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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
いよいよダンジョンへ
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新ダンジョンへの入口は王城内の庭園に出現している。
かつてはトオンの母親である初代聖女エイリーが陣地とし、遺産でもある小屋も含めて、今は当代聖女のアイシャが権利を持って管理している場所だ。
「探索初日だ、何かあったときの場合に備えて俺は小屋で待機してる。連絡は環経由でよろしくな」
ビクトリノが地上で留守番となった。
庭園には初代国王と初代聖女の像があり、その台座の根元付近に穴が開いて中に入れるようになっていた。冒険者ギルドが既に入口を補強と固定して安全を確保している。
「皆、準備は良いな? では、行くぞ」
ルシウスの確認に皆が頷く。先頭はまずルシウス、神人ジューア。次にユーグレン王太子、トオン。最後にアイシャだ。
入口から入ると中は薄暗い。
しばらく階段を降りていくと、明るく開けた場所に出た。
「これは、何とも」
「美しいね。こんなに綺麗なダンジョンになったなんて」
内部はすべて魔法樹脂の透明な素材でできている。
地下のため外部から日光が差すわけではなかったが、魔法樹脂自体が白く発光しているため、ふつうの室内と変わらないくらい明るかった。
「私の魔力で作った魔法樹脂だ。自在に構造を操作できる」
ルシウスが透明な壁に触れると、魔法樹脂の壁は瞬時に消えて、その先に広がる通路が発生した。
「ふむ。一般的なダンジョンのように迷路状の造りになってないわね。広い地下空間すべてに魔法樹脂が充填されて、ところどころに大小様々な空間が空いている」
神人ジューアが魔法樹脂に触れて内部構造を把握したようだ。
「そんなことまでわかるものですか? ジューア様」
「魔法樹脂はハイヒューマンの中でも、我が魔人族が開発したものだから」
アイシャたちが見ている前で、ルシウスとジューアは次々と壁に触れては道を作っている。
「お前たちはマッピングを頼む。地上への転移装置の魔導具を最低三ヶ所は設置せねばならんのだ」
一般の冒険者たちが探索するためにも絶対必要だ。ギルマスからも念押しされている。
「実は私はダンジョンに潜るのは初めてなんだ。ダンジョンとはこのように冒険者ギルドが設備を整えるものだと知って驚いている」
ユーグレン王太子が呑気に言った。
「内部構造が変わる場所も多いから気休めだがな。ただし転移装置を置いた場所だけは固定される。それだけで冒険者の生存率をある程度確保できるのさ」
「なるほど」
意外にも魔物の姿や気配もなかった。
「一般的なダンジョンは土地の邪気を集める場でもある。魔物や魔獣は引き寄せられてきたり、中で発生したりと様々ね。ここの場合は弟が作った人工ダンジョンゆえ、モンスター類の気配は一つしかない」
「ラスボス、ですよね」
神人ジューアの説明に、皆の視線がルシウスに集まる。
ここに入る前、冒険者ギルドにいたときにダンジョン発生の経緯は聞いていた。
ルシウスは師匠の魔術師フリーダヤから、カーナ王国の王都地下に埋まったままの古代生物の調査を行なっていたのだ。
聖剣で一気に浄化して、古い時代の魚人だった古代生物を人間の姿に戻して回収するまでは良かった。
地下に空いた空間を埋めようとして、環を使い魔法樹脂で充填しようとして、力加減を誤って歯止めがきかなくなった。
結果、王都地下にダンジョン爆誕である。
正直、話を聞いた皆は意味がわからないと思ったものだ。
「で、回収したはずの魚人の亡骸がダンジョンに取り込まれてしまったと」
「カーナ姫の息子……なんですよね?」
自分のうっかりやらかしを再確認されて、もうルシウスは恥じ入るばかりだ。
「ああ。昔お会いしたカーナ様そっくりの青年だった。このダンジョンは最悪、再び埋めてしまえば良いが、ご子息の亡骸だけは何としてでも回収せねばならん」
ルシウスが言うには、亡骸がダンジョンに取り込まれた際、空から落ちてきた魔物らしきものに入り込まれてしまった可能性があるという。
「ラスボスがどの程度の脅威かはわからんが、少なくともカーナ様のご子息の肉体はハイヒューマンだ。それなりの覚悟が必要だろう」
ルシウスやジューアによると、地下ダンジョンは地上の王都の真下にあって、広さも王都とほぼ同じだという。
「都市には外周に結界があるからな。これ以上拡大する危険がないのは良かった」
やらかしても破滅的な結果の手前で止まるのは聖者の仕出かしっぽかった。
「でもどうします? これなら探索の手間をかけずにルシウスさんやジューア様がラスボスのいる場所まで一直線に通路を開いたらそれで終わりですよ?」
先を進もうとした皆に、マッピング用に持参していたスケッチブックを開きながら、トオンが待ったをかけた。
「ラスボスがいるのは最深部ですよね? でもいきなりラスボスに直行すると危険だから、地下空間に複数あるっていう空間をひとまず全部繋いで、転移装置を設置することを優先しましょう」
「ならばここを基点にして」
開けた空間である現在地をエントランスとして、まず一つ目の転移装置を壁に埋め込む形で設置した。
深い内部まで進んで危険に陥ったとき、最寄の転移装置からすぐエントランスまで戻って来れるように。
「私とアイシャは左側を進んで道を作っていく。右側は姉様、彼らを引率しながらお願いします」
「任された」
ジューアに託されたトオンとユーグレンは心許なさそうな様子だ。
「私たちも魔法樹脂が使えれば手伝えるのだが……」
「あ、俺は魔術樹脂なら使えます。ルシウスさんに教えてもらって。環経由で」
「なら私も」
覚えたい、と主張したユーグレンにルシウスは困った顔になった。
「ユーグレン様。あなたは我らリースト一族の術とは相性が」
「お前は駄目に決まってる。今のアケロニア王族の先祖は我らの敵だったから」
「「そうなの!?」」
アイシャやトオンには初耳だったが、ジューアはムスッとした顔で説明してくれた。
「リースト一族は私の子孫にあたる一族だ。長は代々魔王と呼ばれてたから、そこの王太子の祖先の勇者が愚かにも討伐しようとたびたび戦いを仕掛けてきていた」
「つまり魔王と勇者の一族で対立していたことがある。……もっとも、後に和解してともに今のアケロニア王国に移住してきたんだ。今から千年ほど前だな」
以来、ふたつの一族は仲が良いそうで。
移住後、それぞれ伯爵位を授かって貴族として暮らしていたが、八百年ほど前にアケロニア王国の前王家が堕落して邪法で臣下と民を苦しめた。
それを討ったのがカズンやユーグレン王太子の先祖だ。以降、勇者の末裔だった伯爵家が新王家となって王朝交代し、現在のアケロニア王家となっている。
「だが、争った過去まで消えはしない。今でこそ二つの一族は仲が良いが、過去の因縁によって互いの持つ術を教え合うのは困難だ」
千年に渡る付き合いがあるにも関わらず、縁戚になったことも一度もないという。
かつてはトオンの母親である初代聖女エイリーが陣地とし、遺産でもある小屋も含めて、今は当代聖女のアイシャが権利を持って管理している場所だ。
「探索初日だ、何かあったときの場合に備えて俺は小屋で待機してる。連絡は環経由でよろしくな」
ビクトリノが地上で留守番となった。
庭園には初代国王と初代聖女の像があり、その台座の根元付近に穴が開いて中に入れるようになっていた。冒険者ギルドが既に入口を補強と固定して安全を確保している。
「皆、準備は良いな? では、行くぞ」
ルシウスの確認に皆が頷く。先頭はまずルシウス、神人ジューア。次にユーグレン王太子、トオン。最後にアイシャだ。
入口から入ると中は薄暗い。
しばらく階段を降りていくと、明るく開けた場所に出た。
「これは、何とも」
「美しいね。こんなに綺麗なダンジョンになったなんて」
内部はすべて魔法樹脂の透明な素材でできている。
地下のため外部から日光が差すわけではなかったが、魔法樹脂自体が白く発光しているため、ふつうの室内と変わらないくらい明るかった。
「私の魔力で作った魔法樹脂だ。自在に構造を操作できる」
ルシウスが透明な壁に触れると、魔法樹脂の壁は瞬時に消えて、その先に広がる通路が発生した。
「ふむ。一般的なダンジョンのように迷路状の造りになってないわね。広い地下空間すべてに魔法樹脂が充填されて、ところどころに大小様々な空間が空いている」
神人ジューアが魔法樹脂に触れて内部構造を把握したようだ。
「そんなことまでわかるものですか? ジューア様」
「魔法樹脂はハイヒューマンの中でも、我が魔人族が開発したものだから」
アイシャたちが見ている前で、ルシウスとジューアは次々と壁に触れては道を作っている。
「お前たちはマッピングを頼む。地上への転移装置の魔導具を最低三ヶ所は設置せねばならんのだ」
一般の冒険者たちが探索するためにも絶対必要だ。ギルマスからも念押しされている。
「実は私はダンジョンに潜るのは初めてなんだ。ダンジョンとはこのように冒険者ギルドが設備を整えるものだと知って驚いている」
ユーグレン王太子が呑気に言った。
「内部構造が変わる場所も多いから気休めだがな。ただし転移装置を置いた場所だけは固定される。それだけで冒険者の生存率をある程度確保できるのさ」
「なるほど」
意外にも魔物の姿や気配もなかった。
「一般的なダンジョンは土地の邪気を集める場でもある。魔物や魔獣は引き寄せられてきたり、中で発生したりと様々ね。ここの場合は弟が作った人工ダンジョンゆえ、モンスター類の気配は一つしかない」
「ラスボス、ですよね」
神人ジューアの説明に、皆の視線がルシウスに集まる。
ここに入る前、冒険者ギルドにいたときにダンジョン発生の経緯は聞いていた。
ルシウスは師匠の魔術師フリーダヤから、カーナ王国の王都地下に埋まったままの古代生物の調査を行なっていたのだ。
聖剣で一気に浄化して、古い時代の魚人だった古代生物を人間の姿に戻して回収するまでは良かった。
地下に空いた空間を埋めようとして、環を使い魔法樹脂で充填しようとして、力加減を誤って歯止めがきかなくなった。
結果、王都地下にダンジョン爆誕である。
正直、話を聞いた皆は意味がわからないと思ったものだ。
「で、回収したはずの魚人の亡骸がダンジョンに取り込まれてしまったと」
「カーナ姫の息子……なんですよね?」
自分のうっかりやらかしを再確認されて、もうルシウスは恥じ入るばかりだ。
「ああ。昔お会いしたカーナ様そっくりの青年だった。このダンジョンは最悪、再び埋めてしまえば良いが、ご子息の亡骸だけは何としてでも回収せねばならん」
ルシウスが言うには、亡骸がダンジョンに取り込まれた際、空から落ちてきた魔物らしきものに入り込まれてしまった可能性があるという。
「ラスボスがどの程度の脅威かはわからんが、少なくともカーナ様のご子息の肉体はハイヒューマンだ。それなりの覚悟が必要だろう」
ルシウスやジューアによると、地下ダンジョンは地上の王都の真下にあって、広さも王都とほぼ同じだという。
「都市には外周に結界があるからな。これ以上拡大する危険がないのは良かった」
やらかしても破滅的な結果の手前で止まるのは聖者の仕出かしっぽかった。
「でもどうします? これなら探索の手間をかけずにルシウスさんやジューア様がラスボスのいる場所まで一直線に通路を開いたらそれで終わりですよ?」
先を進もうとした皆に、マッピング用に持参していたスケッチブックを開きながら、トオンが待ったをかけた。
「ラスボスがいるのは最深部ですよね? でもいきなりラスボスに直行すると危険だから、地下空間に複数あるっていう空間をひとまず全部繋いで、転移装置を設置することを優先しましょう」
「ならばここを基点にして」
開けた空間である現在地をエントランスとして、まず一つ目の転移装置を壁に埋め込む形で設置した。
深い内部まで進んで危険に陥ったとき、最寄の転移装置からすぐエントランスまで戻って来れるように。
「私とアイシャは左側を進んで道を作っていく。右側は姉様、彼らを引率しながらお願いします」
「任された」
ジューアに託されたトオンとユーグレンは心許なさそうな様子だ。
「私たちも魔法樹脂が使えれば手伝えるのだが……」
「あ、俺は魔術樹脂なら使えます。ルシウスさんに教えてもらって。環経由で」
「なら私も」
覚えたい、と主張したユーグレンにルシウスは困った顔になった。
「ユーグレン様。あなたは我らリースト一族の術とは相性が」
「お前は駄目に決まってる。今のアケロニア王族の先祖は我らの敵だったから」
「「そうなの!?」」
アイシャやトオンには初耳だったが、ジューアはムスッとした顔で説明してくれた。
「リースト一族は私の子孫にあたる一族だ。長は代々魔王と呼ばれてたから、そこの王太子の祖先の勇者が愚かにも討伐しようとたびたび戦いを仕掛けてきていた」
「つまり魔王と勇者の一族で対立していたことがある。……もっとも、後に和解してともに今のアケロニア王国に移住してきたんだ。今から千年ほど前だな」
以来、ふたつの一族は仲が良いそうで。
移住後、それぞれ伯爵位を授かって貴族として暮らしていたが、八百年ほど前にアケロニア王国の前王家が堕落して邪法で臣下と民を苦しめた。
それを討ったのがカズンやユーグレン王太子の先祖だ。以降、勇者の末裔だった伯爵家が新王家となって王朝交代し、現在のアケロニア王家となっている。
「だが、争った過去まで消えはしない。今でこそ二つの一族は仲が良いが、過去の因縁によって互いの持つ術を教え合うのは困難だ」
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