結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【外に出掛けましょう!】6凡人なりに頑張ります。愛は大切です!

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「ずいぶんと機嫌がいいですね」

 夕方、家に帰ると大鷹さんが出迎えてくれた。大鷹さんはこの土日をどのように過ごしたのだろうか。私は良い感じに過ごせたが、大鷹さんの表情を見るに、あまり楽しくなかったようだ。

「まあ、久しぶりに美術館にいけましたし、何より諭吉を溶かした甲斐がありました!」

「諭吉?」

「そうです!大鷹さんも、刀剣のゲームを続けているのならわかるでしょう?あの期間限定鍛刀ガチャ。あれに諭吉を懸けたのですが、無事に回収できました!」

「はあああああ」

 聞かれたことに正直に答えただけなのに、なぜかその場でうずくまる大鷹さん。理由がわからず首をかしげる。私たちの家なので、うずくまってもらって問題はないのだが、玄関先でやられると、私が靴を脱いで上がれない。

「ていうか、そのスカート、さっそく着てみたんですね」

「ああ、これですか?はい、せっかくなので」

 大鷹さんがどいてくれたので、靴を脱いでいたら、服装を指摘されたのでこれまた正直に答える。

「はああああああああああ」

 今度はさらに大きな溜息を吐かれてしまう。本日二度目の盛大な溜息に、さすがに私も理由を聞きたくなる。

「いったい、なにが不満なのですか?ああもしかして」

 これはあれか。私の母親に嫉妬でもしているのだろうか。頭がお花畑としか言えない発想だが、もしそうだとしたら大鷹さんが可愛すぎる。

(私が母親と一緒に刀剣コラボの美術館に行って、その時に着ていった服がこの前新しくしたスカートだったから)

 もともと出かける頻度が少ないので、実家に戻るという外出機会に、ただ着てみようと思っただけだ。そんなにスカートが好きだとは知らなかった。先に話してくれれば、大鷹さんと一緒に出掛ける時に履いたのに。

 とはいえ、こんなに可愛らしい反応をするのなら、歴代彼女たちはずいぶんともったいないことをしたものだ。私だったら、こんな良い男を手放さない。

「紗々さんが元気になられたのなら、別にそれで構いません」

「なんだか、含みがある言い方ですね?あれ、なにか手に持ってます?」

「いえ、これは後で渡します。サッサと手を洗って着替えてきてください!」

 照れ隠しなのか、大鷹さんは私の横を通りすぎて先にリビングに向かってしまう。その際に、両手に何か持っていることに気づいた。私の見間違いでなければ、あれは花束だ。

 今日の大鷹さんは萌えポイント2倍デー。いや5倍、10倍デーなのだろうか。私を萌え殺す気なのかもしれない。

「いやいや、だとしたら私の命日は今日かもしれない」

「不吉なことを言わないでください。僕をひとりにする気ですか?」

 ぼそりとつぶやいた言葉はしっかりと大鷹さんに聞かれてしまった。まさか、萌えだけで死ぬことはない。今のところ、自殺願望は無いし悩みも特にない。まあ、しいて言えば。

「凡人であるが故の悩みで……」

 とはいえ、凡人であることはまぎれもない事実だ。天才のような奇想天外な発想は思いつかないし、好きな物のためなら寝食も忘れて取り組める集中力もない。だが、そんなのはわかりきっていたことだ。


「これは、いったい」

「さ、紗々さんがここ最近、落ち込んでいたようだから、甘いものでもどうかと思いまして。ああ、実家で食べてこられたのならまた明日にしましょう」

「いえ、それは大丈夫ですけど、今日って何かの記念日でしたっけ?」

「特に何も、ですが記念日じゃなくてもケーキを食べても良いと思います。花だって、落ち込んだ気分を上げるためにどうかと買ってきました。部屋に飾ればいいかなと」

 私はそこまで落ち込んでいただろうか。他人から見たら、そんなに私は感情が読みやすい人間だったのか。それにしても、随分と豪華な接待をしてくれる。大鷹さんだけでこのようなことを計画できるだろうか。

「もしかして誰かに私の事、相談しました?」

 そうだとしたら、うれしい反面、複雑な気持ちになる。相談相手にもよるが、その相手と私を肴に盛り上がったとしたら。急にモヤモヤした気持ちになってイライラする。

「すいません。どうしても、元気がない紗々さんを見て居られなくて、実は……」

「大鷹さんって、私が思っているより友達が少ないんですね」

「交遊関係ゼロの人に言われたくありません」

「だ、だって、相談相手が弟といとこ、それに大輔さんとか」

 ケーキは夕食前だったので、食後にいただくことにした。箱の中には今の季節らしい、メロンが乗ったメロンクリームのショートケーキにブルーベリーのタルト、チーズケーキにティラミスが4つ入っていた。二つずつとは太りそうだが、甘いものは好きなのでうれしい。今日はメロンのショートケーキをいただこう。

 大鷹さんが私のことを相談した相手がわかった途端に、私のモヤモヤした気持ちやイライラはどこかに消え去った。現金なものだ。これが河合さんや私の知らない女性の名前だったら、どうなっていたことか。考えたくもない。

 ちなみに花は黄色いひまわりで夏らしくて気分が上がるチョイスだった。これは玄関に飾ることにした。


「明日も暑いので水族館でも行きましょう」

「きっと、ものすごく混みますけどね」

「嫌ですか?」

「私が行かないと、大鷹さんが拗ねそうなので行ってあげます!」

 夕食はみぞれ唐揚げで大いに満足で、ケーキも食べてお腹がパンパンだ。そんな中、大鷹さんの提案に上から目線で回答する。混むのはわかっているが、せっかくの誘いを断るのは気が引けた。それに、今日のもてなしのお礼もある。

 そういうことで、私は連休の最終日は、大鷹さんと激込みの水族館デートを楽しんだ。混んではいたが、それでも大鷹さんと一緒に回れてとても楽しかった。


「大鷹さんは私が凡人だと思わないと言っていましたが、ヤッパリ私は凡人です」

「そうですか」

「ですが、それを卑下して生きていてはつまらないので、今後も凡人なりに創作活動はしていこうと思います」

 家に帰って来てから、改めて今回の件で思ったことを大鷹さんに伝える。私の表情を見て、大鷹さんは安心したようだ。今の私は落ち込んではいない。元気そのものだ。

「なんにせよ、今回の収穫は期間限定の鍛刀ガチャが出たことですね。ああ、よかった。他人が作ったキャラクターにお金をかけられる幸せに乾杯!」

「そんな紗々さんを僕は好きですよ」

「ま、まあ私も、私を好きでいてくれる大鷹さんが、すすすすす」

 クシュン。

 ダメだ。このタイミングでくしゃみが出るとはしまらない。とはいえ、大鷹さんの笑い声で少しは気が楽になる。大鷹さんに真剣に見つめられたら、誰だって緊張して言葉に詰まってしまうだろう。

「私だって、大鷹さんが好きですからね」

 深呼吸して再チャレンジしたら、簡単に言葉が口から出た。それを聞いた大鷹さんはにっこりと微笑み、顔を近づけてきたが。

「それは遠慮します」

 接触はダメだ。両手で大鷹さんを拒否するが、大鷹さんは哀しむそぶりを見せず、笑っている。

 そういうことで、私はとても充実した三連休を過ごしたのだった。外はいまだに熱帯夜だが、私たちもアツアツの夜を過ごしたのだった。とはいかないのが私たち夫婦の日常である。
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