転生!ブレードシスター

秋月愁

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8:賊兵団

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 ミラリアは戦支度をするために、砦の自室に篭り、荷をまとめ、予備の修道服に着替えていた。

 が「ミラリア、居るか?」とおもむろにドアが開かれて、若き隊長デュランが入って来る。

 修道服を脱ぎかけていたミラリアは、この暴挙に対して混乱、手あたり次第に物を投げつけて、慌てるデュランを蹴りつけて部屋から追い出した。

                      ☆

 「デュラン、もう着替えたから入っていいわよ。でも女性の部屋に入る時はノック位しなさい」

 着替えを済ませて、改めてデュラン隊長を部屋に入れるミラリア。

 「す、すまない、しかし、それを言うなら君の方こそ着替えの際は鍵位かけておくもんだ」

 「覚えておくわ。それで、出立を前に何の用?私を口説きに来たなら間に合ってるわよ」

 デュランはまだそれほど年のいっていない最年少の隊長で、ギザついた髪に褐色の肌をした、曲刀の使い手でもある。シルヴァンと同年かやや年下といったところか。

 「俺はまだ、シルヴァンに殺されたくはないよ。だからそういう話じゃない。エクトールの今度の国境侵犯についての話だ」

 「詳しく聞くわ。席について」

                      ☆

 ミラリアの部屋は、あまり家具らしいものがない。据え付けの茶色の丸テーブルに、同色の椅子が二つあるくらいだ。あとは簡易ベッドと、小さなタンスが一つあるが、どれもミラリアの入る前からあったものだ。

 デュランの話によると、国境付近を荒らしているのは、ガルドーという頭目の率いる山賊で、後ろ盾にエクトールが付いていると公言しているという。しかし、エクトールはこれを否定しており、勝手に名乗っているだけだという。

 「山賊自体は怖くはないが、エクトールの軍が出てくると少し話が違ってくる。山賊をエクトール領内に逃がしてしまうと、エクトールが領内侵犯を口実に、何か仕掛けてくるかもしれない。だから、速やかに山賊の頭を討ちたい。その役を、君に頼みたいんだ」

 「いいわよ、別に、そのくらい」

 デュランの頼みを、ミラリアはあっさりと請け負った。

 「話だと、エクトールの軍が相手かと思ったけど、山賊なら全然怖くないわ。エクトールの軍が出てくる前に、さっさと行って、ちゃちゃっと片しちゃいましょ」

 …こうして、若き隊長デュラン率いる百人の部隊は、ラクティアとエクトールの国境に向かった。ミラリアとシルヴァンもこれに同行して、高台に陣取ると、火の手の上がる村に急行、略奪を働いている山賊に襲い掛かった。

 「ラクティアの治安部隊か、しゃらくせえ!野郎どもやっちまえ!!」
 
 頭目ガルドーが手下の山賊をけしかける。しかし、練度も装備もデュラン率いる百人隊のほうが上であり、山賊は次々と討ち取られる。

 しかし、ガルドーは慌てずに笛をだして、大きく吹いた。

 「伏兵か!」デュランが驚き、叫ぶ。

 周囲の建物から、新たな山賊が姿を現す。しかし、その武装は、磨きのかかった長剣に丸盾と統一されており、三人一組で襲いかかるその戦法は、訓練を経た兵士のものの、ようであった。

 「こいつら、ただの山賊じゃないな。エクトールの兵が化けているのか…」

 シルヴァンが、山賊兵を斬り捨てて、焦燥を隠せずに言う。きづくと、百人隊はその半数を失い、周囲を包囲される形になっていた。

 デュランも奮戦するが手傷を負い、仲間に助けられて身を守るので精一杯。デュランの隊は、半壊状態になっていた。

 「…頭目を倒さないと!」

 ミラリアは単身で斬り込み、黒太刀「黒牙」を手にザン、ザンと、山賊兵を切り崩し、頭目のガルドーに対峙する。

 「手前が噂の「ブレードシスター」か、まだガキじゃねえか、その細腕で俺の斧が受けられるか!」

 頭目のガルドーが大斧を振りかざして叫ぶ。が、ミラリアが黒太刀を振るうと、大斧を持った両手が飛び、次いで返す刀でその首が刎ね飛んだ。そして、敵に向かって、叫ぶように言う。

 「あとはあんた達の番よ、死にたい奴からかかってきなさい!!」

                     ☆

 ミラリアは、相手に弓兵が居ないのを見て取ると、黒太刀「黒牙」を以って、百人力の働きをした。

 数こそ多いが、味方がか細いシスターに鮮やかに斬られていく様を見て、得体の知れない恐怖を感じたのか、優勢であるにもかかわらず、山賊兵達の足が止まる。そして、その数が半減すると、恐慌が抑えられなくなったか、退却を開始した。

 シルヴァンも軽傷を負いつつも善戦し、残りのデュラン隊の者も、勢いを盛り返して追撃しようとするが、ミラリアがそれを止める。

 「この戦いはここまでよ、頭目は討った。山賊は散り散り。被害を確認して撤収するわよ」

 「あの山賊じみた伏兵はどうみてもエクトールの兵だったが、これはどうするんだ?」

 負傷したデュランが問う。「これではまるでだまし討ちだ」と無念そうに味方の死体に瞑目する。

 ミラリアは、しかしあくまで冷静にデュランに言う。

 「今回は私達の油断よ。何かしら策略がある予想自体は当たっていた。ただ、相手のやり方がよりあざとかっただけ。デュラン、あなたもいずれ大部隊を率いるつもりなら覚えておいて、常道でない戦も、理不尽な味方の死も、戦場ではつきものだってことを」

 「ミラリア…」

 デュランには、ミラリアの後ろに、太刀を持った長身の男の影が見えたようだった。そして改めて、この「ブレードシスター」が、見た目以上の存在だと悟ると、負傷をこらえて、味方の残存兵を確認して、撤収を指示することにした。
                      
 頭目を討ち取り、形式としては勝利だが、実質的には大損害である。「ロウブレイド」に戻ったデュランたちは、山賊相手に苦戦させられたとして、訓練の基礎からのやり直しを命じられ、ミラリアとシルヴァンも、その責をソレーヌに問われそうになったが、デュランがそれをとりなした。

 「今回の結果は全て俺の油断です。そしてミラリア達の奮戦がなければ、部隊は全滅していました。褒賞をとは言いません。どうか、両名に咎めなきようお願いします」

 「…分かった。咎めはしないが、今回の件は、今後頭に入れて指示させてもらう。ともかく、今はしっかり傷を治すのに専念しろ」

 ソレーヌはそれだけいい、指揮官室に引き上げた。

 ミラリアはその間にも懸命に治癒の聖術を負傷兵に施し、真っ先に癒されたシルヴァンが嘆くようにいう。

 「ミラリアは、こういう戦にも慣れているのかい?私は正々堂々とした戦しか経験がないからこういう時どういえばいいのか分からないが…気を落とさないで欲しい」

 ミラリアは、シルヴァンを誘って二人きりに場を移すと、深いため息をついた。

 「卑怯な戦い、醜い手もいくらかはみてきたつもりよ。でも、私は個人的にはそういうのは好きじゃない。だから、正々堂々とかつての私と戦ったルガート様に今は仕えているの」

 そうして、ミラリアは無理に微笑んでみせる。

 「とりあえず、当分は基礎からやり直しらしいから、皆の傷が治ったら、バシバシ剣の指導をするわよ。あんな小細工、踏みつぶせる位にデュラン達には、強くなってもらわないとね」

 「そうだな…。その指導は私にも頼めるかな?」

 シルヴァンの問いに、ミラリアはもちろん、と前置いて指を突き付けて言う。

 「シルヴァンは私の相棒なんだから、あの位の相手に負傷しちゃダメよ。鍛えなおしてあげるから、覚悟しなさい!」

 …こうして、ミラリアは、シルヴァンとデュラン隊に鬼教官のように剣の指導をする事となり、しばらくすると、見違えるように、デュラン隊が精強になったのは余談である。





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