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番外編【恒例行事になりそうです】4隣同士の席
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「私は紗々先輩の隣の席に座りたいです!」
「私は江子先輩の隣がいいです!」
「ここは平等にじゃんけんで席を決めましょう」
今日はなぜか、退勤後に先日、叶わなかった女性三人での食事会をしていた。当然、メンバーは私と河合さん、梨々花さんの三人だ。
私たちは、会社近くのファミレスで夕食を取っていた。まさか、こんなに早く三人での食事会が実施されるとは思っていなかった。梨々花さんの当間との別れ話に紛れて、食事会はなくなったと思っていた。
ファミレスは平日の夜だというのに、家族連れや仕事帰りの人たちでにぎわっていた。しかし、河合さんが予約をしていたおかげで、店に着くとすぐに席に案内された。ネットで簡単に予約ができるらしい。今の世の中、便利なものだ。
席は私の正面に河合さんと梨々花さんが座るという形に落ち着いた。古典的にじゃんけんで席を決めることになった結果である。梨々花さんは大喜びだったが、河合さんは悔しそうな顔をしていた。
それにしても、梨々花さんのコミュニケーション能力には頭が上がらない。1月に入ってから急激に私たちに接近してきたかと思うと、もうすでに、私と河合さんと同等の古参の振る舞いをしている。
席が決まり、各自決まった席に座る。私の正面に座った河合さんと梨々花さんは、仲良く注文用のタブレットを覗き込んでいる。傍から見たら、仲の良い友人同士に見えた。
「隣の席に誰かいるのも、アリかも……」
『何か言いました?』
私の独り言は彼女達に聞こえていたらしく、きれいなハモリの返答があった。隣の席の人と一緒にメニューを見ながら料理を決める。何か小説の小ネタとして使えそうだ。決してリア充な光景で羨ましいとは思っていない。
タブレットは各テーブルに一台しかないので、私はテーブルに置いてあった紙のメニュー表を広げて何を注文しようかと考える。
「私は、これにします。フランス料理のセットがこのお値段で食べられるなんてお得です」
「私も同じにしようかな。先輩はどうします?」
「唐揚げ定食にします」
二人はメニューが決まったようだ。紙のメニューにも期間限定でおすすめされている。しかし、今はフレンチの気分ではなかったので、無難に唐揚げのセットを頼むことにした。
「昨日の夜、さっそくきらりさんから電話がかかってきて、驚きました。先輩って、そんなにきらりさんと仲が良かったんですか?」
「いえ、そこまで仲は良くないですけど、1月も終わるし、早めに予定は聞いておいた方がいいかと思って」
「でも、おおたかっちよりも先にきらりさんに連絡したんですよね?」
「まあ、そうですけど」
料理をタブレットで注文して待っている間に、四人でのお菓子作りの話になった。私が話す前に河合さんがきらりさんの話しをしてきて困惑してしまう。昨日の今日で情報が筒抜けとは恐ろしい。
「はあああ。旦那さんに相談する前に彼女と連絡を取ったとは。浅はかですね」
梨々花さんは私たちの話しを聞いて、大きなため息をつく。年上に向かって浅はかとはいったいどいうことか。バカにされているのはわかるが、彼女に大鷹さんの何がわかるというのか。思わず梨々花さんを睨んでしまう。
「睨んでも怖くありません。そもそも、倉敷さんの旦那さんは不本意ですが、あなたのことがとおおおおおおっても好きみたいですよね?私には到底理解できないですが、愛が重い。下手したらあなたの行動次第では、私たちに多大な迷惑が掛かるわけです。そこは理解できますか?」
まるで、私の方が年下みたいな話し方だ。大鷹さんの愛が重いのは知っているが、それが他人に迷惑をかけているとは思えない。何を根拠にそんなでたらめを言うのか。睨みつけるような視線は怖くないと言われてしまう。
そもそも、梨々花さんは大鷹さんに会ったことがないはずだ。電話で声だけは聞いているが、それだけで大鷹さんの性格を理解できるはずがない。
「梨々花ちゃん、先輩をあまりいじめないの。先輩はただでさえ、コミュ力が低くて、引きこもりなんだから、そんないじめてばかりいたら、本当に嫌われちゃうよ。そして、徹底的に無視されるかも。もしそうなったら」
私もあなたの事を嫌いになって、同じように無視するけどいいの?
梨々花さんを注意してくれるかと思ったら、河合さんはとんでもないことを言い出した。前半は私の悪口みたいだし、その後の発言も問題だ。私が本気で梨々花さんを嫌いになったら、河合さんも彼女と距離を置くつもりらしい。距離を置くというより、無視。どう反応したらいいだろうか。
「そ、それは困ります。倉敷さんに無視されるのもなんだかむかつく……。ゴホン。嫌ですけど、江子先輩に嫌われて無視されたら私、私……」
「うわ、本当に泣いてる」
梨々花さんが突然、手を目の下に置いて、泣き出してしまった。嘘泣きかと思ったが、本当に目じりから涙がにじんでいる。コミュ力が高いと、自らの意思で涙を流せるのか。驚いて心の声が口から出てしまう。むかつくという不穏な言葉も聞こえた気がするが、そこは無視することにしよう。
梨々花さんが泣き出すと、河合さんが梨々花さんの背中に手を置き、ゆっくりとさすり始めた。そして、私に非難の目を向ける。
「先輩が梨々花ちゃんを泣かせたんですよ。まったく、年上なんだから、後輩には優しく接しないと。今時の若者は繊細なんですから」
「江子先輩、倉敷さんがいじめてきますう」
「よしよし。梨々花ちゃんも反省してね」
「ワカリマシタ。もう、倉敷さんに変なことは言いません。でもでも、私は事実を言っただけだですけど」
「いや、事実って」
「そうだね。でも、事実でも口にしない方がよいこともあるからね」
私の言葉は無視され、引き続き、河合さんは梨々花さんの機嫌を取るように優しい言葉を投げかける。
「オマタセシマシタ。リョウリヲオトリクダサイ」
話しているうちに料理が配ぜんロボットによって運ばれてきた。タブレットにロボット。時代はどんどん便利になっている。
『いただきます』
料理を受け取り、私たちは手を合わせて挨拶する。私たちはいったん、話を中断して温かいうちに料理を食べるのだった。
「私は江子先輩の隣がいいです!」
「ここは平等にじゃんけんで席を決めましょう」
今日はなぜか、退勤後に先日、叶わなかった女性三人での食事会をしていた。当然、メンバーは私と河合さん、梨々花さんの三人だ。
私たちは、会社近くのファミレスで夕食を取っていた。まさか、こんなに早く三人での食事会が実施されるとは思っていなかった。梨々花さんの当間との別れ話に紛れて、食事会はなくなったと思っていた。
ファミレスは平日の夜だというのに、家族連れや仕事帰りの人たちでにぎわっていた。しかし、河合さんが予約をしていたおかげで、店に着くとすぐに席に案内された。ネットで簡単に予約ができるらしい。今の世の中、便利なものだ。
席は私の正面に河合さんと梨々花さんが座るという形に落ち着いた。古典的にじゃんけんで席を決めることになった結果である。梨々花さんは大喜びだったが、河合さんは悔しそうな顔をしていた。
それにしても、梨々花さんのコミュニケーション能力には頭が上がらない。1月に入ってから急激に私たちに接近してきたかと思うと、もうすでに、私と河合さんと同等の古参の振る舞いをしている。
席が決まり、各自決まった席に座る。私の正面に座った河合さんと梨々花さんは、仲良く注文用のタブレットを覗き込んでいる。傍から見たら、仲の良い友人同士に見えた。
「隣の席に誰かいるのも、アリかも……」
『何か言いました?』
私の独り言は彼女達に聞こえていたらしく、きれいなハモリの返答があった。隣の席の人と一緒にメニューを見ながら料理を決める。何か小説の小ネタとして使えそうだ。決してリア充な光景で羨ましいとは思っていない。
タブレットは各テーブルに一台しかないので、私はテーブルに置いてあった紙のメニュー表を広げて何を注文しようかと考える。
「私は、これにします。フランス料理のセットがこのお値段で食べられるなんてお得です」
「私も同じにしようかな。先輩はどうします?」
「唐揚げ定食にします」
二人はメニューが決まったようだ。紙のメニューにも期間限定でおすすめされている。しかし、今はフレンチの気分ではなかったので、無難に唐揚げのセットを頼むことにした。
「昨日の夜、さっそくきらりさんから電話がかかってきて、驚きました。先輩って、そんなにきらりさんと仲が良かったんですか?」
「いえ、そこまで仲は良くないですけど、1月も終わるし、早めに予定は聞いておいた方がいいかと思って」
「でも、おおたかっちよりも先にきらりさんに連絡したんですよね?」
「まあ、そうですけど」
料理をタブレットで注文して待っている間に、四人でのお菓子作りの話になった。私が話す前に河合さんがきらりさんの話しをしてきて困惑してしまう。昨日の今日で情報が筒抜けとは恐ろしい。
「はあああ。旦那さんに相談する前に彼女と連絡を取ったとは。浅はかですね」
梨々花さんは私たちの話しを聞いて、大きなため息をつく。年上に向かって浅はかとはいったいどいうことか。バカにされているのはわかるが、彼女に大鷹さんの何がわかるというのか。思わず梨々花さんを睨んでしまう。
「睨んでも怖くありません。そもそも、倉敷さんの旦那さんは不本意ですが、あなたのことがとおおおおおおっても好きみたいですよね?私には到底理解できないですが、愛が重い。下手したらあなたの行動次第では、私たちに多大な迷惑が掛かるわけです。そこは理解できますか?」
まるで、私の方が年下みたいな話し方だ。大鷹さんの愛が重いのは知っているが、それが他人に迷惑をかけているとは思えない。何を根拠にそんなでたらめを言うのか。睨みつけるような視線は怖くないと言われてしまう。
そもそも、梨々花さんは大鷹さんに会ったことがないはずだ。電話で声だけは聞いているが、それだけで大鷹さんの性格を理解できるはずがない。
「梨々花ちゃん、先輩をあまりいじめないの。先輩はただでさえ、コミュ力が低くて、引きこもりなんだから、そんないじめてばかりいたら、本当に嫌われちゃうよ。そして、徹底的に無視されるかも。もしそうなったら」
私もあなたの事を嫌いになって、同じように無視するけどいいの?
梨々花さんを注意してくれるかと思ったら、河合さんはとんでもないことを言い出した。前半は私の悪口みたいだし、その後の発言も問題だ。私が本気で梨々花さんを嫌いになったら、河合さんも彼女と距離を置くつもりらしい。距離を置くというより、無視。どう反応したらいいだろうか。
「そ、それは困ります。倉敷さんに無視されるのもなんだかむかつく……。ゴホン。嫌ですけど、江子先輩に嫌われて無視されたら私、私……」
「うわ、本当に泣いてる」
梨々花さんが突然、手を目の下に置いて、泣き出してしまった。嘘泣きかと思ったが、本当に目じりから涙がにじんでいる。コミュ力が高いと、自らの意思で涙を流せるのか。驚いて心の声が口から出てしまう。むかつくという不穏な言葉も聞こえた気がするが、そこは無視することにしよう。
梨々花さんが泣き出すと、河合さんが梨々花さんの背中に手を置き、ゆっくりとさすり始めた。そして、私に非難の目を向ける。
「先輩が梨々花ちゃんを泣かせたんですよ。まったく、年上なんだから、後輩には優しく接しないと。今時の若者は繊細なんですから」
「江子先輩、倉敷さんがいじめてきますう」
「よしよし。梨々花ちゃんも反省してね」
「ワカリマシタ。もう、倉敷さんに変なことは言いません。でもでも、私は事実を言っただけだですけど」
「いや、事実って」
「そうだね。でも、事実でも口にしない方がよいこともあるからね」
私の言葉は無視され、引き続き、河合さんは梨々花さんの機嫌を取るように優しい言葉を投げかける。
「オマタセシマシタ。リョウリヲオトリクダサイ」
話しているうちに料理が配ぜんロボットによって運ばれてきた。タブレットにロボット。時代はどんどん便利になっている。
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