結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
上 下
82 / 205

番外編【運動しましょう!(健全)】1今年のバレンタイン

しおりを挟む
「大鷹さん、これどうぞ」
「ありがとうございます」

 今日は2月14日、バレンタインの日である。去年はいろいろあったが、今年は何事もなく終わりそうだ。そもそも、昨年はいろいろありすぎたのだ。クリスマスしかり、お正月にバレンタイン、いろいろありすぎた。今年は平穏な一年になることを願うばかりである。

 まあ、すでに大鷹さんが体調を崩して寝込んでひと騒動あったがそれくらいは大目に見ることにしよう。

 ということで、今は会社から帰宅して私服に着替え、リビングに大鷹さんを呼んで二人でテーブルを囲んでいた。

 今年のバレンタインは事前にチョコレートを購入していたので、それを大鷹さんに渡す。ちょっとお高めのチョコレートである。もちろん、手作りなんてしない。買った方がおいしいし、作った後の片づけが面倒なことは既に大鷹さんには伝えている。

「やはり、手作りでは」
「ないです」

 受け取ったチョコレートが入った箱を私から受け取った大鷹さんは、未練がましく聞いてきたが、即答させてもらう。手作りが欲しかったら、私以外の女性や男性を選ぶべきだった。まあ、私が選んだ相手になるが。

「そうそう、僕も去年みたいに用意しようかと思っていまして」

 まめな男である。普通は、バレンタインというのは日本では女性が男性にチョコレートを送ることになっている。だというのに、今年もまたチョコレートを準備してくれたということか。

「今年も手作りお菓子を作ろうかとも考えたんですが、それでは面白くないでしょう?だから、今回はこれです」

 大鷹さんから受け取ったのは、包装紙に包まれたちいさなものだった。包装紙を開けると、そこにはチョコレート色の手袋が入っていた。

「紗々さんって、洋服は普通にもっているのに、手袋とかの装飾品を持っていないと思って。去年の冬にマフラーをプレゼントしているので、今年はこれだと」

「あ、ありがとうございます」

 本当に言うことなしの完璧な旦那である。基本的に仕事は車通勤なので、防寒具などの装備は要らない。寒くても車での移動なので、マフラーも手袋も使用していない。だからと言って仕事以外の外出時に使うかというとそうでもない。昨年くれたマフラーはほとんど使用されていなかった。たまに思い出したときに使用するくらいで、大事にクローゼットの中にしまわれている。

「手袋はマフラーより使えるでしょう?」

 意味深に大鷹さんは言っているが、なにか使い道があっただろうか。手袋を使う必要があるシチュエーション、手が冷えないようにしなければならない状況。

「ちなみに僕も紗々さんと同じもので色違いを買いましたよ。一緒に着けようかと思って」

 一緒に手袋をつける。

 二人で外出するときに手袋がいる場面が思い浮かばない。うんうんうなる私に大鷹さんの顔が次第にあきれた顔になっていく。いったい、何を想定して私に手袋を送ってくれたのだろうか。

「紗々さん、最近健康のために公園に散歩に行くでしょう?その時に手袋がなくて手が冷たと言っていたから」

 しばらくして私が降参の合図で両手をあげると、大鷹さんは答え合わせをしてくれた。

「なるほど、すっかり忘れていました。確かに散歩中は手が冷たくて大変でした」

 だったら、自分で買えよ。という人がいるかもしれないが、私はそういったものにお金はかけない主義だ。そのお金はゲームや漫画の費用に充てたい人種なのだ。

「今週末から使ってください。僕も使いますから」

 大鷹さんに感謝である。ありがたく使わせてもらうことにしよう。今年のバレンタインはこうして平穏に終わった。

 ちなみに、健康のために散歩を始めたのだが、それ以外にも家で毎日15分、フィットネスクラブ監修の動画を見て運動もしている。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...