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6章 ことのはじまり
16話 絆(前)
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「オイ、グレン、入るぞ」
「!!」
隊長室のドアをガチャリと開けると、グレンが何かの紙を暖炉に放り込んでいた所だった。
「ノックをしてほしいんだが……」
ジトッとした目でグレンがオレを見る。
「ああ……わりい、つい。てかこの暑いのに暖炉て。普通に捨てりゃよくね?」
「……気分的に燃やしたい書類なもんで」
グレンが暖炉に指をやると、書類に火がついて燃えていく。
チラッと見えた文面には『赤眼』がどうのと書いてあった。
「……そっか」
――それ以上深く聞くことはしなかった。
カイルによるとオレはあのまま剣に乗っ取られていたら投獄、または魔物として始末されるところだったらしい。
確かにあの状態のオレを世にリリースしていたらヤバかっただろうしな。
「で、何か用事か」
「ああ、そうそう。7月分の帳簿を渡そうと思って」
今月分のパーティの収支をまとめた帳簿をグレンに渡した。
今月はあまり冒険に行ってなかった。あれこれあってオレは今月最後らへんは寝込んでいただけ。そしてあのケンカで備品を破壊したので修理費用がかかった。
またまた赤字だ。――最後まで。
「そうか、お疲れ。……これで最後だな」
「そうだな……アンタにはほんと世話になった」
「……礼を言われるほどの事は、何も」
「今更アレだけど。オレ辞めるし、ここを借りてる必要性ってあんまないよな?」
「まあルカとフランツとベルナデッタが住んでるし、カイルもここを拠点にすると言ってるしな」
「そっか」
「……そういえば、ジャミル君の上司からぶどうジュースもらったんだが、飲まないか?」
そう言いながらグレンは部屋に備え付けてある冷蔵庫から瓶を取り出した。
ラベルを見ると、西ロレーヌ地方で穫れる高級なぶどうをふんだんに使った濃厚なぶどうジュースだった。
「マスターから? ……うわ、それ1本5000リエールするめっちゃいいヤツじゃねーか。飲みてえ」
「ジャミル君が助かってよほど嬉しかったらしい。『うちの若手を助けてくれてありがとうございました』だとさ」
「いい人すぎるぜマスター……」
グラスを二つ出して、グレンがジュースの瓶の蓋を開ける。
隊長室のソファに向かい合わせに座って、グレンはテーブルにグラスを置いた。
トクトクとグラスに色の濃いぶどうジュースが注がれる。いい香りだ。
「うまそうだな……」
「ああ。……どうする、やっぱり乾杯かな?」
「乾杯かぁ。そうだな」
「じゃあ」
グラスを合わせ、ぶどうジュースを口に入れる。
「うーん、うまい。さすが5000リエール」
「ああ、うまいな」
口いっぱいに広がる濃厚なぶどうの味。赤ワインも飲めるっちゃ飲めるけど、こっちのほうがうまいな。
(つーか……なんかヘンな感じだな)
考えてみれば、こうやってグレンとサシで何か飲み食いするとかしたことなかった。
6歳上の、国も文化も違う人間だ。
そんなにシャベリでもなさそうだし、しかもこれジュースだし酔ってもいねーのに何話せばいいのやら。
カイルのヤツとはどんな話してんだろか?
「……ジャミル君」
「んっ?」
ぼんやり考えてたらグレンの方から話を切り出された。
「……俺はなんで、パーティーに呼ばれなかったんだろう? 隊長なのに」
「え……ああ、悪い……」
神妙な顔で切り出されたと思ったらまさかの話題……。
パーティーってのは、オレがみんなの好きなもんを作って最終的にカニパーティーになったアレだ。ルカに告白されてクソ焦ったアレだ。
グレンはギルドにあれこれ報告に行ってていなかった。
「あれか……俺がジャミル君の観察日記を書いてこっそりギルドに提出するっていう気持ち悪い仕事してたからなのか、そうなんだな」
「ち、ちげぇよ……。ああ、そんなんやってたんだよな……ハハ」
「――誓って言うが、剣の様子とジャミル君の容態だけを短く書いて、個人情報とかそういうのは調べてないし書いてないからな。俺だって本当はやりたくなかったんだ。嬉々としてやってたわけじゃないから――」
「わ、分かってるよ……悪かったよそんなんやらせて」
「嫌な仕事をやらされた上パーティーにも呼ばれない……ありえないひどい扱いだ」
「いや……アンタいなかったから……」
「そうだ……ギルド行って砦の契約を更新して、ついでにお前の冒険者登録を消してもらって、それからお前の職場にあいさつに……」
(めっちゃお前お前言われてる……)
最近気づいたが、グレンのオレへの呼称が『ジャミル君』『君』じゃなく『ジャミル』『お前』になる時はまあまあ感情強めの時だ……けどメシにありつけなかっただけで、そんな。
そんな言い合いをしていたら、肩にいるウィルがチチチと鳴き始めた。
グレンがそれを見てフッと笑った。
「まあ……また何か作ってもらえばいいか」
「そうそう。いつでも店に来りゃいいんだよ」
「…………」
それを聞いたグレンはまた少し笑って、空になったグラスにぶどうジュースを注いだ。
◇
「そういや、アンタコイツが剣の時は声聞こえてたんだろ? 今は?」
「今は聞こえないな、ただの鳥にしか見えない。……契約時に通常の姿を決められたらしいが、随分小さいのにしたんだな」
「ああ。鷹とか鷲とかフクロウとか色々できたんだけど、オレそういうの肩に乗せてるキャラじゃねーし」
「キャラ……」
「それにアレだよ。オレが住んでるアパート、ペット禁止だし。こんくらいの小ささなら許されるだろ?」
「……ペットって。使い魔というか、闇の精霊だろ一応。……そういえば目は大丈夫なのか。痛んだりは」
「今んとこメガネがめんどくせーなって思うくらいで、特には。けど夜はメガネなしでも見えるんだぜ」
「へえ……」
「夜灯りを消しても部屋ん中がくっきりはっきり見えるし。外出たら夜行性の動物みてえに遠くの方まで見えんのよ。……闇の力的なやつなんかな」
「そうかもな」
「……にしても、夜めっちゃ見えるけど眼が光ってねえか心配だな~」
「まあ確かに光ったら嫌だな」
「ああ。オレの職場ってオープンキッチンだろ?」
「オープンキッチン? それが何か……」
「や、シェフの眼が光ってる食い物屋とかなんかヤバくね? 客がビビリそうだし」
「…………」
そこまでオレが喋るとグレンはあっけにとられたようなカオをして、やがて吹き出した。
「ふふっ、ははははは……っ」
「な、なんだよ。そんな笑うとこか?」
グレンはソファの背にもたれかかって、手のひらで口を覆いながら肩を震わせている。
「いや……悪い。『ペット禁止』といい、君は日常生活のことしか考えてないんだな。冒険とか戦闘に役立ちそうなのに」
「あ、そっか……全然そんなん考えてなかった」
考えてみりゃ、夜見える眼は何か偵察の任務に役立つだろう。夜行性の魔物退治とかにも。
――使い魔のウィルにしたってそうだ。
契約の時、ミランダ教会で『精霊・使い魔の手引』という本をもらってきていた。
……何度でも言いてえ。そんなんあるのかよ、奥が深ぇな。
で、それによればあれこれと偵察させたり戦闘では盾にさせたりとか、色んなことに使役できるらしい。
(『小鳥飼い始めました』くらいにしか思ってなかったわ……)
今考えてみてもウィルの使い道はパッと思いつかない。
『鳥の飼い方』の本買わなきゃなーとか、エサは鳥の餌でいいのか? とかしか思わない。
「オレ冒険者に向いてねえなあ……」
頭をボリボリ掻きながらでかい独り言。
呪いが解けてからこっち、頭ん中がすっかりハッピハッピーになっちまったようだ……。
「まあ、それがジャミル君の味なんだからいいんじゃないか? ……そんな君が残念なことにならなくてよかったと俺は心底思う」
伏し目がちにそうつぶやいて、グレンはまたぶどうジュースを口にする。
「……グレン」
グレンがそんな風にオレを思ってくれてたとは意外だ。
「君を見張って日記を書くのは……もちろん書くのが嫌なのはあったが、君がそのうち堕ちていくまで見なければならないのかと思って、それが本当に憂鬱だった」
「……そうか……ホントにヤバい感じになってたもんな」
「『剣の声が聞こえる』っていうのをギルドに報告したら別室に通されて、『赤眼になった場合』『剣の呪いから脱した場合』と聞かされていたんだが」
「呪いから脱した場合……オレでいうと、紫のモヤモヤが剣から出たやつだよな? 確かアンタそれ聞いてなくてギルドに確認しに行って……」
「ああ。……すまなかった」
「いや、別に気にしてないけど――」
「…………もう」
「?」
『もう』だけ言って、少しの間。
グレンは口を少し開いて、何か言葉を紡ぎ出そうとしている。
……やがて、意を決したように息を吸って言葉を続けた。
「――もう、赤眼になったお前を殺すしか道がないんだと思って」
「……!」
「だから『剣の呪いから脱した場合』の話は……色々喋ってたんだろうが、全く耳に入って来なかった。その前に聞いた『赤眼になった場合』の話だけが頭の中を回っていた」
「そう、か……。いや、オレは責められねえよ。そういうことって……オレもあったし」
嫌な方嫌な方に思考を誘導されて、良いことを言われても嫌な捉え方をして、深みにはまる。
聞いてもいない言葉を真実と思い込んで、また堕ちる。
ここ数ヶ月……いや、剣を拾う前から味わってきた。
「冷静そうに見えるから、そういうのも軽く流すのかと思ってたけど……アンタもそういう感じになるんだな」
「なるぞ。ネガティブだからな」
「そうなんか。ハハ……まあその、嫌な役回りさせて、申し訳ない」
「別に気にしない。――無事でよかったな」
「ああ……ホントだよ」
「食の神が無事でよかった」
「しょ、食の神はいいんだよ……」
こんなフザケた言い合いもできなかったかもしれなかったんだな と思いながら、オレは高級ぶどうジュースをおいしくいただいた。
「!!」
隊長室のドアをガチャリと開けると、グレンが何かの紙を暖炉に放り込んでいた所だった。
「ノックをしてほしいんだが……」
ジトッとした目でグレンがオレを見る。
「ああ……わりい、つい。てかこの暑いのに暖炉て。普通に捨てりゃよくね?」
「……気分的に燃やしたい書類なもんで」
グレンが暖炉に指をやると、書類に火がついて燃えていく。
チラッと見えた文面には『赤眼』がどうのと書いてあった。
「……そっか」
――それ以上深く聞くことはしなかった。
カイルによるとオレはあのまま剣に乗っ取られていたら投獄、または魔物として始末されるところだったらしい。
確かにあの状態のオレを世にリリースしていたらヤバかっただろうしな。
「で、何か用事か」
「ああ、そうそう。7月分の帳簿を渡そうと思って」
今月分のパーティの収支をまとめた帳簿をグレンに渡した。
今月はあまり冒険に行ってなかった。あれこれあってオレは今月最後らへんは寝込んでいただけ。そしてあのケンカで備品を破壊したので修理費用がかかった。
またまた赤字だ。――最後まで。
「そうか、お疲れ。……これで最後だな」
「そうだな……アンタにはほんと世話になった」
「……礼を言われるほどの事は、何も」
「今更アレだけど。オレ辞めるし、ここを借りてる必要性ってあんまないよな?」
「まあルカとフランツとベルナデッタが住んでるし、カイルもここを拠点にすると言ってるしな」
「そっか」
「……そういえば、ジャミル君の上司からぶどうジュースもらったんだが、飲まないか?」
そう言いながらグレンは部屋に備え付けてある冷蔵庫から瓶を取り出した。
ラベルを見ると、西ロレーヌ地方で穫れる高級なぶどうをふんだんに使った濃厚なぶどうジュースだった。
「マスターから? ……うわ、それ1本5000リエールするめっちゃいいヤツじゃねーか。飲みてえ」
「ジャミル君が助かってよほど嬉しかったらしい。『うちの若手を助けてくれてありがとうございました』だとさ」
「いい人すぎるぜマスター……」
グラスを二つ出して、グレンがジュースの瓶の蓋を開ける。
隊長室のソファに向かい合わせに座って、グレンはテーブルにグラスを置いた。
トクトクとグラスに色の濃いぶどうジュースが注がれる。いい香りだ。
「うまそうだな……」
「ああ。……どうする、やっぱり乾杯かな?」
「乾杯かぁ。そうだな」
「じゃあ」
グラスを合わせ、ぶどうジュースを口に入れる。
「うーん、うまい。さすが5000リエール」
「ああ、うまいな」
口いっぱいに広がる濃厚なぶどうの味。赤ワインも飲めるっちゃ飲めるけど、こっちのほうがうまいな。
(つーか……なんかヘンな感じだな)
考えてみれば、こうやってグレンとサシで何か飲み食いするとかしたことなかった。
6歳上の、国も文化も違う人間だ。
そんなにシャベリでもなさそうだし、しかもこれジュースだし酔ってもいねーのに何話せばいいのやら。
カイルのヤツとはどんな話してんだろか?
「……ジャミル君」
「んっ?」
ぼんやり考えてたらグレンの方から話を切り出された。
「……俺はなんで、パーティーに呼ばれなかったんだろう? 隊長なのに」
「え……ああ、悪い……」
神妙な顔で切り出されたと思ったらまさかの話題……。
パーティーってのは、オレがみんなの好きなもんを作って最終的にカニパーティーになったアレだ。ルカに告白されてクソ焦ったアレだ。
グレンはギルドにあれこれ報告に行ってていなかった。
「あれか……俺がジャミル君の観察日記を書いてこっそりギルドに提出するっていう気持ち悪い仕事してたからなのか、そうなんだな」
「ち、ちげぇよ……。ああ、そんなんやってたんだよな……ハハ」
「――誓って言うが、剣の様子とジャミル君の容態だけを短く書いて、個人情報とかそういうのは調べてないし書いてないからな。俺だって本当はやりたくなかったんだ。嬉々としてやってたわけじゃないから――」
「わ、分かってるよ……悪かったよそんなんやらせて」
「嫌な仕事をやらされた上パーティーにも呼ばれない……ありえないひどい扱いだ」
「いや……アンタいなかったから……」
「そうだ……ギルド行って砦の契約を更新して、ついでにお前の冒険者登録を消してもらって、それからお前の職場にあいさつに……」
(めっちゃお前お前言われてる……)
最近気づいたが、グレンのオレへの呼称が『ジャミル君』『君』じゃなく『ジャミル』『お前』になる時はまあまあ感情強めの時だ……けどメシにありつけなかっただけで、そんな。
そんな言い合いをしていたら、肩にいるウィルがチチチと鳴き始めた。
グレンがそれを見てフッと笑った。
「まあ……また何か作ってもらえばいいか」
「そうそう。いつでも店に来りゃいいんだよ」
「…………」
それを聞いたグレンはまた少し笑って、空になったグラスにぶどうジュースを注いだ。
◇
「そういや、アンタコイツが剣の時は声聞こえてたんだろ? 今は?」
「今は聞こえないな、ただの鳥にしか見えない。……契約時に通常の姿を決められたらしいが、随分小さいのにしたんだな」
「ああ。鷹とか鷲とかフクロウとか色々できたんだけど、オレそういうの肩に乗せてるキャラじゃねーし」
「キャラ……」
「それにアレだよ。オレが住んでるアパート、ペット禁止だし。こんくらいの小ささなら許されるだろ?」
「……ペットって。使い魔というか、闇の精霊だろ一応。……そういえば目は大丈夫なのか。痛んだりは」
「今んとこメガネがめんどくせーなって思うくらいで、特には。けど夜はメガネなしでも見えるんだぜ」
「へえ……」
「夜灯りを消しても部屋ん中がくっきりはっきり見えるし。外出たら夜行性の動物みてえに遠くの方まで見えんのよ。……闇の力的なやつなんかな」
「そうかもな」
「……にしても、夜めっちゃ見えるけど眼が光ってねえか心配だな~」
「まあ確かに光ったら嫌だな」
「ああ。オレの職場ってオープンキッチンだろ?」
「オープンキッチン? それが何か……」
「や、シェフの眼が光ってる食い物屋とかなんかヤバくね? 客がビビリそうだし」
「…………」
そこまでオレが喋るとグレンはあっけにとられたようなカオをして、やがて吹き出した。
「ふふっ、ははははは……っ」
「な、なんだよ。そんな笑うとこか?」
グレンはソファの背にもたれかかって、手のひらで口を覆いながら肩を震わせている。
「いや……悪い。『ペット禁止』といい、君は日常生活のことしか考えてないんだな。冒険とか戦闘に役立ちそうなのに」
「あ、そっか……全然そんなん考えてなかった」
考えてみりゃ、夜見える眼は何か偵察の任務に役立つだろう。夜行性の魔物退治とかにも。
――使い魔のウィルにしたってそうだ。
契約の時、ミランダ教会で『精霊・使い魔の手引』という本をもらってきていた。
……何度でも言いてえ。そんなんあるのかよ、奥が深ぇな。
で、それによればあれこれと偵察させたり戦闘では盾にさせたりとか、色んなことに使役できるらしい。
(『小鳥飼い始めました』くらいにしか思ってなかったわ……)
今考えてみてもウィルの使い道はパッと思いつかない。
『鳥の飼い方』の本買わなきゃなーとか、エサは鳥の餌でいいのか? とかしか思わない。
「オレ冒険者に向いてねえなあ……」
頭をボリボリ掻きながらでかい独り言。
呪いが解けてからこっち、頭ん中がすっかりハッピハッピーになっちまったようだ……。
「まあ、それがジャミル君の味なんだからいいんじゃないか? ……そんな君が残念なことにならなくてよかったと俺は心底思う」
伏し目がちにそうつぶやいて、グレンはまたぶどうジュースを口にする。
「……グレン」
グレンがそんな風にオレを思ってくれてたとは意外だ。
「君を見張って日記を書くのは……もちろん書くのが嫌なのはあったが、君がそのうち堕ちていくまで見なければならないのかと思って、それが本当に憂鬱だった」
「……そうか……ホントにヤバい感じになってたもんな」
「『剣の声が聞こえる』っていうのをギルドに報告したら別室に通されて、『赤眼になった場合』『剣の呪いから脱した場合』と聞かされていたんだが」
「呪いから脱した場合……オレでいうと、紫のモヤモヤが剣から出たやつだよな? 確かアンタそれ聞いてなくてギルドに確認しに行って……」
「ああ。……すまなかった」
「いや、別に気にしてないけど――」
「…………もう」
「?」
『もう』だけ言って、少しの間。
グレンは口を少し開いて、何か言葉を紡ぎ出そうとしている。
……やがて、意を決したように息を吸って言葉を続けた。
「――もう、赤眼になったお前を殺すしか道がないんだと思って」
「……!」
「だから『剣の呪いから脱した場合』の話は……色々喋ってたんだろうが、全く耳に入って来なかった。その前に聞いた『赤眼になった場合』の話だけが頭の中を回っていた」
「そう、か……。いや、オレは責められねえよ。そういうことって……オレもあったし」
嫌な方嫌な方に思考を誘導されて、良いことを言われても嫌な捉え方をして、深みにはまる。
聞いてもいない言葉を真実と思い込んで、また堕ちる。
ここ数ヶ月……いや、剣を拾う前から味わってきた。
「冷静そうに見えるから、そういうのも軽く流すのかと思ってたけど……アンタもそういう感じになるんだな」
「なるぞ。ネガティブだからな」
「そうなんか。ハハ……まあその、嫌な役回りさせて、申し訳ない」
「別に気にしない。――無事でよかったな」
「ああ……ホントだよ」
「食の神が無事でよかった」
「しょ、食の神はいいんだよ……」
こんなフザケた言い合いもできなかったかもしれなかったんだな と思いながら、オレは高級ぶどうジュースをおいしくいただいた。
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