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番外編【看病イベント】9自信をもって言えます!
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「クシュン」
私は部屋のストーブもつけずにパソコン作業を始めていたらしい。大鷹さんに陳腐なセリフを言い放ち、恥ずかしさで自室にこもったはいいが、実はなかなかパソコン作業ははかどっていなかった。陳腐なセリフはフィクションだから萌えるのであって、現実に言うセリフではなかった。キーボードを打とうにも、先ほどまでの自分の言動が恥ずかしすぎてネタにもできない状況だった。
「これはもしかして」
いったん、パソコンから離れて鼻をかむ。くしゃみが出たということは、誰かが私のことを噂しているのだろうか。そう考えたら、急に背中がぞくぞくして悪寒がした。とはいえ、真冬なのにストーブもつけずに部屋にこもっていたのが理由かもしれないが。
そういえば、河合さんときらりさんは今頃どうしているだろうか。女性たちはきっと彼女たちの手によって改心させられたと思うが、二人のその後の関係が気になってしまう。
「紗々さん、ちょっといいですか?」
考え事をしていたら、部屋をノックされた。続いて大鷹さんの声が聞こえたので、椅子から立ち上がりドアを開ける。
「大丈夫ですけど、どうしたんですか?あれ、顔が赤いですよ。熱が上がりました?」
「い、いえ、これは、その……」
部屋に入った大鷹さんは、視線をさまよわせて挙動不審に手を顔の前で振っている。熱で頭がおかしくなったのか。だとしたら、私に構うことなくさっさと休んだ方がよい。
「僕の事は良いんです。いや、良くはない、です。あの、今回の件で謝らなくてはならないことが」
大鷹さんは顔の前で振っていた手を下ろして、改まった様子で話し始める。しかし、それは私のスマホのバイブ音によって遮られた。
「すいません」
いったい、大鷹さんの話を中断した奴はだれなのか。気になってスマホを確認すると、私が先ほど気にしていた相手からだった。
『先ほどの女性たちの件ですが、きらりさんと私で言い含めておきました。今後一切、先輩とおおたかっちに関わらないようにも伝えておきました』
『その件はこれにて終わりです。実際に会って話したいことがたくさんあるので、月曜日に会えるのが楽しみです』
『おおたかっちの厄介ごとについては、本人の口からきいた方がいいかもしれません』
マンションのエントランスで出会った女性たちは、大鷹さんと同じ職場で働いていると言っていた。私と関わらないようにはできるが、大鷹さんは同じ職場なのに、かかわらないことなんてできるだろうか。
(いや、できないじゃなくて、やらせるようにしたんだよな)
どんな手を使ったのか知らないが、きらりさんと河合さんの組み合わせなら無理やり約束させそうだ。深く考えたらだめな気がして、そのままスマホの画面を閉じる。
河合さんから送られたメッセージを読み終わり、大鷹さんに視線を向ける。大鷹さんは私の部屋にくるときにスマホを持ってきていたらしい。手元のスマホと私の顔を交互に見ている。どうやら、大鷹さんにも誰かがメッセージを送っていたらしい。
「きらりさんから連絡がありました。マンションのエントランスでひと騒動あったみたいですね」
相手はまさかのきらりさんからだった。私に河合さんからのメッセージが来たのとほぼ同じタイミングでメッセージが届いたということだ。彼女たちは一緒にいて、お互いが私たちにメッセージを送ることを示し合わせたのかもしれない。
「まあ、騒動というほどでもないですけど。私の仕事の後輩ときらりさんが解決してくれました」
「はあああああ」
大鷹さんは頭を抱えてその場にうずくまってしまう。なんとなく理由は察したが、これは大鷹さんのせいではない気がする。
「仕方のないことですよ。モテる男の運命(さだめ)というものです」
「すいません。こんなダメな夫で……」
どうやら、体調がまだ悪いようだ。体調が悪いと、メンタルも弱るというがそれは本当らしい。いつもの強気の大鷹さんがしょんぼりとうなだれている。
「気にしないでください。次回もこんなことがあったら、今度は私が撃退しますから!『大鷹さんの妻は私です』と言って追い返します!」
これは本心から出た言葉だ。先ほどの陳腐な言葉は恥ずかしくて仕方なかったが、今のこの言葉は自信をもって言うことが出来る。
「だって、私が選んだ相手と大鷹さんは幸せになってほしいですから」
しかし、最後の言葉が余計だった。自分でもやばいと思ったが、そもそも最初からこのことは大鷹さんには話している。
「まったく、紗々さんらしいですね」
とはいえ、本調子でない大鷹さんは怒る気力もないようだ。そんな大鷹さんを見ていて、わざわざ仕事帰りに買い物をした理由を思い出す。
「仕事帰りにスーパーで買い物してきたんですよ。大鷹さんの食欲がないかと思って、プリンとか、栄養ドリンクとかいろいろ買ったので、それを飲んでゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑まれて、今度はこちらの顔を熱くなってしまう。いきなりの笑顔はやばい。イケメンの笑顔は破壊力が強い。
「健康管理には気を付けていましたが、今後はもっと気を付けるようにします」
大鷹さんは、そのまま私の部屋から出ていった。きっと、厄介ごとの件を話に来たのだろう。そもそも、人間誰かしらに迷惑をかけて生きているのだ。それが一つ増えたところで夫婦なので問題はない。
大鷹さんの看病イベントは、創作とかでよくあるシチュエーションにはならなかったが、これはこれでなかなか創作のネタに使えそうである。こんな時でも、私の脳みそは平常通り動くのだった。
私は部屋のストーブもつけずにパソコン作業を始めていたらしい。大鷹さんに陳腐なセリフを言い放ち、恥ずかしさで自室にこもったはいいが、実はなかなかパソコン作業ははかどっていなかった。陳腐なセリフはフィクションだから萌えるのであって、現実に言うセリフではなかった。キーボードを打とうにも、先ほどまでの自分の言動が恥ずかしすぎてネタにもできない状況だった。
「これはもしかして」
いったん、パソコンから離れて鼻をかむ。くしゃみが出たということは、誰かが私のことを噂しているのだろうか。そう考えたら、急に背中がぞくぞくして悪寒がした。とはいえ、真冬なのにストーブもつけずに部屋にこもっていたのが理由かもしれないが。
そういえば、河合さんときらりさんは今頃どうしているだろうか。女性たちはきっと彼女たちの手によって改心させられたと思うが、二人のその後の関係が気になってしまう。
「紗々さん、ちょっといいですか?」
考え事をしていたら、部屋をノックされた。続いて大鷹さんの声が聞こえたので、椅子から立ち上がりドアを開ける。
「大丈夫ですけど、どうしたんですか?あれ、顔が赤いですよ。熱が上がりました?」
「い、いえ、これは、その……」
部屋に入った大鷹さんは、視線をさまよわせて挙動不審に手を顔の前で振っている。熱で頭がおかしくなったのか。だとしたら、私に構うことなくさっさと休んだ方がよい。
「僕の事は良いんです。いや、良くはない、です。あの、今回の件で謝らなくてはならないことが」
大鷹さんは顔の前で振っていた手を下ろして、改まった様子で話し始める。しかし、それは私のスマホのバイブ音によって遮られた。
「すいません」
いったい、大鷹さんの話を中断した奴はだれなのか。気になってスマホを確認すると、私が先ほど気にしていた相手からだった。
『先ほどの女性たちの件ですが、きらりさんと私で言い含めておきました。今後一切、先輩とおおたかっちに関わらないようにも伝えておきました』
『その件はこれにて終わりです。実際に会って話したいことがたくさんあるので、月曜日に会えるのが楽しみです』
『おおたかっちの厄介ごとについては、本人の口からきいた方がいいかもしれません』
マンションのエントランスで出会った女性たちは、大鷹さんと同じ職場で働いていると言っていた。私と関わらないようにはできるが、大鷹さんは同じ職場なのに、かかわらないことなんてできるだろうか。
(いや、できないじゃなくて、やらせるようにしたんだよな)
どんな手を使ったのか知らないが、きらりさんと河合さんの組み合わせなら無理やり約束させそうだ。深く考えたらだめな気がして、そのままスマホの画面を閉じる。
河合さんから送られたメッセージを読み終わり、大鷹さんに視線を向ける。大鷹さんは私の部屋にくるときにスマホを持ってきていたらしい。手元のスマホと私の顔を交互に見ている。どうやら、大鷹さんにも誰かがメッセージを送っていたらしい。
「きらりさんから連絡がありました。マンションのエントランスでひと騒動あったみたいですね」
相手はまさかのきらりさんからだった。私に河合さんからのメッセージが来たのとほぼ同じタイミングでメッセージが届いたということだ。彼女たちは一緒にいて、お互いが私たちにメッセージを送ることを示し合わせたのかもしれない。
「まあ、騒動というほどでもないですけど。私の仕事の後輩ときらりさんが解決してくれました」
「はあああああ」
大鷹さんは頭を抱えてその場にうずくまってしまう。なんとなく理由は察したが、これは大鷹さんのせいではない気がする。
「仕方のないことですよ。モテる男の運命(さだめ)というものです」
「すいません。こんなダメな夫で……」
どうやら、体調がまだ悪いようだ。体調が悪いと、メンタルも弱るというがそれは本当らしい。いつもの強気の大鷹さんがしょんぼりとうなだれている。
「気にしないでください。次回もこんなことがあったら、今度は私が撃退しますから!『大鷹さんの妻は私です』と言って追い返します!」
これは本心から出た言葉だ。先ほどの陳腐な言葉は恥ずかしくて仕方なかったが、今のこの言葉は自信をもって言うことが出来る。
「だって、私が選んだ相手と大鷹さんは幸せになってほしいですから」
しかし、最後の言葉が余計だった。自分でもやばいと思ったが、そもそも最初からこのことは大鷹さんには話している。
「まったく、紗々さんらしいですね」
とはいえ、本調子でない大鷹さんは怒る気力もないようだ。そんな大鷹さんを見ていて、わざわざ仕事帰りに買い物をした理由を思い出す。
「仕事帰りにスーパーで買い物してきたんですよ。大鷹さんの食欲がないかと思って、プリンとか、栄養ドリンクとかいろいろ買ったので、それを飲んでゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑まれて、今度はこちらの顔を熱くなってしまう。いきなりの笑顔はやばい。イケメンの笑顔は破壊力が強い。
「健康管理には気を付けていましたが、今後はもっと気を付けるようにします」
大鷹さんは、そのまま私の部屋から出ていった。きっと、厄介ごとの件を話に来たのだろう。そもそも、人間誰かしらに迷惑をかけて生きているのだ。それが一つ増えたところで夫婦なので問題はない。
大鷹さんの看病イベントは、創作とかでよくあるシチュエーションにはならなかったが、これはこれでなかなか創作のネタに使えそうである。こんな時でも、私の脳みそは平常通り動くのだった。
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