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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

スキル習得スキル〝無欠〟

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 カーナ姫が言うには。

「まさかエイリーの息子が彼女の飯マズを引き継いでたとはね。話を聞いて私たちも驚いた。でもルシウス君がいるなら、削除は無理でもスキルのオフならできたのでは?」
「はいー!?」
「あ、なるほど」

 鮭の人がポンと両手を叩いて納得している。

「叔父様には面白いスキルがあるんです。皆さん、叔父様の称号をご存知で?」
「確か、〝聖剣の聖者〟あるいは」
「ええ、正式には〝聖剣の聖者・無欠のルシウス〟と言います。その無欠ってスキルが。……おや叔父様、どちらへ行かれるので?」

 じり、じり……とルシウスが少しずつ席を離れて後ずさっている。応接間の出口に向かって。

「勘弁してくれ! いくら私でも〝飯マズ〟スキルは覚えたくない!」
「ど、どういうこと!?」

 そもそもアイシャたちはこれまで、ルシウスの称号の詳細を聞いたことがなかった。

「お前、知ってたか? カズン」
「いや……何となくすごくお強いから完全無欠って意味の〝無欠〟なのかと」
「私もそんな感じだと思っていた」

 何とアイシャやトオンより付き合いの長いユーグレンとカズンも知らないと来た。
 ならばここは、彼の最愛の甥っ子の出番だ。

「叔父様の持つ〝無欠〟ってスキルは、スキル習得スキルなんです。というか叔父様は血筋で継承している魔法樹脂と、このスキルしか持ってないんですよ」
「え、でも聖剣持ちの魔法剣士なのよね?」
「どんなスキルも、無欠スキルが習得した範囲内で使えるんです」
「???」

 更に詳しい説明を求めてみると。

「無欠は今のところ、円環大陸で叔父様だけに発現した超レアスキルだそうで。理論上、無制限に他者のスキルを覚えていくんです」
「……使えるか使えないかは別なのだ。私という個人に適合しないスキルだと、習得しても非活性のままだ。使えないスキルをただ〝持っている〟だけになる」
「それって」

 いわゆる生きたスキル辞書ブックということか。

「叔父様は〝飯ウマ〟持ちだから、飯マズは適合しないはず。でも覚えるだけなら可能かと。えーと。どなたか、叔父様を逃さぬよう押さえていただけますか? あ、トオン君はこっちね」
「「「はーい!」」」
「ピュイッ」

 幼児並みにものすごく明るい良い子のお返事で、アイシャ、カズン、ユーグレンの三人とユキノはルシウスに迫った。

「や、やめろ、近づくな!」

 後ずさった背中がぽふっと柔らかなものに当たった。

「ピーピュイッ(つかまえた!)」
「よし、ユキノ君でかした! トオン君、ちょっと叔父様の身体に触って『飯マズを覚えさせる』と意図してみて」
「ま、待て、やめろ、近寄るなトオンー!」

 取り敢えず、トオンは手を伸ばしてルシウスの腕に触ってみた。ムキっと服越しでもわかる羨ましいぐらい筋肉質な腕をしばらく軽く掴んでみる。

 その後どうなったか?
 結論からいえば、ルシウスは自分では使用不可の非活性状態で飯マズを覚えた。
 そして途方に暮れたような悲しげな顔で、項垂れながらトオンの飯マズを解除したのだった。

「これで、これで飯マズから解放されたんですね! やった!」
「そんなにあっさり喜んでよいのか? 仮にも聖女だったお前の母が五百年解除できず抱え続けてきたペナルティ・バッドステータスだぞ?」

 無欠スキルの中に人物鑑定スキルの上級持ちのルシウスがしっかり確認したところ、トオンのステータスからは間違いなく飯マズが消えていた。

(ううむ。だが、薄い灰色で〝飯マズ〟表記が残っている。同じ鑑定持ちのカズン様やユーグレン様はまだランクが低いから見えておらぬようだが)

 まあしばらくぬか喜びさせておこう、とルシウスは黙っていることにした。
 心底要らなかった飯マズを習得してしまった意趣返しだ。



 それから、古書店の食堂では食後にトオンがコーヒーを淹れ続けたそうな。

 美味にこそならなかったが、普通に飲めるコーヒーに皆が感動して、二日後。
 そう、たった二日後に飯マズのオフ効果は切れた。

「またオフにすればその都度二日は保つだろうが、……しばらくは内緒にしておこう」

 リンク経由で受け取ったトオンからの手紙は、涙をこぼしたのかインクの文字が滲んでいる。

 見なかったことにしよう、とそっと封筒に戻して秘書ユキレラに渡すルシウスなのだった。




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