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番外編 狼の苦悩
しおりを挟む※カイルサイド
生活にも慣れ、互いの気持ちを確かめ合ったからか、ハルカに少し変化があった。本人は無意識だろうが、前より自分の気持ちや考えを素直に伝えてくれるようになった。そして屈託のない笑顔をたくさん見せてくれるようになった。
あれからハルカはこの国や世界のことをさらに学ぼうと努力しているし、庭仕事や厨房の仕事を手伝っている。
ハルカは使用人ではないのだから、家のことはしなくてもいいと言ったら、とても悲しい顔をされた。屋敷に囲われて、何もするなと言っているのと同義で、彼のことを傷付けてしまったことは申し訳なかった。
彼の健気な思いを知ることで、さらに彼が愛おしくてならない。
屋敷の皆とも仲良くしているようだし、ここがハルカにとって、安心できる巣になればいいと思っている。
ただ、クロスとは仲が良過ぎるように感じる。しかし、料理のことなど楽しそうに話してくれると何も言えなくなる。
確かに狼は伴侶を大切にし、執着するものだが、こんなに俺は嫉妬深かっただろうか。
それに、ハルカには待つと言ったが、最近は一緒に寝ていて、情けない話、手を出さない自信がなくなってきた。なのにあの、無防備に信頼しきった顔で擦り寄って来られると、たまらない気持ちになる。
邪念を振り払うように今まで以上に仕事や鍛錬に力を注ぎ、部下たちを鍛えまくった。エミリオからは微妙な目で見られ、部下からはさらに怖れられたが、無視した。
父からは若干呆れた視線も感じるが、これも無視だ。またうちに連れてこいとうるさいので、それも無視している。
今日はいつもよりかなり遅い帰宅となった。1人で食事をしていると、眠い目をこすりハルカが寝室から降りてきた。
「カイルさんお帰りなさい。」
「ただいま。まだ、起きてたのか?」
「大丈夫です。少しうとうとしてたとこだったので。お仕事お疲れ様です。」
いつもの席に座り眠いからか、いつもより幼い顔で笑う。先に寝かせたい気持ちと、顔を見ていたい気持ちが拮抗する。
後者が大体勝つ。
ハルカは温かい飲み物を飲みながら、食事に付き合ってくれる。俺はいつもより早いペースで食事を終わらせる。にこにこと今日あったことを話しながら側にいるハルカに寝室に行くように言い、入浴も最速で終わらせた。
ベッドサイドの灯りだけついている寝室。ベッドの端で小さくなって眠る姿があった。間に合わなかったか。
今日は庭仕事を手伝ったらしいので、疲れもあったのだろう。
「……ぅん。」
そっと抱き込み、ベッドの中央に引き寄せると小さく声がもれる。ハルカは知らない。その声が俺に愛おしさだけでなく、劣情を抱かせることを。
起こさないように軽く口付ける。それだけでは耐えられず、そのしっとりとした唇をペロリと舐める。
パジャマの襟元からのぞく、なめからな首筋にそっと唇を寄せる。
「…んっ……。」
くすぐったかったのか、ハルカは首をすくめる。微かに漏れる声が俺を刺激する。
実年齢よりかなり幼く見えるハルカに、いけないことをしている気分になる。
いや、断じてそんな趣味はない。
俺は大きく深呼吸をして、ハルカのパジャマを整え、隣に体を横たえた。
危ないところだった。しかし、ハルカの体のことを思うと準備も必要だろうな。
どうか君を愛させてほしい。
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