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番外編【友達】4面倒な女

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 中学の同級生に会った後の週末、私と大鷹さんは家の近くにあるショッピングモールに来ていた。最近、大鷹さんはことあるごとに私を外に連れ出そうと躍起になっているので、それに同行する形だ。

「買い物デートですね」

「はあ」

 結婚してから一年以上経っているのに買い物デートだと喜ぶ大鷹さんが、アラサーの成人男性なのにとても可愛らしく思える。とはいえ、それを素直に認めるのは癪なのであきれた顔で返事する。しかし、私があきれていないのがバレバレなのか、大鷹さんは私の返事にも気分を害すことなく、ニコニコと微笑んでいた。

 せっかく二人で買い物に来ていたので、お昼もショッピングモール内の店で取ることにした。外食するのは嫌いではないのだが、引きこもり体質でコミュ障だとなかなか外食の機会がない。ひとりで食べるのはハードルが高いので、おいしいものを一緒に食べてくれる夫がいるのは素晴らしい。

 今日はオムライスの気分だったのでオムライス専門店に入り、私はデミブラスソースのかかったオムライス、大鷹さんはホワイトソースのオムライスを注文した。お互いに一口ずつ交換して、とても有意義な世間的に見ればラブラブな昼食の時間を過ごした私は、すっかり油断していた。

「おいしかったですね。卵がトロトロなオムライスって、家で作ろうと思うと難しいですよね」

「動画で作っている様子を見たことありますけど、どうなんでしょう。まあ、素人が一発でできるようなものではないなとは思います」

 食事を終えて店を出て、適当にモール内を歩いていたら、突然、ぞくりと嫌な視線を感じて慌てて背後を振り返る。休日でショッピングモール内はたくさんの人で賑わっていたが、私に視線を向ける人は見当たらない。

「どうしました。誰か知り合いでもいました?」

 私が歩みを止めたことで大鷹さんもその場に立ち止まる。大鷹さんでもあるまいし、私に知り合いは少ない。それに、大鷹さんと違って私は知り合いを見つけたら、全力で会わないように回避している。大抵のコミュ障の人間は、知り合いにプライベートで会いたくないはずだ。少なくとも私は嫌だ。会っても話すこともないし、せっかくの自分の時間が削られ、気分を台無しにされるのが嫌だった。

「いえ、大鷹さんじゃあるまいし、そもそも、知り合いを見つけたら私は全力で逃げ」

「倉敷だよね。ああやっぱり、久しぶりだね」

 私の言葉は第三者の声に遮られる。いったい何者かと思ったが、聞き覚えのある声に内心でがっかりする。まさか、こんなところで再会するとは予想外だ。

「私のこと、覚えてる?中学三年生の時、同じくクラスだった瑠宇香(るうか)だよ」

「ひ、久しぶりだね」

「うわあ、倉敷は中学のころとあんまり変わらないね。あれ、ということはこの前、銀行で対応してもらったのも倉敷ってことだよね。水臭いなあ、あの時は他人の振りしていたでしょ」

 どうして、15年ぶりに会った人間にこんなに親し気に話し掛けられるのか。いや、正確には成人式の日に会っているので10年ぶりというのが正しい。

 9月に入っているが、まだまだ暑い日が続いているので、私は半そでのTシャツにガウチョパンツというラフな格好をしていたが、彼女もまたずいぶんと涼しそうな恰好をしていた。袖なしの足首まである花柄のマキシワンピースを着ていた。中学のころも思っていたが、そのころから女性らしさは成長していないらしい。悲しい絶壁が首の下から覗いていた。今日もまた、明るい茶髪で二重のぱっちりメイクを施していた。

 それにしても、彼女は中学のころと比べて容姿もかなり変わったが、内面(性格)も変わったようだ。中学のころとはあまりに違い過ぎる。中学の時は常に教室の隅にいて物静かに過ごしていたイメージがある。どこでそんな陽キャな性格を身に着けたのか。そもそも、私のことは当時、「倉敷さん」と苗字にさん付けで読んでいた気がする。

 成人式にはすでに結婚していたというから、中学卒業から成人までの5年間で何か劇的なことでもあったのだろう。何が起きたのか気になるが、聞き出すほどのことでもない。高校で○○デビューしたか、おとなしい見た目や性格でヤンキーに目をつけられて覚醒したかのどちらかだろう。


「そちらの男性は?まさか、倉敷の知り合い?なわけな」

「こんにちは。紗々さんの知り合いみたいですね。僕は紗々さんの夫です。私の妻とずいぶん親しかったみたいですね」

「な、なななな」

 うん、この展開は今まで何度も見てきた光景で驚くほどでもない。しかし、普通は私が大鷹さんに彼女を紹介するのが先ではないか。どうして私より先に自己紹介を始めているのか。なんとなく大鷹さんから黒いオーラが出ているのが見えたので、そのことは黙っていることにした。

 彼女は大鷹さんにとっての地雷を踏みぬいた。大鷹さんはコミュ障で引きこもり体質の私のことが好きなのだ。それを相手に知り合いではないと決めつけられた。私だって聞いていて気分の良いものではない。

「冗談でしょう?ああ、もしかして高校の同級生とかですか?ひどいなあ、倉敷。それならそうと最初に言ってくれなきゃ。もしかして、今日は部活とかの同窓会でもあったの?」

 ありえない、ありえない、ありえない。あの時のあんたがこんなにイケメンとなんて、ありえない。

 大鷹さんの言葉は彼女にクリティカルヒットしたようだ。最初はななななと壊れた人形みたいな音声を発していたが、次第に言葉の意味を理解したらしい。その後は勝手に嘘だと決めつけてきた。そして、さらにはぶつぶつと呪いのように独り言を繰り返している。


「買いたいものは買ったし、今日はもう、帰りましょう」

「そうですね。疲れて来たし、家に帰ってゆっくりすることにします」

 私たちの意見は一致した。ぶつぶつとつぶやく怪しい女性とは赤の他人だ。そのまま放置してその場を去ることにした。

「ま、待って。あの、本当にあなたが倉敷の」

「紗々さん、今日の夕食は何がいいですか?昼がオムライスだったから、夜は肉にしますか?」

「今日の買ったもの、忘れたんですか?ピーマンが安かったので、今日はひき肉も買って肉詰めにしようと言ったじゃないですか」

「そうでしたね」

 怪しい女性は私たちに何か話しかけてきたが、赤の他人と話す義理はない。そのまま無視して歩き続けていたら、腕を掴まれてしまう。

「騙すなんて、いい度胸してるわね。指輪もつけていないのに、どうやって信じろというの?」

 面倒なことになってしまった。この場合、私はどう対処したら正解だろうか。

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