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2話 自由な彼女は毎日を満喫する。
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一か月後―――。
アルフェニアは、陽だまりの中で揺れるカーテンをぼんやりと眺めていた。
「お嬢様、そろそろお出かけの準備をなさってはいかがですか?」
侍女のリリアが控えめに声をかける。
「ええ、わかっているわ。もう少しだけ、この空気を楽しませて」
アルフェニアは小さくため息をつきながら、テーブルの上に置かれた本に視線を戻した。優雅な装丁の小説は、先ほどまで夢中になって読んでいたものだ。
もうすぐ終わりそうだが、続きを読めるのは旅先でだろう。
これから赴く隣国のコーニッシュは、海を挟んだ東の国の文化の影響を受けて、とても面白く心が高ぶるような本がたくさんある国として知られている。
研究書はもちろん、物語や子供向けの絵付きの賑やかな内容の本まで、多様な種類があるという。
「ああ。早く行ってみたいわ。最初はどんな本を読もうかしら」
「お嬢様。旅のことを考えていては冷めてしまいますよ」
「あら、いけない」
窓辺に設えられたティーテーブルには紅茶と、手作りのスコーンが並んでいる。
彼女は手を伸ばし、たっぷりとジャムを塗ったスコーンを一口頬張る。
「んん、やっぱり最高。これが本来の自由ってやつね」
「お嬢様、そのスコーンは私たちが焼いたのですよ!」
別の侍女、サラが微笑みながら冗談交じりに声を上げる。
彼女はアルフェニアが楽しそうに食べている姿に安堵していた。あの婚約者候補の一件以来、お嬢様が元気を取り戻してくれるかどうか、家中が心配していたのだ。
だが、そんな心配は杞憂だった。
アルフェニアは婚約者候補から外れた直後こそ多少、慰謝料を巡って両親を困らせたが、結果的に見舞金を受け取り、以前よりもずっと生き生きとした日々を送っている。
「ところでお嬢様、今朝また山のような縁談が届いておりましたよ」
リリアが積み上がった書類の山を指差す。
「また?…いつになったら終わるのかしら」
アルフェニアは顔をしかめた。元婚約者候補という肩書が、どうやらいまだに彼女の魅力を引き立てているらしい。しかし本人にとっては迷惑な話だ。
「全部、断っておいてちょうだい。明日から旅に出るんですもの。相手を選んでいる暇なんてないわ」
「かしこまりました」
侍女たちは微笑を交わしつつ、書類の山をさっさと片付け始めた。彼女たちもまた、お嬢様が旅を楽しみにしている様子を見てほっとしているのだ。
そこへ両親が扉の隙間からコッソリ顔を出した。
「アルフェニア、本当に行くつもりなのか?」
父親が心配そうに声をかける。
「もちろんよ。これまで自由なんてなかったんですもの。どれだけ楽しいか試してみたいの」
母親は少し困ったような顔をしながらも、娘の意志の強さに苦笑を浮かべる。
「旅先で困ったことがあったら、すぐに知らせてちょうだいね。どこにいても助けに行くわ」
「ありがとう、お母様。でも大丈夫。私、意外としっかりしてるのよ?」
アルフェニアの冗談に、家族と侍女たちは思わず笑った。
「それでは、お嬢様。明日のご出発に向けて、準備を整えておきます」
リリアが頭を下げ、他の使用人たちもそれに続いた。アルフェニアは立ち上がり、部屋の窓から外を見た。穏やかな庭園の向こうには、遥か遠くに続く地平線が広がっている。
「さて、どんな冒険が待っているのかしら。楽しみね」
彼女はそっと微笑むと、背筋を伸ばして新しい一歩を踏み出す決意を固めた。
アルフェニアは、陽だまりの中で揺れるカーテンをぼんやりと眺めていた。
「お嬢様、そろそろお出かけの準備をなさってはいかがですか?」
侍女のリリアが控えめに声をかける。
「ええ、わかっているわ。もう少しだけ、この空気を楽しませて」
アルフェニアは小さくため息をつきながら、テーブルの上に置かれた本に視線を戻した。優雅な装丁の小説は、先ほどまで夢中になって読んでいたものだ。
もうすぐ終わりそうだが、続きを読めるのは旅先でだろう。
これから赴く隣国のコーニッシュは、海を挟んだ東の国の文化の影響を受けて、とても面白く心が高ぶるような本がたくさんある国として知られている。
研究書はもちろん、物語や子供向けの絵付きの賑やかな内容の本まで、多様な種類があるという。
「ああ。早く行ってみたいわ。最初はどんな本を読もうかしら」
「お嬢様。旅のことを考えていては冷めてしまいますよ」
「あら、いけない」
窓辺に設えられたティーテーブルには紅茶と、手作りのスコーンが並んでいる。
彼女は手を伸ばし、たっぷりとジャムを塗ったスコーンを一口頬張る。
「んん、やっぱり最高。これが本来の自由ってやつね」
「お嬢様、そのスコーンは私たちが焼いたのですよ!」
別の侍女、サラが微笑みながら冗談交じりに声を上げる。
彼女はアルフェニアが楽しそうに食べている姿に安堵していた。あの婚約者候補の一件以来、お嬢様が元気を取り戻してくれるかどうか、家中が心配していたのだ。
だが、そんな心配は杞憂だった。
アルフェニアは婚約者候補から外れた直後こそ多少、慰謝料を巡って両親を困らせたが、結果的に見舞金を受け取り、以前よりもずっと生き生きとした日々を送っている。
「ところでお嬢様、今朝また山のような縁談が届いておりましたよ」
リリアが積み上がった書類の山を指差す。
「また?…いつになったら終わるのかしら」
アルフェニアは顔をしかめた。元婚約者候補という肩書が、どうやらいまだに彼女の魅力を引き立てているらしい。しかし本人にとっては迷惑な話だ。
「全部、断っておいてちょうだい。明日から旅に出るんですもの。相手を選んでいる暇なんてないわ」
「かしこまりました」
侍女たちは微笑を交わしつつ、書類の山をさっさと片付け始めた。彼女たちもまた、お嬢様が旅を楽しみにしている様子を見てほっとしているのだ。
そこへ両親が扉の隙間からコッソリ顔を出した。
「アルフェニア、本当に行くつもりなのか?」
父親が心配そうに声をかける。
「もちろんよ。これまで自由なんてなかったんですもの。どれだけ楽しいか試してみたいの」
母親は少し困ったような顔をしながらも、娘の意志の強さに苦笑を浮かべる。
「旅先で困ったことがあったら、すぐに知らせてちょうだいね。どこにいても助けに行くわ」
「ありがとう、お母様。でも大丈夫。私、意外としっかりしてるのよ?」
アルフェニアの冗談に、家族と侍女たちは思わず笑った。
「それでは、お嬢様。明日のご出発に向けて、準備を整えておきます」
リリアが頭を下げ、他の使用人たちもそれに続いた。アルフェニアは立ち上がり、部屋の窓から外を見た。穏やかな庭園の向こうには、遥か遠くに続く地平線が広がっている。
「さて、どんな冒険が待っているのかしら。楽しみね」
彼女はそっと微笑むと、背筋を伸ばして新しい一歩を踏み出す決意を固めた。
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