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第ニ章
波乱⑩
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一足先にゴンドラから降りたアイは、山岸に支えられて近くのベンチに腰掛けた。
「俺たちも降りたら行きましょう」
俺は少し考える。今、アイの元へ駆け寄ったとしても‥。
「いや、止めておこう」
「え、何でです?だって姉御が‥」
「今回、俺がここに来た目的は、アイに来て欲しいと頼まれたから。約束として、見守るだけと言っている。何かあった場合は連絡してくる事。そのアイから連絡が来ない場合は俺は行くつもりはない」
「でも、姉御はさっきパニックに陥っていたんですよ?側に居て欲しいのはあんなやつじゃねぇ。兄貴の筈です」
自分の意見、気持ち、揺るがない軸のようなものをこのテツヤという人間は持っている。
ザワザワする。
軸が無い俺にとって、アンタのその純粋さは、なんて言うか、胸が騒つく。
「当然、何かあったらすぐに駆け寄るよ。でも今行く事は色々と台無しになってしまう」
「‥連絡くらいしてやってくだせぇ」
不承不承のようにボソッと言った哲也くんは、そのまま少しソッポを向いた。
何も知らない癖に。
これで仮に俺が駆け寄ったとして、何が出来る。
偶然だね。あれ、顔色悪いな。大丈夫?
何があった?
そんな偶然を装って現れても、俺と藍良の関係を知っている学校の人間からすると、偶然と思わない人間もいるかもしれない。
そうなると、学校で何を言われるか分からない。
また、孤独になってしまうかもしれないだろ。
それに、急に現れた俺たちに対してアイが藍良のように演じれるとは思えない。
感極まって抱きつきでもしてみろ。益々誤魔化しがきかなくなる。
俺はスマホのLICEを開き、アイに【大丈夫か?】とだけ送った。
アイはそれに気づくわけでもなく、山岸と何かを喋っている。暫くすると、山岸はスマホを取り出しその場から少し離れた。
誰かと電話をしているようだ。
数分の電話を終え、アイの手を取って移動を始めた。
「移動するみたいだな」
「‥へい」
俺たちも二人の後に続く。
哲也くんは敵を見るような目で山岸の方を見ていた。
俺は迷いながらも哲也くんに問いかける。
「哲也くん、君が山岸を嫌う理由って、俺がさっき変な事を言ったから?」
「‥それもありやすが、俺はあいつが軽薄そうに見えて仕方ねぇんす。兄貴は情報だけに流されるなって言いやしたよね?それはそう思いやす。ですが、あいつを見ていてやっぱり気にくわねぇ。簡単に手を握ったり肩が触れ合う距離を歩いたり」
それは俺も感じた事だ。距離が近い。
「でも、それはアイもだろう。あいつも距離が近い。それを嫌がる素振りもない」
藍良はそんな事はなかった。あいつは、親しい人以外には過敏なほど距離を気にしていた。
「そう言われると、そうですが。でも違うんす。姉御は、多分何も思っちゃいねぇ。野郎は、ワザとそうしてる気がする」
それは、アンタの感覚だろう。山岸が気に食わないのは俺も同じだ。恋人でも親しい間柄でもない相手に対しての距離の詰め方が見ていて不快。
これは、嫉妬。
だからこそ、藍良の顔でその距離に違和感なく過ごせているアイにも俺は怒りを感じている。
「俺たちも降りたら行きましょう」
俺は少し考える。今、アイの元へ駆け寄ったとしても‥。
「いや、止めておこう」
「え、何でです?だって姉御が‥」
「今回、俺がここに来た目的は、アイに来て欲しいと頼まれたから。約束として、見守るだけと言っている。何かあった場合は連絡してくる事。そのアイから連絡が来ない場合は俺は行くつもりはない」
「でも、姉御はさっきパニックに陥っていたんですよ?側に居て欲しいのはあんなやつじゃねぇ。兄貴の筈です」
自分の意見、気持ち、揺るがない軸のようなものをこのテツヤという人間は持っている。
ザワザワする。
軸が無い俺にとって、アンタのその純粋さは、なんて言うか、胸が騒つく。
「当然、何かあったらすぐに駆け寄るよ。でも今行く事は色々と台無しになってしまう」
「‥連絡くらいしてやってくだせぇ」
不承不承のようにボソッと言った哲也くんは、そのまま少しソッポを向いた。
何も知らない癖に。
これで仮に俺が駆け寄ったとして、何が出来る。
偶然だね。あれ、顔色悪いな。大丈夫?
何があった?
そんな偶然を装って現れても、俺と藍良の関係を知っている学校の人間からすると、偶然と思わない人間もいるかもしれない。
そうなると、学校で何を言われるか分からない。
また、孤独になってしまうかもしれないだろ。
それに、急に現れた俺たちに対してアイが藍良のように演じれるとは思えない。
感極まって抱きつきでもしてみろ。益々誤魔化しがきかなくなる。
俺はスマホのLICEを開き、アイに【大丈夫か?】とだけ送った。
アイはそれに気づくわけでもなく、山岸と何かを喋っている。暫くすると、山岸はスマホを取り出しその場から少し離れた。
誰かと電話をしているようだ。
数分の電話を終え、アイの手を取って移動を始めた。
「移動するみたいだな」
「‥へい」
俺たちも二人の後に続く。
哲也くんは敵を見るような目で山岸の方を見ていた。
俺は迷いながらも哲也くんに問いかける。
「哲也くん、君が山岸を嫌う理由って、俺がさっき変な事を言ったから?」
「‥それもありやすが、俺はあいつが軽薄そうに見えて仕方ねぇんす。兄貴は情報だけに流されるなって言いやしたよね?それはそう思いやす。ですが、あいつを見ていてやっぱり気にくわねぇ。簡単に手を握ったり肩が触れ合う距離を歩いたり」
それは俺も感じた事だ。距離が近い。
「でも、それはアイもだろう。あいつも距離が近い。それを嫌がる素振りもない」
藍良はそんな事はなかった。あいつは、親しい人以外には過敏なほど距離を気にしていた。
「そう言われると、そうですが。でも違うんす。姉御は、多分何も思っちゃいねぇ。野郎は、ワザとそうしてる気がする」
それは、アンタの感覚だろう。山岸が気に食わないのは俺も同じだ。恋人でも親しい間柄でもない相手に対しての距離の詰め方が見ていて不快。
これは、嫉妬。
だからこそ、藍良の顔でその距離に違和感なく過ごせているアイにも俺は怒りを感じている。
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