上 下
181 / 292
第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

いよいよダンジョンへ

しおりを挟む
 新ダンジョンへの入口は王城内の庭園に出現している。
 かつてはトオンの母親である初代聖女エイリーが陣地とし、遺産でもある小屋も含めて、今は当代聖女のアイシャが権利を持って管理している場所だ。

「探索初日だ、何かあったときの場合に備えて俺は小屋で待機してる。連絡はリンク経由でよろしくな」

 ビクトリノが地上で留守番となった。

 庭園には初代国王と初代聖女の像があり、その台座の根元付近に穴が開いて中に入れるようになっていた。冒険者ギルドが既に入口を補強と固定して安全を確保している。

「皆、準備は良いな? では、行くぞ」

 ルシウスの確認に皆が頷く。先頭はまずルシウス、神人ジューア。次にユーグレン王太子、トオン。最後にアイシャだ。

 入口から入ると中は薄暗い。
 しばらく階段を降りていくと、明るく開けた場所に出た。

「これは、何とも」
「美しいね。こんなに綺麗なダンジョンになったなんて」

 内部はすべて魔法樹脂の透明な素材でできている。
 地下のため外部から日光が差すわけではなかったが、魔法樹脂自体が白く発光しているため、ふつうの室内と変わらないくらい明るかった。

「私の魔力で作った魔法樹脂だ。自在に構造を操作できる」

 ルシウスが透明な壁に触れると、魔法樹脂の壁は瞬時に消えて、その先に広がる通路が発生した。

「ふむ。一般的なダンジョンのように迷路状の造りになってないわね。広い地下空間すべてに魔法樹脂が充填されて、ところどころに大小様々な空間が空いている」

 神人ジューアが魔法樹脂に触れて内部構造を把握したようだ。

「そんなことまでわかるものですか? ジューア様」
「魔法樹脂はハイヒューマンの中でも、我が魔人族が開発したものだから」

 アイシャたちが見ている前で、ルシウスとジューアは次々と壁に触れては道を作っている。

「お前たちはマッピングを頼む。地上への転移装置の魔導具を最低三ヶ所は設置せねばならんのだ」

 一般の冒険者たちが探索するためにも絶対必要だ。ギルマスからも念押しされている。

「実は私はダンジョンに潜るのは初めてなんだ。ダンジョンとはこのように冒険者ギルドが設備を整えるものだと知って驚いている」

 ユーグレン王太子が呑気に言った。

「内部構造が変わる場所も多いから気休めだがな。ただし転移装置を置いた場所だけは固定される。それだけで冒険者の生存率をある程度確保できるのさ」
「なるほど」



 意外にも魔物の姿や気配もなかった。

「一般的なダンジョンは土地の邪気を集める場でもある。魔物や魔獣は引き寄せられてきたり、中で発生したりと様々ね。ここの場合は弟が作った人工ダンジョンゆえ、モンスター類の気配は一つしかない」
「ラスボス、ですよね」

 神人ジューアの説明に、皆の視線がルシウスに集まる。
 ここに入る前、冒険者ギルドにいたときにダンジョン発生の経緯は聞いていた。

 ルシウスは師匠の魔術師フリーダヤから、カーナ王国の王都地下に埋まったままの古代生物の調査を行なっていたのだ。
 聖剣で一気に浄化して、古い時代の魚人だった古代生物を人間の姿に戻して回収するまでは良かった。
 地下に空いた空間を埋めようとして、リンクを使い魔法樹脂で充填しようとして、力加減を誤って歯止めがきかなくなった。
 結果、王都地下にダンジョン爆誕である。

 正直、話を聞いた皆は意味がわからないと思ったものだ。

「で、回収したはずの魚人の亡骸がダンジョンに取り込まれてしまったと」
「カーナ姫の息子……なんですよね?」

 自分のうっかりやらかしを再確認されて、もうルシウスは恥じ入るばかりだ。

「ああ。昔お会いしたカーナ様そっくりの青年だった。このダンジョンは最悪、再び埋めてしまえば良いが、ご子息の亡骸だけは何としてでも回収せねばならん」

 ルシウスが言うには、亡骸がダンジョンに取り込まれた際、空から落ちてきた魔物らしきものに入り込まれてしまった可能性があるという。

「ラスボスがどの程度の脅威かはわからんが、少なくともカーナ様のご子息の肉体はハイヒューマンだ。それなりの覚悟が必要だろう」



 ルシウスやジューアによると、地下ダンジョンは地上の王都の真下にあって、広さも王都とほぼ同じだという。

「都市には外周に結界があるからな。これ以上拡大する危険がないのは良かった」

 やらかしても破滅的な結果の手前で止まるのは聖者の仕出かしっぽかった。

「でもどうします? これなら探索の手間をかけずにルシウスさんやジューア様がラスボスのいる場所まで一直線に通路を開いたらそれで終わりですよ?」

 先を進もうとした皆に、マッピング用に持参していたスケッチブックを開きながら、トオンが待ったをかけた。

「ラスボスがいるのは最深部ですよね? でもいきなりラスボスに直行すると危険だから、地下空間に複数あるっていう空間をひとまず全部繋いで、転移装置を設置することを優先しましょう」
「ならばここを基点にして」

 開けた空間である現在地をエントランスとして、まず一つ目の転移装置を壁に埋め込む形で設置した。
 深い内部まで進んで危険に陥ったとき、最寄の転移装置からすぐエントランスまで戻って来れるように。

「私とアイシャは左側を進んで道を作っていく。右側は姉様、彼らを引率しながらお願いします」
「任された」

 ジューアに託されたトオンとユーグレンは心許なさそうな様子だ。

「私たちも魔法樹脂が使えれば手伝えるのだが……」
「あ、俺は魔術樹脂なら使えます。ルシウスさんに教えてもらって。リンク経由で」
「なら私も」

 覚えたい、と主張したユーグレンにルシウスは困った顔になった。

「ユーグレン様。あなたは我らリースト一族の術とは相性が」
「お前は駄目に決まってる。今のアケロニア王族の先祖は我らの敵だったから」

「「そうなの!?」」

 アイシャやトオンには初耳だったが、ジューアはムスッとした顔で説明してくれた。

「リースト一族は私の子孫にあたる一族だ。長は代々魔王と呼ばれてたから、そこの王太子の祖先の勇者が愚かにも討伐しようとたびたび戦いを仕掛けてきていた」
「つまり魔王と勇者の一族で対立していたことがある。……もっとも、後に和解してともに今のアケロニア王国に移住してきたんだ。今から千年ほど前だな」

 以来、ふたつの一族は仲が良いそうで。
 移住後、それぞれ伯爵位を授かって貴族として暮らしていたが、八百年ほど前にアケロニア王国の前王家が堕落して邪法で臣下と民を苦しめた。
 それを討ったのがカズンやユーグレン王太子の先祖だ。以降、勇者の末裔だった伯爵家が新王家となって王朝交代し、現在のアケロニア王家となっている。

「だが、争った過去まで消えはしない。今でこそ二つの一族は仲が良いが、過去の因縁によって互いの持つ術を教え合うのは困難だ」

 千年に渡る付き合いがあるにも関わらず、縁戚になったことも一度もないという。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

破壊のオデット

真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。 他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。 それから百年後。 魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。 そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。 しかしオデットは負けずに立ち向かう。 ※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。 「王弟カズンの冒険前夜」のその後、 「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。