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【第3部】13章 切り裂く刃
16話 陰謀の渦(後)
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「え? カイルを? 狙って って……」
「なんで……そういや、セルジュさんも最後らへんアイツのこと聞いてきたけど」
「よく分からないが、カイルのことを探っているのは確かだ。日記を漁ったりもしているらしい」
「に、日記を!?」
「……悪趣味」
ルカがパンケーキを頬張りながらしかめ面でぼそりとつぶやいた。
でも本当に、そうだ。悪趣味としかいえない。
わたしは日記を書いていないけど、勝手に回し読みなんてされたら恥ずかしくて悔しくて消えてしまいたくなるだろう。
しかもイリアスは、グレンさんにカイルの日記の一部を提示して質問をしてきたという。
人の取り調べに他人の日記を……他人事ながら、不快だ。
何がやりたいのかはともかくとして、その内容はなんとも不思議なものだった。
そこには聖女様と思われる女性の名前がはっきりと記されていたらしい。
封印されている聖女様の名前は、書くことも読むこともできないはず。
事実、紋章持ちのグレンさん、そして彼以上に強力な紋章の力を持つイリアスにも読むことはできなかったという。
「そりゃ……変だな」
「日記の内容からして、聖女とは知り合いだったようだが」
「ええっ、でも……」
「ああ、例えばその……恋人だったとしても、頭から消えちまうんだぜ」
「うん……」
「……カイルさんは、時間を越えた人。それが関係ある?」
「!!」
ルカの言葉にわたし達3人は顔を見合わせる。
「時間を……そういや、カイルが消えたのは今の聖女様が就任する前だな……」
「だから、今の聖女様の封印には縛られないってことかな? えっと、括り的には、カイルは前の聖女様の時代の人で……?」
わたしとジャミルの話を聞いたグレンさんが「1回情報を整理しよう」と、懐から取り出した手帳に情報を書き出していく。
カイルは前の聖女様――ローザ様の封印時代を生きていて、そこから過去へ飛ばされた。
だから今もローザ様の封印の影響下にあり、その名前をきっと呼ぶことができない。
一方、今の聖女様が封印される前の時代から飛んだから、そちらの名前は呼べるし書ける。
グレンさんが見せられたカイルの日記の内容からして今の聖女様と何らかの関わりがあり、かつ、聖女様の記憶は全く消えていない。さらに……。
「そういやベルがカイルに言ってたんだけど、アイツ"聖女の加護"を得てるとかなんとかって。……はぐらかされてたけどよ」
「せ、聖女の加護……知り合いだからとか? ……あっ! そういえばあのテレーゼっていう人の呪いの言葉が聞こえなかったって言ってたけど、それもそのおかげ?」
「……思った以上に秘密が多いな。ジャミルと俺はついでで、最初からカイルが目的だったのかもしれない。イリアスの"時代を創る"という目的に何かが合致するのか……」
「関係ねえよ。……何だってんだよ……色々不思議なことがあったって、めちゃくちゃ強くたって、アイツはオレの弟で、普通の人間なんだぞ……」
「…………」
うなだれるジャミルを前に、誰も何の言葉も出せなくなってしまう。
結局その日はそれで解散して、カイルの帰りを待とうということになった。
カイルのことが心配でたまらないけど、正直わたしにできることは何もない。
グレンさんに「学校と日常生活を最優先に」と言われたこともあり、平日も砦に来たい気持ちを抑えてわたしは普段通りの日常を過ごした。
来週砦に行けば、カイルはきっと帰っている。
「ほんとに参ったよ」なんて苦笑いしながらお酒をがぶ飲みしたりなんかして、そんなカイルにジャミルが「お疲れさん」とか言いながら彼の好物をテーブルに並べるの。
それで、情報を整理しながらこれからのことを話し合って……。
そうなると思っていた。
だってそれが、今までのわたしの……わたし達の日常だったんだから。
◇
「え……カイル、まだ帰ってないんですか!?」
「ああ……」
次の週も、カイルの姿はなかった。
砦に行くとグレンさんとジャミルが隊長室で何かを話している最中だった。
2人とも疲れた顔をしている――食堂に場所を移して、温かい飲み物を出した。
「なんで、1週間以上も……」
「……さすがに拘束しすぎだろうと思って抗議しに行ったんだが……」
そう言いながらグレンさんが険しい顔でココアを一口すすり、今日あったことを教えてくれる。
――グレンさんとジャミルの2人で聖銀騎士の詰め所に赴き「返せないならせめて面会を」と申し入れたけど、「イリアス様の命で誰とも会わせることはできない」と門前払いされそうになった。
それならセルジュ様と話を……と食い下がるも、こちらも拒否。
何を言っても聞いても、全く同じ声の調子で「イリアス様の命で誰とも会わせることはできない」と、死んだような目で繰り返すのみだという……。
「何、それ……」
「……さすがにやべえってなって、一旦帰ってきたんだ」
「……正気じゃない。何か術にかかって操られているようだ」
「…………」
思った以上に事態は深刻で、背筋が凍りつく。
カイルは無事なんだろうか?
聖銀騎士は正気を失い、操られている――それなら、団長のセルジュ様はどうなんだろう?
あくまでも仮定の話だけど、イリアスはセルジュ様を邪魔に思って、排除しようとしている。
「イリアス様の命で」誰にも会わせられないということは、セルジュ様はもう……?
「どうしたものか……これも、書いてみても何も反応がなかったし」
グレンさんがため息を大きく吐きながらイスにもたれかかり、テーブルの上に薄い緑色の石板を置く。
これは確か「頼信板」という物だ。
ここに文字を書くと、対になっているもう一つの石板に浮かび上がる――グレンさんがヒースコートに行っていた時に、これを使ってカイルと連絡を取り合っていた。
「どうしたんですか、これ」
「俺が釈放された時、着替えの服の間にこれが挟まっていた」
「一体誰が……イリアスか、セルジュ様?」
「さあな……。罠かもしれないと思って使わないでいたが、もしセルジュがこれを入れたのなら……」
そう言いながらグレンさんがテレグラムとセットのペンを持って、何かを書き込む。
"無事なら、連絡を"――。
……返事はなかった。
そして……その日もやっぱり、カイルは戻らなかった。
「なんで……そういや、セルジュさんも最後らへんアイツのこと聞いてきたけど」
「よく分からないが、カイルのことを探っているのは確かだ。日記を漁ったりもしているらしい」
「に、日記を!?」
「……悪趣味」
ルカがパンケーキを頬張りながらしかめ面でぼそりとつぶやいた。
でも本当に、そうだ。悪趣味としかいえない。
わたしは日記を書いていないけど、勝手に回し読みなんてされたら恥ずかしくて悔しくて消えてしまいたくなるだろう。
しかもイリアスは、グレンさんにカイルの日記の一部を提示して質問をしてきたという。
人の取り調べに他人の日記を……他人事ながら、不快だ。
何がやりたいのかはともかくとして、その内容はなんとも不思議なものだった。
そこには聖女様と思われる女性の名前がはっきりと記されていたらしい。
封印されている聖女様の名前は、書くことも読むこともできないはず。
事実、紋章持ちのグレンさん、そして彼以上に強力な紋章の力を持つイリアスにも読むことはできなかったという。
「そりゃ……変だな」
「日記の内容からして、聖女とは知り合いだったようだが」
「ええっ、でも……」
「ああ、例えばその……恋人だったとしても、頭から消えちまうんだぜ」
「うん……」
「……カイルさんは、時間を越えた人。それが関係ある?」
「!!」
ルカの言葉にわたし達3人は顔を見合わせる。
「時間を……そういや、カイルが消えたのは今の聖女様が就任する前だな……」
「だから、今の聖女様の封印には縛られないってことかな? えっと、括り的には、カイルは前の聖女様の時代の人で……?」
わたしとジャミルの話を聞いたグレンさんが「1回情報を整理しよう」と、懐から取り出した手帳に情報を書き出していく。
カイルは前の聖女様――ローザ様の封印時代を生きていて、そこから過去へ飛ばされた。
だから今もローザ様の封印の影響下にあり、その名前をきっと呼ぶことができない。
一方、今の聖女様が封印される前の時代から飛んだから、そちらの名前は呼べるし書ける。
グレンさんが見せられたカイルの日記の内容からして今の聖女様と何らかの関わりがあり、かつ、聖女様の記憶は全く消えていない。さらに……。
「そういやベルがカイルに言ってたんだけど、アイツ"聖女の加護"を得てるとかなんとかって。……はぐらかされてたけどよ」
「せ、聖女の加護……知り合いだからとか? ……あっ! そういえばあのテレーゼっていう人の呪いの言葉が聞こえなかったって言ってたけど、それもそのおかげ?」
「……思った以上に秘密が多いな。ジャミルと俺はついでで、最初からカイルが目的だったのかもしれない。イリアスの"時代を創る"という目的に何かが合致するのか……」
「関係ねえよ。……何だってんだよ……色々不思議なことがあったって、めちゃくちゃ強くたって、アイツはオレの弟で、普通の人間なんだぞ……」
「…………」
うなだれるジャミルを前に、誰も何の言葉も出せなくなってしまう。
結局その日はそれで解散して、カイルの帰りを待とうということになった。
カイルのことが心配でたまらないけど、正直わたしにできることは何もない。
グレンさんに「学校と日常生活を最優先に」と言われたこともあり、平日も砦に来たい気持ちを抑えてわたしは普段通りの日常を過ごした。
来週砦に行けば、カイルはきっと帰っている。
「ほんとに参ったよ」なんて苦笑いしながらお酒をがぶ飲みしたりなんかして、そんなカイルにジャミルが「お疲れさん」とか言いながら彼の好物をテーブルに並べるの。
それで、情報を整理しながらこれからのことを話し合って……。
そうなると思っていた。
だってそれが、今までのわたしの……わたし達の日常だったんだから。
◇
「え……カイル、まだ帰ってないんですか!?」
「ああ……」
次の週も、カイルの姿はなかった。
砦に行くとグレンさんとジャミルが隊長室で何かを話している最中だった。
2人とも疲れた顔をしている――食堂に場所を移して、温かい飲み物を出した。
「なんで、1週間以上も……」
「……さすがに拘束しすぎだろうと思って抗議しに行ったんだが……」
そう言いながらグレンさんが険しい顔でココアを一口すすり、今日あったことを教えてくれる。
――グレンさんとジャミルの2人で聖銀騎士の詰め所に赴き「返せないならせめて面会を」と申し入れたけど、「イリアス様の命で誰とも会わせることはできない」と門前払いされそうになった。
それならセルジュ様と話を……と食い下がるも、こちらも拒否。
何を言っても聞いても、全く同じ声の調子で「イリアス様の命で誰とも会わせることはできない」と、死んだような目で繰り返すのみだという……。
「何、それ……」
「……さすがにやべえってなって、一旦帰ってきたんだ」
「……正気じゃない。何か術にかかって操られているようだ」
「…………」
思った以上に事態は深刻で、背筋が凍りつく。
カイルは無事なんだろうか?
聖銀騎士は正気を失い、操られている――それなら、団長のセルジュ様はどうなんだろう?
あくまでも仮定の話だけど、イリアスはセルジュ様を邪魔に思って、排除しようとしている。
「イリアス様の命で」誰にも会わせられないということは、セルジュ様はもう……?
「どうしたものか……これも、書いてみても何も反応がなかったし」
グレンさんがため息を大きく吐きながらイスにもたれかかり、テーブルの上に薄い緑色の石板を置く。
これは確か「頼信板」という物だ。
ここに文字を書くと、対になっているもう一つの石板に浮かび上がる――グレンさんがヒースコートに行っていた時に、これを使ってカイルと連絡を取り合っていた。
「どうしたんですか、これ」
「俺が釈放された時、着替えの服の間にこれが挟まっていた」
「一体誰が……イリアスか、セルジュ様?」
「さあな……。罠かもしれないと思って使わないでいたが、もしセルジュがこれを入れたのなら……」
そう言いながらグレンさんがテレグラムとセットのペンを持って、何かを書き込む。
"無事なら、連絡を"――。
……返事はなかった。
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