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番外編【恒例行事になりそうです】3許可を得る
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『お菓子作り?別に構わないけど。ああ、もうそんな時期かあ。今年も大輔さんは手作りをくれるか楽しみだなあ』
帰宅後、さっそくきらりさんに連絡を取ると、電話がかかってきた。リビングにいたので、大鷹さんの目が気になるが、仕方なく電話に出たら、開口一番の言葉がこれだ。挨拶もなしにいきなり本題とは、さすが大鷹さんの親戚ともいえる自分勝手ぶりだ。
「もしもし、連絡した通り、一緒にお菓子作りをしてくれるのなら、とてもうれしいです。日にちは後日、改めてご連絡を」
『いいや、私も予定がいろいろあるから、今この場で決めてもいいかな?』
「私はいいですけど、他の二人の予定もありますし……」
「もしもし、きらりさんですか?紗々さんと一緒にお菓子を作るみたいですけど、あなたって料理が得意ではないんですよね?大丈夫なんですか?」
「ちょ、ちょっと、大鷹さん。勝手に人の電話に出ないでください!」
大鷹さんの前で電話をしていたとはいえ、人の電話に出るのはマナー違反だ。スマホを取り上げられた私は、慌てて大鷹さんの腕に手を伸ばすが躱されてしまう。しかし、話の内容を私に聞かせるためか、スピーカーモードにして、私のスマホをテーブルの上に置く。
『面白いこと言うねえ。さては、大輔さんに聞いたかな?ひどいなあ、人の個人情報をばらすなんて』
「いえ、たまたま彼とそのような話になっただけです。それで、再度質問しますけど、大丈夫なんですか?」
『大丈夫も何も、一人で作るわけじゃないでしょ。私だって、材料を計るとか、混ぜるとかくらいはできるよ。指示に従えば特に問題はないと思うけど』
「はあ、それが大丈夫じゃないと言っています」
『どうして?迷惑かけないように、キチンとさ、ささんの指示に従うって言っているんだよ。それに、江子さんや梨々花ちゃんもいるのだろう?だったら、なおさら、私がいかないと、おもしろくな、いや、私がいかないと大変な事態になりかねない』
「心配には及びません」
なんだか、面倒なことになってしまった。そもそも、きらりさんが料理が苦手なことを初めて知った。どうして、そんな情報を大鷹さんが知っているのだろうか。きらりさんの夫の大輔さん経由らしいが、そこまで彼らが親しかったのか。気になることは多いが、今ここで聞くことではない。
不機嫌そうにきらりさんと会話する大鷹さんが目に入る。どうして不機嫌なのかはなんとなく理解している。
「大鷹さん、河合さんと後輩と一緒にお菓子を作ることになったことをまず先に大鷹さんに言うべきでした。すみません。もし、大鷹さんが嫌なら、河合さんたちと一緒にお菓子作りをするのはやめてお」
『それはダメだよ。それに、もし、そうだとしたら、その言葉はそのままおさむ君にも言えることだ。だって、彼はまた今年も」
「紗々さん」
「は、はい!」
私の夫はいまだに河合さんが私たちの関係を壊しかねないと危惧している。さらには、後輩にも警戒している。だからこそ、一緒に行動をすることをあまりよく思っていない。河合さんから受けた提案をまずは大鷹さんに知らせるべきだった。それなのに、きらりさんを誘うことを優先してしまった。
反省を込めての言葉だったが、何やらきらりさんが変なことを言っている。大鷹さんが途中で遮っていたが、なんのことだろう。そして、大鷹さんが私を呼ぶ声の鋭さに、思わず大声で返事してしまう。
「僕は、紗々さんの行動を制限するつもりはありません。確かに河合江子たちとは、会社以外の時間で関わって欲しくない。いや、会社でも業務以外で関わって欲しくない。でも、それは僕の希望であって、紗々さんの意思を無視してまでの事ではありません」
『おやおや、なんだかえらいことになっているね。私はいったん、電話を切った方がいいのかな?』
きらりさんの楽しそうな声がスマホから聞こえるが、返事をする余裕はない。いきなりの大鷹さんの真面目な言葉にどう返事をしたらいいのか、必死で考える。
「べ、別に大鷹さんの意思で断るとか、そ、そんなことはないですけど、でも、せっかく一緒にお菓子を作れるのなら、他人と一緒に作るとか、今までしたことがなかったので、やりたいというか」
「じゃあ、僕が理由で断るとかやめてください。どうせ、彼女たちは僕のことをからかいたいだけですから」
『いいねえ、青春だ。それで?私も参加するけど、いつにするの?やっぱり、銀行勤めだから、土日とかの方が都合がいいかな?』
「電話を切ったのではなかったのですか?盗み聞きはよくないですよ」
『電話を切らなかったのはお互い様だよ』
私以外に対しては、手厳しい大鷹さんだが、きらりさんには予定を伝えなくてはならない。とりあえず、私たちは同じ職場なので、やはり彼女の言う通り、週末の土日の方がいいだろう。
「では、今週の土日のどちらかでどうでしょう?明日、河合さんたちにも聞いてみます」
『いや、私から江子さんに連絡を取るから大丈夫。今の様子もばっちり伝えておくから安心し』
「それはやめてください」
『やだね。私の個人情報をさ、ささんにばらした罰だよ。じゃあ、またね』
電話が切られ、しばらくリビングに沈黙が訪れる。
「……ということなので、今週末は外出します」
「ワカリマシタ」
大鷹さんに許可をもらい、私は彼女達と人生初の共同お菓子作りが確定した。
帰宅後、さっそくきらりさんに連絡を取ると、電話がかかってきた。リビングにいたので、大鷹さんの目が気になるが、仕方なく電話に出たら、開口一番の言葉がこれだ。挨拶もなしにいきなり本題とは、さすが大鷹さんの親戚ともいえる自分勝手ぶりだ。
「もしもし、連絡した通り、一緒にお菓子作りをしてくれるのなら、とてもうれしいです。日にちは後日、改めてご連絡を」
『いいや、私も予定がいろいろあるから、今この場で決めてもいいかな?』
「私はいいですけど、他の二人の予定もありますし……」
「もしもし、きらりさんですか?紗々さんと一緒にお菓子を作るみたいですけど、あなたって料理が得意ではないんですよね?大丈夫なんですか?」
「ちょ、ちょっと、大鷹さん。勝手に人の電話に出ないでください!」
大鷹さんの前で電話をしていたとはいえ、人の電話に出るのはマナー違反だ。スマホを取り上げられた私は、慌てて大鷹さんの腕に手を伸ばすが躱されてしまう。しかし、話の内容を私に聞かせるためか、スピーカーモードにして、私のスマホをテーブルの上に置く。
『面白いこと言うねえ。さては、大輔さんに聞いたかな?ひどいなあ、人の個人情報をばらすなんて』
「いえ、たまたま彼とそのような話になっただけです。それで、再度質問しますけど、大丈夫なんですか?」
『大丈夫も何も、一人で作るわけじゃないでしょ。私だって、材料を計るとか、混ぜるとかくらいはできるよ。指示に従えば特に問題はないと思うけど』
「はあ、それが大丈夫じゃないと言っています」
『どうして?迷惑かけないように、キチンとさ、ささんの指示に従うって言っているんだよ。それに、江子さんや梨々花ちゃんもいるのだろう?だったら、なおさら、私がいかないと、おもしろくな、いや、私がいかないと大変な事態になりかねない』
「心配には及びません」
なんだか、面倒なことになってしまった。そもそも、きらりさんが料理が苦手なことを初めて知った。どうして、そんな情報を大鷹さんが知っているのだろうか。きらりさんの夫の大輔さん経由らしいが、そこまで彼らが親しかったのか。気になることは多いが、今ここで聞くことではない。
不機嫌そうにきらりさんと会話する大鷹さんが目に入る。どうして不機嫌なのかはなんとなく理解している。
「大鷹さん、河合さんと後輩と一緒にお菓子を作ることになったことをまず先に大鷹さんに言うべきでした。すみません。もし、大鷹さんが嫌なら、河合さんたちと一緒にお菓子作りをするのはやめてお」
『それはダメだよ。それに、もし、そうだとしたら、その言葉はそのままおさむ君にも言えることだ。だって、彼はまた今年も」
「紗々さん」
「は、はい!」
私の夫はいまだに河合さんが私たちの関係を壊しかねないと危惧している。さらには、後輩にも警戒している。だからこそ、一緒に行動をすることをあまりよく思っていない。河合さんから受けた提案をまずは大鷹さんに知らせるべきだった。それなのに、きらりさんを誘うことを優先してしまった。
反省を込めての言葉だったが、何やらきらりさんが変なことを言っている。大鷹さんが途中で遮っていたが、なんのことだろう。そして、大鷹さんが私を呼ぶ声の鋭さに、思わず大声で返事してしまう。
「僕は、紗々さんの行動を制限するつもりはありません。確かに河合江子たちとは、会社以外の時間で関わって欲しくない。いや、会社でも業務以外で関わって欲しくない。でも、それは僕の希望であって、紗々さんの意思を無視してまでの事ではありません」
『おやおや、なんだかえらいことになっているね。私はいったん、電話を切った方がいいのかな?』
きらりさんの楽しそうな声がスマホから聞こえるが、返事をする余裕はない。いきなりの大鷹さんの真面目な言葉にどう返事をしたらいいのか、必死で考える。
「べ、別に大鷹さんの意思で断るとか、そ、そんなことはないですけど、でも、せっかく一緒にお菓子を作れるのなら、他人と一緒に作るとか、今までしたことがなかったので、やりたいというか」
「じゃあ、僕が理由で断るとかやめてください。どうせ、彼女たちは僕のことをからかいたいだけですから」
『いいねえ、青春だ。それで?私も参加するけど、いつにするの?やっぱり、銀行勤めだから、土日とかの方が都合がいいかな?』
「電話を切ったのではなかったのですか?盗み聞きはよくないですよ」
『電話を切らなかったのはお互い様だよ』
私以外に対しては、手厳しい大鷹さんだが、きらりさんには予定を伝えなくてはならない。とりあえず、私たちは同じ職場なので、やはり彼女の言う通り、週末の土日の方がいいだろう。
「では、今週の土日のどちらかでどうでしょう?明日、河合さんたちにも聞いてみます」
『いや、私から江子さんに連絡を取るから大丈夫。今の様子もばっちり伝えておくから安心し』
「それはやめてください」
『やだね。私の個人情報をさ、ささんにばらした罰だよ。じゃあ、またね』
電話が切られ、しばらくリビングに沈黙が訪れる。
「……ということなので、今週末は外出します」
「ワカリマシタ」
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