結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
195 / 234

番外編【恒例行事になりそうです】4隣同士の席

しおりを挟む
「私は紗々先輩の隣の席に座りたいです!」

「私は江子先輩の隣がいいです!」

「ここは平等にじゃんけんで席を決めましょう」

 今日はなぜか、退勤後に先日、叶わなかった女性三人での食事会をしていた。当然、メンバーは私と河合さん、梨々花さんの三人だ。

 私たちは、会社近くのファミレスで夕食を取っていた。まさか、こんなに早く三人での食事会が実施されるとは思っていなかった。梨々花さんの当間との別れ話に紛れて、食事会はなくなったと思っていた。

 ファミレスは平日の夜だというのに、家族連れや仕事帰りの人たちでにぎわっていた。しかし、河合さんが予約をしていたおかげで、店に着くとすぐに席に案内された。ネットで簡単に予約ができるらしい。今の世の中、便利なものだ。

 席は私の正面に河合さんと梨々花さんが座るという形に落ち着いた。古典的にじゃんけんで席を決めることになった結果である。梨々花さんは大喜びだったが、河合さんは悔しそうな顔をしていた。

それにしても、梨々花さんのコミュニケーション能力には頭が上がらない。1月に入ってから急激に私たちに接近してきたかと思うと、もうすでに、私と河合さんと同等の古参の振る舞いをしている。

 席が決まり、各自決まった席に座る。私の正面に座った河合さんと梨々花さんは、仲良く注文用のタブレットを覗き込んでいる。傍から見たら、仲の良い友人同士に見えた。

「隣の席に誰かいるのも、アリかも……」

『何か言いました?』

 私の独り言は彼女達に聞こえていたらしく、きれいなハモリの返答があった。隣の席の人と一緒にメニューを見ながら料理を決める。何か小説の小ネタとして使えそうだ。決してリア充な光景で羨ましいとは思っていない。

 タブレットは各テーブルに一台しかないので、私はテーブルに置いてあった紙のメニュー表を広げて何を注文しようかと考える。

「私は、これにします。フランス料理のセットがこのお値段で食べられるなんてお得です」

「私も同じにしようかな。先輩はどうします?」

「唐揚げ定食にします」

 二人はメニューが決まったようだ。紙のメニューにも期間限定でおすすめされている。しかし、今はフレンチの気分ではなかったので、無難に唐揚げのセットを頼むことにした。


「昨日の夜、さっそくきらりさんから電話がかかってきて、驚きました。先輩って、そんなにきらりさんと仲が良かったんですか?」

「いえ、そこまで仲は良くないですけど、1月も終わるし、早めに予定は聞いておいた方がいいかと思って」

「でも、おおたかっちよりも先にきらりさんに連絡したんですよね?」

「まあ、そうですけど」

 料理をタブレットで注文して待っている間に、四人でのお菓子作りの話になった。私が話す前に河合さんがきらりさんの話しをしてきて困惑してしまう。昨日の今日で情報が筒抜けとは恐ろしい。

「はあああ。旦那さんに相談する前に彼女と連絡を取ったとは。浅はかですね」

 梨々花さんは私たちの話しを聞いて、大きなため息をつく。年上に向かって浅はかとはいったいどいうことか。バカにされているのはわかるが、彼女に大鷹さんの何がわかるというのか。思わず梨々花さんを睨んでしまう。

「睨んでも怖くありません。そもそも、倉敷さんの旦那さんは不本意ですが、あなたのことがとおおおおおおっても好きみたいですよね?私には到底理解できないですが、愛が重い。下手したらあなたの行動次第では、私たちに多大な迷惑が掛かるわけです。そこは理解できますか?」

 まるで、私の方が年下みたいな話し方だ。大鷹さんの愛が重いのは知っているが、それが他人に迷惑をかけているとは思えない。何を根拠にそんなでたらめを言うのか。睨みつけるような視線は怖くないと言われてしまう。

 そもそも、梨々花さんは大鷹さんに会ったことがないはずだ。電話で声だけは聞いているが、それだけで大鷹さんの性格を理解できるはずがない。

「梨々花ちゃん、先輩をあまりいじめないの。先輩はただでさえ、コミュ力が低くて、引きこもりなんだから、そんないじめてばかりいたら、本当に嫌われちゃうよ。そして、徹底的に無視されるかも。もしそうなったら」

 私もあなたの事を嫌いになって、同じように無視するけどいいの?

 梨々花さんを注意してくれるかと思ったら、河合さんはとんでもないことを言い出した。前半は私の悪口みたいだし、その後の発言も問題だ。私が本気で梨々花さんを嫌いになったら、河合さんも彼女と距離を置くつもりらしい。距離を置くというより、無視。どう反応したらいいだろうか。

「そ、それは困ります。倉敷さんに無視されるのもなんだかむかつく……。ゴホン。嫌ですけど、江子先輩に嫌われて無視されたら私、私……」

「うわ、本当に泣いてる」

 梨々花さんが突然、手を目の下に置いて、泣き出してしまった。嘘泣きかと思ったが、本当に目じりから涙がにじんでいる。コミュ力が高いと、自らの意思で涙を流せるのか。驚いて心の声が口から出てしまう。むかつくという不穏な言葉も聞こえた気がするが、そこは無視することにしよう。

 梨々花さんが泣き出すと、河合さんが梨々花さんの背中に手を置き、ゆっくりとさすり始めた。そして、私に非難の目を向ける。

「先輩が梨々花ちゃんを泣かせたんですよ。まったく、年上なんだから、後輩には優しく接しないと。今時の若者は繊細なんですから」

「江子先輩、倉敷さんがいじめてきますう」

「よしよし。梨々花ちゃんも反省してね」

「ワカリマシタ。もう、倉敷さんに変なことは言いません。でもでも、私は事実を言っただけだですけど」

「いや、事実って」

「そうだね。でも、事実でも口にしない方がよいこともあるからね」

 私の言葉は無視され、引き続き、河合さんは梨々花さんの機嫌を取るように優しい言葉を投げかける。

「オマタセシマシタ。リョウリヲオトリクダサイ」

 話しているうちに料理が配ぜんロボットによって運ばれてきた。タブレットにロボット。時代はどんどん便利になっている。

『いただきます』

 料理を受け取り、私たちは手を合わせて挨拶する。私たちはいったん、話を中断して温かいうちに料理を食べるのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...