108 / 234
番外編【浮気系漫画の展開は許せません!】4最悪のシチュエーション(大鷹視点)
しおりを挟む
次の日の昼休み、派遣社員の女性は性懲りもなく、オレの目の前の席に座って昼食を取り始めた。
「昨日は本当にすみません。実は大鷹さんの話を聞いて、他人事じゃないなと思ってしまって、思わず大鷹さんのプライベートに干渉してしまいました」
相変わらず、彼女は小さな弁当箱を持参していた。それにしても、昨日の今日でまったく反省していないことはまるわかりだ。それにしても、「他人事ではない」とは相手の同情を誘いたいという気持ちが丸見えだ。こちらから聞かなくても勝手に話してくるだろう。
今日のランチは唐揚げ定食にした。暑い日でもしっかりと食事をとって夏バテしないようにしなくては。そう思いながら、黙々と食事に集中していたら、とんでもないことに気づいてしまった。
「実は私、彼氏に浮気されているみたいなんです。それで、その相手は私と正反対の女性で、彼氏に問い詰めたらお前はもう、用済みだと言ってきて……」
派遣社員の女性の声が聞こえるが、オレの頭はたった今思いついた仮説で頭がいっぱいだ。
どうしてその可能性に今まで気づかなかったのか。紗々さんだって女性で恋する乙女なのだ。
オレは急いで昼食の唐揚げ定食を食べ終え、派遣社員の女性を無視して席を立つ。慌てて食事を終えたオレのことを戸惑いながらも見守っていた女性だったが、オレの鬼気迫る表情に気圧されて、オレが席を離れても追いかけてくることは無かった。
※※
「大鷹さんが浮気しているなんて、知りませんでした。やっぱり、私との結婚生活は退屈でしたよね?大丈夫です、いつも言っていたでしょう。本来なら、私が大鷹さんの幸せのために大鷹さんにとって最善な相手を見つけなければいけなかった。それが大鷹さん自ら相手を選んだことに私は傷ついてなんかいません」
これは夢だとオレは直ぐに理解した。オレと紗々さんは謎の白い空間に立っていた。辺りに人の気配はなく、その場にはオレと紗々さん二人きりだ。
「オレは浮気なんてしていません。どこの誰からそんな嘘を聞いたんですか?」
「嘘だなんて。大鷹さんの後ろにいる女性に、心当たりはありませんか?」
「攻(おさむ)君。奥さんは私たちを認めてくれているんだよ。恥ずかしがらなくていいよ。私たちの関係はもう、隠す必要なんてない。公にしてよい関係だから」
「なんで……」
二人きりだと思っていた空間に突如、新たな人物が現れた。オレの後ろには真っ白なウェディングドレスを着た派遣社員の女性が立っていた。よく見ると、オレの格好は白いタキシード姿だ。これではまるで。
「結婚おめでとう。末永くお幸せに」
オレの目の前では紗々さんがハンカチ片手に涙を拭いている。紗々さんも紺色のドレスワンピを着用して結婚式の招待客のような服装だ。
「おめでとう、兄貴」
「おめでとう、攻(おさむ)」
「これでようやく孫が期待できるわね」
オレが驚いて固まっている間に周りに続々とオレの親せきが集まってくる。弟の亨(きょう)に千沙さん、オレの母親。いつの間にか、オレたちは謎の白い空間ではなく、結婚式の会場に瞬間移動していた。
「めでたいねえ。大鷹君には申し訳ないが、まさか君を超える男が紗々をもらってくれるとは思わなかった」
「本当に。こんなに運の良い子だとは思いませんでした」
「お母さん、お父さん」
紗々さんの両親も現れた。明らかな異常事態だが、オレの心はまだ冷静だった。これは夢だ。夢ならいずれ覚めて現実に戻るだろう。そう思っていたのに。
「○○さん!」
「あああああああ!」
紗々さんがオレに見せたことのない甘い笑顔を見知らぬ男に向けた瞬間、オレは絶叫していた。
※※
「大丈夫ですか!」
目が覚めると、いつもの見慣れた寝室の天井が視界に入る。とんでもない夢を見てしまった。
(これがもし、本当に起きてしまったら)
オレは正気で居られるだろうか。起きたばかりの寝起きの頭で考えていたら、突然、部屋のドアが開かれた。ドアを開けて入ってくるのはひとりしかいない。
「おはようございます。紗々さん」
オレは基本的に紗々さんの部屋に入るときはノックしているが、紗々さんがオレの部屋に来るときはノックしないことが多い。隠したいことも特にないので気にしたことは無いが、今朝の紗々さんはどうにも様子がおかしい。無言でオレの目の前までやってくると、額にしわを寄せてオレの額に手を当てる。
「いきなり大声がしたので何事かと思いました。何か変な夢でも見ましたか?熱は無いようですが、随分と汗をかいていますね。クーラーは入っているようですけど」
どうやら、夢でも現実でもオレは叫んでいたようだ。紗々さんの部屋にまで響いたということは、相当の音量だったらしい。紗々さんはオレの様子を見に来てくれた。変な夢を見た後に紗々さんのこの行動は心にしみわたる。悪い夢が紗々さんのおかげで薄れていく。
「すいません。紗々さんのいう通り、変な夢を見ていました。でも、紗々さんの顔を見れたので、もう大丈夫です」
「いやいや、私の顔見て元気になるとかないで」
「あるんです。こうやって、紗々さんの顔を毎日見られることがオレの幸せです」
「はあ」
紗々さんのひんやりした手が火照った身体に心地よい。オレは紗々さんが逃げないのをよいことにそっと彼女を抱きしめる。いつもなら、恥ずかしがって離れようとするはずが、オレのただならぬ様子に気づいたのか、紗々さんはそのままオレの腕の中でおとなしくしていた。
(そういえば、今日は金曜日だ)
ちらりとベッドわきに置かれた目覚まし時計を見ると、6時少し前だった。紗々さんもオレも仕事がある。名残惜しいが起きなくてはいけない。
「きょ、今日は七夕ですね。何かお願いことがあれば短冊に書いておくと叶うかも、しれないですよ」
腕の中の紗々さんのささやくような声に我に返る。顔を赤くしているのがこの距離だと丸見えだ。ちょっといたずらしたくなり、紗々さんの頬に軽く口づける。
「ななななな!」
紗々さんはオレの腕の中から抜け出して、頬を抑えて部屋のドアぎりぎりまで離れてしまった。
「心配してくれてありがとうございます。今週もあと一日、お互い仕事を頑張りましょう」
「ゲンキニナッタヨウデヨカッタデス」
それから、オレたちはいつもどおりに朝食をとって、身支度を整えて仕事場に向かった。玄関から外に出ると、どんよりとした曇り空が広がっていたが、オレの心は晴れの日のように明るかった。夢見は悪かったが、紗々さんのおかげで気分が良かった。
「昨日は本当にすみません。実は大鷹さんの話を聞いて、他人事じゃないなと思ってしまって、思わず大鷹さんのプライベートに干渉してしまいました」
相変わらず、彼女は小さな弁当箱を持参していた。それにしても、昨日の今日でまったく反省していないことはまるわかりだ。それにしても、「他人事ではない」とは相手の同情を誘いたいという気持ちが丸見えだ。こちらから聞かなくても勝手に話してくるだろう。
今日のランチは唐揚げ定食にした。暑い日でもしっかりと食事をとって夏バテしないようにしなくては。そう思いながら、黙々と食事に集中していたら、とんでもないことに気づいてしまった。
「実は私、彼氏に浮気されているみたいなんです。それで、その相手は私と正反対の女性で、彼氏に問い詰めたらお前はもう、用済みだと言ってきて……」
派遣社員の女性の声が聞こえるが、オレの頭はたった今思いついた仮説で頭がいっぱいだ。
どうしてその可能性に今まで気づかなかったのか。紗々さんだって女性で恋する乙女なのだ。
オレは急いで昼食の唐揚げ定食を食べ終え、派遣社員の女性を無視して席を立つ。慌てて食事を終えたオレのことを戸惑いながらも見守っていた女性だったが、オレの鬼気迫る表情に気圧されて、オレが席を離れても追いかけてくることは無かった。
※※
「大鷹さんが浮気しているなんて、知りませんでした。やっぱり、私との結婚生活は退屈でしたよね?大丈夫です、いつも言っていたでしょう。本来なら、私が大鷹さんの幸せのために大鷹さんにとって最善な相手を見つけなければいけなかった。それが大鷹さん自ら相手を選んだことに私は傷ついてなんかいません」
これは夢だとオレは直ぐに理解した。オレと紗々さんは謎の白い空間に立っていた。辺りに人の気配はなく、その場にはオレと紗々さん二人きりだ。
「オレは浮気なんてしていません。どこの誰からそんな嘘を聞いたんですか?」
「嘘だなんて。大鷹さんの後ろにいる女性に、心当たりはありませんか?」
「攻(おさむ)君。奥さんは私たちを認めてくれているんだよ。恥ずかしがらなくていいよ。私たちの関係はもう、隠す必要なんてない。公にしてよい関係だから」
「なんで……」
二人きりだと思っていた空間に突如、新たな人物が現れた。オレの後ろには真っ白なウェディングドレスを着た派遣社員の女性が立っていた。よく見ると、オレの格好は白いタキシード姿だ。これではまるで。
「結婚おめでとう。末永くお幸せに」
オレの目の前では紗々さんがハンカチ片手に涙を拭いている。紗々さんも紺色のドレスワンピを着用して結婚式の招待客のような服装だ。
「おめでとう、兄貴」
「おめでとう、攻(おさむ)」
「これでようやく孫が期待できるわね」
オレが驚いて固まっている間に周りに続々とオレの親せきが集まってくる。弟の亨(きょう)に千沙さん、オレの母親。いつの間にか、オレたちは謎の白い空間ではなく、結婚式の会場に瞬間移動していた。
「めでたいねえ。大鷹君には申し訳ないが、まさか君を超える男が紗々をもらってくれるとは思わなかった」
「本当に。こんなに運の良い子だとは思いませんでした」
「お母さん、お父さん」
紗々さんの両親も現れた。明らかな異常事態だが、オレの心はまだ冷静だった。これは夢だ。夢ならいずれ覚めて現実に戻るだろう。そう思っていたのに。
「○○さん!」
「あああああああ!」
紗々さんがオレに見せたことのない甘い笑顔を見知らぬ男に向けた瞬間、オレは絶叫していた。
※※
「大丈夫ですか!」
目が覚めると、いつもの見慣れた寝室の天井が視界に入る。とんでもない夢を見てしまった。
(これがもし、本当に起きてしまったら)
オレは正気で居られるだろうか。起きたばかりの寝起きの頭で考えていたら、突然、部屋のドアが開かれた。ドアを開けて入ってくるのはひとりしかいない。
「おはようございます。紗々さん」
オレは基本的に紗々さんの部屋に入るときはノックしているが、紗々さんがオレの部屋に来るときはノックしないことが多い。隠したいことも特にないので気にしたことは無いが、今朝の紗々さんはどうにも様子がおかしい。無言でオレの目の前までやってくると、額にしわを寄せてオレの額に手を当てる。
「いきなり大声がしたので何事かと思いました。何か変な夢でも見ましたか?熱は無いようですが、随分と汗をかいていますね。クーラーは入っているようですけど」
どうやら、夢でも現実でもオレは叫んでいたようだ。紗々さんの部屋にまで響いたということは、相当の音量だったらしい。紗々さんはオレの様子を見に来てくれた。変な夢を見た後に紗々さんのこの行動は心にしみわたる。悪い夢が紗々さんのおかげで薄れていく。
「すいません。紗々さんのいう通り、変な夢を見ていました。でも、紗々さんの顔を見れたので、もう大丈夫です」
「いやいや、私の顔見て元気になるとかないで」
「あるんです。こうやって、紗々さんの顔を毎日見られることがオレの幸せです」
「はあ」
紗々さんのひんやりした手が火照った身体に心地よい。オレは紗々さんが逃げないのをよいことにそっと彼女を抱きしめる。いつもなら、恥ずかしがって離れようとするはずが、オレのただならぬ様子に気づいたのか、紗々さんはそのままオレの腕の中でおとなしくしていた。
(そういえば、今日は金曜日だ)
ちらりとベッドわきに置かれた目覚まし時計を見ると、6時少し前だった。紗々さんもオレも仕事がある。名残惜しいが起きなくてはいけない。
「きょ、今日は七夕ですね。何かお願いことがあれば短冊に書いておくと叶うかも、しれないですよ」
腕の中の紗々さんのささやくような声に我に返る。顔を赤くしているのがこの距離だと丸見えだ。ちょっといたずらしたくなり、紗々さんの頬に軽く口づける。
「ななななな!」
紗々さんはオレの腕の中から抜け出して、頬を抑えて部屋のドアぎりぎりまで離れてしまった。
「心配してくれてありがとうございます。今週もあと一日、お互い仕事を頑張りましょう」
「ゲンキニナッタヨウデヨカッタデス」
それから、オレたちはいつもどおりに朝食をとって、身支度を整えて仕事場に向かった。玄関から外に出ると、どんよりとした曇り空が広がっていたが、オレの心は晴れの日のように明るかった。夢見は悪かったが、紗々さんのおかげで気分が良かった。
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる