【1章完結済】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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第二章:大統領補佐官

補佐官のお散歩'4

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「僕が三つ目に欲しいのは、秘密かな…うん、それが良い。」

「秘密?」

そんな物俺にある訳が無い。
秘密って言うのは、例えばエルの書斎の秘密の引き出しみたいな事だ。

俺は別に、エッチな下着を隠したりしないし。
隠し事なんて物は、そうだな...まぁでも隠してるつもりは無いんだけど。

言わない事を信条に生きて来た俺からすれば。
何か疾しい事があってそれを隠しておきたいから、言わない訳じゃ無い。

面倒な事になったり、巻き込まれたり、余計な手間が掛かったりするから、黙ってる事の方が多い。
それを、秘密とは言わないよな。


「秘密ってどんなのが良いんだ?」

「まだ誰にも話してないトキの事、が良いな…。」

「それは、俺が話したく無いと思ってる事でも聞きたいのか?」

「聞きたい。」


明ら様に溜息を吐いて見せる。

普段ならこんな事はしない。
同じ質問をして来たもうひとりのクイレは、俺の大好きな人だし。
別のクイレは、そんな事は気にしない人だから。

でも、目の前のクイレは医者でも恩師でも無い。

「しつこいなー…。」

只の恋人。
だったら少しくくらい弁えて欲しい。
俺の嫌がる様な事はしないでくれないかな。

なんて、横柄な言葉が浮かぶ。

「逃げ回るからだよトキ。こっちだって大事な物が逃げたら追い掛けずには居られないんだよ?」

「猛禽類ってそんなにしつこいのか。」

「違うよ。クイレだからだよトキ。僕達はそうせずには居られない。」

「そんなに追い回されても、何も無いってのに。」

何が聞きたいのかは検討が付いてる。
そんな事が知りたくて今日一日、考え込んでたのか。
何時聞こうって。

それは確かに、俺のご飯が食べたい、って言うよりかはハードルが高い。
何せ、ベルモントさんが時々その話をする。
俺は、そこだけはぐらかして支障が無さそうな位には、ちゃんと質問に答えてる。

分かってる。
俺は悪い患者だって。

「面倒なんだ」

「そう。」

「哀れんだり、慰められたり、そんな言葉を掛けて貰っても今更何の役にも立たない。グゥルには無い?そう言うの。」

「あー…家の窓が割られたり、馬鹿な輩が押し入ったりする度に姉さんや兄さんが捕まえて近所や警察なんかに同情された事なら有るよ。あの時に聞かされる、大変だったね、って言葉にはうんざりしたけど。」

「そう。そんな感じ。流石に見ず知らずの人間に襲われた事は無いけど、例えるならそんな感じ。それを、人に話したいと思うグゥル?」


ちゃぽんっ、と広い湯船でお湯が鳴る。
俺の為にわざわざ馬鹿でかいバスタブを買ったんだって。
有り難く使わせて貰ってる。

それに今は背もたれがある。
グルーエント・クイレっていう。
ちょっと動くと腰の後ろに何かが当たる感触がして、何時仕掛けようか内心ではそんな事ばっか考えてる。

でも
言うなら今かもな。

あったかいお湯でオレンジの匂いのするオイルを垂らして。
緩み切った体で、ましてや裸だし。
その背中には俺の事を好き過ぎる護衛が、引っ付いてる。

シチューおいしかったなぁ。
風呂も温いし。
人肌が当たるこの感触も心地良い。

良い匂いもするし。

天井からまた水滴がまた、ぽちゃんと落ちて来る。

この家は、グゥルの魔法で完璧に守られてる。
余計な音もしない。
静かで、二人しか居ない。

誰の気配も感じない。

グルーエント・クイレは俺を傷付けない。

エルはダメだ。
大統領に必要なら俺を追い詰める事もする。
俺もそれは承知してる。
エルには良い大統領で居て欲しいし、そんなエルを愛してる。

だからグルーエントには、そんな事されたく無いな。

「面倒はごめんなんだ。今のままが良い。この感じが好きなんだ。」

「努力するよトキ。」


努力ね。
そうだろうな。
グルーエントは只の護衛でも単なる愛人でも無い。

エルが居ない間、俺を見てくれる。
恐らく、その<見る>と言う範囲にはありとあらゆる事柄を含んでいると思う。
それくらいさせなきゃ、俺にわざわざ愛人を着ける意味が無い。

何より許す訳が無いんだ。
俺が只の愛人や護衛にふらふら寄って行ったりしたら。
相手はどうにかなってただろうな。

この国は、物騒な事も許容する。
俺は立ち会った事は無いけど、大統領の妻かその補佐官に手を出したなら、それ相応の罰が下される。

防音の地下室が必要になる様な罰が。

神様には悪いけど、俺はそれを許容できる。
だからこんな仕事をしていられる。

悪い人間で悪い大人だ。
医者の言う事は聞かないし、誰にも相談事や打ち明け話をしたりしない。頑固な奴。

よく言うだろ。

押してダメなら引いてみろって。

結果、俺はグルーエントを見つけた。
引き合わされたのかも知れない。
ぴったりなんだ。俺を好きだから。
俺だって、あんな目を向けられたら嫌だって言えない。

嬉しいなって思ってしまう。

だから。

言うならグルーエントが良いかも知れない。
エルが選んだ護衛で、エルが許した愛人。
恐らく、俺の全部を任されてる男。

なら。
やっぱり打ち明け話なんかをするんなら…グルーエントが良い。

あまり大きな声では言いたくなかったから。
首元に擦り寄るグゥルの頬に、キスするみたいにぽそっと吐いた。

「俺は。」

「うん。」

「ーー、ーーー。」

俺がまだ誰にも言って無い秘密で。
それが恐らく、皆が心配してくれたる根幹だと思われる物。
子供の頃の嫌な思い出。

そんな物は誰にだってある。

でも。いま、ふっと何か軽くなった様な気がした。
くちから悪い物でも出たのかな。

同時に、背後で殺気立つグルーエントを俺は嬉しいと思った。
ごめんなグゥル。
俺、いま…怒ってくれて嬉しいなんて思ってる。
ぎゅっ、としがみつく様に抱きしめられるのも嬉しい。

「大統領に話すよ、トキ、」

「良いけど。俺はもう気にしてない。」


どうにもならないしな。

この国にも孤児はいるし。孤児院も有る。
学校は有るけど義務じゃない。
高校くらいまでなら、一応無償で行ける様なシステムになってる。
だからって通える子も通えない子も通わないと言う子も居る。

不幸は何処にでも転がってる。
マルロイ長官もヴィンセント・クロウも。
そこに俺ひとり加わったくらいで、何にもならない。


変えようの無い事実は、ましてや此処ルノクでは余計に何の意味も持たない。
異世界に落ちる前の子供の俺を此処の誰も救えたりしない。

自分で何とかするしかなかった。
自分で何とかして来た。
そこには残念ながら友人も恋人も居ない。

家族は初めから数に入って無い。
祖父母も俺を根本から助ける事は出来なかった。
ほんの少し居場所を与えてくれただけだ。
それで充分助けられた。

「だから、ほんとは誰かが正面に立つと怖い。」

お湯と一緒に当たるグゥルの肌は気持ちいい。
しがみつく左手を借りて、その指を一本ずつ撫でてみる。
タコがぽこぽこしてる。

この手で、物騒な事をする。
両手でナイフを振れるらしい。

親指から順番に畳んで行く。

「誰かと握手するのも、得意じゃない。」

次の瞬間には、差し出されたその手は握手じゃない事をするかも知れない。

グゥルの手で拳を作る。

「俺は、これが嫌いだ。」

でも、この手は嫌いじゃない。
今日、俺の椅子を引いてくれて転びそうになった俺を支えてくれた手だ。
眠れない夜に頬を撫でてくれたりもする。

「この意味がわかる、グゥ。」

「わ、かるよ、トキ」

「そう。」

「護身術を頑なに嫌がるのは、それが理由?」


あぁ、賢いな。
察しが良くて助かるよ。

「どうやったって、護身術の練習でこれが俺に向けられない、なんて事は無理だろ。」

「うん。無理だね。」

「それならナイフの方が良い。」

「握った事有るの?」

「有るよ。」


有るんだ。残念ながら。

「振り翳した事は?」

「有る。」

「その先は。」

「無い。」


こんなに近くに居ても、グゥルの冷えた声が嫌じゃ無い。
凄いな。動揺くらいしても良いのに。
これが本職の腹の括り方なのか。

「相手は誰なのトキ。」




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