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番外編【妄想】5誰も書いてはくれなかった
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「これ、僕の性格がかなり歪んでいますよね」
「だから言ったでしょう。自分で書けばこんなことにはならないです」
「いや、別に悪いと言っているわけではありません。これはこれで面白いと思います。とはいえ、出会いだけで終わっていますけど、続きはありますか?」
「たぶん、書くことは無いと思いますよ」
「そうですか」
大鷹さんと私との出会いを別バージョンで書いてみた。私がお題を出したのに、大鷹さんが小説を書く気がないとわかったので、仕方なく私がそのお題で書くことにした。某小説投稿サイトで、777文字で書くイベントがあったので、それに倣ってこの文字数にしてみた。
短いので一時間もしないうちに完成した。そのため、小説投稿サイトに投稿する前に大鷹さんを私の部屋に呼んで確認してもらった。昔の私だったら、たとえ短くてももっと時間がかかっただろう。さすがに何年も小説執筆を続けていたら成長するものだ。しかし、いざ読み直してみると、大鷹さんに言われた通り、大鷹さんの性格のゆがみが前面に出てしまっている。
「実は僕も少しだけ書いてはみたんですけど、人前に出すには全然だめですね。紗々さんに見せるような出来ではないので、書いてすぐに消してしまいました」
「消した……」
何というもったいないことをしているのだ。私だって人前には到底出せないものはたくさんあるが、消さずに残している。いつかどこかで改良して日の目を見るかもしれない。私の落胆の表情を目にした大鷹さんは苦笑する。
「やはり、僕は紗々さんが書く物語を読むのが好きです。読専(よみせん)っていうんですよね。僕は読む専門でいいです」
その後、爽やかに告げられた言葉に何も言葉が出ない。まあ、近い将来、自分の妄想はAI(人工知能)に任せれば済むことになるかもしれない。それでも、自分で書く達成感などは自分で書かなくては味わうことはできない。細かなニュアンスもやはり自分に勝るものはない。
ただし、あくまで自分で書くということは自分以上の力量を求めてはいけない。そこがなんとも悩ましいことだ。
「河合江子にも、僕に伝えたことを話すんですか?」
「まあ、そうですね。河合さんも大鷹さんみたいに私にリクエストしてきましたから」
「……。止めても無駄ですよね」
「無駄ですね。河合さんが執筆の楽しさに気づいてくれれば、執筆仲間としていろいろな話が出来そうだとおも」
「それはダメです」
大鷹さんに口をふさがれてしまった。まったくどれだけ嫉妬深いのだろうか。
「私が河合さんとどうこうなるわけないじゃないですか。何が心配なんですか?」
「別に心配しているわけではありません。ただ……」
「ただ?」
大鷹さんは部屋のあちこちに視線を飛ばしている。面倒な人である。さっさと用件を伝えて欲しい。
「河合江子がさらに紗々さんの魅力を知ってしまうのが嫌です」
悩んだ末に正直に話すことにしたらしい。大鷹さんがぼそりとつぶやいた言葉に思わず吹き出してしまう。どんな心配をしていたかと思えばくだらない。大鷹さんにとっては重要なことだろうが私にする心配ではない。もっと、魅力的な女性に対して使う心配である。
「私は大鷹さんしか好きじゃありません」
三次元の男性だと。
最後の言葉は胸の中だけにとどめておく。
大鷹さんの耳元で囁いたら、ものすごい勢いで後退されてしまった。引かれてしまったのだろうか。いや、大鷹さんの顔が真っ赤になっていたので、照れているだけだろう。
私の旦那は面白い。私が言うことではないかもしれないがそれでも面白過ぎる。そして、私にはもったいないくらい良い男である。
「嫌ですよ。私は先輩が紡ぎだした物語が読みたいからリクエストしたんです。自分で書いた方がいいなんて、そんな見当はずれなことを言わないでください!」
「見当はずれですか……」
「そうそう、誰にだって小説には癖というか、特徴があるでしょう。それが好きで読んでいる人もいるんですよ。それはその人にしか出せない個性というものです。同じ題材で文章を書いても、人それぞれ個性が出るのと同じです。誰ひとり、同じものは完成しない!」
次の日の昼休み、河合さんに大鷹さんとした話を伝えたら、真っ向から否定されてしまった。
「大鷹さんは書いてくれたのに……」
河合さんにも断られてしまった。せっかく、他人が書いた自分たちの「もしも~」が読みたかったのに。河合さんに聞こえるように言ったつもりはないが、つい口から本音が出てしまった。
「おおたかっちは、書いたんですか?」
「私には読ませてくれませんでしたけど」
「ふうん」
河合さんも妙に大鷹さんに対抗意識を持っている気がする。とはいえ、大鷹さんを奪うようなことはないだろう。どちらかというと、私の方に興味深々な様子だ。
「おおたかっちが書けるということは、私にも……。いやいや、私みたいなど素人の作品を先輩に読ませるわけには。はっ!こっそり練習すればいいのか。それを初めてだと言い張れば、それはそれで……」
ぶつぶつと何か言っているが、触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。ばっちり聞こえているが、ここは大人の対応で華麗に無視することにした。
今日も私の周りは平和である。
「だから言ったでしょう。自分で書けばこんなことにはならないです」
「いや、別に悪いと言っているわけではありません。これはこれで面白いと思います。とはいえ、出会いだけで終わっていますけど、続きはありますか?」
「たぶん、書くことは無いと思いますよ」
「そうですか」
大鷹さんと私との出会いを別バージョンで書いてみた。私がお題を出したのに、大鷹さんが小説を書く気がないとわかったので、仕方なく私がそのお題で書くことにした。某小説投稿サイトで、777文字で書くイベントがあったので、それに倣ってこの文字数にしてみた。
短いので一時間もしないうちに完成した。そのため、小説投稿サイトに投稿する前に大鷹さんを私の部屋に呼んで確認してもらった。昔の私だったら、たとえ短くてももっと時間がかかっただろう。さすがに何年も小説執筆を続けていたら成長するものだ。しかし、いざ読み直してみると、大鷹さんに言われた通り、大鷹さんの性格のゆがみが前面に出てしまっている。
「実は僕も少しだけ書いてはみたんですけど、人前に出すには全然だめですね。紗々さんに見せるような出来ではないので、書いてすぐに消してしまいました」
「消した……」
何というもったいないことをしているのだ。私だって人前には到底出せないものはたくさんあるが、消さずに残している。いつかどこかで改良して日の目を見るかもしれない。私の落胆の表情を目にした大鷹さんは苦笑する。
「やはり、僕は紗々さんが書く物語を読むのが好きです。読専(よみせん)っていうんですよね。僕は読む専門でいいです」
その後、爽やかに告げられた言葉に何も言葉が出ない。まあ、近い将来、自分の妄想はAI(人工知能)に任せれば済むことになるかもしれない。それでも、自分で書く達成感などは自分で書かなくては味わうことはできない。細かなニュアンスもやはり自分に勝るものはない。
ただし、あくまで自分で書くということは自分以上の力量を求めてはいけない。そこがなんとも悩ましいことだ。
「河合江子にも、僕に伝えたことを話すんですか?」
「まあ、そうですね。河合さんも大鷹さんみたいに私にリクエストしてきましたから」
「……。止めても無駄ですよね」
「無駄ですね。河合さんが執筆の楽しさに気づいてくれれば、執筆仲間としていろいろな話が出来そうだとおも」
「それはダメです」
大鷹さんに口をふさがれてしまった。まったくどれだけ嫉妬深いのだろうか。
「私が河合さんとどうこうなるわけないじゃないですか。何が心配なんですか?」
「別に心配しているわけではありません。ただ……」
「ただ?」
大鷹さんは部屋のあちこちに視線を飛ばしている。面倒な人である。さっさと用件を伝えて欲しい。
「河合江子がさらに紗々さんの魅力を知ってしまうのが嫌です」
悩んだ末に正直に話すことにしたらしい。大鷹さんがぼそりとつぶやいた言葉に思わず吹き出してしまう。どんな心配をしていたかと思えばくだらない。大鷹さんにとっては重要なことだろうが私にする心配ではない。もっと、魅力的な女性に対して使う心配である。
「私は大鷹さんしか好きじゃありません」
三次元の男性だと。
最後の言葉は胸の中だけにとどめておく。
大鷹さんの耳元で囁いたら、ものすごい勢いで後退されてしまった。引かれてしまったのだろうか。いや、大鷹さんの顔が真っ赤になっていたので、照れているだけだろう。
私の旦那は面白い。私が言うことではないかもしれないがそれでも面白過ぎる。そして、私にはもったいないくらい良い男である。
「嫌ですよ。私は先輩が紡ぎだした物語が読みたいからリクエストしたんです。自分で書いた方がいいなんて、そんな見当はずれなことを言わないでください!」
「見当はずれですか……」
「そうそう、誰にだって小説には癖というか、特徴があるでしょう。それが好きで読んでいる人もいるんですよ。それはその人にしか出せない個性というものです。同じ題材で文章を書いても、人それぞれ個性が出るのと同じです。誰ひとり、同じものは完成しない!」
次の日の昼休み、河合さんに大鷹さんとした話を伝えたら、真っ向から否定されてしまった。
「大鷹さんは書いてくれたのに……」
河合さんにも断られてしまった。せっかく、他人が書いた自分たちの「もしも~」が読みたかったのに。河合さんに聞こえるように言ったつもりはないが、つい口から本音が出てしまった。
「おおたかっちは、書いたんですか?」
「私には読ませてくれませんでしたけど」
「ふうん」
河合さんも妙に大鷹さんに対抗意識を持っている気がする。とはいえ、大鷹さんを奪うようなことはないだろう。どちらかというと、私の方に興味深々な様子だ。
「おおたかっちが書けるということは、私にも……。いやいや、私みたいなど素人の作品を先輩に読ませるわけには。はっ!こっそり練習すればいいのか。それを初めてだと言い張れば、それはそれで……」
ぶつぶつと何か言っているが、触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。ばっちり聞こえているが、ここは大人の対応で華麗に無視することにした。
今日も私の周りは平和である。
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