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第一章:キハラ トキアキ
第三話
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「んっ、んん~ん。」
身体が強張っている。
そろそろ布団を干さないと。
これ以上薄くなってしまったら起き上がれなくなるな。
ぎしぎしと鳴る肩と腰をぐうと伸ばして、起き上がる。
「ーーーあ。」
俺は死んだんじゃなかったのか。
生きてるのか。
いやそうだとしたら、ここは何処だ。
天国か。地獄には見えないが此処から地獄の展開が始まるのか。
「とにかく、」
あ、声が出るのか。
こういうところは脳の中で会話が出来るものだと思ったが。ファンタジー過ぎたか。
「うん。」
右手で左手を摩ってみる。
‘’感覚はあるな‘’
それでも心配になって、今度はぐっと拳を握りしめてみる。
握って開いて指を1本1本曲げてみる。
‘’うん。大丈夫そうだ。‘’
目も耳も鼻も、口を手足も何とも無さそうだ。
一頻り五感を確かめたら安心した。
すると気になるのは、ここが一体何処なのかという事だ。
「ぱっと見た感じ。異様だな。」
そこは異様なほどに真っ白な部屋だった。
ドアの色も白。
床も、ベットも、布団も。
天井も白いし、クローゼットみたいなのも白い。
そのくせ、縁飾りは全て金色だった。
ドアの縁も金色。
あ、ドアノブも金色だな。
床もタイルの1枚1枚に細い縁取りがされていて。ベットも、布団の縁も金色の線が入っている。
「白と金色が好きなんだな。」
ぼふっとヘッドボードに背中を預けた、そのタイミングで誰かが近づいてくる気配がした。
「いよいよご対面か。」
ガチャリ、と真っ白なドアが開いた。
現れたのは金髪のやけにガタイのいいオジサンだった。更に一際目を引いたのは、彼の着ている紺色のスーツだった。
「良い色のデザインですね。」
思わず口走ったのは、日頃ご機嫌伺いをしてきたお国柄の賜物だろうな。
でも、本当にいい色だ。
「ほお。お前これが分かるのか?」
オジサンは、にいと笑ってベットへと近づいて来た。
側にあった椅子に淀みなく着いた姿が、この人がここの家主なのかもしれないと思わせる。
「これはな。」
そう言ってオジサンは俺に袖口が分かるように見せてくれた。スーツ自体は濃紺のゆったりとした幅広い作りだが、体にフィットした線が上品に強かに見せている。
「いいですね。」
「そうか?」
「素敵なオレンジです。誠実な演出に遊び心があって、俺は好きです。羨ましいくらいです。」
俺の給料でそんな贅沢は出来なかったが。
一度は袖を通してみたい。
「お前、名前は何という。」
「木原時昭、です。」
「そうか。愛称は何かあるか?」
「あだ名ですか・・・トキとかアキとかですかね。」
初対面であだ名を聞かれたのなんて初めてだぞ。
まあ、勝手に決めて呼ばれた事は有るが。
というか日本語通じてるな?
この人金髪に金の瞳で完璧外人さんなのに日本語上手いなあ。偉そうな話し方も様になってる。
「トキか・・・アキか。」
そんなに悩んで貰うほど俺のあだ名は貴重じゃない。
テキトーに呼んでもらって構わないのだが、やっぱり。
「日本語お上手ですね。僕よりベテラです。」
そう言った俺にオジサンが驚いた顔をした。
あ、失礼な事を口走ったのか、俺。
いやでも、正直俺よりこなれた話し方してるじゃん。
「日本語、とは何だ?」
「え?」
「いや、こちらが説明不足だった。まだ目が覚めたばかりで、私の話に付き合わせてしまったな。少し待て。侍医を呼んである。」
そう言うとオジサンはドアの向こうに向かって、入れと声を掛けた。やはりこの人が此処で一番偉い人らしい。
「全く、医者を待たせて話し込むとはいただけませんな。」
ぶつぶつと小言を言いながら入ってきたのは、白衣を着たおじいちゃんだった。どうも医者らしい。今時、医者を侍医なんて言う人いるんだな。やっぱ金持ちなのかこの人?
「すまない。思った以上に感慨深いものが有ってな。」
「お察しします。」
「ああ。」
おじいちゃん先生は俺に聴診器を当てたり、目にライトを当てたりしながらオジサンと話し続けている。
「わしも良き妻に恵まれました。」
「そうだな。私もあれほど逞しい女性はみた事が無いな。」
「伴侶を持つと言うのは良いものですぞ。」
へえ、オジサン結婚すんのか。
イケオジだもんな。むしろなんで今まで結婚しなかったんだ?イケおじすぎて愛人がいっぱいいるのか。
もしくは、プレイボーイが運命の相手に巡り合ったのか。
そりゃあ、良かったな。
俺には一切現れてくれなかったけどな。
「うむ。問題は無さそうじゃの。」
「ありがとうございます。」
「それではの、未来のファーストレディ。何かありましたら何時でも、この年寄りをお召しくだされ。」
おじいちゃんがおもむろに俺の手を取り、その甲へ額を寄せたかと思うと、口付ける感触がした。
「えっ。」
「あ。」
「む?」
俺と、オジサンの声と。
じいちゃんのはてなの浮かんだ声が真っ白い部屋に響いた。
身体が強張っている。
そろそろ布団を干さないと。
これ以上薄くなってしまったら起き上がれなくなるな。
ぎしぎしと鳴る肩と腰をぐうと伸ばして、起き上がる。
「ーーーあ。」
俺は死んだんじゃなかったのか。
生きてるのか。
いやそうだとしたら、ここは何処だ。
天国か。地獄には見えないが此処から地獄の展開が始まるのか。
「とにかく、」
あ、声が出るのか。
こういうところは脳の中で会話が出来るものだと思ったが。ファンタジー過ぎたか。
「うん。」
右手で左手を摩ってみる。
‘’感覚はあるな‘’
それでも心配になって、今度はぐっと拳を握りしめてみる。
握って開いて指を1本1本曲げてみる。
‘’うん。大丈夫そうだ。‘’
目も耳も鼻も、口を手足も何とも無さそうだ。
一頻り五感を確かめたら安心した。
すると気になるのは、ここが一体何処なのかという事だ。
「ぱっと見た感じ。異様だな。」
そこは異様なほどに真っ白な部屋だった。
ドアの色も白。
床も、ベットも、布団も。
天井も白いし、クローゼットみたいなのも白い。
そのくせ、縁飾りは全て金色だった。
ドアの縁も金色。
あ、ドアノブも金色だな。
床もタイルの1枚1枚に細い縁取りがされていて。ベットも、布団の縁も金色の線が入っている。
「白と金色が好きなんだな。」
ぼふっとヘッドボードに背中を預けた、そのタイミングで誰かが近づいてくる気配がした。
「いよいよご対面か。」
ガチャリ、と真っ白なドアが開いた。
現れたのは金髪のやけにガタイのいいオジサンだった。更に一際目を引いたのは、彼の着ている紺色のスーツだった。
「良い色のデザインですね。」
思わず口走ったのは、日頃ご機嫌伺いをしてきたお国柄の賜物だろうな。
でも、本当にいい色だ。
「ほお。お前これが分かるのか?」
オジサンは、にいと笑ってベットへと近づいて来た。
側にあった椅子に淀みなく着いた姿が、この人がここの家主なのかもしれないと思わせる。
「これはな。」
そう言ってオジサンは俺に袖口が分かるように見せてくれた。スーツ自体は濃紺のゆったりとした幅広い作りだが、体にフィットした線が上品に強かに見せている。
「いいですね。」
「そうか?」
「素敵なオレンジです。誠実な演出に遊び心があって、俺は好きです。羨ましいくらいです。」
俺の給料でそんな贅沢は出来なかったが。
一度は袖を通してみたい。
「お前、名前は何という。」
「木原時昭、です。」
「そうか。愛称は何かあるか?」
「あだ名ですか・・・トキとかアキとかですかね。」
初対面であだ名を聞かれたのなんて初めてだぞ。
まあ、勝手に決めて呼ばれた事は有るが。
というか日本語通じてるな?
この人金髪に金の瞳で完璧外人さんなのに日本語上手いなあ。偉そうな話し方も様になってる。
「トキか・・・アキか。」
そんなに悩んで貰うほど俺のあだ名は貴重じゃない。
テキトーに呼んでもらって構わないのだが、やっぱり。
「日本語お上手ですね。僕よりベテラです。」
そう言った俺にオジサンが驚いた顔をした。
あ、失礼な事を口走ったのか、俺。
いやでも、正直俺よりこなれた話し方してるじゃん。
「日本語、とは何だ?」
「え?」
「いや、こちらが説明不足だった。まだ目が覚めたばかりで、私の話に付き合わせてしまったな。少し待て。侍医を呼んである。」
そう言うとオジサンはドアの向こうに向かって、入れと声を掛けた。やはりこの人が此処で一番偉い人らしい。
「全く、医者を待たせて話し込むとはいただけませんな。」
ぶつぶつと小言を言いながら入ってきたのは、白衣を着たおじいちゃんだった。どうも医者らしい。今時、医者を侍医なんて言う人いるんだな。やっぱ金持ちなのかこの人?
「すまない。思った以上に感慨深いものが有ってな。」
「お察しします。」
「ああ。」
おじいちゃん先生は俺に聴診器を当てたり、目にライトを当てたりしながらオジサンと話し続けている。
「わしも良き妻に恵まれました。」
「そうだな。私もあれほど逞しい女性はみた事が無いな。」
「伴侶を持つと言うのは良いものですぞ。」
へえ、オジサン結婚すんのか。
イケオジだもんな。むしろなんで今まで結婚しなかったんだ?イケおじすぎて愛人がいっぱいいるのか。
もしくは、プレイボーイが運命の相手に巡り合ったのか。
そりゃあ、良かったな。
俺には一切現れてくれなかったけどな。
「うむ。問題は無さそうじゃの。」
「ありがとうございます。」
「それではの、未来のファーストレディ。何かありましたら何時でも、この年寄りをお召しくだされ。」
おじいちゃんがおもむろに俺の手を取り、その甲へ額を寄せたかと思うと、口付ける感触がした。
「えっ。」
「あ。」
「む?」
俺と、オジサンの声と。
じいちゃんのはてなの浮かんだ声が真っ白い部屋に響いた。
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