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第三章 カーナ王国の混迷
神人の姉、来たる
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しかしそんな聖女エイリーの想いを嘲笑うかのように、カーナ王族は王都の別の場所を掘って、地下の古代生物の化石を削り、賎民呪法や媒体の魔導具を更に加工し続けていった。
『ううむ……。聖なる魔力の持ち主は、その土地に必要だから生まれると言われるが……』
『カーナ王国に、強い聖女のアイシャが生まれたのは必然ですよね……』
どう見ても建国当初の時点でカーナ王国は詰んでいる。
それを無理やり維持しようとして無理を重ねた結果、歴代の聖女や聖者たちへの負担は増え続け、縛るための契約を結ばせる手段も狡猾になっていった。
それからも定期的にカーナ姫は聖女エイリーの様子を見に来ていたが、そのたびにカーナ王家が積み重ねていく忌まわしき所業に優美な顔を顰めていた。
「地鎮祭もやらない国なんて有り得ないわ。どうするのよ、カーナ?」
カーナ姫の隣に立つ、青銀の腰まである長い髪、薄水色の瞳の少女が言った。目を瞠るほど麗しい少女だ。
虹色を帯びた真珠色の魔力を持つカーナ姫に対して、この青銀の髪の少女は虹色を帯びた夜空色の魔力を全身から放っている。
「こんな歪な邪法がいつまでも保つわけがない。自滅するまで待つ」
「あの出来損ないの聖女はどうするの?」
「彼女なりに動いているようだ。……エイリーは好きにさせるとしよう」
『あれっ? この人、先日ユキレラさんと一緒に挨拶された人?』
『ルシウスさんたちにそっくりだけど……』
『うーむ。もしや彼女は……私の縁者かも』
『『えええ!?』』
それ何で挨拶に来たときに気づかなかったの!? とアイシャとトオンが驚いているうちに、術が解けてきた。
現実に戻ってくると、術を発動する前にいなかったはずの少女が食堂にいて、しれっと自分もお茶を飲んでいた。
先ほど見たばかりの、長い青銀の髪の麗しの少女だ。
「あら、もうおしまい?」
「「「!???」」」
「落ち着け落ち着け。俺もいるぞーう」
「ビクトリノ様!」
少女の隣には、お久し振りの聖者ビクトリノがいてテーブル上の茶菓子を齧っている。
白髪の短髪に日に焼けた肌、銀の瞳の長身痩躯の壮年男性だ。懐の広そうな頼もしげな印象の男である。
「中に人の気配があるのに出てこないから、悪いが勝手に入らせてもらった。術の最中だったから大人しく待ってたぜ」
お茶はポットに残っていた分を失敬したようだ。
「そ、それで、そちらはどなた様で?」
トオンが恐る恐るビクトリノの隣の少女を見ると、ニヤッと笑った本人が飲みかけのカップを置いた。
少しだけ垂れ目がちの目は湖面の水色で、小動物のような愛らしさのある美少女だったが、その笑い方ひとつで一筋縄ではいかない人物なのがわかった。
「私は神人ジューア。魔人族と呼ばれるハイヒューマンで、そこのルシウスなる男の実の姉よ」
「!?」
ルシウスがすかさず席を立ち、食堂のドアから裏庭へ逃げようとしたが、神人ジューアの動きの方が早かった。
ルシウスに光り輝く魔法剣を放って逃亡を防止した。
目の前の壁に突き刺さる魔法樹脂製の魔法剣は、あと数ミリ横にズレていたらルシウスの高い鼻を削いでいただろう。
「弟よ、安心しなさい。私はお前が正しく成長したことも、魔力の制御を成し遂げたことも知っている。もう〝お尻ぺんぺん〟はしないから、席に戻りなさい」
「「お尻ぺんぺん!?」」
この麗しの男前の尻を、この美少女が叩くのか!? とアイシャとトオンがビックリして二人を交互に見遣った。
「ち、違う! 前に話しただろう、それはまだ私が赤ん坊の頃の話だ!」
「あー。一万年前の話でしたっけ?」
ルシウスは生まれながらに魔力が強すぎてコントロールできず、家族に魔法樹脂に長い年月ずっと封印されていたという話だった。
それが三十七年前に子孫である今の実家リースト家の子供に発見されて、以降は彼を兄として貴族子息としてアケロニア王国で育ったと。
「ね、姉様。なぜ今さら私の前に現れたのですか!?」
「今さらじゃないわよ。家の中から定期的に見守ってたわ」
「なんと!?」
「侍女に紛れてお前が実家を出る二十歳前頃までね」
「し、知らなかった……」
項垂れながらルシウスが椅子に座り直した。
そして、ふとあることに気づいた。
「む? なら私の秘書や家の者たちは姉様のことを知っていたのだろうか?」
神人ジューアはニンマリと笑っている。
「当然でしょ。お前の義父は真っ先に私に気づいてたわよ。家人たちはお前と兄がいつ気づくか賭けまでしてたのに、兄は気づかないまま死んで、お前はこの歳になるまで気づかなかった」
「のおおお……!」
生き別れの姉弟の再会なのに、まったく感動感がない。
頭を抱えてしまったルシウスは放っておいて、神人ジューアはアイシャたちに向き直った。
「そこの聖女が地下を浄化して、カーナ王国の邪魔な結界が消えたというから確認しに来たのよ。カーナが来ても問題ない土地になったかどうかね」
アイシャとトオンは先ほど術の中で見た、結界に弾かれていた一角獣の姿のカーナ姫を思い出した。
カーナ姫は獣人の神人だ。そのせいで、魔物や魔獣から守るため歴代の聖女聖者がカーナ王国の周囲に張り巡らせた結界にその身を阻まれ、国内に入れない状態が続いていた。
※オネエチャン...(´・Д・)
『ううむ……。聖なる魔力の持ち主は、その土地に必要だから生まれると言われるが……』
『カーナ王国に、強い聖女のアイシャが生まれたのは必然ですよね……』
どう見ても建国当初の時点でカーナ王国は詰んでいる。
それを無理やり維持しようとして無理を重ねた結果、歴代の聖女や聖者たちへの負担は増え続け、縛るための契約を結ばせる手段も狡猾になっていった。
それからも定期的にカーナ姫は聖女エイリーの様子を見に来ていたが、そのたびにカーナ王家が積み重ねていく忌まわしき所業に優美な顔を顰めていた。
「地鎮祭もやらない国なんて有り得ないわ。どうするのよ、カーナ?」
カーナ姫の隣に立つ、青銀の腰まである長い髪、薄水色の瞳の少女が言った。目を瞠るほど麗しい少女だ。
虹色を帯びた真珠色の魔力を持つカーナ姫に対して、この青銀の髪の少女は虹色を帯びた夜空色の魔力を全身から放っている。
「こんな歪な邪法がいつまでも保つわけがない。自滅するまで待つ」
「あの出来損ないの聖女はどうするの?」
「彼女なりに動いているようだ。……エイリーは好きにさせるとしよう」
『あれっ? この人、先日ユキレラさんと一緒に挨拶された人?』
『ルシウスさんたちにそっくりだけど……』
『うーむ。もしや彼女は……私の縁者かも』
『『えええ!?』』
それ何で挨拶に来たときに気づかなかったの!? とアイシャとトオンが驚いているうちに、術が解けてきた。
現実に戻ってくると、術を発動する前にいなかったはずの少女が食堂にいて、しれっと自分もお茶を飲んでいた。
先ほど見たばかりの、長い青銀の髪の麗しの少女だ。
「あら、もうおしまい?」
「「「!???」」」
「落ち着け落ち着け。俺もいるぞーう」
「ビクトリノ様!」
少女の隣には、お久し振りの聖者ビクトリノがいてテーブル上の茶菓子を齧っている。
白髪の短髪に日に焼けた肌、銀の瞳の長身痩躯の壮年男性だ。懐の広そうな頼もしげな印象の男である。
「中に人の気配があるのに出てこないから、悪いが勝手に入らせてもらった。術の最中だったから大人しく待ってたぜ」
お茶はポットに残っていた分を失敬したようだ。
「そ、それで、そちらはどなた様で?」
トオンが恐る恐るビクトリノの隣の少女を見ると、ニヤッと笑った本人が飲みかけのカップを置いた。
少しだけ垂れ目がちの目は湖面の水色で、小動物のような愛らしさのある美少女だったが、その笑い方ひとつで一筋縄ではいかない人物なのがわかった。
「私は神人ジューア。魔人族と呼ばれるハイヒューマンで、そこのルシウスなる男の実の姉よ」
「!?」
ルシウスがすかさず席を立ち、食堂のドアから裏庭へ逃げようとしたが、神人ジューアの動きの方が早かった。
ルシウスに光り輝く魔法剣を放って逃亡を防止した。
目の前の壁に突き刺さる魔法樹脂製の魔法剣は、あと数ミリ横にズレていたらルシウスの高い鼻を削いでいただろう。
「弟よ、安心しなさい。私はお前が正しく成長したことも、魔力の制御を成し遂げたことも知っている。もう〝お尻ぺんぺん〟はしないから、席に戻りなさい」
「「お尻ぺんぺん!?」」
この麗しの男前の尻を、この美少女が叩くのか!? とアイシャとトオンがビックリして二人を交互に見遣った。
「ち、違う! 前に話しただろう、それはまだ私が赤ん坊の頃の話だ!」
「あー。一万年前の話でしたっけ?」
ルシウスは生まれながらに魔力が強すぎてコントロールできず、家族に魔法樹脂に長い年月ずっと封印されていたという話だった。
それが三十七年前に子孫である今の実家リースト家の子供に発見されて、以降は彼を兄として貴族子息としてアケロニア王国で育ったと。
「ね、姉様。なぜ今さら私の前に現れたのですか!?」
「今さらじゃないわよ。家の中から定期的に見守ってたわ」
「なんと!?」
「侍女に紛れてお前が実家を出る二十歳前頃までね」
「し、知らなかった……」
項垂れながらルシウスが椅子に座り直した。
そして、ふとあることに気づいた。
「む? なら私の秘書や家の者たちは姉様のことを知っていたのだろうか?」
神人ジューアはニンマリと笑っている。
「当然でしょ。お前の義父は真っ先に私に気づいてたわよ。家人たちはお前と兄がいつ気づくか賭けまでしてたのに、兄は気づかないまま死んで、お前はこの歳になるまで気づかなかった」
「のおおお……!」
生き別れの姉弟の再会なのに、まったく感動感がない。
頭を抱えてしまったルシウスは放っておいて、神人ジューアはアイシャたちに向き直った。
「そこの聖女が地下を浄化して、カーナ王国の邪魔な結界が消えたというから確認しに来たのよ。カーナが来ても問題ない土地になったかどうかね」
アイシャとトオンは先ほど術の中で見た、結界に弾かれていた一角獣の姿のカーナ姫を思い出した。
カーナ姫は獣人の神人だ。そのせいで、魔物や魔獣から守るため歴代の聖女聖者がカーナ王国の周囲に張り巡らせた結界にその身を阻まれ、国内に入れない状態が続いていた。
※オネエチャン...(´・Д・)
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