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「じゃあ、休職ということで少し休んでもらっても構わないよ。とりあえず、辞めるのはもう少し考えてもらって」

「ムリです」

 私は現在、校長室で校長と面談中だ。現在季節は1月。そろそろ次の年度の教員の異動などを考える時期である。だったら、この機会を逃すわけにはいかない。教員という職業上、年度の途中で辞めるとは言いにくい。辞めるタイミングは今しかない。3月まで頑張ってそれから休めばいい。とはいえ、そう簡単に学校側はハイとは言いにくいのが現状だ。

 それは、どの教科にも共通しているが、家庭科などの教科はそれがさらに顕著だ。主要教科の国語、数学、英語などはまだ代わりが集めやすいが、その他の教科になるとなかなか代わりの人材を見つけるのが大変らしい。私のほかにも辞めていく教師はいたが、後任を見つけるのに苦労していたのを知っている。

 だからと言って、このまま教師生活を続けるのは身体的にも精神的にもきつすぎる。最近は夜も眠れないし、朝起きて会社に行こうとすると腹痛が起きる。さらにはなにに対してもやる気が出ないという状況が続いている。

 いっそのこと、心療内科に通おうかと思っていたが、とりあえずは仕事を辞めることが先決だ。心療内科に通って診断をもらって休職するのも悪くはないが、私はいったん、教師という職から離れたかった。

「ワカリマシタ」

 私が何を言っても聞かないとわかった校長は、嫌そうな顔をしながらも、最終的に私が辞めることを認めてくれた。

「はああああああ」

 校長室を出ると、緊張の糸が切れたのか一気に疲れが出てため息が出てしまう。

「笹木先生、どうしたの?」

 事情を知らない生徒が話しかけてくる。気を抜いてしまったが、ここは学校で、私は今、校長室前の廊下に立っていた。

「ああ、別に何もないよ。今日は天気が悪いから憂鬱だなと思って」

「確かに、雪が降りそうなどんよりとした曇り空だもんね」

「そうそう」

 とっさに口から出た言葉はあながち嘘でもない。ストレスが溜まっているのか、昔はなかった天気痛のような症状が出始めていた。天気が悪い日は頭痛に悩まされている。今も、ずきずきとこめかみ辺りが痛んでいる。

 生徒は私の言葉に納得したように頷き、そのまま私の前を通り過ぎていく。

「あと、3か月の辛抱だ」

 誰もいなくなった廊下で私は、残りの教師生活を悔いの残らないように頑張ろうと決意した。

 
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