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番外編 未知の生き物と末っ子の決意
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※カイルの末弟カミュ視点
学校から帰ってくると、出迎えてくれた侍女に兄さんが久しぶりに帰ってきていると聞き、応接間に急いだ。家を出てからは滅多に帰ってこない長兄のカイル兄さん。
兄さんは父様と同じ王国軍に所属していて、今はあの若さで大佐だ。すでにゆくゆくは将軍である父の後を継ぐのは間違いないと言われている。強くてかっこよくて公平で、俺の憧れでもある。
許可を得て応接間のドアを開けると、両親と兄さん、それにもう1人いた。お客さまもいたのか。侍女の含み笑いはこのことだったのかな。
その人は兄さんの隣に寄り添うように座っていた。
黒い髪は俺と一緒だけど、神秘的な黒い瞳。11才くらいだろうか、華奢で小柄な子だ。そしてすぐに気づく。耳がない。いや、正確にはあるのだけど、見たことない形。
あどけない顔でこちらを見ている。なんだ、このかわいい生き物は?
「カミュ、久しぶりだな。また少し大きくなったな。こっちへ」
兄さんの声で我に帰る。今まで見たことない、家族に向けるのとはまた違った柔らかい表現で兄さんが隣の子に俺を簡単に紹介している。なんだこれ。
「はじめまして、ハルカです」
立ち上がって、ぺこりと頭を下げられる。あれ?尻尾もない?
そんなこと今はどうでもいい。初めて出会う種類のかわいらしさだ。頭の中を、なんだこれとかわいいがぐるぐる回る。
ぼーとその子に見惚れていると、次に続く言葉にまた思考が停止しそうになった。
「カミュ、どうした?ハルカは狼でも犬でもないが、俺の大切な伴侶だ。よろしくな」
「ええっ。兄さんの?この小さいかわいい子が?年離れすぎでしょ。俺の方が釣り合ってるよ」
カイル兄さんはモテるわりに今まで恋人とか結婚とか関心なさそうだった。バダン家のタリア嬢にはしつこくつきまとわれていたみたいだけど。
なのに、突然、これ?
けど、これ犯罪でしょ。まずいでしょ。
思わず漏らした言葉にハルカはきょとんとしてるけど、がらりと兄さんの空気が変わった。
「やらんぞ」
俺の言葉を聞いて、低い声で一言。
本気の威嚇だ。まだ成人してない狼の俺には、明らかにレベルの違う上位の雄が出すそれに、兄とはいえ身体が竦む。ビリビリと空気か震え、耳がぺちゃんとなる。もちろん尻尾は足の間に隠れてる。
「カイルお前、弟相手に何やってんだ」
父様と母様は面白そうに見てたけど、あまりの雰囲気に父様が制してくれた。危なかった。情けないけど、もう少しで泣いちゃいそうだった。
「カイルさんどうしたの?」
体の力が抜けたのは、場にふさわしくないほんわかしたハルカの声が聞こえたからだった。
違う種族なのかな?あの兄さんの威嚇にも反応してなかったし、不思議な子だ。
「ん?なんでもないよ」
見上げているハルカに甘い声で微笑んで、頭を撫でてる兄さん。ハルカは恥ずかしいのかワタワタしてる。かわいいぜ。
母様がそれを見て楽しそうにうふふと笑ってる。
くそぉ。今はまだ足元にも及ばないけど、これから勉強も鍛錬ももっともっと頑張って、野菜も好き嫌い言わないで、体も大っきくなって、すぐに見返してやる!
俺だって父様と母様の血を引いてるんだ。ヴァング家始祖から指折りの実力者と言われる兄さんでも、努力次第で抜けるはず。いや、抜いてみせる。
みてろよ!ハルカ!!
この日から末っ子のちょっと甘えん坊だったカミュは、人が違ったように努力し、めきめきと実力をつけていったのはまた別の話。
そして兄に勝負を挑んでは、毎回こてんぱんに叩きのめされるのも。
学校から帰ってくると、出迎えてくれた侍女に兄さんが久しぶりに帰ってきていると聞き、応接間に急いだ。家を出てからは滅多に帰ってこない長兄のカイル兄さん。
兄さんは父様と同じ王国軍に所属していて、今はあの若さで大佐だ。すでにゆくゆくは将軍である父の後を継ぐのは間違いないと言われている。強くてかっこよくて公平で、俺の憧れでもある。
許可を得て応接間のドアを開けると、両親と兄さん、それにもう1人いた。お客さまもいたのか。侍女の含み笑いはこのことだったのかな。
その人は兄さんの隣に寄り添うように座っていた。
黒い髪は俺と一緒だけど、神秘的な黒い瞳。11才くらいだろうか、華奢で小柄な子だ。そしてすぐに気づく。耳がない。いや、正確にはあるのだけど、見たことない形。
あどけない顔でこちらを見ている。なんだ、このかわいい生き物は?
「カミュ、久しぶりだな。また少し大きくなったな。こっちへ」
兄さんの声で我に帰る。今まで見たことない、家族に向けるのとはまた違った柔らかい表現で兄さんが隣の子に俺を簡単に紹介している。なんだこれ。
「はじめまして、ハルカです」
立ち上がって、ぺこりと頭を下げられる。あれ?尻尾もない?
そんなこと今はどうでもいい。初めて出会う種類のかわいらしさだ。頭の中を、なんだこれとかわいいがぐるぐる回る。
ぼーとその子に見惚れていると、次に続く言葉にまた思考が停止しそうになった。
「カミュ、どうした?ハルカは狼でも犬でもないが、俺の大切な伴侶だ。よろしくな」
「ええっ。兄さんの?この小さいかわいい子が?年離れすぎでしょ。俺の方が釣り合ってるよ」
カイル兄さんはモテるわりに今まで恋人とか結婚とか関心なさそうだった。バダン家のタリア嬢にはしつこくつきまとわれていたみたいだけど。
なのに、突然、これ?
けど、これ犯罪でしょ。まずいでしょ。
思わず漏らした言葉にハルカはきょとんとしてるけど、がらりと兄さんの空気が変わった。
「やらんぞ」
俺の言葉を聞いて、低い声で一言。
本気の威嚇だ。まだ成人してない狼の俺には、明らかにレベルの違う上位の雄が出すそれに、兄とはいえ身体が竦む。ビリビリと空気か震え、耳がぺちゃんとなる。もちろん尻尾は足の間に隠れてる。
「カイルお前、弟相手に何やってんだ」
父様と母様は面白そうに見てたけど、あまりの雰囲気に父様が制してくれた。危なかった。情けないけど、もう少しで泣いちゃいそうだった。
「カイルさんどうしたの?」
体の力が抜けたのは、場にふさわしくないほんわかしたハルカの声が聞こえたからだった。
違う種族なのかな?あの兄さんの威嚇にも反応してなかったし、不思議な子だ。
「ん?なんでもないよ」
見上げているハルカに甘い声で微笑んで、頭を撫でてる兄さん。ハルカは恥ずかしいのかワタワタしてる。かわいいぜ。
母様がそれを見て楽しそうにうふふと笑ってる。
くそぉ。今はまだ足元にも及ばないけど、これから勉強も鍛錬ももっともっと頑張って、野菜も好き嫌い言わないで、体も大っきくなって、すぐに見返してやる!
俺だって父様と母様の血を引いてるんだ。ヴァング家始祖から指折りの実力者と言われる兄さんでも、努力次第で抜けるはず。いや、抜いてみせる。
みてろよ!ハルカ!!
この日から末っ子のちょっと甘えん坊だったカミュは、人が違ったように努力し、めきめきと実力をつけていったのはまた別の話。
そして兄に勝負を挑んでは、毎回こてんぱんに叩きのめされるのも。
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