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現世〜昇華〜

確認〜クリスティナ〜

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  『クリスティナ』

誰かにそう呼ばれた気がした。

聞き覚えのない…けれど、懐かしい声。
その声を耳にしただけで、思わず涙がこみ上げてくる。


  『クリスティナ』

優しさの中に凛とした響きを持つ声も聞こえた。


パチリと目を開けると、がわたくしを心配そうに覗き込んでいた。



——え?何…なんで、2人がここに?


「良かった、目が覚めたのね」

サラリと頬にかかった髪の毛を優しく払いのけるアカリ。
その指先は温かく、確かな感触で実体を感じる事が出来る。


「…あの、どうして?」

前世の2人が何故?という疑問に、アカリとノールは曖昧に微笑んだ。



「お2人と、このような形でお会いできるという事は、もしや…わたくし?」


あの時感じた奇妙な浮遊感と、遅れてやってきた鈍い痛み。
今は痛みを感じる事はないけれども…。

全身を駆け巡ったのは、恐怖だった。

それは“我が身が失われる”事ではなく、またしても“彼を独り残して逝く”事への。



「大丈夫、貴女はまだ生きているわ」

けれど、アカリの言葉にホッと胸をなでおろす。

「ここは夢とうつつの狭間、何処でもない世界よ」


その言葉に辺りを見渡す。
そこは紅い月が大丈夫2つ、鈍い光を放つ異空間だった。



——あの世とこの世の狭間、という事?

思わずぞくりと鳥肌がたち、背筋を冷たい汗が流れ落ちる。


そんな私を気遣うように

「あの時、貴女は立ちくらみをおこして階段から転げ落ちた。
それは覚えているか?」

とノールが話しかけた。


目を瞑ると思い出す事が出来る。

驚きのあまり目を見開いたニーナの顔を…。
咄嗟に私を助けようと伸ばした手を。


「えぇ、ハッキリと」

体調の悪い私を心配してくれたのに、目の前であんな事になってしまって…さぞ心配をかけている事でしょう。


「それから時はそう過ぎてはいない。
ここに貴女が居られるのもわずかな時間のみ。
すぐにあちらへ戻る事となるだろう。
その前に少しだけ、貴女と話しがしたかったのです」

私の目を見つめ、静かに口を開くノール。
その隣にはアカリが寄り添うように座っている。


「まずは私達のせいで、貴女には辛い思いをさせてしまっている事、お詫びいたします」

2人揃って頭を下げられ、驚きを通り越して困惑してしまう。

「あ…の?」

「クリスティナ、貴女に前世の記憶があるせいで私達の為に要らぬ苦労を背負い込ませ、また心配もおかけしました。 

私が言えた義理ではないのですが、クリスティナ、私達のことはどうか忘れて、貴女の“今”を生きて、生ききってください」


アカリの言葉が胸を衝く。

「私達の最期の望みを貴女に押し付けるつもりはなかったのです。
ただ、結果的にそうさせてしまった事、本当に申し訳ないと思っています」

ノールに頭を下げられ、言葉を失う。


「もういいのよ、クリスティナ。
貴女を苦しめるつもりはないの。
いいえ、なかったの


[ノールとまた出会って共に生きたい]


それがあの時の望みではあったけれど、貴女がそれに縛り付けられる必要はないの。
貴女は確かに私かもしれない。
でもクリスティナ=アカリではないわ。

ノールや前世に囚われないで、心のままに生きて欲しいの。
本当に今頃こんな事を言うなんて、酷いとお思いかもしれないけれど。

でもね、貴女がノールや私の事を抜きにして、それでもユージンとともに在る事を望むのなら、私達はそれを応援するわ。
もちろん、彼を選ばなくてもね」


アカリの微笑みに…何故だろう。
目の奥がジンと熱くなり、唇がわななく。

今、ここで涙を流したくなくて、唇を噛み締め必死に泣くのを堪えるわたくしを、2人は優しく見守っている。


「今まで私達の心に沿うよう努めてくれた事、本当に感謝する。
だから今後は貴女の心に正直に生きて欲しい。
それがノール・ラグナ・ドラグナイトと…」

「御剣 灯の最後の願いよ」


そう。
死によって分かたれたアカリとノールは、今一緒に居る。
それは、ある意味2人の望みが叶った事を意味するのだろう。

だからだろうか…。
ほんの少しでも、彼らに許してもらえたという気がするのは。


「クリスティナ、本当にありがとう」

「どうか私達の最後の願い、叶えてね」


微かな声に頷きを返した瞬間、フッと足元が揺らいだ。



——過去に囚われていたのはわたくしの方。

アカリとノールの言う通り、全てを断ち切ったとして。


その後でわたくしが真に望むものは……。
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