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第一章:キハラ トキアキ
第二話
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昔から何かを探し求めては物足りなさを抱えて生きてきた。
ここではない何処か。
俺を求めている何かか、誰か。
そんな事を考えては、今の自分で良いのかと苦悶しながら日々をこなし。
ATMで給料を引き出していた。
この時ばかりは苦労も報われたというものだ。
人間の価値は諭吉の数ではないと言うが。
こんな時ばかりは、自分も社会の歯車に乗って、付加価値のある人間なのだと錯覚できる。
無意味で無色で冷たい自分の腹の中を誰かに溢した事は無い。
良い歳した男がそんな事をぼやけば、さぞ頼り甲斐のない男だと揶揄されてしまうだろう。
嫁に逃げられても文句は言えないのかもな。
「ま、そんな相手もいねえんだが。」
ハハッと苦笑する俺の横を、誰かがドンと押した。
声も出なかった。
気付いたら体は傾き、重心を直すことも無いまま池へと落ちた。
ドボンという音を聞いた気がする。
‘’思ったより深い‘’
‘’ああ?“
‘’おかしい”
‘’これはなんだ‘’
水面を揺らぐ向こうの景色は、確かに今まで見ていたものだが。他の何かがおかしい。
例えば、音がしない。
例えば、温度が分からない。
しかも、何処まで沈んでいくんだ。
どんどん体が沈んでいっているのが分かる。
だが、この辺の池でこんな海みたいに水深の有る池なんか有ったか。
とうとう水面の太陽の光さえ小さくなって。
急激に瞼が重くなってきた。
‘’ああ、これで死んだな‘’
‘’どうだろう。‘’
‘’何も成せたことのない人生だった。‘’
‘’でも仕事は楽しかった。‘’
‘’思えばあれは性に合っていたのかも知れない。‘’
‘’どうせ生まれ変わるなら、次は誰か愛せる未来に辿り着きたいかもな。‘’
そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。
ここではない何処か。
俺を求めている何かか、誰か。
そんな事を考えては、今の自分で良いのかと苦悶しながら日々をこなし。
ATMで給料を引き出していた。
この時ばかりは苦労も報われたというものだ。
人間の価値は諭吉の数ではないと言うが。
こんな時ばかりは、自分も社会の歯車に乗って、付加価値のある人間なのだと錯覚できる。
無意味で無色で冷たい自分の腹の中を誰かに溢した事は無い。
良い歳した男がそんな事をぼやけば、さぞ頼り甲斐のない男だと揶揄されてしまうだろう。
嫁に逃げられても文句は言えないのかもな。
「ま、そんな相手もいねえんだが。」
ハハッと苦笑する俺の横を、誰かがドンと押した。
声も出なかった。
気付いたら体は傾き、重心を直すことも無いまま池へと落ちた。
ドボンという音を聞いた気がする。
‘’思ったより深い‘’
‘’ああ?“
‘’おかしい”
‘’これはなんだ‘’
水面を揺らぐ向こうの景色は、確かに今まで見ていたものだが。他の何かがおかしい。
例えば、音がしない。
例えば、温度が分からない。
しかも、何処まで沈んでいくんだ。
どんどん体が沈んでいっているのが分かる。
だが、この辺の池でこんな海みたいに水深の有る池なんか有ったか。
とうとう水面の太陽の光さえ小さくなって。
急激に瞼が重くなってきた。
‘’ああ、これで死んだな‘’
‘’どうだろう。‘’
‘’何も成せたことのない人生だった。‘’
‘’でも仕事は楽しかった。‘’
‘’思えばあれは性に合っていたのかも知れない。‘’
‘’どうせ生まれ変わるなら、次は誰か愛せる未来に辿り着きたいかもな。‘’
そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。
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