桜と椿

星野恵

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百花繚乱

「鬼灯」三

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網戸の外から、コオロギの鳴く音が聞こえる。
自分の部屋のベッドの上で横になり、僕は、今日の出来事を反芻した。
「何考えているんだ?鬼退治の事か?」
用心棒の彼が、再び僕の部屋の物を物色しながら尋ねてきた。
「…応じるべきかな?」
「…俺はあんまり戦いたくないからそんなに気が乗らない」
「『可能性は少ないけど、戦闘に巻き込まれる場合も起こりうる』って言ってたしね…」
「…西の方の島に鬼がいて、そいつらのせいで異変が生じてるんだっけか」
「よくわかんなかったけどそうらしい」
「…というか、今時鬼なんているんだな。俺が生きていた時でも鬼なんてほとんど見なかったぞ」
「…君が生きてたのって、どのぐらい前なんだい?」
「…まあ、大昔だね」
そう言うと彼は何故かそっぽを向いて、ベランダのガラス製の風鈴に目を向けた。
「…ねえ、そういえば、ずっと気になってたんだけど、君の名前、なんていうんだい?」
「…俺の名前?知る必要なんてないだろ」
「…いやだって、名前知らんと不便じゃん」
「…そういう君は、なんて名前なんだ?山本っていう苗字だけは知れたけど」
「…君が言ってくれるまで言わない」
「なんだそれ」
「お互い様だよ」

ポケットの中から、携帯電話のバイブ音が聞こえた。
今日の市場で遭った、鬼灯六郎からメールが届いている。
『急かすようで悪いけど18日までに参加の可否を教えてくれると嬉しい』という旨が書いてあった。

…決めた。
「…参加したい。だから、君にも、僕と一緒についてきてほしい」
「…山本」
「…君に迷惑をかけるのは申し訳ないと思う。でも、人に見えないものが見えることで、誰かの役にたったことなんて、今までなかったんだ。…だから、」
「自分の力を使って誰かを助けたい、ってところか。いいぜ、つきあってやる、君のその奉仕の精神がなけりゃ俺は未だに鎖に繋がれたままだろうしな」
「…ありがとう。でもね、当たり前のように一緒に来てもらおうとしてるけど…、嫌だったり怖かったりしたらついてこないでもいいんだよ?」
「いや全くそんなことはないけど…」
彼は、キョトンとした目をこちらに向けた。
「…ありがとう、頼もしいね」

僕は、携帯電話を取り出し、「鬼退治に関わられる関係者各位」と書かれたメールに、「可」と記入して、返信した。
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