ん、俺はやっぱカラオケかな。テンション上がる系の曲はほとんど俺の十八番だから任しときな! あ、でもボウリングも捨てがたいな。ストライクが決まった時なんか超気持ちいいもんな!」
「私は佐藤君にじゃなくて、伊瀬君に聞いたんだけどな」
「悪い、悪い。楽しそうな話しをしていたからついな」
佐藤君は運動をしてきたのか首にタオルを掛けていた。
ほのかに柑橘系の汗拭きシートの匂いがする。
こういうところにもちゃんと気を使っているのだなと僕は感心してしまう。
「佐藤君は朝から部活だったの?」
「ん? あ、そうそう。今日は朝練だったんだよ」
「部活って何やっているの? もしかして、サッカー部?」
「お、当たり! なんで俺がサッカー部って分かったの?」
佐藤君もまたクラス委員とサッカー部というマノ君とは少し違うモテる要素を持っていた。
「佐藤君って何となくサッカー部っぽい感じがするからかな」
「確かに、そうかも。佐藤君ってサッカー部っぽい」
「そうか? そんなに俺ってサッカー部っぽいか?」
佐藤君自身はイマイチ納得いっていないような様子だ。
「ところでさ。今、気付いたんだが祐介が敬語を使わなくなってないか?」
「……あ、本当だ! ずっと話してたのに気づかなかった」
「あれ? 本当だ。なんでだろう?」
僕も指摘されるまで気付いていなかった。
「いや、俺は嬉しいよ。これからも気兼ねなく話てくれ!」
「うん、こっちの方が自然で良いと思うよ」
「あ、ありがとう」
ちょっと小恥ずかしいな。
「よし! じゃあ気を取り直して、祐介はカラオケとボウリングだったらどっちが良いんだ?」
「う~ん、強いて言えばボウリングかな。僕、歌はあんまり上手じゃないし、人前で歌うのはちょっと恥ずかしいからさ」
「そうなのか。でも、カラオケも楽しいぞ。もし、歌うのが恥ずかしかったら俺も一緒に歌ってやるよ!」
「う、うん。ありがとう」
「ちょっと、佐藤君。伊瀬君はボウリングの方が良いって言ったんだよ」
「分かっているよ。ボウリングだって祐介と行くに決まっている。もし、カラオケにも行くことになったらって話しだよ」
「私には佐藤君がカラオケに行きたいようにしか見えないけど?」
「あ、バレた?」
佐藤君はひょうきんな顔をする。
「これだけ分かりやすかったらね」
「あ~カラオケのこと考えてたらカラオケ行きたくなった~! 祐介、今日の放課後暇だったらカラオケ行こうぜ!
「いきなり何言ってんの。それに、せめてボウリングでしょ」
「え~! カラオケ行こうよ~!」
佐藤君が僕をカラオケに行こうと猛烈に誘い始めた時、ちょうど始業の合図である鐘が鳴った。
それでも佐藤君は席に着くこともなく、勧誘はそれでも止まらなかった。
これは佐藤君の席が僕の前の席だということが一番の原因かもしれない。
「そのうち、機会があれば行ってみようかな」
僕のこの言葉を聞いて佐藤君はやっと引いてくれた。
よっぽどカラオケに行きたかったみたいだ。
始業の鐘はなったが、教室に先生はまだ来ていない。
それと、隣の席にいるはずのマノ君が知らない間にいなくなっていた。
「ねぇ、佐藤君。マノ君がどこに行ったか知らない?」
前にいる佐藤君の肩をポンポンと叩いて、僕は尋ねた。
「マノ君?」
「あっ、えっと、天野君」
「あ~、悠真は数学係だから先生を呼びに行ったんだよ。うちの学校では授業の担当の係が先生を呼びに行くことになってるんだよ。先生によっては呼びに行く必要もない授業もあるけどな」
「そうなんだ」
だから、先生がまだ来ていないんだ。
「それより、なんで祐介は悠真のことを『マノ』だなんて呼ぶんだ? 呼ぶなら『天野』じゃないのか?」
痛いところを突かれてしまった。
マノ君と呼び方は六課でしかしていない。
呼び方だけで六課についてバレてしまうとは思わないけれど、気を付けないとな。
「えっと~、さっき一緒に登校して来た時に考えた天野君のあだ名だよ。『あまの』の『あ』をとって、『マノ』ってあだ名にしたんだ」
「ふ~ん、一文字しか違わないんならあだ名じゃなくて普通に呼んでもいい気もするけどな」
「けど、あだ名があった方が親しみやすくない?」
「それもそうだな!」
佐藤君の指摘はもっともだと思う。
僕も六課でマノ君という呼び方を聞いた時は佐藤君と同じように思った。
本当にどうして天野君のあだ名がマノ君なんだろう。
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