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6章 ことのはじまり
17話 絆(後)
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「あのよ、グレン」
「ん?」
「その……一個報告しておきたいことがあるんだよ」
そう言いながらオレは、グレンに一枚の紙を渡した。
――8月、日差しが厳しくなってくる夏の日。
今日限りでオレはこの砦からいなくなる。
隊長室のグレンに最後の挨拶と……報告しなければならないことがあった。
「どうした? 剣以上に厄介事でも?」
「いやあの……紫のだんごのことなんだよ」
ジョアンナ先生から受け取った、あの紫のだんごの成分表。何が入っていてどれがどんな症状を引き起こすか、といったことがまとめてある。
「…………」
グレンは口元を手で隠しながら眉間にシワを寄せて報告書に目を通していたが、やがて顔を上げた。
「……『ヤベー薬』が入りまくってたんだな」
「え? ああ、そうなんだよ」
思ったより軽い反応で拍子抜けしてしまう。いいのか。
「ルカが最初あんなだったのもこれのせいか……ジャミル君も食いまくってたけど大丈夫なのか」
「まあ、一応……」
「そうか、ならいい」
そう言うとグレンは報告書をペッと机に放り出した。
「か、軽いな……」
「いや、もう現物はないし食うこともないし、何より君の熱血の弟に製造中止にしろって怒られたしな」
「ああ……オレも怒られた」
「『偽物といえど、こんなものわざわざ作ってどういうつもりだ、お前おかしいんじゃないのか』ってえらい剣幕で……俺は面白かったんだがなー」
隊長のデスクのイスに腰掛けて、イスを回転させながらグレンが言った。
ゴツい男が乗ったイスが回転する様はなんだかシュールだ。
「おもしれーかな……?」
カイルから聞いた話を思い出してしまい、なんとも返答に困る。
「……昔な」
「ん?」
「俺がいた孤児院で」
「!」
(その話、するのか……?)
オレは息を呑んだ。グレンは回転していたイスを停止させて、だらしなく机に頬杖をつく。
「『行いをよくして、神様に祈りを捧げれば褒美にこれを食べさせてやる』って、それが紫のだんごだったんだ」
「……そう、なのか」
「ああ。それで『光の塾』に行けば毎日これが食べられるから励みなさい、とも」
「……アンタは光の塾ではないのか?」
「違うな。孤児院の支持母体はそうだったのかもしれないが。で、野菜のクズみたいのが浮いた水みたいなスープしか食べてないから、あれを食べたくて毎日馬鹿みたいに祈ってた。……行いが悪くて、俺は食べることはなかったんだが」
「…………」
言葉が出ない。きっとコイツはすごいご馳走だと思っていたんだろう。だが、実際は――。
「……という話を昔カイルの奴にしたら、めちゃくちゃ泣かれて」
「……めちゃくちゃ泣いたのか」
「ああ。『うまいもの食わしてやるからそんなもの忘れろ』ってメシをおごってもらった」
「熱血だな……」
「だから、あのだんごを俺が面白がって作らせてるの許せなかったというわけだ」
「ひ、他人事みてえに言うなよ……オレだってそれ知ってたら作らなかったぞあんなモン……」
「最初お前の働く酒場に行った日に、20年ぶりくらいにあのだんごに遭遇したからルカに食わせてもらったらあんなクソまずくて、光の塾も……とんでもない集団だった。だから、あの日俺は色々と最悪の気分だった」
「……グレン」
「おまけにルカが規格外に食いまくって食い逃げ扱い、挙げ句に愚か者が俺に斬りかかってきて」
「う……お、愚か者って。まあ愚かだけども……」
「魔法で眠らせても良かったんだが、意外と強くてスキがなくて……ムシャクシャしてたので吹き飛ばしてやった」
「ひでえ」
「まあ、悪かった。完全に八つ当たりだからな」
「いや、オレが悪いからあれは……ハハ」
「しかもその後何故か行動を共にすることになって……」
「……ああ」
「俺は静かに暮らしたいのになんでだ、腹立つなーと思ってた」
「や、やっぱりそうか……だよな。つーかアンタ色々腹立ててんだな……」
「俺は元来とても気が短い」
「……みてえだな」
お兄ちゃま連呼でまとわりつく変な女とキレ散らかして暴れる呪いの剣野郎……その2人の面倒を見るって、そりゃ嫌だよな。
なぜかオレが一般人代表みたいに思ってたけども……。
「けど君は普通に気のいい若者だったし、何より……」
「?」
「自らを『食の神』とか名乗って、俺が昔食べたかったあのだんごを『刑罰』だとか『身体が下水道になる』とか言うもんだから、俺はおかしくて」
「う……」
今考えたら駄目な言葉連発しまくってたんだなオレ……結果的にヤバいもんだったとはいえ、コイツが信じてたもんをボロクソに。
「ルカに紫のだんごと酢豚を選ばせて、『喜びを得ろ』とかも言ってたな」
「い……言ったけど。あんま回想しねえでくれる? 恥ずかしいんだよな」
「いや……君は色々ぶち壊してくれるから、俺は面白かったんだよ」
「グレン……」
「俺は神を信じないけど食の神は信じていい」
「ま、また食の神……」
よっぽどその言葉が気に入ったらしい……。
やがてグレンは立ち上がって、隊長の机の引き出しから何かを取り出した。
「これ……7月分の給料。あと餞別というわけじゃないが、色をつけといたから受け取ってくれ」
「え……うわっ分厚っ!!」
そう言って手渡されたのは、ハンパない分厚さの封筒。分厚くて封ができないくらいだ……。
「こ、これ100万くらい入ってんじゃ……!?」
「さあ? 適当に入れたからな」
「適当にって……。いや、いやいやいやいや……! こ、こんなもらえねーよ!? いくらカネ持ってるっつってもさすがに……」
「ヤベー薬売ったカネじゃないぞ」
「そりゃ分かってるよ! 競馬で死ぬほど儲けたって話だろ!?」
「……ディオールで騎士をやっていて」
「え? ディオール?」
ディオールっていうのはノルデンとロレーヌに挟まれた、大昔の勇者が建国したとされる剣技の国だ。
ノルデンの国境に近い所ではノルデンから湧いてきたモンスターとの戦いが耐えないという。
(剣技がすごいのはそれでか……)
以前砦を探しているときに『森に囲まれた静かでのどかな砦』と聞いて首をかしげていたのもうなずける。
あの国なら本当に命を、土地を守るための堅牢な砦、要塞を擁しているんだろう。
「少し魔物を殺しすぎたんで、その褒賞金が一生かけても使い切れないくらいに有り余っているんだ」
「そうなんか……。って……あ!」
「ん?」
「いや……アンタの前で『オレ戦うの好きじゃねぇ』とかおもっくそ言ってたなって……」
――何言ったっけ?
『肉を断ち切る感覚がどうにも受け付けねぇ』
『わざわざソイツの生活圏内に行って殺すってのも、オレはちょっと』
(あちゃ――――……)
『言動には重々気をつけたほうがいいと思う』というカイルの言葉を思い出す。
ホントだよ。戦闘のプロの前で何言っちゃってたんだよ。
「ああ、確かに言ってたな。だから討伐依頼は取らないようにしてただろ?」
「う、ああ……その、申し訳ない……」
「何故謝るんだ? その感覚は大事にすればいいと思うぞ。俺も……昔はそうだったかもしれない」
「グレン……」
「まあそういうわけで金はいらないくらい抱え込んでるから、もらって欲しい。俺と違って君は色んなものを作り出せるから、敬意を評して」
「そっか、それじゃ、もらうけど……敬意って大げさだな。色んなものっつっても、料理だし」
「俺はできないぞ。……壊すのは得意だけどな」
「それは……光の塾の『モノ作り禁止』ってのは……関係ねえのか」
随分突っ込んだ事を聞いてしまった。だけどどうしても気になってしまった。
「孤児院では確かに禁止されていたが、俺は光の塾じゃないし……俺個人の主義ではないな。ただ、作ることができないだけで」
「…………」
言葉は出ない。人生経験の薄い自分では何を言えばいいか分からない。
『俺は静かに暮らしたいのに』――
たぶん目の前にいるこの男は、オレに想像もつかない悲しみや不安や虚しさを抱えているんじゃないだろうか。
それはきっと……呪いだ。オレの持っていたあの剣みたいに目に見えるものじゃない。何かがコイツをがんじがらめにしている。
そのうちに解ける日が来るんだろうか。誰かが解くんだろうか。
オレには、分かるはずもない。
「……グレン」
「ん?」
「その、世話になった。アンタのおかげで……助かった。オレは今日限りだけど、困ったことがあったらリーダーに気兼ねなく言えよな」
アルノーの時と同じに、オレが言えるのはこんなことだけだ。
オレはグレンに手を差し出した。
グレンは少し驚いた顔をしたが、やがてオレの手を取った。
「……ありがとう、そうさせてもらう……君がいなくなるのは、つまらないな」
「そりゃ、光栄だ」
「ジャミル君」
「んっ?」
「……目玉焼きの作り方を教えてくれて、ありがとう」
そう言うとグレンは柔らかく笑った。
◇
「『君がいなくなるのはつまらない』……グレンが、そんなことを?」
「ああ」
グレンに挨拶したあと、カイルがオレを見送りに来てくれていた。
「兄貴……すごいな」
「何がだよ?」
「俺も言われたことがあるけど、そこにいくまでは六~七年かかったっていうのに」
「ふーん……魅力あんだなーオレ。不可能を可能にする男ってわけだ」
「すぐ調子乗る……まあそれは否定しないけどさ」
「……この調子で貴族令嬢ともうまくいく……?」
「……やめろ。やめろ縁起でもない」
「2回も言うなよ。つーか縁起ってなんだよ」
肩に賢く止まっていたウィルもピィピィと大きい声で鳴きながらカイルの周りを飛んだ。
「うわうわ……やめろよ」
「断罪だよ断罪。ハハッ」
――ここに始めに来た時は、もうすぐ春とはいえ肌寒く憂鬱でしかなかった。
成り行きで集まっただけのメンツ。繋がりは希薄だった。
オレが作った料理がきっかけで、みんな集まりだした。
不気味で人形のようだったルカは友達ができて、別れの辛さに涙を流すようになった。
ちゃらんぽらんで何考えてるか分からない男グレンとは、少し深い話ができるようになった。
始まりは本当に偶然だった。
だが、確かにそこに絆はあった――。
「ん?」
「その……一個報告しておきたいことがあるんだよ」
そう言いながらオレは、グレンに一枚の紙を渡した。
――8月、日差しが厳しくなってくる夏の日。
今日限りでオレはこの砦からいなくなる。
隊長室のグレンに最後の挨拶と……報告しなければならないことがあった。
「どうした? 剣以上に厄介事でも?」
「いやあの……紫のだんごのことなんだよ」
ジョアンナ先生から受け取った、あの紫のだんごの成分表。何が入っていてどれがどんな症状を引き起こすか、といったことがまとめてある。
「…………」
グレンは口元を手で隠しながら眉間にシワを寄せて報告書に目を通していたが、やがて顔を上げた。
「……『ヤベー薬』が入りまくってたんだな」
「え? ああ、そうなんだよ」
思ったより軽い反応で拍子抜けしてしまう。いいのか。
「ルカが最初あんなだったのもこれのせいか……ジャミル君も食いまくってたけど大丈夫なのか」
「まあ、一応……」
「そうか、ならいい」
そう言うとグレンは報告書をペッと机に放り出した。
「か、軽いな……」
「いや、もう現物はないし食うこともないし、何より君の熱血の弟に製造中止にしろって怒られたしな」
「ああ……オレも怒られた」
「『偽物といえど、こんなものわざわざ作ってどういうつもりだ、お前おかしいんじゃないのか』ってえらい剣幕で……俺は面白かったんだがなー」
隊長のデスクのイスに腰掛けて、イスを回転させながらグレンが言った。
ゴツい男が乗ったイスが回転する様はなんだかシュールだ。
「おもしれーかな……?」
カイルから聞いた話を思い出してしまい、なんとも返答に困る。
「……昔な」
「ん?」
「俺がいた孤児院で」
「!」
(その話、するのか……?)
オレは息を呑んだ。グレンは回転していたイスを停止させて、だらしなく机に頬杖をつく。
「『行いをよくして、神様に祈りを捧げれば褒美にこれを食べさせてやる』って、それが紫のだんごだったんだ」
「……そう、なのか」
「ああ。それで『光の塾』に行けば毎日これが食べられるから励みなさい、とも」
「……アンタは光の塾ではないのか?」
「違うな。孤児院の支持母体はそうだったのかもしれないが。で、野菜のクズみたいのが浮いた水みたいなスープしか食べてないから、あれを食べたくて毎日馬鹿みたいに祈ってた。……行いが悪くて、俺は食べることはなかったんだが」
「…………」
言葉が出ない。きっとコイツはすごいご馳走だと思っていたんだろう。だが、実際は――。
「……という話を昔カイルの奴にしたら、めちゃくちゃ泣かれて」
「……めちゃくちゃ泣いたのか」
「ああ。『うまいもの食わしてやるからそんなもの忘れろ』ってメシをおごってもらった」
「熱血だな……」
「だから、あのだんごを俺が面白がって作らせてるの許せなかったというわけだ」
「ひ、他人事みてえに言うなよ……オレだってそれ知ってたら作らなかったぞあんなモン……」
「最初お前の働く酒場に行った日に、20年ぶりくらいにあのだんごに遭遇したからルカに食わせてもらったらあんなクソまずくて、光の塾も……とんでもない集団だった。だから、あの日俺は色々と最悪の気分だった」
「……グレン」
「おまけにルカが規格外に食いまくって食い逃げ扱い、挙げ句に愚か者が俺に斬りかかってきて」
「う……お、愚か者って。まあ愚かだけども……」
「魔法で眠らせても良かったんだが、意外と強くてスキがなくて……ムシャクシャしてたので吹き飛ばしてやった」
「ひでえ」
「まあ、悪かった。完全に八つ当たりだからな」
「いや、オレが悪いからあれは……ハハ」
「しかもその後何故か行動を共にすることになって……」
「……ああ」
「俺は静かに暮らしたいのになんでだ、腹立つなーと思ってた」
「や、やっぱりそうか……だよな。つーかアンタ色々腹立ててんだな……」
「俺は元来とても気が短い」
「……みてえだな」
お兄ちゃま連呼でまとわりつく変な女とキレ散らかして暴れる呪いの剣野郎……その2人の面倒を見るって、そりゃ嫌だよな。
なぜかオレが一般人代表みたいに思ってたけども……。
「けど君は普通に気のいい若者だったし、何より……」
「?」
「自らを『食の神』とか名乗って、俺が昔食べたかったあのだんごを『刑罰』だとか『身体が下水道になる』とか言うもんだから、俺はおかしくて」
「う……」
今考えたら駄目な言葉連発しまくってたんだなオレ……結果的にヤバいもんだったとはいえ、コイツが信じてたもんをボロクソに。
「ルカに紫のだんごと酢豚を選ばせて、『喜びを得ろ』とかも言ってたな」
「い……言ったけど。あんま回想しねえでくれる? 恥ずかしいんだよな」
「いや……君は色々ぶち壊してくれるから、俺は面白かったんだよ」
「グレン……」
「俺は神を信じないけど食の神は信じていい」
「ま、また食の神……」
よっぽどその言葉が気に入ったらしい……。
やがてグレンは立ち上がって、隊長の机の引き出しから何かを取り出した。
「これ……7月分の給料。あと餞別というわけじゃないが、色をつけといたから受け取ってくれ」
「え……うわっ分厚っ!!」
そう言って手渡されたのは、ハンパない分厚さの封筒。分厚くて封ができないくらいだ……。
「こ、これ100万くらい入ってんじゃ……!?」
「さあ? 適当に入れたからな」
「適当にって……。いや、いやいやいやいや……! こ、こんなもらえねーよ!? いくらカネ持ってるっつってもさすがに……」
「ヤベー薬売ったカネじゃないぞ」
「そりゃ分かってるよ! 競馬で死ぬほど儲けたって話だろ!?」
「……ディオールで騎士をやっていて」
「え? ディオール?」
ディオールっていうのはノルデンとロレーヌに挟まれた、大昔の勇者が建国したとされる剣技の国だ。
ノルデンの国境に近い所ではノルデンから湧いてきたモンスターとの戦いが耐えないという。
(剣技がすごいのはそれでか……)
以前砦を探しているときに『森に囲まれた静かでのどかな砦』と聞いて首をかしげていたのもうなずける。
あの国なら本当に命を、土地を守るための堅牢な砦、要塞を擁しているんだろう。
「少し魔物を殺しすぎたんで、その褒賞金が一生かけても使い切れないくらいに有り余っているんだ」
「そうなんか……。って……あ!」
「ん?」
「いや……アンタの前で『オレ戦うの好きじゃねぇ』とかおもっくそ言ってたなって……」
――何言ったっけ?
『肉を断ち切る感覚がどうにも受け付けねぇ』
『わざわざソイツの生活圏内に行って殺すってのも、オレはちょっと』
(あちゃ――――……)
『言動には重々気をつけたほうがいいと思う』というカイルの言葉を思い出す。
ホントだよ。戦闘のプロの前で何言っちゃってたんだよ。
「ああ、確かに言ってたな。だから討伐依頼は取らないようにしてただろ?」
「う、ああ……その、申し訳ない……」
「何故謝るんだ? その感覚は大事にすればいいと思うぞ。俺も……昔はそうだったかもしれない」
「グレン……」
「まあそういうわけで金はいらないくらい抱え込んでるから、もらって欲しい。俺と違って君は色んなものを作り出せるから、敬意を評して」
「そっか、それじゃ、もらうけど……敬意って大げさだな。色んなものっつっても、料理だし」
「俺はできないぞ。……壊すのは得意だけどな」
「それは……光の塾の『モノ作り禁止』ってのは……関係ねえのか」
随分突っ込んだ事を聞いてしまった。だけどどうしても気になってしまった。
「孤児院では確かに禁止されていたが、俺は光の塾じゃないし……俺個人の主義ではないな。ただ、作ることができないだけで」
「…………」
言葉は出ない。人生経験の薄い自分では何を言えばいいか分からない。
『俺は静かに暮らしたいのに』――
たぶん目の前にいるこの男は、オレに想像もつかない悲しみや不安や虚しさを抱えているんじゃないだろうか。
それはきっと……呪いだ。オレの持っていたあの剣みたいに目に見えるものじゃない。何かがコイツをがんじがらめにしている。
そのうちに解ける日が来るんだろうか。誰かが解くんだろうか。
オレには、分かるはずもない。
「……グレン」
「ん?」
「その、世話になった。アンタのおかげで……助かった。オレは今日限りだけど、困ったことがあったらリーダーに気兼ねなく言えよな」
アルノーの時と同じに、オレが言えるのはこんなことだけだ。
オレはグレンに手を差し出した。
グレンは少し驚いた顔をしたが、やがてオレの手を取った。
「……ありがとう、そうさせてもらう……君がいなくなるのは、つまらないな」
「そりゃ、光栄だ」
「ジャミル君」
「んっ?」
「……目玉焼きの作り方を教えてくれて、ありがとう」
そう言うとグレンは柔らかく笑った。
◇
「『君がいなくなるのはつまらない』……グレンが、そんなことを?」
「ああ」
グレンに挨拶したあと、カイルがオレを見送りに来てくれていた。
「兄貴……すごいな」
「何がだよ?」
「俺も言われたことがあるけど、そこにいくまでは六~七年かかったっていうのに」
「ふーん……魅力あんだなーオレ。不可能を可能にする男ってわけだ」
「すぐ調子乗る……まあそれは否定しないけどさ」
「……この調子で貴族令嬢ともうまくいく……?」
「……やめろ。やめろ縁起でもない」
「2回も言うなよ。つーか縁起ってなんだよ」
肩に賢く止まっていたウィルもピィピィと大きい声で鳴きながらカイルの周りを飛んだ。
「うわうわ……やめろよ」
「断罪だよ断罪。ハハッ」
――ここに始めに来た時は、もうすぐ春とはいえ肌寒く憂鬱でしかなかった。
成り行きで集まっただけのメンツ。繋がりは希薄だった。
オレが作った料理がきっかけで、みんな集まりだした。
不気味で人形のようだったルカは友達ができて、別れの辛さに涙を流すようになった。
ちゃらんぽらんで何考えてるか分からない男グレンとは、少し深い話ができるようになった。
始まりは本当に偶然だった。
だが、確かにそこに絆はあった――。
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