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3話 ジークフリードの後悔
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一年後。
隣国に留学していたアルフェニアは、隣国コーニッシュの国王との交渉に成功し、現在は外交部門の特使として母国との仲介役を務めていた。その見事な手腕により、隣国では高く評価される存在となっていた。
初めこそ「失格した婚約者候補」という目で見られていたアルフェニアだが、努力家でまじめ、理知的で柔軟な姿勢が徐々に評価され、コーニッシュ国内では彼女との婚姻を希望する貴族たちが次々に現れ、大変な話題となっていた。
一方その頃、ジークフリードは新たな婚約者との関係が悪化し、孤立する日々を送っていた。アルフェニアが婚約者候補から外されてからわずか一ヶ月の間に、他の婚約者候補たちが次々と辞退。家柄や責任感、矜持を持つ候補者たちは、ジークフリードの怠惰さや不勉強さに辟易し、家族を巻き込んで辞退を決定したのだった。
残ったのは、ジークフリードが寵愛していたレイセニール男爵令嬢ただ一人。しかし、彼女もまたジークフリードの期待するような妃の役割を果たせず、最終的に婚約者の地位を捨てることとなる。孤立無援となったジークフリードは、自らの愚かさを悔いながら、ようやく学び直し努力を始めるも、その代償はあまりに大きかった。
ジークフリードは思い返していた。
自分がなぜアルフェニアを苦手としていたのか。
彼女は常に冷静で義務に忠実であり、愛情を示すような仕草は皆無だった。
豪華な宝飾品を贈れば突き返され、ならば着るものをと令嬢たちがこぞって指名する有名なデザイナーを呼びつけ、ドレスを作らせようとした時も彼女は拒否をした。
そんなことより、王城の図書館に行き、以前から気になっていた閲覧禁止の本を読む機会を与えて欲しい、と願ってきた。自分が心をかけて用意した贈り物より、古びて埃をかぶり、誰からも相手にされないような書物を望むとはと、嘲笑しながらそれでも願いは叶えた。
思えばそう。
彼女があの美しい青色の瞳を喜びで満たし、心からの笑顔を向けたのは、あの時限りではなかっただろうか。
定期的に設定された各令嬢たちとの茶会の中で、アルフェニアはその出来事をまるで夢のようだったと語ったが、ジークフリードもレイセニールもぼんやりと微笑んで頷き返すだけで、さしたる興味は示さなかった。
彼女が書物を愛していたように、自分は心を向けられたかったのかもしれない、と思った。
自分には、心から愛し、愛される関係が必要だと信じていた。
そんな中、彼に笑顔と優しさを注ぎ、愛情を示してくれたのがレイセニールだった。
だが、今にして思えば、それは真の意味での愛ではなく、互いの未熟さに基づく依存だったのかもしれない。
***************
――翌月。
厄介な外交交渉の場で、ジークフリードは久しぶりにアルフェニアと再会した。
コーニッシュとの関税会議の場に現れたアルフェニアは、美しい銀髪を結い上げ、青い瞳を煌めかせ「知恵の女神」のような姿で、交渉の中心に立っていた。
厳しい駆け引きの中、彼女は冷静に対応し、圧倒的な知識と交渉術で場を支配していた。
難航するかと思われた交渉が意外にあっさりと「負け確定」の状態で終了し、コーニッシュを訪れた特使たちの控え室ではため息が広がっていた。
誰もが彼女の才覚に感嘆し、その場にいた一人がその場にいた全ての人間の心情を代弁するかのようにぽつりと漏らした。
「アルフェニア様が王子の正式な婚約者でいらしたら、我が国の状況は一変していただろうな」
コーニッシュの特使と廊下で立ち話をした後、部屋に戻ったジークフリードはその言葉に胸を突かれる思いだった。
隣国に留学していたアルフェニアは、隣国コーニッシュの国王との交渉に成功し、現在は外交部門の特使として母国との仲介役を務めていた。その見事な手腕により、隣国では高く評価される存在となっていた。
初めこそ「失格した婚約者候補」という目で見られていたアルフェニアだが、努力家でまじめ、理知的で柔軟な姿勢が徐々に評価され、コーニッシュ国内では彼女との婚姻を希望する貴族たちが次々に現れ、大変な話題となっていた。
一方その頃、ジークフリードは新たな婚約者との関係が悪化し、孤立する日々を送っていた。アルフェニアが婚約者候補から外されてからわずか一ヶ月の間に、他の婚約者候補たちが次々と辞退。家柄や責任感、矜持を持つ候補者たちは、ジークフリードの怠惰さや不勉強さに辟易し、家族を巻き込んで辞退を決定したのだった。
残ったのは、ジークフリードが寵愛していたレイセニール男爵令嬢ただ一人。しかし、彼女もまたジークフリードの期待するような妃の役割を果たせず、最終的に婚約者の地位を捨てることとなる。孤立無援となったジークフリードは、自らの愚かさを悔いながら、ようやく学び直し努力を始めるも、その代償はあまりに大きかった。
ジークフリードは思い返していた。
自分がなぜアルフェニアを苦手としていたのか。
彼女は常に冷静で義務に忠実であり、愛情を示すような仕草は皆無だった。
豪華な宝飾品を贈れば突き返され、ならば着るものをと令嬢たちがこぞって指名する有名なデザイナーを呼びつけ、ドレスを作らせようとした時も彼女は拒否をした。
そんなことより、王城の図書館に行き、以前から気になっていた閲覧禁止の本を読む機会を与えて欲しい、と願ってきた。自分が心をかけて用意した贈り物より、古びて埃をかぶり、誰からも相手にされないような書物を望むとはと、嘲笑しながらそれでも願いは叶えた。
思えばそう。
彼女があの美しい青色の瞳を喜びで満たし、心からの笑顔を向けたのは、あの時限りではなかっただろうか。
定期的に設定された各令嬢たちとの茶会の中で、アルフェニアはその出来事をまるで夢のようだったと語ったが、ジークフリードもレイセニールもぼんやりと微笑んで頷き返すだけで、さしたる興味は示さなかった。
彼女が書物を愛していたように、自分は心を向けられたかったのかもしれない、と思った。
自分には、心から愛し、愛される関係が必要だと信じていた。
そんな中、彼に笑顔と優しさを注ぎ、愛情を示してくれたのがレイセニールだった。
だが、今にして思えば、それは真の意味での愛ではなく、互いの未熟さに基づく依存だったのかもしれない。
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――翌月。
厄介な外交交渉の場で、ジークフリードは久しぶりにアルフェニアと再会した。
コーニッシュとの関税会議の場に現れたアルフェニアは、美しい銀髪を結い上げ、青い瞳を煌めかせ「知恵の女神」のような姿で、交渉の中心に立っていた。
厳しい駆け引きの中、彼女は冷静に対応し、圧倒的な知識と交渉術で場を支配していた。
難航するかと思われた交渉が意外にあっさりと「負け確定」の状態で終了し、コーニッシュを訪れた特使たちの控え室ではため息が広がっていた。
誰もが彼女の才覚に感嘆し、その場にいた一人がその場にいた全ての人間の心情を代弁するかのようにぽつりと漏らした。
「アルフェニア様が王子の正式な婚約者でいらしたら、我が国の状況は一変していただろうな」
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