結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【GWの過ごし方】1紗々の場合

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 5月と言えば、GWという長期休暇がある。長期休みはだれにとっても素晴らしいものだ、と思う。かくいう私もどこかに行く予定がなくても楽しみにしていた。

「紗々さんは、今年もまた、GWはどこにも出かけないつもりですか?」

 GW一週間前、夕食時に大鷹さんに質問される。今日は大鷹さん作のオムライスだ。卵がきれいに巻かれたオムライスの上には、自分で書いたケチャップのハートが目立っている。

 それを眺めながら、正直に今年のGWの予定を簡潔に伝える。そもそも、私の予定なんて大鷹さんにはわかりきっているはずだ。質問の意図がわからない。

「実家に帰るほかは家でゴロゴロ過ごそうかと考えています」

「はあ」

 なぜか大鷹さんは私の回答を聞いて大きな溜息をつく。そんな大鷹さんの予定はきっと。

「僕は家を空けることが多いと思います。実家に帰省して地元の同級生たちと会ったり、大学の友達がこっちに来るのでランチしたりしようかと。あとは」

「もういいです。予定がたくさん詰まっているのはわかりました」

 思わず、大鷹さんの話を遮ってしまう。私と違ってリア充の大鷹さんのことだ。こちらもまたわかりきった答えのはずだった。それなのに、なぜか心の奥がもやもやとしてスッキリしない。ケチャップのハートをスプーンで伸ばしてオムライスを口に運んで気持ちをごまかすことにした。やはり、大鷹さんの作る料理はとてもおいしかった。

「一応、GWの最後の土日は予定を空けておいてくださいね」

「そんなとこと言わなくても、実家に帰る以外に私に予定なんてありません。心配しなくても大丈夫です」

「念のためです」

 大鷹さんは圧のある視線で私に訴えて、自分もオムライスを口に運ぶ。

 それにしても、5月は私たちの誕生日でもないし、なにかの記念日という訳でもない。それなのに私の予定を空けさせる理由は何だろう。わからないが、素直に頷くことにした。



 銀行の休みは土日祝日となっている。そのため、GW間の平日は仕事が入っていた。実家にはGW最初の連休に帰省した。平日の二日間を終えたGW後半は心置きなくごろごろする予定だった。

「二人きりでランチでもしませんか?」

 しかし、その予定は少しだけ変更された。GW中日の平日の勤務後、河合さんからランチに誘われてしまった。更衣室で着替えをしていたら河合さんに声をかけられた。

 二人きりで仕事以外で会ったことはあるが、まさか長期休暇にそんな誘いをされるとは思ってもみなかった。河合さんは大鷹さんのように交友関係が広そうだと思っていたが、もしかして私と同じような。

「先輩、何か失礼なことを考えていませんか?私は先輩と違って、ちゃんとGWの予定は詰まっていますから。先輩と一緒にしないでください!」

 そして、私の心の中を読まれてしまった。しかし、それなら私をランチに誘う理由がわからない。

「た、たまたまですよ。せっかくの休みなのに、学生時代の友達の予定が合わなかったんです。予定は詰まっていました。た、たまたまキャンセルになってしまったんです!」

 私はまだ何も言っていない。それなのにどうしてそんなに言い訳がましいことを口にしているのか。とはいえ、誘ってくれたことが地味にうれしい。ランチに気軽に誘えるような友達を私はもっていない。スマホの電話帳、SNSの連絡先は、昨年の冬の同級生と遭遇して大幅な整理をしてしまった。以来、私のスマホに残っているのは必要最低限の家族や大鷹さん、大鷹さんの親せき、銀行に勤める同僚くらいの連絡先しか入っていない。

「私を笑っていますね!自分だって、せっかくの休みに誰にも会わずに家で引きこもっている陰キャのくせに」

 興奮して大声を出した河合さんだが、ちょうど更衣室には私たち以外に人はいなかった。河合さんは自分の声の大きさに気づき、慌てて辺りを見わたしほっと息をつく。

「さっきから何をそんなにイラついているのですか?私は河合さんをバカにしていないし、わざわざ河合さんが言わなくても、自分が陰キャなのは知っています」

「うううううう」

 今日の河合さんは情緒不安定のようだ。私の言葉に今度はうなりだした。そんな状態の河合さんだが、ランチに誘ってくれたので返事をしなくてはならない。

「それで、友達に予定をキャンセルされた河合さんの、新たな予定に私とのランチを入れてくれるんですか?」

「だから誘ったに決まってるでしょ!」

 今度は声を抑えていたが、相変わらず河合さんの興奮は収まることがない。

「行きますよ。日付はいつで場所はどこにしますか?大鷹さんは呼んだ方がいいでしょうか?」

 つい、大鷹さんのことを口にしてしまった。そして大鷹さんの予定を思い出して少しだけ気分が下がってしまう。大鷹さんは予定が詰まっているのだ。わざわざ私のために予定を空けてくれるだろうか。

「いやいや、どうしてここでおおたかっちの話が出てくるんですか?私は先輩と二人きりで、ランチがしたいんですけど」

「そうでしたか。いいですよ」

「まったく、最初に二人きりで誘っているのに、耳でも悪いのか、それとも天然か……」

 ぶつぶつと何かつぶやく河合さんだが、私と河合さんはGWの休みに二人でランチすることになった。

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