99 / 385
【第2部】7章 風と鳥の図書館
8話 花言葉と美少女
しおりを挟む
土曜日、朝の掃除を終え掃除道具を片付けていると、いつものように中庭にルカの姿が見えた。
「おはよう、早いな。花の日記か」
「ん。おはよう……」
今日もしゃがみこんでせっせと花の絵を描いている。
先日ベルナデッタとフランツと街に買い物に行った際にスケッチブックと新しい色鉛筆を買ってもらったらしい。
前に見たときよりも色使いが鮮やかに、絵もうまくなっている。
「絵がうまくなってるな。それ、ジニアの花だろう」
「知っているの」
「ああ。花言葉は『不在の友を思う』」
「花言葉? ……何?」
「何……そうだな、大昔に誰かが考えたその花の象徴とか、意味とか……そんな感じのものだ」
「この、ひまわりにも朝顔にも、ある?」
「ああ、確かひまわりは『私はあなただけを見つめる』朝顔は『固い絆』だったかな」
「……男の人はお花に興味がない、知らないって、ジャミルが前言っていた。なぜグレンは知っているの」
「ああ……」
――それはここ数ヶ月、キャンディ・ローズ先生の小説を読んでいるからだ。
話ごとに色んな花が出てきて、花言葉にちなんだエピソードが展開される。
巻末にはエピソードに出てきた花の図鑑がキャンディ先生の挿絵つきで載っている。
その絵がけっこう好きで毎回読んでいるから花言葉も覚えた。
「……うん。すごいだろ」
「ん……」
(って、そこまで喋るほどでもないな……)
キャンディ・ローズ先生からまず説明しないといけないし、まあいいか。
「……グレンは、わたしと同じ」
「……え?」
「レイチェルやジャミルと違う。……喋るのが、下手」
「…………知ってる」
実際、さっきみたいに説明をはしょりすぎて相手を怒らせることがままある。
あとは紋章が見せるままの事を言ってトラブルになったり、ボコボコにされるなどしてきた。
ルカの言うように、俺はルカと同じ――彼女相手に特にイライラしてしまうのは、昔の自分と似ている面があるからだろう。
そのルカにこんな事を言われてしまうとは。
「ルカ……意外と人をよく見ているな」
「グレンは、見ない?」
「……俺のことはいい」
「風紀が乱れるから?」
「風紀?」
「前、ベルが質問いっぱいした時にグレンがそう言っていたから」
「……そうだったか」
――そんな発言したかな? 適当にのらくらかわしていたからな……その場限りで特に記憶に残していないエピソードだろうか。そんなことばかり言ってきたからな……。
(あ……)
――そうだ。
風紀がどうのとか適当に発言してたらジャミルに競馬で大儲けしたことをバラされて、とんでもない墓穴を掘った時のことだ。
レイチェルが心底失望したみたいな顔してて……ルカが最初に『お兄ちゃま』と呼んできた時より引いてたな。
ティーンエイジャーに侮蔑の眼差しで見られるのはけっこうこたえる。
『誤解を招く突き放すような言い方やめたら?』とはカイルの弁だが。
「突き放すような」はともかくとして、説明不足の上に適当な物言いをしていると誤解を招いて手痛いしっぺ返しを食らうのは確かだ。
さすがにボコボコにされたりするようなことは言わないが、少しは改めたほうがいいかもしれない……。
――そんなようなことを考えていると、視界に何か光る物がチラついてきて俺は目を細めた。
何だろうとそちらを見ると、ルカの頭の髪飾りに日光が当たってキラキラ輝いていた。
「その髪飾り、ベルナデッタに買ってもらったやつか」
「そう」
雫をかたどった青や水色の石と、白い貝殻が並ぶ髪飾り。
髪飾りの他には服やブレスレット、それから髪につける香油なんかも買ってもらったようだ。
ワサワサだった髪の毛はその香油とやらのおかげでか、少し癖はあるもののサラサラのストレートになってきていた。
ちなみに街に繰り出す際ベルナデッタに鼻息荒く、
「せっかくルカはかわいいのにおしゃれしないなんてもったいない。隊長、どうして何も買ってあげないんですの」と抗議された。
なぜ俺が買わないといけないのか……「お兄ちゃま」とは呼ばれていたが兄じゃないし、恋人でもない。
確かに彼女の生活費と食費は俺が出しているが、それだって既におかしい。
カイルが最初来た時には「なんで女の子養ってんの? まさか彼女じゃないよな?」とか言われたし。
「これ、キラキラ。かわいい……」
ルカが髪飾りに手をやって、目をうるうるとさせている。
「……そうだな。よく似合ってる」
「わたし、かわいい?」
「え? ああ、そうだな。かわいいな」
「びしょうじょ?」
「び……、ああ、そうだな……うん。美少女だな」
俺がそう言うとルカは満足そうにまた花の絵を描き始めた。美少女って誰が教えたんだ……ベルナデッタか?
「ふぁー……おはようございますー。ルカもおはよー」
「おはよう」
レイチェルがやってきた。起き抜けだからなのか髪を下ろしたままだ。
「今日は早いな」
「う……あはは」
少しバツが悪そうに、レイチェルは髪をいじる。
彼女はいつも起きるのが遅く、10時とか11時とかになってようやく起きてくる。今は7時半だから彼女にしては早起きだ。
朝飯も昼飯も特に必要ないと最初に言ってあるから自由にしてくれていいとは思うが、正直よくそんなに寝られるなと思う。
「レイチェル……髪、サラサラで長い」
「あ、うん……サラサラ、かなぁ? まっすぐすぎて色んなアレンジできないんだよね」
「かわいい」
「え~ルカの方がかわいいよ~。最近髪キレイになったし、その髪飾りもかわいいもんね!」
「…………ん」
自分の髪を一房とってレイチェルは気恥ずかしそうにルカを褒め、そのルカも伏し目がちに笑う。
ガールズトークが始まっている……俺は退散した方がいいだろうと思ったその時、ルカに「グレン」と声をかけられた。
「……ん?」
「わたし、かわいい?」
「あ、ああ。そうだな。かわいいな」
「レイチェルもかわいい?」
「ああ、うん、そうだな。美少女だな」
(って、しまった……ついさっきのルカとの会話のノリで……)
適当な物言いは改めたほうがいいかもなと考えている矢先に、また適当な事を言ってしまった。
パッとレイチェルを見ると真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
「グ、グ、グレンさん……あ、頭でも打たれましたか……。び、美少女って」
「……はは」
ルカとの会話の流れを知らないのに「美少女」というワードは確かにおかしすぎる。
いや、でも「美少女とか言ってすいませんでした」と言うのも違うしな……。
「……ちょっと言葉選びが変だったな。でも、かわいいと思うのは本当だから」
「えっ」
「前も言ったけど、下ろしているほうがいいな」
レイチェルはうつむいて「そ、そんな……」とかなんとかブツブツ言っている。
(……そんなにおかしいことを言ったか?)
確かに適当なことばかり言ってはいるが、俺だっていいものはいい、綺麗なものは綺麗くらいは言うんだが。
カイルみたいに『今日もかわいいね』とかキザったらしいことは言わないが……というか、いつもそれ言われてるけど「うんありがとー」ってサラッと返しているじゃないか。
もしやシスコン疑惑のある俺が言うのは気持ちが悪いみたいなことだろうか。
それなら仕方がない。やっぱり適当な話題でごまかそうか……。
「そういえば、あの旅行土産のぶどうジュース、あれうまかったよ」
「ふぁっ!!??」
「えっ」
うまく話題を切り替えたかと思ったのに、奇声を上げられた。……なんなんだ。
未だレイチェルは顔を赤くしたまま……ぶどうジュースの話でなぜそうなる。
「ご、ごめんなさい、えへへ」
「あれずいぶん大きい『かどっこちゃん』が付いてたな」
「は、はい……か、かわいいですよね。あの、あれ……誰かにあげちゃったりとかは……?」
「え? 一人暮らしの俺の部屋に飾ってあるけど」
「かかかかかか飾ってある ですって!?」
「え……うん。枕元に置いて時々もちもちしてるけど。あれ、さわり心地いいな」
「な、なんと……そ、そ、そうですね……その、癒やしグッズですしね! あの、こ、これからも、もちもちしてあげてください……」
消え入りそうな語尾。『なんと』って何だ。
「わ、わたし、わたし……に、二度寝してきますっ!」
高らかに二度寝宣言をしたレイチェルはピューと走って逃げていった。意外と早い。
(なんだかよく分からんが、何を言ってもうまくいかなかったな……)
正直ここ数年まともに人と口を聞いていなかったからだろうか、会話が全くうまくいかなかったな。
土産のぶどうジュースの話をしてなぜああなったのやら……。
かどっこちゃん飾ってるのがキモいとか? でもくれたものだしな……。
「……ん?」
ぼんやりさっきの会話の何が駄目だったか考えていたら、足元に何やら透明の塊のような影が映っていることに気がついた。
(何の影だ……? 透明……、!!)
バッと上を見上げると、水の塊が俺の頭上に浮いていた。
「み、水……!」
「グレン……」
「ル、ルカ……? どうした……」
目が座ったルカが俺を見ている。上に掲げた左手、その手の甲には水の紋章が浮き出て光っている。
「レイチェルに、何を……したの」
頭上の水の塊は更に大きくなっていく。
「な、何をって、何もしていない……」
「レイチェルを、いじめた……刑罰が、必要……」
「け、刑罰って……待て、待ってくれ――」
有無を言わさずにルカは手を振り下ろす。
ドッシャアアアアと大きな音を立てて、水を叩きつけられた。
「…………」
ビショビショになった顔を拭って目を開けると、すでにルカは姿を消していた。瞬間移動していったんだろう。
(ありえん……)
◇
「……8時出発って言って、なんで出発間際から風呂に入ったんだ? 別にいいけどさ」
「……」
風呂上がりに牛乳を飲んでいる俺に、カイルが心底不思議そうな顔で尋ねてくる。
こいつも朝起きるのが遅い。しかも起きない。
ルカが叩きつけた水の塊はなかなかの音だったのにそれで起きてくることもなかった。
……それなのにこいつにあれこれ言われるのは全く割に合わない。
「お前がさっさと来ていればこんなことにならなかった」
「……俺が早く来ていれば風呂に入らなかった? なんだよそれ、全く意味が――」
「うるさい……殺すぞ」
「ええー……理不尽すぎる」
――俺の方がもっと理不尽だ。
久々にありえない理不尽な扱いを受けた。
さすがに一から十まで意味が分からなすぎる。なんでだ? どこから間違った?
俺が何をしたというんだ。全くわけが分からん……。
「おはよう、早いな。花の日記か」
「ん。おはよう……」
今日もしゃがみこんでせっせと花の絵を描いている。
先日ベルナデッタとフランツと街に買い物に行った際にスケッチブックと新しい色鉛筆を買ってもらったらしい。
前に見たときよりも色使いが鮮やかに、絵もうまくなっている。
「絵がうまくなってるな。それ、ジニアの花だろう」
「知っているの」
「ああ。花言葉は『不在の友を思う』」
「花言葉? ……何?」
「何……そうだな、大昔に誰かが考えたその花の象徴とか、意味とか……そんな感じのものだ」
「この、ひまわりにも朝顔にも、ある?」
「ああ、確かひまわりは『私はあなただけを見つめる』朝顔は『固い絆』だったかな」
「……男の人はお花に興味がない、知らないって、ジャミルが前言っていた。なぜグレンは知っているの」
「ああ……」
――それはここ数ヶ月、キャンディ・ローズ先生の小説を読んでいるからだ。
話ごとに色んな花が出てきて、花言葉にちなんだエピソードが展開される。
巻末にはエピソードに出てきた花の図鑑がキャンディ先生の挿絵つきで載っている。
その絵がけっこう好きで毎回読んでいるから花言葉も覚えた。
「……うん。すごいだろ」
「ん……」
(って、そこまで喋るほどでもないな……)
キャンディ・ローズ先生からまず説明しないといけないし、まあいいか。
「……グレンは、わたしと同じ」
「……え?」
「レイチェルやジャミルと違う。……喋るのが、下手」
「…………知ってる」
実際、さっきみたいに説明をはしょりすぎて相手を怒らせることがままある。
あとは紋章が見せるままの事を言ってトラブルになったり、ボコボコにされるなどしてきた。
ルカの言うように、俺はルカと同じ――彼女相手に特にイライラしてしまうのは、昔の自分と似ている面があるからだろう。
そのルカにこんな事を言われてしまうとは。
「ルカ……意外と人をよく見ているな」
「グレンは、見ない?」
「……俺のことはいい」
「風紀が乱れるから?」
「風紀?」
「前、ベルが質問いっぱいした時にグレンがそう言っていたから」
「……そうだったか」
――そんな発言したかな? 適当にのらくらかわしていたからな……その場限りで特に記憶に残していないエピソードだろうか。そんなことばかり言ってきたからな……。
(あ……)
――そうだ。
風紀がどうのとか適当に発言してたらジャミルに競馬で大儲けしたことをバラされて、とんでもない墓穴を掘った時のことだ。
レイチェルが心底失望したみたいな顔してて……ルカが最初に『お兄ちゃま』と呼んできた時より引いてたな。
ティーンエイジャーに侮蔑の眼差しで見られるのはけっこうこたえる。
『誤解を招く突き放すような言い方やめたら?』とはカイルの弁だが。
「突き放すような」はともかくとして、説明不足の上に適当な物言いをしていると誤解を招いて手痛いしっぺ返しを食らうのは確かだ。
さすがにボコボコにされたりするようなことは言わないが、少しは改めたほうがいいかもしれない……。
――そんなようなことを考えていると、視界に何か光る物がチラついてきて俺は目を細めた。
何だろうとそちらを見ると、ルカの頭の髪飾りに日光が当たってキラキラ輝いていた。
「その髪飾り、ベルナデッタに買ってもらったやつか」
「そう」
雫をかたどった青や水色の石と、白い貝殻が並ぶ髪飾り。
髪飾りの他には服やブレスレット、それから髪につける香油なんかも買ってもらったようだ。
ワサワサだった髪の毛はその香油とやらのおかげでか、少し癖はあるもののサラサラのストレートになってきていた。
ちなみに街に繰り出す際ベルナデッタに鼻息荒く、
「せっかくルカはかわいいのにおしゃれしないなんてもったいない。隊長、どうして何も買ってあげないんですの」と抗議された。
なぜ俺が買わないといけないのか……「お兄ちゃま」とは呼ばれていたが兄じゃないし、恋人でもない。
確かに彼女の生活費と食費は俺が出しているが、それだって既におかしい。
カイルが最初来た時には「なんで女の子養ってんの? まさか彼女じゃないよな?」とか言われたし。
「これ、キラキラ。かわいい……」
ルカが髪飾りに手をやって、目をうるうるとさせている。
「……そうだな。よく似合ってる」
「わたし、かわいい?」
「え? ああ、そうだな。かわいいな」
「びしょうじょ?」
「び……、ああ、そうだな……うん。美少女だな」
俺がそう言うとルカは満足そうにまた花の絵を描き始めた。美少女って誰が教えたんだ……ベルナデッタか?
「ふぁー……おはようございますー。ルカもおはよー」
「おはよう」
レイチェルがやってきた。起き抜けだからなのか髪を下ろしたままだ。
「今日は早いな」
「う……あはは」
少しバツが悪そうに、レイチェルは髪をいじる。
彼女はいつも起きるのが遅く、10時とか11時とかになってようやく起きてくる。今は7時半だから彼女にしては早起きだ。
朝飯も昼飯も特に必要ないと最初に言ってあるから自由にしてくれていいとは思うが、正直よくそんなに寝られるなと思う。
「レイチェル……髪、サラサラで長い」
「あ、うん……サラサラ、かなぁ? まっすぐすぎて色んなアレンジできないんだよね」
「かわいい」
「え~ルカの方がかわいいよ~。最近髪キレイになったし、その髪飾りもかわいいもんね!」
「…………ん」
自分の髪を一房とってレイチェルは気恥ずかしそうにルカを褒め、そのルカも伏し目がちに笑う。
ガールズトークが始まっている……俺は退散した方がいいだろうと思ったその時、ルカに「グレン」と声をかけられた。
「……ん?」
「わたし、かわいい?」
「あ、ああ。そうだな。かわいいな」
「レイチェルもかわいい?」
「ああ、うん、そうだな。美少女だな」
(って、しまった……ついさっきのルカとの会話のノリで……)
適当な物言いは改めたほうがいいかもなと考えている矢先に、また適当な事を言ってしまった。
パッとレイチェルを見ると真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
「グ、グ、グレンさん……あ、頭でも打たれましたか……。び、美少女って」
「……はは」
ルカとの会話の流れを知らないのに「美少女」というワードは確かにおかしすぎる。
いや、でも「美少女とか言ってすいませんでした」と言うのも違うしな……。
「……ちょっと言葉選びが変だったな。でも、かわいいと思うのは本当だから」
「えっ」
「前も言ったけど、下ろしているほうがいいな」
レイチェルはうつむいて「そ、そんな……」とかなんとかブツブツ言っている。
(……そんなにおかしいことを言ったか?)
確かに適当なことばかり言ってはいるが、俺だっていいものはいい、綺麗なものは綺麗くらいは言うんだが。
カイルみたいに『今日もかわいいね』とかキザったらしいことは言わないが……というか、いつもそれ言われてるけど「うんありがとー」ってサラッと返しているじゃないか。
もしやシスコン疑惑のある俺が言うのは気持ちが悪いみたいなことだろうか。
それなら仕方がない。やっぱり適当な話題でごまかそうか……。
「そういえば、あの旅行土産のぶどうジュース、あれうまかったよ」
「ふぁっ!!??」
「えっ」
うまく話題を切り替えたかと思ったのに、奇声を上げられた。……なんなんだ。
未だレイチェルは顔を赤くしたまま……ぶどうジュースの話でなぜそうなる。
「ご、ごめんなさい、えへへ」
「あれずいぶん大きい『かどっこちゃん』が付いてたな」
「は、はい……か、かわいいですよね。あの、あれ……誰かにあげちゃったりとかは……?」
「え? 一人暮らしの俺の部屋に飾ってあるけど」
「かかかかかか飾ってある ですって!?」
「え……うん。枕元に置いて時々もちもちしてるけど。あれ、さわり心地いいな」
「な、なんと……そ、そ、そうですね……その、癒やしグッズですしね! あの、こ、これからも、もちもちしてあげてください……」
消え入りそうな語尾。『なんと』って何だ。
「わ、わたし、わたし……に、二度寝してきますっ!」
高らかに二度寝宣言をしたレイチェルはピューと走って逃げていった。意外と早い。
(なんだかよく分からんが、何を言ってもうまくいかなかったな……)
正直ここ数年まともに人と口を聞いていなかったからだろうか、会話が全くうまくいかなかったな。
土産のぶどうジュースの話をしてなぜああなったのやら……。
かどっこちゃん飾ってるのがキモいとか? でもくれたものだしな……。
「……ん?」
ぼんやりさっきの会話の何が駄目だったか考えていたら、足元に何やら透明の塊のような影が映っていることに気がついた。
(何の影だ……? 透明……、!!)
バッと上を見上げると、水の塊が俺の頭上に浮いていた。
「み、水……!」
「グレン……」
「ル、ルカ……? どうした……」
目が座ったルカが俺を見ている。上に掲げた左手、その手の甲には水の紋章が浮き出て光っている。
「レイチェルに、何を……したの」
頭上の水の塊は更に大きくなっていく。
「な、何をって、何もしていない……」
「レイチェルを、いじめた……刑罰が、必要……」
「け、刑罰って……待て、待ってくれ――」
有無を言わさずにルカは手を振り下ろす。
ドッシャアアアアと大きな音を立てて、水を叩きつけられた。
「…………」
ビショビショになった顔を拭って目を開けると、すでにルカは姿を消していた。瞬間移動していったんだろう。
(ありえん……)
◇
「……8時出発って言って、なんで出発間際から風呂に入ったんだ? 別にいいけどさ」
「……」
風呂上がりに牛乳を飲んでいる俺に、カイルが心底不思議そうな顔で尋ねてくる。
こいつも朝起きるのが遅い。しかも起きない。
ルカが叩きつけた水の塊はなかなかの音だったのにそれで起きてくることもなかった。
……それなのにこいつにあれこれ言われるのは全く割に合わない。
「お前がさっさと来ていればこんなことにならなかった」
「……俺が早く来ていれば風呂に入らなかった? なんだよそれ、全く意味が――」
「うるさい……殺すぞ」
「ええー……理不尽すぎる」
――俺の方がもっと理不尽だ。
久々にありえない理不尽な扱いを受けた。
さすがに一から十まで意味が分からなすぎる。なんでだ? どこから間違った?
俺が何をしたというんだ。全くわけが分からん……。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる