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番外編【浮気系漫画の展開は許せません!】3浮気からの溺愛(大鷹視点)
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「ご、ごめんなさい」
派遣社員の女性はオレの大声に驚いて謝ってきたが、オレはそれどころではない。いったいどこの誰が、紗々さんが浮気しているなんて噂を流したのかが気になった。いや、もしかしたら、誰かから聞いたのではなく、オレの心を揺さぶるために言っただけかもしれない。どちらにせよ、そんな不快なことを言われて許せるはずがない。
「先ほども言いましたが、ここは会社です。あなたに妻の浮気を心配される筋合いはありません。これ以上オレのプライベートに踏み込むつもりなら、上司に相談してあなたを辞めさせてもらいますよ」
「それは勘弁してください!わ、わかりました。わ、私が悪かったです」
怒りに任せて発した言葉だったが、きっと彼女には大して響いていないだろう。いかにも反省しているように顔を俯かせてしおらしくしているが、彼女の内心はわからない。涙声でオレに訴える声は同情を誘うが、オレの心を一ミリも動かすことはない。
「その辺にしておきなよ。ほら、彼女も反省しているだろう?そろそろ昼休みも終わりだから、大鷹君はさっさと仕事に戻りなさい。僕は彼女を慰めてから仕事に戻るよ」
周りからの視線が痛くてその場から離れたかったのだが、そこに救世主が現れた。彼女のことを相談しようと思っていたオレの上司だった。スマホで時刻を確認すると、上司のいう通り、残り5分で昼休みが終わろうとしていた。テーブルの上には食べ終えたランチプレートが置かれている。派遣社員の彼女に話し掛けられながらも、何とか食べきることが出来た自分を褒めてやりたい。オレは上司の言葉に礼を言ってその場を離れた。
ちなみに彼女は食堂だというのに、料理自慢がしたいのか毎日弁当を持参していた。
その日の午後は、あちこちから奇異の視線を向けられて仕事になかなか集中することができなかった。とはいえ、大抵の社員はオレの紗々さんへの愛を知っているので、食堂でのことは、派遣社員の女性が悪いとわかっているようだった。視線を向けられてはいたが、誰もオレに昼の件を追求してこなかった。派遣社員の女性はその日は早退したとのことで、オレが事務所から席を外している間に帰宅したようだ。昼休憩後にその姿を目にすることはなかった。
「ねえ大鷹さん、今はやりの浮気系漫画の展開ってどう思いますか?」
帰宅して夕食を終えた後、紗々さんが唐突な質問をしてきた。とはいえ、そんなのはいつものことだ。オレは特に気にすることなく質問の意味を考える。紗々さんの場合、この手の質問をするときは、自分の小説のネタにしようとしているときだ。慎重に答えないと大変なことになる。そのことは身をもって実感している。
食後の冷たい麦茶を飲みながら、オレはとりあえず浮気系漫画の定義を確認することにした。ちなみに今日の夕食は冷やし中華だ。これを食べると夏がきたなと思う料理である。
「浮気系漫画の定義ですか。そうですねえ。私が今回言いたいのは、仕事にまじめで心優しい主人公がハイスペック男と隠れて付き合っていて、まじめすぎるのが退屈で、男が肉食系女と浮気する。その後、主人公は別れを告げられて悲しむ。それを元カレよりも数倍上のハイスペック男が慰める。主人公と新たに現れたハイスペック男との新たな恋愛が幕を開ける、みたいな感じですね」
得意げに語る紗々さんだが、この手の話はオレもSNSや動画の間に挟まれる広告で見たことがある。男が浮気する漫画はあまり好きではないので、いつもスキップして流していたが、紗々さんは浮気に興味があるのだろうか。
いや、オレに浮気しろという女性である。興味があるに違いない。とはいえ、オレは絶対に浮気などしない。
「そもそも、その元カレはかなり頭の弱い人ですよね。まじめで退屈だから、他の刺激的な女性と浮気する。オレには理解できません」
「男の人って、浮気する生き物とか言いますけど、その辺はどうですか?」
「紗々さんだって浮気されたら嫌でしょう?」
つい、口調が荒くなってしまった。男が浮気する生き物などと言われて、オレもその括りに入れられてしまうのは心外だ。世の中、愛妻家で妻一筋、彼女一筋の男だってたくさんいる。オレもその一人なので、男をそんな大まかに分類しないで欲しい。
「もちろん、浮気なんてされたら嫌な気持になりますけど、私が言いたいのは漫画の話です。この展開で主人公は今までの嫌な経験が帳消しになるくらい、新たな彼氏に溺愛されるんです。まあ、それまでの苦しい経験なんて、私は絶対にしたくはないですけど」
紗々さんはどうにもオレの気持ちに気づいていながら、地雷を踏むのが趣味らしい。それにしても、こんな話をオレにするということは、何か会社で良からぬことが起きているのだろうか。
それから、紗々さんは浮気系漫画で最終的に溺愛されることになる主人公について熱く語っていた。男女の恋愛漫画の話だったはずなのに、いつの間にか主人公の女性がさりげなく男性に置き換わって熱弁していたが、オレは現実の紗々さんの浮気について考えていて、ほとんど頭に入ってこなかった。
派遣社員の女性はオレの大声に驚いて謝ってきたが、オレはそれどころではない。いったいどこの誰が、紗々さんが浮気しているなんて噂を流したのかが気になった。いや、もしかしたら、誰かから聞いたのではなく、オレの心を揺さぶるために言っただけかもしれない。どちらにせよ、そんな不快なことを言われて許せるはずがない。
「先ほども言いましたが、ここは会社です。あなたに妻の浮気を心配される筋合いはありません。これ以上オレのプライベートに踏み込むつもりなら、上司に相談してあなたを辞めさせてもらいますよ」
「それは勘弁してください!わ、わかりました。わ、私が悪かったです」
怒りに任せて発した言葉だったが、きっと彼女には大して響いていないだろう。いかにも反省しているように顔を俯かせてしおらしくしているが、彼女の内心はわからない。涙声でオレに訴える声は同情を誘うが、オレの心を一ミリも動かすことはない。
「その辺にしておきなよ。ほら、彼女も反省しているだろう?そろそろ昼休みも終わりだから、大鷹君はさっさと仕事に戻りなさい。僕は彼女を慰めてから仕事に戻るよ」
周りからの視線が痛くてその場から離れたかったのだが、そこに救世主が現れた。彼女のことを相談しようと思っていたオレの上司だった。スマホで時刻を確認すると、上司のいう通り、残り5分で昼休みが終わろうとしていた。テーブルの上には食べ終えたランチプレートが置かれている。派遣社員の彼女に話し掛けられながらも、何とか食べきることが出来た自分を褒めてやりたい。オレは上司の言葉に礼を言ってその場を離れた。
ちなみに彼女は食堂だというのに、料理自慢がしたいのか毎日弁当を持参していた。
その日の午後は、あちこちから奇異の視線を向けられて仕事になかなか集中することができなかった。とはいえ、大抵の社員はオレの紗々さんへの愛を知っているので、食堂でのことは、派遣社員の女性が悪いとわかっているようだった。視線を向けられてはいたが、誰もオレに昼の件を追求してこなかった。派遣社員の女性はその日は早退したとのことで、オレが事務所から席を外している間に帰宅したようだ。昼休憩後にその姿を目にすることはなかった。
「ねえ大鷹さん、今はやりの浮気系漫画の展開ってどう思いますか?」
帰宅して夕食を終えた後、紗々さんが唐突な質問をしてきた。とはいえ、そんなのはいつものことだ。オレは特に気にすることなく質問の意味を考える。紗々さんの場合、この手の質問をするときは、自分の小説のネタにしようとしているときだ。慎重に答えないと大変なことになる。そのことは身をもって実感している。
食後の冷たい麦茶を飲みながら、オレはとりあえず浮気系漫画の定義を確認することにした。ちなみに今日の夕食は冷やし中華だ。これを食べると夏がきたなと思う料理である。
「浮気系漫画の定義ですか。そうですねえ。私が今回言いたいのは、仕事にまじめで心優しい主人公がハイスペック男と隠れて付き合っていて、まじめすぎるのが退屈で、男が肉食系女と浮気する。その後、主人公は別れを告げられて悲しむ。それを元カレよりも数倍上のハイスペック男が慰める。主人公と新たに現れたハイスペック男との新たな恋愛が幕を開ける、みたいな感じですね」
得意げに語る紗々さんだが、この手の話はオレもSNSや動画の間に挟まれる広告で見たことがある。男が浮気する漫画はあまり好きではないので、いつもスキップして流していたが、紗々さんは浮気に興味があるのだろうか。
いや、オレに浮気しろという女性である。興味があるに違いない。とはいえ、オレは絶対に浮気などしない。
「そもそも、その元カレはかなり頭の弱い人ですよね。まじめで退屈だから、他の刺激的な女性と浮気する。オレには理解できません」
「男の人って、浮気する生き物とか言いますけど、その辺はどうですか?」
「紗々さんだって浮気されたら嫌でしょう?」
つい、口調が荒くなってしまった。男が浮気する生き物などと言われて、オレもその括りに入れられてしまうのは心外だ。世の中、愛妻家で妻一筋、彼女一筋の男だってたくさんいる。オレもその一人なので、男をそんな大まかに分類しないで欲しい。
「もちろん、浮気なんてされたら嫌な気持になりますけど、私が言いたいのは漫画の話です。この展開で主人公は今までの嫌な経験が帳消しになるくらい、新たな彼氏に溺愛されるんです。まあ、それまでの苦しい経験なんて、私は絶対にしたくはないですけど」
紗々さんはどうにもオレの気持ちに気づいていながら、地雷を踏むのが趣味らしい。それにしても、こんな話をオレにするということは、何か会社で良からぬことが起きているのだろうか。
それから、紗々さんは浮気系漫画で最終的に溺愛されることになる主人公について熱く語っていた。男女の恋愛漫画の話だったはずなのに、いつの間にか主人公の女性がさりげなく男性に置き換わって熱弁していたが、オレは現実の紗々さんの浮気について考えていて、ほとんど頭に入ってこなかった。
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