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番外編【運動しましょう!(健全)】2飽きられないように
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「紗々も運動したほうがいいわよ」
それは昨年の12月初旬のことだった。たまたま実家に寄る機会があり、その時に母親に言われた言葉だ。
「私が通っているフィットネスクラブで、家でもできる運動プランがあってね。お母さん、それに申し込もうと思っているの。あなたも30歳を過ぎたんだから、もう少し健康に気を遣ってもいいんじゃない?」
母親は昔から女性専用のフィットネスクラブに通っていた。週二回から三回ほど通っていたが、あまり効果が出ないため、店が新たに打ち出した家での運動プランを取り入れることにしたようだ。そして、それを私に勧めてきた。
「専用のアプリをスマホに入れて、好きな時間にアプリ内の動画を見ながら運動するだけでいいみたい。15分、30分と時間が決まっているから、やってみたらどう?家だけのプランもあるみたいだから、ね」
「母さんの言う通り、紗々も何か運動を始めたほうがいい。お父さんも公園を散歩するようになったら、身体がずいぶんと軽くなったぞ」
母親と私の話を聞いていた父親も会話に参加してきた。夕食後、ソファでくつろぎながら話していたのを聞いていたのだろう。父親は定年を迎えた後も会社で働いていたが、毎日の勤務ではなくなったので、休みの日に近くの公園を散歩しているらしい。
「そうそう、運動も大事だけど、歩くのも大事みたいね。ちょうどいい機会だから、家でこのプランをやって、休日に散歩するのはどうかしら?」
「そのぽっちゃりした腹とか引き締まるかもしれないぞ」
「……」
父親の言葉に反論できない。私の体型は世間から見れば太っているわけではない。身長に対しての体重も軽いほうだ。筋肉がなく、いわゆる引き締まりのない、だらしない体型をしていた。自分でも己の体型は自覚していた。
「そんな身体じゃ、いつか旦那さんに飽きられてしまうわよ」
私に追い打ちをかけたのは、母親の言葉だった。この言葉により、私は運動と散歩することを決心した。
「飽きられる……」
大鷹さんに体型を理由に別れを切り出されては困る。私が大鷹さんの理想の相手を見つけるまでは私が大鷹さんの妻である。その座を譲る気はないので、両親の提案を私は受け入れることにした。
「今日も運動しようと思う姿勢が素晴らしいです!頑張って身体を温めて理想の身体に向けて頑張っていきましょう!」
そういう訳で私は母親に勧められて、女性用フィットネスクラブの会員となった。家庭用プランを申し込んで2月で二か月になる。運動する時間を決めておくことが継続して行える秘訣とのことだったので、私は毎日夕食後、15分メニューに取り組むことにした。
リビングの片隅にヨガマットを引いて、赤と青のトレーニングバンド、青のピラティスボール、水の入ったコップを用意する。スマホをテーブルにセットして準備完了だ。
「今日も一緒に頑張りましょうね」
当然、一人で運動はやるものだと思っていた。しかし、最初の一週間以外は大鷹さんも私の隣で一緒に運動に励んでいる。
「なぜ、大鷹さんが一緒に運動をしているのですか?」
最初は道具もまともになかったはずなのに、いつの間にかそろえたのか、私と同じ装備で運動している。
「僕も紗々さんと同じで運動しなくちゃいけないな、って思っていましたから。僕と一緒じゃ嫌ですか?」
身長の関係で上目遣いになることは無いが、首をかしげてあざとい言い方である。これで断る人はいないだろう。私だって別に嫌なわけではない。
そもそも、本当に一人でやりたいなら自分の部屋で運動をすればいいだけだ。さすがに大鷹さんも私室にまで勝手に乗り込んでこない、と思う。たまに私の小説を覗きにやってくることがあるので保証はできないが。
「嫌ではないです」
嫌ではないどころか、実は一緒に運動してくれてとても助かっている。もともと運動するのが嫌いで、15分という短い時間でも本当はやりたくない。大鷹さんが隣で一緒に運動してくれることで何とかモチベーションを保たれている。
「三日坊主の私が、ほぼ皆勤賞なのは大鷹さんのおかげです」
さすがに大鷹さんが体調不良になった時と、自分自身の体調がすぐれないと思った時はやっていないが、それ以外はやる気がなくても気合を入れてやっていた。
成果はほんの少しずつだが現れている。毎日風呂上りに計っている体重がほんの少しだけ減っていた。見た目にも変化があり、入浴後に鏡を見て全身を確認すると、こちらもほんの少し、腰にくびれが出て来た気がする。腹も同様にへこんでいるように見える。
「次は赤のバンドとボールを持ちます。椅子に深く腰掛けて太ももの間にボールをはさみ、赤のバンドを二重にして持ちます。左右に捻っていきましょう」
「では、水を飲んだらサイドステップをしていきましょう」
「最後の種目です。ボールを胸の前で持ち、スクワットをしていきましょう」
「運動後にストレッチをしましょう。アキレス腱を伸ばしていきます」
毎日やっているが、動画に出てくる女性の指示にきちんと従って運動している。隣でイケメンが一緒に身体を動かしていることにもだいぶ慣れてきた。最初は隣のイケメンが気になってスマホの画面に集中できなかったが、今では気にせず全力で身体を動かすことが出来ている。恥ずかしいという気持ちもなくなった。何事も全力で取り組めば恥ずかしさもなくなるものだ。
それは昨年の12月初旬のことだった。たまたま実家に寄る機会があり、その時に母親に言われた言葉だ。
「私が通っているフィットネスクラブで、家でもできる運動プランがあってね。お母さん、それに申し込もうと思っているの。あなたも30歳を過ぎたんだから、もう少し健康に気を遣ってもいいんじゃない?」
母親は昔から女性専用のフィットネスクラブに通っていた。週二回から三回ほど通っていたが、あまり効果が出ないため、店が新たに打ち出した家での運動プランを取り入れることにしたようだ。そして、それを私に勧めてきた。
「専用のアプリをスマホに入れて、好きな時間にアプリ内の動画を見ながら運動するだけでいいみたい。15分、30分と時間が決まっているから、やってみたらどう?家だけのプランもあるみたいだから、ね」
「母さんの言う通り、紗々も何か運動を始めたほうがいい。お父さんも公園を散歩するようになったら、身体がずいぶんと軽くなったぞ」
母親と私の話を聞いていた父親も会話に参加してきた。夕食後、ソファでくつろぎながら話していたのを聞いていたのだろう。父親は定年を迎えた後も会社で働いていたが、毎日の勤務ではなくなったので、休みの日に近くの公園を散歩しているらしい。
「そうそう、運動も大事だけど、歩くのも大事みたいね。ちょうどいい機会だから、家でこのプランをやって、休日に散歩するのはどうかしら?」
「そのぽっちゃりした腹とか引き締まるかもしれないぞ」
「……」
父親の言葉に反論できない。私の体型は世間から見れば太っているわけではない。身長に対しての体重も軽いほうだ。筋肉がなく、いわゆる引き締まりのない、だらしない体型をしていた。自分でも己の体型は自覚していた。
「そんな身体じゃ、いつか旦那さんに飽きられてしまうわよ」
私に追い打ちをかけたのは、母親の言葉だった。この言葉により、私は運動と散歩することを決心した。
「飽きられる……」
大鷹さんに体型を理由に別れを切り出されては困る。私が大鷹さんの理想の相手を見つけるまでは私が大鷹さんの妻である。その座を譲る気はないので、両親の提案を私は受け入れることにした。
「今日も運動しようと思う姿勢が素晴らしいです!頑張って身体を温めて理想の身体に向けて頑張っていきましょう!」
そういう訳で私は母親に勧められて、女性用フィットネスクラブの会員となった。家庭用プランを申し込んで2月で二か月になる。運動する時間を決めておくことが継続して行える秘訣とのことだったので、私は毎日夕食後、15分メニューに取り組むことにした。
リビングの片隅にヨガマットを引いて、赤と青のトレーニングバンド、青のピラティスボール、水の入ったコップを用意する。スマホをテーブルにセットして準備完了だ。
「今日も一緒に頑張りましょうね」
当然、一人で運動はやるものだと思っていた。しかし、最初の一週間以外は大鷹さんも私の隣で一緒に運動に励んでいる。
「なぜ、大鷹さんが一緒に運動をしているのですか?」
最初は道具もまともになかったはずなのに、いつの間にかそろえたのか、私と同じ装備で運動している。
「僕も紗々さんと同じで運動しなくちゃいけないな、って思っていましたから。僕と一緒じゃ嫌ですか?」
身長の関係で上目遣いになることは無いが、首をかしげてあざとい言い方である。これで断る人はいないだろう。私だって別に嫌なわけではない。
そもそも、本当に一人でやりたいなら自分の部屋で運動をすればいいだけだ。さすがに大鷹さんも私室にまで勝手に乗り込んでこない、と思う。たまに私の小説を覗きにやってくることがあるので保証はできないが。
「嫌ではないです」
嫌ではないどころか、実は一緒に運動してくれてとても助かっている。もともと運動するのが嫌いで、15分という短い時間でも本当はやりたくない。大鷹さんが隣で一緒に運動してくれることで何とかモチベーションを保たれている。
「三日坊主の私が、ほぼ皆勤賞なのは大鷹さんのおかげです」
さすがに大鷹さんが体調不良になった時と、自分自身の体調がすぐれないと思った時はやっていないが、それ以外はやる気がなくても気合を入れてやっていた。
成果はほんの少しずつだが現れている。毎日風呂上りに計っている体重がほんの少しだけ減っていた。見た目にも変化があり、入浴後に鏡を見て全身を確認すると、こちらもほんの少し、腰にくびれが出て来た気がする。腹も同様にへこんでいるように見える。
「次は赤のバンドとボールを持ちます。椅子に深く腰掛けて太ももの間にボールをはさみ、赤のバンドを二重にして持ちます。左右に捻っていきましょう」
「では、水を飲んだらサイドステップをしていきましょう」
「最後の種目です。ボールを胸の前で持ち、スクワットをしていきましょう」
「運動後にストレッチをしましょう。アキレス腱を伸ばしていきます」
毎日やっているが、動画に出てくる女性の指示にきちんと従って運動している。隣でイケメンが一緒に身体を動かしていることにもだいぶ慣れてきた。最初は隣のイケメンが気になってスマホの画面に集中できなかったが、今では気にせず全力で身体を動かすことが出来ている。恥ずかしいという気持ちもなくなった。何事も全力で取り組めば恥ずかしさもなくなるものだ。
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