【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
104 / 385
【第2部】7章 風と鳥の図書館

◆エピソード―グレン:友人と手紙

しおりを挟む
 
 ※2章4話「カラスの黒海」裏
 
 
「グレンさん。あの、クライブさんという方が来られてますけど――」
 
 ある日冒険から帰ってきて夕飯を食べていると、外出していたらしいレイチェルが食堂にいる俺に声をかけた。
 
「……クライブ?」
「クライブ・ディクソンさんという方です。ホールにおられます」
「…………」
 
 クライブディクソン……クライブディクソン……。
 ――誰だっけ?
 
「ああ。分かった。すぐに行く」
 ――誰だか知らないが、ホールにいるというなら行けば分かるか。
 頭を掻きながら、ホールへ向かう。
 
 
「あ……」
「やあ。久しぶり」
「なんだ……お前か」
「なんだとはなんだよ、失礼な」
 
 ホールにいたのはカイルだった。
 10数年前からの付き合い……腐れ縁とでもいうのか。会うのは2年ぶりくらいだ。
 真名まなを知られたらいけないとかなんとかで偽名を名乗っているらしい。
 そういえば、クライブって名乗っていたっけな……10数年経っても全く覚えられない。
 『復唱してみろ』と目の前で『クライブ』と言われても、喉の奥でつっかえるような気持ち悪さがありどうしても口から出ない。
 おそらくこの手にある紋章のせいだろう――真名しか呼ぶことができない。

 こんな風に偽名を名乗っている奴は厄介だ。
 二人称や代名詞、肩書がある場合はそれを呼ぶことでごまかしてきたが、名前を呼ばないことで相手を怒らせることもままある。

 ミランダ教では『女神の祝福』と呼ばれているという紋章。
 あれこれ視える、魔器ルーンなしで魔法が撃てる……色々とあるが、この「真名でしか呼べない」というのは不都合しかない。


 ◇
 
 
「……で、何の用だ」

 カイルを隊長室へ案内した。

「色々あるけど。お前のことをギルドで聞いてさ」
「……ギルドで?」
「ああ。『絶対に強いのにしょぼい依頼しか受けないノルデン人の変な男がいる』ってさ」
「…………」
「『知り合いなら駆け出し冒険者の仕事を取らないよう説得してほしい』と依頼を受けてきました」
「…………」
 
 ――最悪だ。

「なんでもいいから魔物退治受けたら? パーティメンバーはあと二人いるって聞いたけど」
「一人はチームワーク皆無のオーバーキル魔術師、一人は戦いが嫌いで魔物を斬りたくない剣士。退治どころじゃないんだ」
「なんだそれ、パーティって言えるのか? 何のために砦まで借りて組んでるんだ」
「色々……のっぴきならない事情があって」

 ルカが家についてこようとするとか、一緒に寝ようとしたがるとか、ジャミルが斬りかかってくるかもしれないとか。
 
「なんだかよく分からないけど、まあいいか。それなら俺と組んで魔物退治しないか?」
「えー……」
「えー ってなんだよ」
「先輩……僕は戦いを好みません」
「嘘つけよ。何が『僕』だよ気持ち悪い」
「最近はきのこ狩りとか、薬草採取ばかりやってるから……気合入れる仕事は遠慮したい」
「それは分かったけど、お前シマ荒らししてるんだよ。冒険初心者がかわいそうだろ、他の二人は知らないがお前は身の丈にあった仕事をしろっていう話だ。薬草採取なら魔物の巣窟とか危険地帯に行くとかでないとな」
「……はぁ……」

 盛大な溜息。
 面倒だ……牧歌的な環境でただきのこ刈ってるとか、それはそれで良かったのにな。
 頭をガシガシ掻いてうなだれていると、ソファーにもたれかかったカイルが眉根を寄せる。

「……魔物退治が嫌なら冒険者をやらなければいいだけじゃないのか?」
「今はあれこれ事情があって仕方がないんだ。特殊な依頼を受けてしまったし」
「ふーん……苦労するな」
「魔物退治はする。……俺は月・水と定期の仕事があるから、退治の依頼は適当にお前が取ってきてくれ」
「了解。俺も来週くらいまで配達とか討伐とか抱えてるから、再来週からになると思う」
「そうか」
 
「ああ……それからこれ、渡しとく。正直こっちが本題だよ」

 そう言ってカイルは懐から封筒を取り出して俺によこす。

「手紙……」

「ああ。おかみさんから預かってきたんだ。読めよ……心配している」
「……そうか」
「……俺はあまり説教とかしたくないけど。2年前フラッといなくなったきり、お前一体どこで何していたんだ? 死んだんじゃないかと思って行方を探していた。俺は一応お前と付き合い長いからな、めちゃくちゃ心配してたんだよな」
「……それは……すまなかった」
「正直ちょっと殴ってやりたい気持ちだよ」

 握りこぶしを右に作って左に作って、反対側の手でそれを包んで……交互に繰り返しながらカイルが俺を睨みつける。

「殴るのは勘弁してくれ……痛いし」
「……手紙はちゃんと読めよ。そのあとどうするかはお前の自由だ。俺は何も言わない」
「……ああ……」
 
 
 ◇
 
 
『 グレン
 
  今どこで何をしていますか? 
  顔を見せにくければ無理にとは言いません。
  ただ無事であればそれでいいので、返事をちょうだい。
  そしてこれだけは言っておきます。
  私も主人も、あなたのことを信じていますから。
 
      メリア・マードック 』
 
 
「…………」

 手紙を受け取ってから数日後、自宅でやっと封を開けた。

(返事……)

 返事を書こうかとペンと紙を取るが、どうしても手が止まってしまう。
「無事です」だけ書けばいいのかもしれないが……正直心を伴うやりとりがひどく苦痛だ。
 カイルにも見つかりたくはなかった。
 奴はまた俺が勝手に消えないかどうか、遊びに来るという名目で定期的に見張りに来るようだ。
 放っておけばいいものを、お人好しだ。俺と違って他に友達いっぱいいるだろうに。
 
 ふと目を落とすと、何か書こうとペンを置いたままだった紙にインクがしみて黒く汚れてしまっていた。
 
 ――結局何も書かずに、ペンを置いてしまった。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...