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第三章 カーナ王国の混迷
冥福を祈る
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神人ジューアは普段は円環大陸の中央、永遠の国にいて、魔導具師ギルドの長として活動している。
今年、カーナ王国地下の穢れを垂れ流す古代生物を聖女アイシャが浄化した歴史に残る大慶事を受けて、カーナ王国入りして現地を確認していたと言った。
「私とカーナは古い友人でね。この曰く付きの国ともその縁で因縁があるから、わざわざ来てやったのよ」
今回は同じ永遠の国の教会大司祭の聖者ビクトリノがカーナ王国へ向かうと聞いていたので、一度永遠の国に戻ってから子飼いの飛竜に乗って連れてきたのだそうだ。
「この間はちょうど弟の一族を見かけたから、混ざってみただけ。ふふ、聖女のお前の顔を見ておきたかったのよ」
神人ジューアが確認したところ、地下の古代生物は完全に浄化されてもはや穢れは残っていない。
あとは古代生物の本体をどうするかだ。
「ほい、〝無欠〟の聖者ルシウスへ、お前さんの師匠から手紙を預かってるぜ」
「はあ、そうですか」
胡乱げな表情でルシウスが聖者ビクトリノから手紙を受け取った。
薄緑色の封蝋の封筒を開けてその場で手紙を読むルシウスの眉間に、深い皺が刻まれていく。
「ルシウスさん、何て?」
「……古代生物本体の調査を私にやれと書いてある。ビクトリノ、あなたではないのか?」
「俺は対人特化型の聖者だからそういうのは向いてねえよ。お師匠さんからの命令だ、頑張りなさいよ」
豪気なオヤジは両肩を竦めて見せた。
「じゃあ、姉様」
「いいけど、上にある王都の街が無事な保障はしないわよ?」
「……私がやるしかないのか……」
はああ、と麗しの男前が両肩を落としている。
「今日は気が滅入ることが多いな……」
「ん? 何かあったの、弟よ」
溜め息をついているルシウスに神人ジューアが訊いた。
ここに帰ってくる前、王城での共和制実現会議で起こった出来事をルシウスは掻い摘んで姉とビクトリノに話した。
旧王家の生き残り、レイ王子の殺害事件のことだ。
「そいつは、また」
「愚かなり人間。滅んでしまえばいいのに」
ビクトリノは眉を顰めて白髪の短髪頭を掻いていたし、神人ジューアの麗しの顔は忌々しげに歪められた。
「ビクトリノ様。レイ王子とお母様の冥福を一緒に祈っていただけますか。あっ、ルシウスさんも」
もちろん、と頷いたビクトリノとルシウスと三人でアイシャはそのまま食堂で座ったまま黙祷した。
教会大司祭のビクトリノが祈りを捧げていく。
「カーナ王国が末の王子、レイ王子とその母御に死後の安寧を。再び円環大陸に生まれ変わることあらば、前世の苦難を引き摺ることなく平穏無事な人生を送れるよう……」
アイシャとビクトリノの聖なる魔力はネオングリーンだ。ルシウスはネオンブルーの色をしている。
そして三人それぞれの聖なる芳香が重なって、白檀に似た芳しさに変わる。
(今の時代に十人しかいない聖女と聖者の三人がここに……思えばすごい光景だ)
トオンも異母弟の冥福を祈りながら、奇跡のような光景に感動していた。
三人の祈りは時間にしたら五分ほどだったが、聖女と聖者三人もの集中した祈りには確かな手応えがあった。
「死因は凍死か。凍えてはいても、死に際は安らかだったようだな」
「そりゃ低体温症で眠るように亡くなったってことだろ。苦痛が少なく済んだのは幸いだったのかねえ」
ルシウスとビクトリノが祈りの中で感じたレイ王子たちの魂の感覚について所感を話し合っている。
アイシャはといえば。
(私に助けを求めながら亡くなったみたいだし、聖女の加護を得ながら死ねた……と思いたいわ)
せめてもう少し早く彼らのことを思い出せていたらと思うが、後悔先立たずだった。
レイ王子の幼く愛らしい顔と、そんな息子を腕に抱く母親の笑顔を思い出して、アイシャは目尻に浮かぶ涙を拭った。
今年、カーナ王国地下の穢れを垂れ流す古代生物を聖女アイシャが浄化した歴史に残る大慶事を受けて、カーナ王国入りして現地を確認していたと言った。
「私とカーナは古い友人でね。この曰く付きの国ともその縁で因縁があるから、わざわざ来てやったのよ」
今回は同じ永遠の国の教会大司祭の聖者ビクトリノがカーナ王国へ向かうと聞いていたので、一度永遠の国に戻ってから子飼いの飛竜に乗って連れてきたのだそうだ。
「この間はちょうど弟の一族を見かけたから、混ざってみただけ。ふふ、聖女のお前の顔を見ておきたかったのよ」
神人ジューアが確認したところ、地下の古代生物は完全に浄化されてもはや穢れは残っていない。
あとは古代生物の本体をどうするかだ。
「ほい、〝無欠〟の聖者ルシウスへ、お前さんの師匠から手紙を預かってるぜ」
「はあ、そうですか」
胡乱げな表情でルシウスが聖者ビクトリノから手紙を受け取った。
薄緑色の封蝋の封筒を開けてその場で手紙を読むルシウスの眉間に、深い皺が刻まれていく。
「ルシウスさん、何て?」
「……古代生物本体の調査を私にやれと書いてある。ビクトリノ、あなたではないのか?」
「俺は対人特化型の聖者だからそういうのは向いてねえよ。お師匠さんからの命令だ、頑張りなさいよ」
豪気なオヤジは両肩を竦めて見せた。
「じゃあ、姉様」
「いいけど、上にある王都の街が無事な保障はしないわよ?」
「……私がやるしかないのか……」
はああ、と麗しの男前が両肩を落としている。
「今日は気が滅入ることが多いな……」
「ん? 何かあったの、弟よ」
溜め息をついているルシウスに神人ジューアが訊いた。
ここに帰ってくる前、王城での共和制実現会議で起こった出来事をルシウスは掻い摘んで姉とビクトリノに話した。
旧王家の生き残り、レイ王子の殺害事件のことだ。
「そいつは、また」
「愚かなり人間。滅んでしまえばいいのに」
ビクトリノは眉を顰めて白髪の短髪頭を掻いていたし、神人ジューアの麗しの顔は忌々しげに歪められた。
「ビクトリノ様。レイ王子とお母様の冥福を一緒に祈っていただけますか。あっ、ルシウスさんも」
もちろん、と頷いたビクトリノとルシウスと三人でアイシャはそのまま食堂で座ったまま黙祷した。
教会大司祭のビクトリノが祈りを捧げていく。
「カーナ王国が末の王子、レイ王子とその母御に死後の安寧を。再び円環大陸に生まれ変わることあらば、前世の苦難を引き摺ることなく平穏無事な人生を送れるよう……」
アイシャとビクトリノの聖なる魔力はネオングリーンだ。ルシウスはネオンブルーの色をしている。
そして三人それぞれの聖なる芳香が重なって、白檀に似た芳しさに変わる。
(今の時代に十人しかいない聖女と聖者の三人がここに……思えばすごい光景だ)
トオンも異母弟の冥福を祈りながら、奇跡のような光景に感動していた。
三人の祈りは時間にしたら五分ほどだったが、聖女と聖者三人もの集中した祈りには確かな手応えがあった。
「死因は凍死か。凍えてはいても、死に際は安らかだったようだな」
「そりゃ低体温症で眠るように亡くなったってことだろ。苦痛が少なく済んだのは幸いだったのかねえ」
ルシウスとビクトリノが祈りの中で感じたレイ王子たちの魂の感覚について所感を話し合っている。
アイシャはといえば。
(私に助けを求めながら亡くなったみたいだし、聖女の加護を得ながら死ねた……と思いたいわ)
せめてもう少し早く彼らのことを思い出せていたらと思うが、後悔先立たずだった。
レイ王子の幼く愛らしい顔と、そんな息子を腕に抱く母親の笑顔を思い出して、アイシャは目尻に浮かぶ涙を拭った。
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