甘々にすっ転べ全集

mimimi456/都古

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38 茶こぼし

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「先輩、スゲーっすね。」

私にそんな事を言う後輩は君くらいだ、と思いながら。
何が凄いのか褒められると聞いてみたくなって。

「凄い?どれ?」

「先輩が淹れたお茶は全部美味かったっス。」

「へぇ?」

「会議の時も、この前休憩で一緒になって淹れてくれた時も。同じ味がしました。」

「ほぉ。」

今時、ペットボトルで済ませる所を。
うちの会社は逆にペットボトルの方が高く付くので、急須と湯呑みでお茶を入れる。

人数も少ないからこれで別段困りはしない。
私も緑茶好きだし。
ただ何がそんなに凄いのかピンと来ないな。

「誰が淹れても美味いと思うよ?」

そう言ったけど後輩君は首を振る。

「俺はまた飲むなら先輩の淹れたお茶が良いっス。」

「大袈裟だなぁ。」

そう言えば、最近の子は茶殻入れと言うものを知らないらしい。
灰皿見たいなやつだけど、実際は淹れ終わったお茶っ葉やお茶パック、冷めてしまった残りのお茶なんかを入れたりもする。

一々三角コーナーを見なくて済む、精神衛生上便利なやつだ。

「今度、出掛けませんか。俺と2人で。ぜんざい食いに。」

唐突に日本語が分からなくなった。
可愛い後輩が私と出掛けたい、って言った?今。


「あちっ、!?」

「エッ、大丈夫っスか、冷やして、水っ、氷、氷!」

ポットの給湯ボタンを押した先に、急須がある筈だったが、バカな事に急須の蓋を開け忘れていた。

飛んで掛かったお湯は私の指とシンクを濡らす。

後輩君が大慌てで蛇口を捻り、水に指を突っ込ませると反対の手で冷蔵庫を開けて製氷器に手を突っ込んでいた。
その距離が届くのか。

「手、長いね、」

「長くねぇっス。先輩の指の方が小せえっス。」

「あ、良いよっ、氷ありがとう」

何やらムスッとした顔でハンカチをザッと濡らし鷲掴んだ氷を手早く包むと指を冷やしてくれた。

「20分、測って見に来るんでそれまで冷やしてて下さい。」

「う、うん。分かった。」


手慣れてたな。
凄い。
応急処置も出来るのか。

それより、ぜんざいだ。
和菓子は薄焼き煎餅しか食べまけん、みたいな顔をしてぜんざいが食べたかったのかな。

けど、今まで差し入れで貰った最中とか羊羹とか、かるかんとか食べてなかったよな。

「そろそろ10分経ったかな。」

流石に5分ほども経ってくると流水が勿体無くてボウルを引っ張り出した。
何の時に使ったのかも覚えてないけど、有って良かった。

休憩時間がこれで潰れてしまうな。

けど後輩君が時間を測ってるなら、冷やさない訳にもいかない。
実際、ジンジンと痛む事だし。

午後の仕事の事を考える。
タイピングもそんなに上手くは無いので、指一本負傷したところで特に困り事は無さそうだ。

運転も。

あぁ、もしかしてお風呂とか炊事で痛むのかなぁ。
絆創膏ってあったっけ?
防水のものなんて無かったよなこの会社。

「先輩っ、指どうですか」

「おっ、おかえり。ほんとに測ってたんだっ。」

律儀な後輩君だ。
時計を見ればあと1分で20分経つところだ。


「絆創膏、防水で、これめっちゃ効く奴っス。」

「えっ、丁度欲しかった。凄いねありがとう」

私がモタモタ絆創膏を貼る間、後輩君がすみません、と謝って来た。
そんな事よりぜんざいが好きなのか教えてくれ、と言うと照れ臭そうに横を向いた。

「... ...先輩と出掛けたい、と思ったら。お茶の美味い店が良いかなと思って。そしたら甘味屋さん見つけて、メニューに懐かしいのが載ってて。」

「ぜんざい?」

「いや、それは見れば分かるっス。」

「ぜんざいじゃない?」

「一緒に出掛けてくれたら、分かります、」


仕方が無いので今度の休みに2人で出掛けることにした。


ーーー

「梅ヶ枝餅?」

「地元以外で食べる地元の味はマジで美味いんで。」

「私食べた事ない。」

「これ食ったら他の和菓子食えなくなりますっ。」

そう言えばこの後輩、一時期近所に来ていたキッチンカーのタコスが美味いからと言う理由で、毎回買いに出ていたのを思い出した。

すぐ隣にスーパーが有るのに。

「美味いっスか?」

「うまぁっ」

「でしょっ!」




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