いきなりマイシスターズ!~突然、訪ねてきた姉妹が父親の隠し子だと言いだしたんですが~

桐条京介

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第25話 勉強会

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 いきなりの就職希望宣言に、透は戸惑って一瞬言葉を失う。

「……え?」

「働かせてほしいんです」

 里奈が本気だとわかるなり、近くで話を聞いていた修治が大歓迎とばかりに両手を広げた。

「それなら俺が探し――ぐほっ」

 主任、鳩尾はきついっス。そんな呻きを漏らしながら床に崩れ落ちる修治を見もせず、奏も真剣に里奈へ言葉を返す。

「無理だ。勤労意欲があるのは結構なことだが、小学生を働かせるわけにはいかん。仮に可能だったとしても、私は受け入れない。どのような理由で金銭を必要としているかは不明だが、労働を甘く考えてもらっては困る」

 まさに説教だった。あまりにも真面目すぎるので、早くも復活した修治が抗議する。

「幾ら何でもあんまりっス。小学生といえど、お小遣いが欲しいのは当たり前っス。それを透さんに頼るんじゃなくて、自分で稼ごうとするんだから立派っスよ」

「だから戸松君が望むいかがわしい職業を紹介しようというのか? 下衆だ下衆だと思ってはいたが、さすがに今回は度が過ぎるぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっス。誤解っスよ。知り合いに保育所をやってる人がいるから、そこのお手伝いでもして、お駄賃を貰ったらどうかって言おうと思ってたんス。子供目線で幼児と接し、異変を知らせるだけでもきっと助かるはずっス。あとは一緒に遊ぶとか」

 修治は意外と真面目に紹介しようとしていたみたいだった。

 小学生を働かせるは賛成できないが、彼にすれば母親の手伝いをしてお駄賃を貰う子供みたいなものと考えていたのだろう。

 そう思えば透もほんの少しだが同意できる点もあった。

「普段の言動のせいで誤解されるんだ。懲りたら少しは真人間になれ」

「酷いっス。透さんが里奈ちゃんたちと同居してから、主任の風当たりが強くなったっス。とほほ」

 言葉とは違ってあまりしょぼくれてない修治が、改めて里奈に話しかける。

「どうしてお金が欲しいんスか? それさえわかれば助けになれるかもしれないっス」

 全力の善意を詰め込んだ修治だったが、冷静さと大人並みの理解力を誇る少女にあっさり一蹴される。

「あの、怪しい人についていったり、話を聞いたりしては駄目なので……ごめんなさい」

「ぐほっ。主任の蹴りより効いたっス。立ち直れないっス」

「まあ、こいつはさておいて、確かに何が欲しいのかは気になるな。スマホか?」

 尋ねた透の前で里奈が髪の毛が乱れるほど顔を振って否定する。

「もうすぐ奈流の誕生日なんです。だからプレゼントを買ってあげたいんです。でも、私が自由に使えるお金はもう残ってないので、働きたいんです」

 一緒になって話を聞いている奏が、ふむと腕を組む。

「それならお小遣いを貯めればいいだろう」

「でも、それだとお兄ちゃんに迷惑をかけてしまいます。ただでさえ私たちのせいで生活が苦しくなってるのに、これ以上はとても」

 最後は言葉に詰まるような感じで台詞を終える。

 確かに三人での生活が始まってから食費は倍増し、学費もかかるようになった。透一人なら余裕でやりくりできていたが、今はかなりカツカツだ。

 そのため姉妹のお小遣いは二人で月千円でノートなどを買うようにと里奈に渡している。買い食いなどは滅多にできないだろう。

 かわいそうではあるが、それが立場家の現状だった。

「しかし、だからといってプレゼントがなしでは奈流がかわいそうだろ。その程度なら何とかするぞ」

 だが里奈は透の申し出を断る。

 会話が停滞する中、そうだと修治が声を上げた。

「それならテストとかで良い点を取ったらお小遣いをあげるとかにすればいいんス。俺も小さい頃はそうやって母ちゃんから臨時収入を得てたっス」

「なるほど」

 透は頷いた。

 近々テストがあるのかと聞けば、消え入りそうな声で里奈は明後日と答えた。

「丁度いいじゃないスか。九十点以上で千円とか。里奈ちゃんも頑張れるし、奈流ちゃんもプレゼント貰えるしで皆ハッピーっス!」

「で、でも、私、その、国語は得意なんですけど、そのテストは理科で……」

 どうやら自信がないようで、どんどん里奈の声が聞こえなくなっていく。

「なら、余計に好都合じゃないか」

 言ったのは奏だった。彼女は腕を組んだまま、微かな笑みを浮かべている。

「学生の仕事は勉強だ。良い点を取って報酬を得るというのは理にかなっている……とまでは言えないが、小学生の身で労働をするよりは余程賛成できる」

「そうそう。それにわからないところがあれば、主任に教えてもらえばいいんス」

「……何?」

 どこか楽しげだった奏が、細まっていた目を開いた。

「だって、この中で大卒なのは主任だけじゃないっスか」

「待て。小学生の勉強を教えるのに、大卒も高卒もないだろう」

 困惑する奏だったが、はっきり断る前に里奈からお願いをされる。

「お願いします。働けないのであれば、皆さんが言う通りの方法で奈流にプレゼントを買ってあげたいんです」

「そ、それなら彼が許可しているのだから、お小遣いを貰って購入してあげるといいだろう」

「自分の力で、自分の努力で用意したいんです!」

 大人びているとはいえ、本質は純真な子供。真正面から見つめられれば、さすがの奏でも無下にはできない。

「わ、わかった。ただし少しの時間だけだ。それで構わないな」

「ありがとうございます!」

 何度も奏にお礼を言う里奈。

 二人からやや離れた位置にいる透の脇腹を、修治が突然小突いてきた。

「俺に感謝してくださいっス」

「何の話だ」

「とぼけなくてもいいっス。透さんと主任が、いい仲になってるのは気づいてるっス。二人を見てれば一目瞭然っス。今回の件で、さらに距離を縮めるといいっス」

 得意気に片目を閉じた修治が親指を立てる。何度か肩を叩き、自分はこれでと帰宅する。

 やれやれとため息をつきつつも、明確な好意を覚えている奏の訪問に期待する透がいた。





 銭湯から帰宅し、奏の作ってくれた美味しい夕食を平らげたあと、綾乃も含めて総勢五人が立花家の二階に集結していた。

 ノートPCを乗せていた長方形のデスクは、姉妹が二人で使う勉強机になっていた。

 熱心にノートへ鉛筆を走らせる里奈の背後には、鬼のような威圧感を放つ奏が仁王立ちしている。

 一方で隣の奈流は楽しそうにお喋りをしながら、綾乃に宿題を見てもらっている。

「できたー」

「奈流ちゃんは偉いわね。これで宿題は終わりよ。あとは眠るまで少し遊びましょうか」

「わーい」

 右を見た透の目に映るのは、優しいママと子供を絵に描いたような光景。

「わ、わかりません……」

「心配するな。わかるまで繰り返す、徹底的にだ。何事も反復が大事だと、今のうちから理解するのも良い勉強だ」

 左を見た透の目に映るのは、スパルタママと子供を絵に描いたような光景。

 どちらの父親になりたいかと問われれば答えは一つだ。奏の前では決して言えないが。

「テストは明後日なのだろう。明日も勉強を見てやるから、気合を入れてもらうぞ」

「もう。奏は厳しいわね」

 ここで綾乃が横槍を入れる。

「透君に頼りになる姿を見せたいのはわかるけど、気張りすぎるのはよくないわよ」

「そんなつもりはない!」

 言いつつも、何かのスイッチでも押されたかのように奏の顔は真っ赤だ。

 綾乃の膝の上に乗っている奈流が、単純な好奇心からの疑問を口にする。

「お兄ちゃんと、奏お姉ちゃんがどうかしたのー」

 奏だけでなく透も答えに困る中、真っ先に教えるのはこの場の年長者にして一番の悪戯好きっぽい綾乃だ。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんはあちちなの」

「あちちー? なんだかたのしそうー」

 はしゃぐ奈流と綾乃。

 一心不乱に勉強をしているはずの里奈まで、聞き耳を立てているみたいだった。

「ほら、そこが間違っている。夜の寝るまでの時間しか教えてやれないのだから、もっと集中してくれ」

 奏も指導に熱を入れようとするが、悪気のない声が邪魔をする。

「奏お姉ちゃんは、お兄ちゃんのどこにあちちなのー?」

 幼い奈流は、すっかりあちちという表現を気に入ったみたいだった。

「ど、どこと言われてもだな。な、何と言えばいいのか……い、いや、そうじゃない。今は里奈の勉強が優先だ」

「まあ、つまらないわね」

 悪びれもせずに言うのは綾乃だ。

「じゃあ、次はお兄ちゃんに聞いてみましょう」

 いきなり話を振られ、透は思わず考え込む。

「そうだな。職場では凛としてながら、プライベートでは意外に抜けた面もある。そういうギャップにやられたのかな。言葉遣いや態度はそっけないことがあっても、実際は優しくて面倒見のいい性格なところもいいよね」

「な――!? どうして透はそんなに馬鹿正直に答えるんだ!」

「だって、聞かれたし」

 透と奏のやりとりに、クスクスと綾乃が笑う。

「透君もぶっきらぼうな感じがしても、実は素直で真面目だからね。人を信じやすいところもお父さんそっくりだわ」

「うんー。奈流もね、お兄ちゃんと奏お姉ちゃんが大好きー」

 奈流の満面の笑みを前に、恥ずかしさと違う感情で顔面を桜色に変化させる。

「くっ。さ、さては私を懐柔するつもりだな。そのような手には乗らない。乗らないんだ!」

 なにやら一人で葛藤する奏を見て、奈流と綾乃が仲良さげに笑う。

 そして気がつけば透や里奈も顔に笑みを浮かべていた。
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