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第四章
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「どうせ意味ないよ。教師に言っても、結局‥」
「いたぞ!」
遠くから野太い声が聞こえてくる。
私達を指差し、山之内と多部が走ってくる。
そして、二人は気づいていないようだが、その後ろから寝癖が目立つ猫背の男がゆっくりと歩いて来ていた。
あの特徴的な歩き方を誰かと見間違えるわけがない。
理科教師の木本だ。
「やっと見つけた。誤解だって!」
息を切らしながら膝に手を置いて息を整える山之内。
長髪を掻き分けながら多部も肩で息をしていた。
「誤解って?」
お姉ちゃんが真面目にそう聞き返す。
どうせ下手な言い訳をするつもりだろう。そんなことより、こちらに歩いてくる木本の事を何故誰も気にしないのだろう。
「あれは、その、ほら!男同士のふざけ合いっていうかさ」
「そうそう。別にいじめなんかじゃあ」
必死に弁明をしようとしている二人の肩にトン、と木本が手を置いた。
ビクッと身体を震わせ、恐る恐るという具合で後ろを振り向く。
「楽しそうな話をしているな」
ゾワゾワと鳥肌が立つ。
ねっとりとした笑み。
何こいつ。
こんなに不気味だったっけ。
私が感じた違和感は、目の前の二人の態度で更に加速する。
「き、木本先生!」
「ち、ちがっ、俺たち、その」
身振り手振りを使って何もしていないとアピールする二人。山之内に関しては膝を地面につけ懇願するように頭を下げている。
まるで、怖い大人に悪さがバレた時の子供のよう。
明らかに異常な光景だった。
木本がこの二人に馬鹿にされている瞬間を見た事がある。
その時の立場がすっかり逆転しているこの状況を見て、私はお姉ちゃんの制服の裾を引っ張った。
やばいよ、これ。何がやばいか分からないけど、とにかく逃げないと。
「まぁ落ち着け二人とも」
木本が君の悪い笑みを浮かべながらスマホを取り出し、二人に画面を見せた。
「「あぁ‥」」と力が抜けるような声を発した二人は、全身の力も抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「さて‥何があったのか聞きたいが」
何かを言いかけて途中で止めた。
不気味な笑みを私たちに向けてくる。
全身に鳥肌が立つ。
「安西舞妓。そして、妹の姫歌だな」
名前を知られていることよりも、いきなり呼び捨てにされた事により気持ち悪さを覚える。
「あの、先生‥」
お姉ちゃんが戸惑いながらも事情を説明しようとする。
「駄目!」
私はお姉ちゃんを守るかのように木本の前に立った。
「姫歌?」
理由はわからない。
でも、いまこいつとお姉ちゃんを関わらせたらマズイと思った。
「なんだ、安生姫歌。俺は単純に騒がしい声が聞こえて来たから様子を見に来ただけだぞ」
冷や汗が流れる。
だから、今のアンタはとにかく、得体が知れないのよ。
「‥先生、会議じゃないんですか?」
「偶々、偶然、外の空気を吸いに会議を抜けていたんだ。そしたらお前達がいた。何か言い合っている。心配になるのは教師として当然だ。何か、あったのか」
やっぱり違う。入学当初の木本と目の前の木本。まるで別人だ。
「実は先生、さっき体育館で」
「お姉ちゃん!」
私は無理やり口を塞ぐ。
眉間に皺を寄せ、私に目で疑問を訴えてくる。
「あー、あー、もういいぞ」
気怠そうな木本の声と同時に、お姉ちゃんと私の目の前にスマホが現れた。
ヴゥン、ヴゥンという機械音と共に真っ黒な画面に細い白色が円を描くように回っている。
「いたぞ!」
遠くから野太い声が聞こえてくる。
私達を指差し、山之内と多部が走ってくる。
そして、二人は気づいていないようだが、その後ろから寝癖が目立つ猫背の男がゆっくりと歩いて来ていた。
あの特徴的な歩き方を誰かと見間違えるわけがない。
理科教師の木本だ。
「やっと見つけた。誤解だって!」
息を切らしながら膝に手を置いて息を整える山之内。
長髪を掻き分けながら多部も肩で息をしていた。
「誤解って?」
お姉ちゃんが真面目にそう聞き返す。
どうせ下手な言い訳をするつもりだろう。そんなことより、こちらに歩いてくる木本の事を何故誰も気にしないのだろう。
「あれは、その、ほら!男同士のふざけ合いっていうかさ」
「そうそう。別にいじめなんかじゃあ」
必死に弁明をしようとしている二人の肩にトン、と木本が手を置いた。
ビクッと身体を震わせ、恐る恐るという具合で後ろを振り向く。
「楽しそうな話をしているな」
ゾワゾワと鳥肌が立つ。
ねっとりとした笑み。
何こいつ。
こんなに不気味だったっけ。
私が感じた違和感は、目の前の二人の態度で更に加速する。
「き、木本先生!」
「ち、ちがっ、俺たち、その」
身振り手振りを使って何もしていないとアピールする二人。山之内に関しては膝を地面につけ懇願するように頭を下げている。
まるで、怖い大人に悪さがバレた時の子供のよう。
明らかに異常な光景だった。
木本がこの二人に馬鹿にされている瞬間を見た事がある。
その時の立場がすっかり逆転しているこの状況を見て、私はお姉ちゃんの制服の裾を引っ張った。
やばいよ、これ。何がやばいか分からないけど、とにかく逃げないと。
「まぁ落ち着け二人とも」
木本が君の悪い笑みを浮かべながらスマホを取り出し、二人に画面を見せた。
「「あぁ‥」」と力が抜けるような声を発した二人は、全身の力も抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「さて‥何があったのか聞きたいが」
何かを言いかけて途中で止めた。
不気味な笑みを私たちに向けてくる。
全身に鳥肌が立つ。
「安西舞妓。そして、妹の姫歌だな」
名前を知られていることよりも、いきなり呼び捨てにされた事により気持ち悪さを覚える。
「あの、先生‥」
お姉ちゃんが戸惑いながらも事情を説明しようとする。
「駄目!」
私はお姉ちゃんを守るかのように木本の前に立った。
「姫歌?」
理由はわからない。
でも、いまこいつとお姉ちゃんを関わらせたらマズイと思った。
「なんだ、安生姫歌。俺は単純に騒がしい声が聞こえて来たから様子を見に来ただけだぞ」
冷や汗が流れる。
だから、今のアンタはとにかく、得体が知れないのよ。
「‥先生、会議じゃないんですか?」
「偶々、偶然、外の空気を吸いに会議を抜けていたんだ。そしたらお前達がいた。何か言い合っている。心配になるのは教師として当然だ。何か、あったのか」
やっぱり違う。入学当初の木本と目の前の木本。まるで別人だ。
「実は先生、さっき体育館で」
「お姉ちゃん!」
私は無理やり口を塞ぐ。
眉間に皺を寄せ、私に目で疑問を訴えてくる。
「あー、あー、もういいぞ」
気怠そうな木本の声と同時に、お姉ちゃんと私の目の前にスマホが現れた。
ヴゥン、ヴゥンという機械音と共に真っ黒な画面に細い白色が円を描くように回っている。
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