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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
お姉様に陥落した二人
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今日は探索初日。無理はせず内部を半日で行けるところまで進んで雰囲気を掴むに留めることにした。
マッピングもルシウスたち魔法樹脂の使い手が道を作ってから行うと話がまとまった。
ルシウスとアイシャは先に進むと言って地下空間の右側へ進んで行ってしまった。
残ったのは神人ジューアと、彼女に引率されるトオンとユーグレン王太子の『知性タイプ組』なわけだが。
トオンもユーグレンも、特にジューアが指示するまでもなく自発的にダンジョン攻略のプランをあれこれ練っては話し合っている。
あらかじめ冒険者ギルドの女ギルマスから『新ダンジョン攻略のしおり』を渡されていてガイドラインがあるのだ。
そんな二人は長い年月を生きてきた神人のジューアからすると尻に殻を付けたままの雛も良いところだった。
それでもこの二人の地頭が良く、知識も豊富なのは見ていればわかる。
(この子たちの場合、知識量に見合った実戦経験を積むのは骨が折れそうだな)
こうしてディスカッションに夢中になるタイプは経験が足りない傾向にあるとジューアは知っていた。
そもそも、どちらもあまり実践向きではなさそうだ。トオンは聖女アイシャの世話役だし、ユーグレンなど大国の王太子だ。別に本人が戦う必要はない。
よし、と一つ決めてジューアは地下空間の中で一番近くて広い場所を目指して、道を作りながら歩き始めた。
魔法樹脂の透明な壁は魔力に溶けて消失し、床は平らに。壁は多少歪みを持ちながらも輝きを反射して美しく。
やがて辿り着いた場所は宮殿の大広間並に広い。
内部をドーム状の半円で天井高く成形したところで、ジューアは会話しながら付いてきていた若者二人を振り返った。
「お前たち、話し合いも良いが実力はどの程度なのだ? この神人ジューアに見せてみよ」
「え? 実力?」
そんなのルシウスやアイシャと比べたら底辺、と軽口を叩きそうになったトオンは、ジューアの頭上に無数に浮かぶ透明な魔法剣にギョッとして後ずさった。
隣にいたユーグレンも言葉を失っている。
「少し揉んでやろう。さあ、かかってこい!」
そして神人ジューアに鍛え上げられたトオンとユーグレンは、見事に彼女の舎弟と化した。
「ジューアお姉様、今日はご指導ありがとうございました!」
「お姉様の教え、我ら本日しかと胸に刻みましたあっ!」
ダンジョン内でジューアに揉まれまくった結果、恐怖、いや畏怖の念を覚えたようだ。
「何ですかあれ。洗脳でも受けたんですかね」
「ううん、バッドステータスではないみたい。純粋にジューア様に心酔しただけみたいよ」
「心酔、ねえ」
秘書ユキレラが見るところ、トオンもユーグレンも強者に圧倒されて震える仔犬のよう。
夕方前にはダンジョンを出て、探索初日の打ち上げでレストラン・サルモーネに集まった。
個室に通されるなり、トオンとユーグレンがアレだったわけだ。
すかさずジューアのために椅子を引き、グラスにはお好みの白ぶどう酒を注ぎ、と甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「姉様は確かに厳しいが、根底には愛がある」
「愛、ですか」
「……多分」
何となく良い感じのことを言って、そそくさとルシウスが逃げていった。姉のフォローのつもりらしい。
ジューア本人は若い男を両隣に侍らせてご満悦である。
「トオン、ジューア様にどんな稽古をつけてもらったの?」
アイシャは純粋な興味で聞いただけだったのだが、トオンと、ジューアを挟んだ反対側に座っていたユーグレンはぷるぷると震えだした。
「じ、ジューアお姉様の魔法剣で扱いてもらったよ」
「あ、ああ。弾いても弾いても飛んでくる魔法剣に翻弄されて踊らされっぱなしだった。……文字通りな」
物理的に扱かれるだけでなく、合間に様々なら問答もあったようだ。
半日ジューアと過ごして、トオンとユーグレンはすっかり〝ジューアお姉様〟の強者っぷりにひれ伏してしまったと。
「二人とも、怪我なんかはしてない?」
「それは平気」
「雨のように魔法剣が降ってきたけどかすり傷一つ付いてないよ」
「その分、翻弄されるように踊らされてしまった……」
結果、二人は〝回避〟スキルを手に入れた。
「もしかしたら探索が終わる頃には冒険者ランクが上がるかもしれない」
しみじみとユーグレンが呟いていた。
今のところトオンはCランク、ユーグレンはBランクだ。
特にトオンのほうは元がただの古書店の店主でしかなかったからこれ以上のランクアップは諦めていたのだが、もしかするともしかするかもしれなかった。
マッピングもルシウスたち魔法樹脂の使い手が道を作ってから行うと話がまとまった。
ルシウスとアイシャは先に進むと言って地下空間の右側へ進んで行ってしまった。
残ったのは神人ジューアと、彼女に引率されるトオンとユーグレン王太子の『知性タイプ組』なわけだが。
トオンもユーグレンも、特にジューアが指示するまでもなく自発的にダンジョン攻略のプランをあれこれ練っては話し合っている。
あらかじめ冒険者ギルドの女ギルマスから『新ダンジョン攻略のしおり』を渡されていてガイドラインがあるのだ。
そんな二人は長い年月を生きてきた神人のジューアからすると尻に殻を付けたままの雛も良いところだった。
それでもこの二人の地頭が良く、知識も豊富なのは見ていればわかる。
(この子たちの場合、知識量に見合った実戦経験を積むのは骨が折れそうだな)
こうしてディスカッションに夢中になるタイプは経験が足りない傾向にあるとジューアは知っていた。
そもそも、どちらもあまり実践向きではなさそうだ。トオンは聖女アイシャの世話役だし、ユーグレンなど大国の王太子だ。別に本人が戦う必要はない。
よし、と一つ決めてジューアは地下空間の中で一番近くて広い場所を目指して、道を作りながら歩き始めた。
魔法樹脂の透明な壁は魔力に溶けて消失し、床は平らに。壁は多少歪みを持ちながらも輝きを反射して美しく。
やがて辿り着いた場所は宮殿の大広間並に広い。
内部をドーム状の半円で天井高く成形したところで、ジューアは会話しながら付いてきていた若者二人を振り返った。
「お前たち、話し合いも良いが実力はどの程度なのだ? この神人ジューアに見せてみよ」
「え? 実力?」
そんなのルシウスやアイシャと比べたら底辺、と軽口を叩きそうになったトオンは、ジューアの頭上に無数に浮かぶ透明な魔法剣にギョッとして後ずさった。
隣にいたユーグレンも言葉を失っている。
「少し揉んでやろう。さあ、かかってこい!」
そして神人ジューアに鍛え上げられたトオンとユーグレンは、見事に彼女の舎弟と化した。
「ジューアお姉様、今日はご指導ありがとうございました!」
「お姉様の教え、我ら本日しかと胸に刻みましたあっ!」
ダンジョン内でジューアに揉まれまくった結果、恐怖、いや畏怖の念を覚えたようだ。
「何ですかあれ。洗脳でも受けたんですかね」
「ううん、バッドステータスではないみたい。純粋にジューア様に心酔しただけみたいよ」
「心酔、ねえ」
秘書ユキレラが見るところ、トオンもユーグレンも強者に圧倒されて震える仔犬のよう。
夕方前にはダンジョンを出て、探索初日の打ち上げでレストラン・サルモーネに集まった。
個室に通されるなり、トオンとユーグレンがアレだったわけだ。
すかさずジューアのために椅子を引き、グラスにはお好みの白ぶどう酒を注ぎ、と甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「姉様は確かに厳しいが、根底には愛がある」
「愛、ですか」
「……多分」
何となく良い感じのことを言って、そそくさとルシウスが逃げていった。姉のフォローのつもりらしい。
ジューア本人は若い男を両隣に侍らせてご満悦である。
「トオン、ジューア様にどんな稽古をつけてもらったの?」
アイシャは純粋な興味で聞いただけだったのだが、トオンと、ジューアを挟んだ反対側に座っていたユーグレンはぷるぷると震えだした。
「じ、ジューアお姉様の魔法剣で扱いてもらったよ」
「あ、ああ。弾いても弾いても飛んでくる魔法剣に翻弄されて踊らされっぱなしだった。……文字通りな」
物理的に扱かれるだけでなく、合間に様々なら問答もあったようだ。
半日ジューアと過ごして、トオンとユーグレンはすっかり〝ジューアお姉様〟の強者っぷりにひれ伏してしまったと。
「二人とも、怪我なんかはしてない?」
「それは平気」
「雨のように魔法剣が降ってきたけどかすり傷一つ付いてないよ」
「その分、翻弄されるように踊らされてしまった……」
結果、二人は〝回避〟スキルを手に入れた。
「もしかしたら探索が終わる頃には冒険者ランクが上がるかもしれない」
しみじみとユーグレンが呟いていた。
今のところトオンはCランク、ユーグレンはBランクだ。
特にトオンのほうは元がただの古書店の店主でしかなかったからこれ以上のランクアップは諦めていたのだが、もしかするともしかするかもしれなかった。
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