結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【友達】3○○デビュー(私ではない)

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「すいません。名義変更をしたいんですけど」

 昨日、中学生のころを思い出していたら、物語のような奇跡的展開が訪れた。次の日、いつも通りに銀行で窓口業務をしていたら、昼頃に一人の女性がやってきた。

 私は人の顔と名前を覚えるのが得意だ。それは、私なりの処世術だったことは既に知っていると思う。まさか、それがこんなところで役に立つとは。

 たまたま、受付は私以外の窓口が埋まっていたため、女性は私の窓口に向かってきた。近くで見れば見るほど、女性に中学校の頃の面影が重なる。明るい茶髪を緩く一つにくくり、メイクはばっちりの姿。中学のころというよりは、成人式の日の姿に近かった。前髪を隠していた中学のころは確か一重の糸目だったが、今はぱっちり二重になっていた。

 中学校の頃の彼女は黒髪を背中まで伸ばして、さらには前髪も目元を隠すほどで全体的にもっさりした雰囲気の生徒だった。中学三年のころに同じクラスだったが、私と同じで友達がいないのか、休み時間はいつも一人で黙って読書をしていた。そして、放課後はさっさと教室を出てしまったので、きっとすぐに帰宅していたのだろう。

 高校からは別になってしまったが、成人式で彼女と再会した。彼女は五年でかなり雰囲気が変わっていた。黒髪は金髪になり、メイクもばっちりで中学の同級生にかなり驚かれていた。私もその中の一人だ。当時はこれが○〇デビューか、と感心した記憶がある。

 驚きは外見の変化ばかりではない。なんと、彼女はすでに結婚していたというではないか。中学校では友達すらいなさそうで同士だと勝手に思っていたのに、これには裏切られた気分になった。


「ご本人様を確認できるものと、お名前が変わったことがわかるもの、お届け印、新たに使用するお届け印、通帳と、キャッシュカードをお預かりします」

「はい」

 女性は私の言ったものをカバンから取り出して机に置いていく。本人確認書類として提出された運転免許証を見て驚く。女性の現在の名前は成人式の時に聞いていた苗字でも、中学のころの苗字とも違っていた。

 名義変更前の彼女の苗字は成人式当時のものだった。結婚して苗字を変えていたが、それを違う苗字に変更するのだろう。そこから導き出されることは。

 再婚。

「お預かりいたします。では、こちらの書類にご記入をお願いします」

 書類を渡して、窓口から離れた机で必要事項の記入を始めた女性を目で追いながら考える。まさか、離婚して再婚しているとは思わなかった。中学生のころの彼女の行動とは思えない。いや、それは私の偏見かもしれない。もしかしたら、中学のころから実は放課後はぶいぶい言わせていて、学校内ではおとなしくしていただけかもしれない。


「お願いします」

 考え事をしていたら、女性が再び私の窓口にやってきた。記入を終えた書類を確認して名義変更の処理を行っていく。その間、女性は私の顔をじいと見つめてくる。

「新しい通帳がこちらになります。キャッシュカードは後日、書留にて郵送いたします」

「わかりました」

 もしかしたら、私が中学の同級生だと気付かれたかもしれない。

 黒髪から染めたとわかる程度の茶髪に染め、メガネからコンタクトにしたこと以外、中学のころと劇的に変化したところはない。髪型もショートのままで化粧も最小限に留めている。これはまあ、面倒くさいのとセンスがないというだけの話だが。メガネを外したら別人、ということもなかったので、わかる人にはわかるだろう。

 それに、今の私は銀行の窓口業務をしているため、名前がばれてしまっている。制服の右胸辺りに小さなネームプレートを付けている。苗字のみだが、私の苗字は「倉敷」で珍しい苗字なのでばれるのも時間の問題ではないか。

 ちなみに結婚はしているが、仕事場では旧姓の「倉敷」を使っている。

「もしかして、あなたは」

 名義変更された通帳を手渡すと、制服のネームプレートに書かれた苗字と私の顔を交互に見て、女性は口を開く。

「どなたかと人違いなされているのではないですか」

「ええと」

「ほかにご用件はありますか?」

 基本的に私は人見知りのコミュ障である。よくそんな人間が接客業をやっているなと思うのだが、仕事なら仕方ない。だからと言って、今までの性格が矯正されるわけではない。昔の知り合いに合って、気軽に久しぶりと声をかける陽キャな私は存在しない。スーパーなどで知り合いを見つけたときは、相手が去るのを物陰にひそめて会わないようにするタイプだ。

 私の名前が出る前に強引に口を挟むと、女性はあきらめたのか、そのまま窓口から離れていく。私だという確信が持てなかったのか、それとも私の見知らぬ人オーラに気圧されたのか。どちらにせよ、感動の再会という場面にはならなかった。



「今日の昼頃に来ていたお客さん、先輩の知り合いですか?」

 昼休憩に休憩室でお弁当を食べていたら、河合さんにこっそりと話しかけられた。今日は河合さん以外に二歳年上の平野さんが一緒になった。

「どうしてわかったの?」

 私も平野さんに聞かれないようにこっそりと河合さんに返事する。基本的に私は自分のことをあまり他人に話さない。わざわざ自分の個人情報を他人に漏らしたくはないからだ。それに私の場合、話と言ったら、大鷹さんとの話題がメインになるのでなおさら、職場の人間に話したくはない。

「なんとなく、先輩が戸惑っていた気がしたので。面倒くさい案件でもなさそうだったので、知り合いかなって思ったんですけど」

「どうして、知り合いにあったことくらいのことを小声で話す必要があるの?」

 小声で話していたとはいえ、休憩室は広くない。使用しているテーブルの大きさもそこまで大きくないので一緒にお昼を食べていたら聞こえてしまったのだろう。

「知り合いっていうか、中学の同級生に会いました……」

「それは気をつけたほうがいいかもしれないわ」

 聞かれてしまった手前、隠すのも変な気がしたので正直に今日の午前中のことを平野さんにも伝える。すると、意外な言葉が返ってきた。

「気をつけるって、先輩の交友関係ご存じでしょう?何に気をつけるっていうんですか?」

 河合さんが私の代わりになぜか返答する。私も同感だ。相手が私に気づいた可能性は微妙だが、現状はただの銀行員とお客という関係でしかない。

「それは……。実は私ね」

 平野さんが話した内容に私と河合さんは顔を見合わせた。
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