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番外編【看病イベント】8河合視点②
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「きらりさん、あなたは先輩のなんなんですか?」
ご同伴にあずかり、彼女たちを見事無力化することに成功した私と「きらり」と名乗る女性は、店を変えて居酒屋で一緒に飲んでいた。金曜日なので明日に響いても問題はない。きらりさんも気にする様子はないので、今日は彼女と飲み明かすことにした。車はコインパーキングに置いてあるので明日にでも取りに行けばよい。
ちなみにきらりさんを含む私たちは、車で先輩のマンションから移動した。それなのになぜ、居酒屋で酒を飲めるのかというと、その車をきらりさんが運転していなかったからだ。マンション近くに停車されたワンボックスの車には、ガタイの良い、大柄な男性が乗っていた。男はきらりさんに行き先を告げられると、ため息をつきながらも指示に従って運転していた。
女性たちにお帰り願った後に居酒屋で飲みなおそうとなった時も、車を運転してくれた。居酒屋の前で男ときらりさんは少し話していたが、すぐに男はそのままどこかに行ってしまった。
「先輩って、さ、ささんの事?いやあ、こんな優秀な後輩がいるとは知らなかったよ」
「質問に答えてください!」
そんなこんなで、目の前の女性が先輩に好意を持っていることはわかるが、其れ以上のことはわからない。私の味方だとは思うが、素性がわからない相手を信用するのは危険だ。つい、声を荒げてしまったが、彼女は気にしていないのか、注文した日本酒の入ったグラスをぐっとあおる。
「そうだねえ、自己紹介を先にしておこうか。私は笛吹(ふえぶき)きらり。攻(おさむ)君は、さ、ささんの旦那といとこなんだ。ちなみに私は既婚者だよ。車を運転していたのが私の旦那!」
最後の情報はおまけといったところだろうか。別に既婚者だろうが独身だろうが気にならない。
「おおたかっちのいとこ……」
言われてみれば、カッコいいところは元カレに似ていないこともない。妙に自信家なところは似ていないが、彼から親せきの話を聞いたことがあるので、彼らと性質が似ているのだろう。大学時代に付き合っていた時に会うことはなかった。
「攻君のこと、ずいぶんと親しげに呼ぶんだね?」
「エエト、まあ……」
つい、大学時代に呼んでいたあだ名を口にしていた。きらりさんの視線が急に鋭くなった気がした。
「もしかして、あなたが攻君の元カノ?」
「ど、どうしてそれを!」
「だって、それぐらいしか彼をそんな風に呼ぶ人間っていないでしょ。なるほど、だからあなたは私と同じ側についたのか」
ふむふむと何かに納得したきらりさんだったが、私にはさっぱり意味が分からない。わからないが、とりあえず先輩の敵でないことは判明した。相手にだけ自己紹介させるのもおかしなことだと思ったので、私も簡単に自己紹介することにした。
「河合江子(かわいえこ)と言います。私は紗々先輩と同じ銀行で働いています。最近、転職して先輩と一緒に働き始めました」
「ふうん、だよね。そうじゃなかったら、去年の冬みたいなことが起こっていないもんね」
「?」
「いや、こっちの話。さ、ささんに会社で仲が良い人が出来てよかったよ。ほら、さ、ささんって、あんな感じでしょ。だから、ちょっと心配していたんだ」
先輩は私が来る前に何かやらかしているのか。それをこの目の前の女性が助けた。ちょっとだけ胸の奥がもやっとした。
「きらりさんは、既婚者だと聞きましたが、せ、先輩にときめくことってないですか?」
私の感情がバグってしまったのか確認したくて、つい頭に浮かんだことを口にしてしまう。
「あははは!君もさ、ささんなみに面白い子だね」
さすがに変なことを聞いてしまったか。恥ずかしくなって水の入ったグラスを飲み干す。実はあまり酒は強くない。酔って失態を侵さないように、最初の数杯でお酒はあきらめてそこからは水で乗り切っている。
「そうだねえ、私もたまにときめくこともあるけど」
ちらりと私の背後に視線を向けるきらりさん。だれか知り合いの姿でも見つけたのだろうか。私も振り返ろうとしたが。
「まったく、お前はいつだって好き勝手し過ぎだ。他人の事情に首を突っ込むな」
「いいじゃん、まあ、今回は私が行かなくてもよかったみたいだけどさ」
大柄な男性が現れて、きらりさんの隣に腰を下ろした。先ほど車を運転していた男だ。つまり、彼女の旦那さんである。大鷹さんや彼女とは違って、無骨な感じの男性でそんな男性ときらりさんが並ぶとこれはこれで絵になる夫婦である。
「すいません、きらりが迷惑かけて」
「迷惑なんてかけてないよ。ただ一緒にさ、ささんのことを悪い奴らから守ってあげただけだし」
ねえと同意を求められて、慌てて首を縦に振って肯定する。
「それで、連絡を呼んだってことは、これでお開きということだろう?そこの彼女を家まで送ればいいのか?」
「そうだねえ。江子さん」
「は、はい!」
「私、あなたと友達になりたいんだけど、連絡先を交換してもいいかな?」
いつの間にか、私を名前呼びにしている。さりげなく名前呼びをする。これがモテる秘訣だろうか。おおたかっちもモテモテだったが、彼女もまた同じようにモテるはずだ。
「大丈夫です!こちらこそ、きらりさんともっとお話ししたいと思っていたので光栄です!」
私たちは連絡先を交換することにした。
この女性とは長い付き合いになりそうだ。おおたかっちの面白いネタも提供してくれそうだし、先輩についても語り合えそうだ。
ご同伴にあずかり、彼女たちを見事無力化することに成功した私と「きらり」と名乗る女性は、店を変えて居酒屋で一緒に飲んでいた。金曜日なので明日に響いても問題はない。きらりさんも気にする様子はないので、今日は彼女と飲み明かすことにした。車はコインパーキングに置いてあるので明日にでも取りに行けばよい。
ちなみにきらりさんを含む私たちは、車で先輩のマンションから移動した。それなのになぜ、居酒屋で酒を飲めるのかというと、その車をきらりさんが運転していなかったからだ。マンション近くに停車されたワンボックスの車には、ガタイの良い、大柄な男性が乗っていた。男はきらりさんに行き先を告げられると、ため息をつきながらも指示に従って運転していた。
女性たちにお帰り願った後に居酒屋で飲みなおそうとなった時も、車を運転してくれた。居酒屋の前で男ときらりさんは少し話していたが、すぐに男はそのままどこかに行ってしまった。
「先輩って、さ、ささんの事?いやあ、こんな優秀な後輩がいるとは知らなかったよ」
「質問に答えてください!」
そんなこんなで、目の前の女性が先輩に好意を持っていることはわかるが、其れ以上のことはわからない。私の味方だとは思うが、素性がわからない相手を信用するのは危険だ。つい、声を荒げてしまったが、彼女は気にしていないのか、注文した日本酒の入ったグラスをぐっとあおる。
「そうだねえ、自己紹介を先にしておこうか。私は笛吹(ふえぶき)きらり。攻(おさむ)君は、さ、ささんの旦那といとこなんだ。ちなみに私は既婚者だよ。車を運転していたのが私の旦那!」
最後の情報はおまけといったところだろうか。別に既婚者だろうが独身だろうが気にならない。
「おおたかっちのいとこ……」
言われてみれば、カッコいいところは元カレに似ていないこともない。妙に自信家なところは似ていないが、彼から親せきの話を聞いたことがあるので、彼らと性質が似ているのだろう。大学時代に付き合っていた時に会うことはなかった。
「攻君のこと、ずいぶんと親しげに呼ぶんだね?」
「エエト、まあ……」
つい、大学時代に呼んでいたあだ名を口にしていた。きらりさんの視線が急に鋭くなった気がした。
「もしかして、あなたが攻君の元カノ?」
「ど、どうしてそれを!」
「だって、それぐらいしか彼をそんな風に呼ぶ人間っていないでしょ。なるほど、だからあなたは私と同じ側についたのか」
ふむふむと何かに納得したきらりさんだったが、私にはさっぱり意味が分からない。わからないが、とりあえず先輩の敵でないことは判明した。相手にだけ自己紹介させるのもおかしなことだと思ったので、私も簡単に自己紹介することにした。
「河合江子(かわいえこ)と言います。私は紗々先輩と同じ銀行で働いています。最近、転職して先輩と一緒に働き始めました」
「ふうん、だよね。そうじゃなかったら、去年の冬みたいなことが起こっていないもんね」
「?」
「いや、こっちの話。さ、ささんに会社で仲が良い人が出来てよかったよ。ほら、さ、ささんって、あんな感じでしょ。だから、ちょっと心配していたんだ」
先輩は私が来る前に何かやらかしているのか。それをこの目の前の女性が助けた。ちょっとだけ胸の奥がもやっとした。
「きらりさんは、既婚者だと聞きましたが、せ、先輩にときめくことってないですか?」
私の感情がバグってしまったのか確認したくて、つい頭に浮かんだことを口にしてしまう。
「あははは!君もさ、ささんなみに面白い子だね」
さすがに変なことを聞いてしまったか。恥ずかしくなって水の入ったグラスを飲み干す。実はあまり酒は強くない。酔って失態を侵さないように、最初の数杯でお酒はあきらめてそこからは水で乗り切っている。
「そうだねえ、私もたまにときめくこともあるけど」
ちらりと私の背後に視線を向けるきらりさん。だれか知り合いの姿でも見つけたのだろうか。私も振り返ろうとしたが。
「まったく、お前はいつだって好き勝手し過ぎだ。他人の事情に首を突っ込むな」
「いいじゃん、まあ、今回は私が行かなくてもよかったみたいだけどさ」
大柄な男性が現れて、きらりさんの隣に腰を下ろした。先ほど車を運転していた男だ。つまり、彼女の旦那さんである。大鷹さんや彼女とは違って、無骨な感じの男性でそんな男性ときらりさんが並ぶとこれはこれで絵になる夫婦である。
「すいません、きらりが迷惑かけて」
「迷惑なんてかけてないよ。ただ一緒にさ、ささんのことを悪い奴らから守ってあげただけだし」
ねえと同意を求められて、慌てて首を縦に振って肯定する。
「それで、連絡を呼んだってことは、これでお開きということだろう?そこの彼女を家まで送ればいいのか?」
「そうだねえ。江子さん」
「は、はい!」
「私、あなたと友達になりたいんだけど、連絡先を交換してもいいかな?」
いつの間にか、私を名前呼びにしている。さりげなく名前呼びをする。これがモテる秘訣だろうか。おおたかっちもモテモテだったが、彼女もまた同じようにモテるはずだ。
「大丈夫です!こちらこそ、きらりさんともっとお話ししたいと思っていたので光栄です!」
私たちは連絡先を交換することにした。
この女性とは長い付き合いになりそうだ。おおたかっちの面白いネタも提供してくれそうだし、先輩についても語り合えそうだ。
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