婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
158 / 306
第三章 カーナ王国の混迷

パン屋に来襲、綿毛の羽のドラゴン

しおりを挟む
 と話していると、皆のいるパン屋の駐車場に大きな影が落ちた。

「?」

 美味しいパンとコーヒーで歓談していたアイシャたちが顔を上げると、何とそこには。

 ギャオーン!

「「「!????」」」

 真っ白の羽毛に覆われたドラゴンがいた。
 大きさはパン屋の屋根ほど。なぜか翼だけが透明で、広げた翼からは冬の薄い陽光がキラキラと透けている。

「ど、ドラゴン? 何でこんな街中に!?」

 慌てて騎士たちが剣を抜いて構えた。
 だがアイシャが彼らの前に腕を伸ばして押し留めた。

「必要ないわ。私が今もこの国に張ってる結界は、外から邪悪なものを侵入させない」
「で、ですがドラゴンがっ」

「あら、驚かせたみたいね。悪かったわ」

 聞き覚えのある冷静な少女の声がする。
 と同時に、ポンっと音を立てて真っ白のドラゴンが消失した。

「ピュイッ」

 いや仔犬サイズに小型化して、その場の宙に浮かんでいた。
 真っ白で見るからにふわふわ柔らかそうな羽毛を全身に持ち、ガーネット色の深みのある、大きく丸い目をした愛らしいドラゴンだった。
 小型化したからか、腹部が幼体のようにぽんぽんふっくら膨れていて丸っこい。

 背中の翼はガラスのように透明だったが、細い血管が張り巡らされていて、装備などではなく自前の翼であることがわかる。

「ジューア様。街中でドラゴンに乗るのは皆を驚かせてしまいます。ご自重ください」
「はいはい、わかったわよ」

 カーナ王国に滞在中の神人ジューアだった。
 青銀の腰まである長い髪を翻らせ、白いワンピースと、毛皮のポンチョコートを羽織った麗しの美少女である。



「おや、ルシウスさんのお姉さんじゃないか。焼き立てパンあるよ、どう?」
「おすすめは? 軽めのやつがいいわ」
「今朝はクリームパンかな」
「甘すぎるのは苦手なの」
「うちのクリームパンは甘いの嫌いな男どもでも大好きだよ」
「じゃあそれ、ひとつ」
「毎度あり!」

 コートの上から提げていた革のポシェットから財布を取り出して支払っていた。

「お金持ってたんだ、ジューアさん……」

 いつも弟のルシウスが払っていたから、てっきり手ぶらかと思っていたトオンだ。
 神人というぐらいだから浮世離れしているかと思えば、案外そうでもない。

 ささっとトオンがセルフサービスのコーヒーを紙コップに入れて、アイシャはジューアをストーブのあるテーブルへ促した。
 周りの人々は、突然ドラゴンに乗って現れた美少女の様子を窺っている。

「む。美味しいわね」

 小さな口でクリームパンを一口。
 この店のは最初の一口目からクリームぎっしりなのが嬉しい。
 手作りのカスタードクリームは全卵と牛乳で作った柔らかなタイプで、ほんのりバニラビーンズが香る優しい味がする。

 とそこへ、遠くから駆けてくるグレーのロングコート姿の麗しの男前の姿があった。

「姉様! まだ周知させてないドラゴンを乗り回すのはやめてくださいとあれほど言ったのに!」
「うるさい」

 口に半分食べかけのクリームパンを突っ込まれ、喉に詰まらせて悶えるルシウス。
 慌ててアイシャが手持ちのコーヒーを差し出すと、一気に飲み干して喉に詰まったパンを流し込んだ。

 ようやく一息ついたところで、皆に頭を下げた。

「姉が! 姉が申し訳ない!」
「あ、いや……うん、驚いたけど大丈夫、うん」
「姉弟だって? ルシウスさんが兄じゃなくて?」
「でもよく似てるなあ~。美人姉弟!」



 ともあれ、全力疾走して姉を追ってきたルシウスが落ち着いたところで、白い羽毛のドラゴンが紹介された。
 仔犬サイズに変化して浮いていたドラゴンをひょいっと大きな片手で掴んで、

「この竜は綿毛竜コットンドラゴンという竜種で。賢く優しい種族なので人間に危害を加えることはありません、安心してください」
「名前はあるのかい?」
「ユキノと言います。私の随獣でね。見かけたら声をかけてやってください、喜ぶので」

 よくよく見ると、首元に名前の刻印されたタグが見える。

「ピゥ……」

 その綿毛竜コットンドラゴンユキノは、羨ましそうに皆が食べているパンを見ている。

「ユキノ君は草食だから人間の食べるパンはお腹を壊してしまうぞ?」
「アップルパイの仕込みで出た皮や芯ならあるよ。食べるかい?」
「ピュアッ(おねがいします! リンゴだいすき!)」

「「「ん?」」」

 ドラゴンの鳴き声に重なるように頭の中で響いた声に、皆は首を傾げた。

綿毛竜コットンドラゴンは知性の高い竜種でな。信頼関係を築いた相手とは意思の疎通が取れるのだ」
「信頼関係って……」
ごはんえさをくれたらもうお友達ってことかねえ」

 笑いながらミーシャおばさんが、ボウルに入ったリンゴの皮や芯を持ってきた。
 新鮮なのか、まだほとんど変色もしていないそれに、綿毛竜コットンドラゴンは喜んで飛びついた。

 ひらり、と竜の身体から小さな羽毛が数枚落ちた。
 それを拾ってトオンが陽に透かした。
 ふんわりした真っ白い羽だ。

「アイシャ、さっき言ってたローブの素材の羽竜って」
「このドラゴンと同じ……かしら。私も実物を見たのは初めてだわ」

 しゃくしゃくと嬉しそうにリンゴの皮を齧るユキノをもふるルシウスを見ると、頷きを返された。

綿毛竜コットンドラゴンは分類上、羽竜で間違いない。それがどうかしたのか?」
「アイシャの使ってた聖女ローブの素材が羽竜の羽毛だったんですって」

 話を聞き終わったルシウスが、ユキノに何やら話しかけている。
 仔犬サイズの真っ白なドラゴンは、ふんふんと興味深そうに話を聞いている。

「ピューイッ(換毛期に抜けた羽ならあげてもいいよ!)」
「春と秋の終わり、年に二回ある。……新しいローブが作れるぐらい出るぞ?」

 もふっとどっさり。
 ルシウスは毎年、ユキノと番や子供たちから大量に出る抜けた羽毛を詰めた枕を作らせて、家族や親しい者たちに配っているそうだ。
 安眠が約束された超高級枕である。



「朝ごはんにミーシャおばさんの美味しいパンで英気を養って……今日も頑張ろうか、アイシャ」

 これから例の共和制実現会議なのだ。

「あ、忘れてた。あたし、調理師ギルドの製パン部門のまとめ役になったんだよ。神殿での祈願のご利益がさっそく出たみたいでさ」
「すごい出世じゃないか、ミーシャおばさん!」

 ルシウスやジューア姉弟と一緒に綿毛竜コットンドラゴンの背に乗ろうとしたところを呼び止められ、めでたい話を聞かされた。

「でしょ? そんで、製パン部門の皆で会合したとき酵母の話になってさ。聖女様に新しい聖別酵母の開発依頼をしてもいいか聞いてくれって言われてて」
「喜んでさせてもらうわ。美味しいパンやお菓子が増えるのは皆も喜ぶでしょうし」

 ミーシャおばさんからの打診はそのまま受けることにした。

 それを知った調理師ギルドの醸造部からは酒や調味料の新酵母開発も頼まれることに。

 更に酪農部からは、カマンベールチーズやブルーチーズなどのカビを使ったチーズ製品用の酵母まで、どんどん芋づる式に依頼が増えた。







※本作でもようやくユキノ君を出せました😃
初出は「家出少年ルシウスNEXT」の後半あたり~
しおりを挟む
感想 1,049

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。