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番外編【暑すぎる】1テレワークにあこがれる
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「暑すぎる……。仕事行きたくない」
「そんなこと言って、紗々さんは会社に行ったら、エアコン効いて涼しいでしょう?朝と夕方の行き帰りだけ我慢すればいいだけですよ」
「それが嫌なんですよ。大鷹さんは仕事に行きたくないって思うこと、ないですか?」
今年の夏はかなり暑い気がする。私はいつも8時には家を出るのだが、朝のその時間でさえ、すでに外に出たら汗が噴き出してくるような暑さだ。せっかく身だしなみを整えて化粧も万全の状態なのに、外に出た瞬間崩れてしまう。
8月に入ってもまだまだ暑さは続いている。恐ろしいことに10月まで高温傾向が続くそうだ。生きづらい世の中になったものだ。
「僕もそんなときはありますけど、お金を稼ぐためには仕方ないと思って仕事に行きます」
「まあ、そうですけど」
連日、最高気温が35度越えの暑さは、家を出るのをためらってしまうほどのものだ。とはいえ、大鷹さんの言う通り、生活をするうえでお金を稼がなくてはならない。そのためには暑いから外へ出ないという選択肢は無い。とはいえ。
「テレワークなら、外に出なくても……」
「紗々さんはやめたほうがいいと思います」
つい、心の声が口から出てしまった。
テレワーク。
例の病が流行りだして、自宅で仕事をするという人が増えたらしい。それが出来るのは一部の職種の人間だけで、金融、飲食、物流、介護、医療など無理な職種も多い。かくいう私も、銀行の受付をしているので、テレワークには向いていない職種である。
大鷹さんもテレワークをしているところを見たことがないので、無理なのだろう。大鷹さんの仕事は詳しく知らないが、世の大半の人間はテレワークできない仕事に就いている、と思われる。
「どうして、そんなこと言うんですか?今の仕事はテレワークできないですけど、夢を見るくらいいでしょう?」
「考えてもみてください。紗々さんの休みの日の様子から、テレワークしたらどんな末路になるのか」
ずいぶんとひどい言い様である。そこまで私にテレワークが向いていないというのか。とりあえず、テレワークをして起きる自分の生活の変化を想像する。
引きこもりこそ、家で仕事できるテレワークがいいのではないか!
↓
仕事を家でするようになる
↓
仕事で外に出る必要はない
必要最低限の外出(買い物、医者など)になる
↓
一日中、家にいる
身体を動かさない
↓
生活習慣病
運動不足からの肥満
↓
身なりに気を遣わなくなる
老けて見えるようになる
↓
だらしない姿を見た大鷹さんに幻滅される
↓
離婚を切り出される
これはまずいことになる。普段から休日は家にこもりがちで、大鷹さんから外出を促されるのに、テレワークになりでもしたらアウトである。
「ううん、確かに私にはテレワークは向いていないかもしれません」
テレワークにあこがれはあるが、私のようなタイプは無理かもしれない。健康的によくないので、下手したら早死にする可能性もある。
「わかってくれたのなら、良かったです」
満足そうに頷く大鷹さんだが、私の心境は複雑だ。だって、テレワークがダメならこの暑さの中、毎日外に出て仕事に向かわなくてはならないからだ。
「不満そうな顔をしないでください。そもそも、テレワークできるような資格や技術を紗々さんはお持ちですか?テレワークできる仕事がやりたいとして、それらを持っていないなら、話にならないと思います」
広告の動画でよく見る、アレのことだろうか。怪しい教材を買って勉強しろとでも?
「どうせ、そんなもの私にはないですよ」
まったく、夢のないことを言う夫である。そんなことを話しているのは、リビングのエアコンが効いた涼しい部屋だ。夜になっても暑さは続き、いい加減嫌になってくる。明日も平日で会社だ。
早く暑い夏が終わってほしいと願うばかりだ。
※※
紗々さんが、いきなりテレワークがしたいと言い出した。連日のこの暑さから家から出たくない気持ちはわかるが、それはやめておいた方がいい。つい、口にしてしまい紗々さんの機嫌を損ねてしまった。しかし、これだけは譲れない。
だって、想像してみたらやばいこと間違いなしだ。テレワークなどしたら、ただでさえ仕事以外で外に出ることのない紗々さんは、完全に外に出なくなり、引きこもり状態になってしまう。
そんな状態になったら、健康状態が心配だ。運動不足がたたり、生活習慣病になってしまったら。肥満にもなるかもしれない。別に太っているのが悪いわけではないが、やはり多少は見た目に気を遣って欲しい。テレワークのせいで、早死にしてもらって困る。せっかく夫婦になったのだ。一緒に少しでも長く一緒に生きていきたい。一緒に楽しい老後を過ごしたい。
ということで、紗々さんがテレワークをするデメリットはたくさんあるが、オレが一番に心配していることは。
「外部との接触がなくなること」
ただでさえ、友達がいないと豪語する妻なのだ。それが完全テレワークになってしまったら。
オレ以外の相手と話さなくなるのではないか。
これは、独占欲が強い彼氏や夫ならうれしいと思えるのだろうが、逆にオレは心配になってしまう。オレ以外と話さなくなった紗々さんの将来が心配になってしまう。
(きっと、監禁したいと思うような相手は、コミュ力が高い、外に出るのが好きな人間なのだろう。自分以外にもたくさんの興味があって、その興味をすべて自分だけのものにしたいのだ)
それだったら、オレは彼らとは真逆の立場になる。そもそも、紗々さんはコミュ力が低くて外に出るのを嫌う人間だ。監禁などしなくても家に帰ってくるし、すでに紗々さんは自分の妻である。
「オレはヤンデレではないということだ」
そう、オレは監禁をするような危ない男たちとは違うのだ。漫画でよく見かけるやばいヒーローではない。まあ、紗々さんも恋愛漫画の主人公にはなりえないが。
とはいえ、紗々さんがほかの男に目を向けるのは許せない。そうなったら、その男には悪いが、紗々さんの視界から消えてもらえるよう働きかけるくらいはするつもりだ。男ではないが、元カノの河合江子に至っては会って欲しくないし、視界から消えて欲しいが、紗々さんの会社の後輩らしいので手が出せないのが悔しいところだ。
やはりオレは、健全に紗々さんを愛している男である。
「そんなこと言って、紗々さんは会社に行ったら、エアコン効いて涼しいでしょう?朝と夕方の行き帰りだけ我慢すればいいだけですよ」
「それが嫌なんですよ。大鷹さんは仕事に行きたくないって思うこと、ないですか?」
今年の夏はかなり暑い気がする。私はいつも8時には家を出るのだが、朝のその時間でさえ、すでに外に出たら汗が噴き出してくるような暑さだ。せっかく身だしなみを整えて化粧も万全の状態なのに、外に出た瞬間崩れてしまう。
8月に入ってもまだまだ暑さは続いている。恐ろしいことに10月まで高温傾向が続くそうだ。生きづらい世の中になったものだ。
「僕もそんなときはありますけど、お金を稼ぐためには仕方ないと思って仕事に行きます」
「まあ、そうですけど」
連日、最高気温が35度越えの暑さは、家を出るのをためらってしまうほどのものだ。とはいえ、大鷹さんの言う通り、生活をするうえでお金を稼がなくてはならない。そのためには暑いから外へ出ないという選択肢は無い。とはいえ。
「テレワークなら、外に出なくても……」
「紗々さんはやめたほうがいいと思います」
つい、心の声が口から出てしまった。
テレワーク。
例の病が流行りだして、自宅で仕事をするという人が増えたらしい。それが出来るのは一部の職種の人間だけで、金融、飲食、物流、介護、医療など無理な職種も多い。かくいう私も、銀行の受付をしているので、テレワークには向いていない職種である。
大鷹さんもテレワークをしているところを見たことがないので、無理なのだろう。大鷹さんの仕事は詳しく知らないが、世の大半の人間はテレワークできない仕事に就いている、と思われる。
「どうして、そんなこと言うんですか?今の仕事はテレワークできないですけど、夢を見るくらいいでしょう?」
「考えてもみてください。紗々さんの休みの日の様子から、テレワークしたらどんな末路になるのか」
ずいぶんとひどい言い様である。そこまで私にテレワークが向いていないというのか。とりあえず、テレワークをして起きる自分の生活の変化を想像する。
引きこもりこそ、家で仕事できるテレワークがいいのではないか!
↓
仕事を家でするようになる
↓
仕事で外に出る必要はない
必要最低限の外出(買い物、医者など)になる
↓
一日中、家にいる
身体を動かさない
↓
生活習慣病
運動不足からの肥満
↓
身なりに気を遣わなくなる
老けて見えるようになる
↓
だらしない姿を見た大鷹さんに幻滅される
↓
離婚を切り出される
これはまずいことになる。普段から休日は家にこもりがちで、大鷹さんから外出を促されるのに、テレワークになりでもしたらアウトである。
「ううん、確かに私にはテレワークは向いていないかもしれません」
テレワークにあこがれはあるが、私のようなタイプは無理かもしれない。健康的によくないので、下手したら早死にする可能性もある。
「わかってくれたのなら、良かったです」
満足そうに頷く大鷹さんだが、私の心境は複雑だ。だって、テレワークがダメならこの暑さの中、毎日外に出て仕事に向かわなくてはならないからだ。
「不満そうな顔をしないでください。そもそも、テレワークできるような資格や技術を紗々さんはお持ちですか?テレワークできる仕事がやりたいとして、それらを持っていないなら、話にならないと思います」
広告の動画でよく見る、アレのことだろうか。怪しい教材を買って勉強しろとでも?
「どうせ、そんなもの私にはないですよ」
まったく、夢のないことを言う夫である。そんなことを話しているのは、リビングのエアコンが効いた涼しい部屋だ。夜になっても暑さは続き、いい加減嫌になってくる。明日も平日で会社だ。
早く暑い夏が終わってほしいと願うばかりだ。
※※
紗々さんが、いきなりテレワークがしたいと言い出した。連日のこの暑さから家から出たくない気持ちはわかるが、それはやめておいた方がいい。つい、口にしてしまい紗々さんの機嫌を損ねてしまった。しかし、これだけは譲れない。
だって、想像してみたらやばいこと間違いなしだ。テレワークなどしたら、ただでさえ仕事以外で外に出ることのない紗々さんは、完全に外に出なくなり、引きこもり状態になってしまう。
そんな状態になったら、健康状態が心配だ。運動不足がたたり、生活習慣病になってしまったら。肥満にもなるかもしれない。別に太っているのが悪いわけではないが、やはり多少は見た目に気を遣って欲しい。テレワークのせいで、早死にしてもらって困る。せっかく夫婦になったのだ。一緒に少しでも長く一緒に生きていきたい。一緒に楽しい老後を過ごしたい。
ということで、紗々さんがテレワークをするデメリットはたくさんあるが、オレが一番に心配していることは。
「外部との接触がなくなること」
ただでさえ、友達がいないと豪語する妻なのだ。それが完全テレワークになってしまったら。
オレ以外の相手と話さなくなるのではないか。
これは、独占欲が強い彼氏や夫ならうれしいと思えるのだろうが、逆にオレは心配になってしまう。オレ以外と話さなくなった紗々さんの将来が心配になってしまう。
(きっと、監禁したいと思うような相手は、コミュ力が高い、外に出るのが好きな人間なのだろう。自分以外にもたくさんの興味があって、その興味をすべて自分だけのものにしたいのだ)
それだったら、オレは彼らとは真逆の立場になる。そもそも、紗々さんはコミュ力が低くて外に出るのを嫌う人間だ。監禁などしなくても家に帰ってくるし、すでに紗々さんは自分の妻である。
「オレはヤンデレではないということだ」
そう、オレは監禁をするような危ない男たちとは違うのだ。漫画でよく見かけるやばいヒーローではない。まあ、紗々さんも恋愛漫画の主人公にはなりえないが。
とはいえ、紗々さんがほかの男に目を向けるのは許せない。そうなったら、その男には悪いが、紗々さんの視界から消えてもらえるよう働きかけるくらいはするつもりだ。男ではないが、元カノの河合江子に至っては会って欲しくないし、視界から消えて欲しいが、紗々さんの会社の後輩らしいので手が出せないのが悔しいところだ。
やはりオレは、健全に紗々さんを愛している男である。
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