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「ねえ、先生。先生って、来年もうちの学校?」

「ええと」

「なんかさ、先生って、ほかの先生よりも話しやすいっていうか」
「それ、私も思った!」
「私も私も!」
 
 せっかく辞められるとわかって安堵していたのに、こんなことを言う生徒は残酷だ。家庭科の授業は2時間続きの場合が多い。そのため、休み時間を生徒達と過ごす時間も当然ある。

 2年生の授業を教えていたときのことだ。2年生の実習で私は彼らにきんちゃく袋を作らせていた。休み時間に新たな部分の作成の手順をどう教えようかと考えて、被服室の前で椅子に座って考えていたら声をかけられた。

「どうだろうね。こればっかりは先生の思うようにはいかないからね」

 私が困った顔で言えば、生徒たちはうんうんと唸っている。言葉通り、教師の異動は希望を出したとして通らないことがあり、さらには行きたくない場所に飛ばされることもしばしばだ。小学校の先生をしていて、急に中学校に異動とか、逆も然り。

「でもさあ、先生ってうちの学校に来て3年目でしょ。先生って3年で異動ってこともあるけど、ワンチャン、来年もうちの学校ってことあるよね?」

「5年とか、それ以上の場合もあるでしょ。ほら、あのヒステリック女とか、もう5年以上、うちの学校にいるらしいよ。早くほかの学校に行けって思う」

「それ、あいつはさっさと異動して欲しいよね。先生もそう思うでしょ。ていうか、先生って、他の先生からなめられてるよね?もっとガツンと言ってやりなよ」

 私の異動の話をしていたかと思えば、今度は他の先生の愚痴である。それを私がいる場所で言われても困る。生徒たちは私を何だと思っているのか。私だって3月まではれっきとした教師。今、あなたたちが愚痴を言っている側の人間だ。

それにしても、なめられているとはよく見ている。実際に私に対する態度は、偏見に満ちたものが多い。

「先生?」

「そろそろ、チャイムが鳴りますよ。その話は先生のいないところで話しなさい。間違っても本人たちには言わないように」

「いう訳ないでしょ。言ったら絶対にヒス起こして面倒なことになる!」

 話は終わりとばかりに席を立って、生徒たちに時計を見るよう促すと、彼女達はしぶしぶと自分たちの席に戻りだす。

 嫌なことを思い出させないで欲しい。私は他の教師に言われた言葉の数々を思い出してげんなりした。
 

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