拾われた後は

なか

文字の大きさ
51 / 53

番外編 初対面2

しおりを挟む
   焼き菓子とお茶が僕たちの前に出されると、微妙な雰囲気の中いただくことになった。
   将軍さんはお母様には逆らえないのか、あれから無言だ。お母様はにこにこして話しかけてくれる。カイルさんも将軍さんに話しかけないし、このまま帰るわけにはいかない。

「あのっ。」

   僕は勇気を振り絞り、将軍さんに声をかけた。無表情のまま、僕の方をちらりと見られる。さすがに軍の偉い人だけあってか、威厳があり怯みそうになる。怖くてちょっと泣きそう。

「あのっ、カイルさんを怒らないでください。僕みたいな人間が伴侶だなんて許せないかもしれません。カイルさんのそばにいることが、よくないことかもしれません。けど、僕はカイルさんと一緒に生きたいんです。
将軍さんにもどうか許して欲しいんです。我儘なのは分かってます。どうかお願いします。」

   どうかどうか伝わりますように。願いを込めて言い切ると、頭を下げた。

「ハルカ……。」

   カイルさんも少し驚いた声が聞こえた。これは僕のエゴかもしれないけど、カイルさんの家族に認めてほしいし、僕のせいで2人の仲が悪くなるのも嫌だ。

「父さん、俺も自分の行動には反省すべきところはある。父さんの言うことも分かる。ただ、ハルカ以外の伴侶は考えられないんだ。ハルカにはこの世界に家族がいない。父さんと母さんには、家族としてハルカの力になっあげてほしい。お願いします。」

   そんな僕の気持ちがカイルさんには伝わったのか、真剣な声でそう言うと、頭を下げたままの僕の隣で、一緒に頭を下げてくれた。
   
「…なんで、ララーナはお母様で、私には将軍さんなんだ。」

   ボソッと将軍さんの声が聞こえる。

「えっ?」

   思わず顔を上げると、不満げな将軍さんと目が合った。それはまだ認めてもらえてないからだけで、他意はないんだけど。

「うふふ。拗ねてるだけなのよ、この人。カイルは仕事ばっかりで、家にも全然帰ってこないし、何の報告もなかったから。
   カイルも悪いのよ。いくら大人だからってあなたを心配してるお父様に、ずっと何にも言わないできたから。狼が子煩悩なの分かってるでしょ。」

「ララーナ!」

   お母様がなんだか1番強い気がする。カイルさんも隣で苦笑している。

「お二人にはご心配をおかけしてすみません。」

   カイルさんが素直に謝ると、将軍さんは小さく息を吐いた。

「お前の王宮での態度を見た時から予感はしてたんだ。我が息子ながら驚いたよ。ただの保護の対象としては違和感があったからな……。」

   将軍さんは初めて僕に笑顔を見せてくれた。

「ハルカくん、怖がらせて悪かったね。」

   笑った顔はカイルさんにとても似ていて、僕はホッとするのと同時に嬉しくてぽろりと涙が流れた。

「泣かすなよ。」

   カイルさんがそっと指で涙を拭ってくれた。

「うっ、すまん。」

「いえ、あの、嬉しかっただけですから。すみません、泣いたりして。」

   あんなこと言った割に、すぐ泣くなんて恥ずかしい。泣き笑いみたいな顔になったけど、将軍さんに大丈夫だと笑顔を向けた。
   そしたら将軍さんは、また小さく、うっと言って固まってしまった。耳も尻尾がピンと立ってる。そんなに変な顔だったのかな。申し訳ない。

「ハルカくん、…お父様と呼んでみてくれ。」

   復活した将軍さんは何故か真剣な顔だ。それって認めてくれたってことだよね。

「はい。お父様。」

   嬉しくて僕に尻尾があったらぶんぶん振りたい気分だ。何故か、3回ほどもう1回、とか繰り返させられたところで、苦笑したカイルさんに止められた。お母様は楽しそうに声をあげて笑っていた。

   
   ほっとしたところで、ノックの音が響き、ドアから顔を出したのは、身なりのいい少年だった。
   黒髪に青い瞳、すらりとした身体にあどけなさは残るけれど、カイルさんにそっくり。

「父様、母様、カイル兄さんが帰ってきてるって聞いて。ご一緒してもいいですか?」

   声もよく似てるけど、少し高い。少年の頃のカイルさんに会ったみたい。

「カミュ、久しぶりだな。また少し大きくなったな。こっちへ。」

   カイルさんはその少年に親しげに声をかけた。

「ハルカ、1番下の弟のカミュだ。今年12才だ。」

   弟さん!

「はじめまして。ハルカです。」

   僕は立ち上がり、ぺこりと挨拶する。お兄さんとお付き合いしてますなんていきなり言えないから、名前だけ。
    カミュくんはぼーと僕を見てるけど、12歳には見えないし、僕よりも少し背が高い。やはりこちらの人たちは生育がいいんだ。耳と尻尾がないから、気になるのかな。

「カミュ、どうした?ハルカは狼でも犬でもないが、俺の大切な伴侶だ。よろしくな。」

「ええっ。兄さんの?この小さいかわいい子が?年離れすぎでしょ。俺の方が釣り合ってるよ。」

   なんだか問題発言が聞こえた気がした。どうせここでは小さい子扱いなのはもう慣れたよ。

「やらんぞ。」

   何故かカイルさんが威嚇した。
   

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...