いきなりマイシスターズ!~突然、訪ねてきた姉妹が父親の隠し子だと言いだしたんですが~

桐条京介

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第24話 初めての団欒

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 午後八時を過ぎて帰宅した透の出迎えに、転がり落ちるんじゃないかと不安になるくらいの勢いで奈流が二階からやってきた。

「おかえりなさいっ!」

 暴走する妹を制御しきれなかった里奈が、困り顔で後に続く。

 台所で手を洗い、居間へ移動した透の足元。両手で膝を抱えた奈流が畳に背中をつけ、何故か右に左にと転がる。

「……奈流は何をやってるんだ。新しい掃除か?」

「ちがうよー」

 奈流がにぱっと笑う。

 熱を上げた際の出来事や日中の件もあって、妹の方はだいぶ遠慮がなくなったみたいだった。人懐っこさが倍増し、素直な感情で透に甘えようとする。

 まとわりつかれてもウザくはなく、なんだか微笑ましい。

 昔から子供はあまり得意ではなかったので、透は自分自身の感情が少し不思議だった。

 えへへと笑いながら、畳を転がり笑顔を満開にする奈流。

 あまりに楽しそうなので、里奈までつられて口角を斜め上に伸ばしている。

 しばらく眺めていると、仰向けに体育座りをするという奇妙な体勢のままで奈流が口を開いた。

「お兄ちゃんは朝、てっぱいしました」

「ん? ああ。互いに干渉しないという取決めをやめるって話か」

「そうなのです。だから奈流は、ここにいるのです」

 姉の口真似をしているような台詞を披露したあと、奈流はテレビ台の下に置かれている物体にキラキラした瞳を向けた。

「もしかして、ゲームがやりたいのか?」

 幼い妹の視線の先にあるのは、据え置き型のゲーム機だった。

「やっぱりゲームだったんだ!」

 両目の輝き度合いが一層増す。

「まえにおもちゃ屋さんで見たことがあったのー。ママに言ったらね、小さいのであそばせてくれたんだー」

「小さいの?」

 口にして透はスマホのことだろうと予想する。最近では無料で遊べるゲームも多いため、奈流の母親がやらせてあげたのだろう。

 ゲームをプレイした思い出が楽しかったらしく、にこにこと語る奈流を尻目に透は自身の持っているソフトのラインナップを頭の中で確認する。

「ねえねえ、あそんでいいー?」

 屈託ない表情でお願いされると、どうにも断り辛い。言葉に詰まる透を見て、里奈が何かを察したらしく妹を嗜める。

「お兄ちゃんを困らせたら駄目よ」

「いや……ゲームをさせるのはいいんだが、子供がやるような内容のものがなかったような気がする」

「そうなんですか? 何があるのか聞いてもいいですか?」

 人差し指で顎を押すような仕草をする里奈。動作一つだけだが、以前は見られなかったようが気がする。

 なんとなく嬉しい気分に浸っていると、不審そうに「どうしたんですか」と尋ねられた。

「ああ、すまない。そうだな。持ってるのはええと……ゾンビを撃つゲーム」

「却下します」

 ゾンビと言われてもよくわからない奈流が首を傾げる中、顔から表情を消した里奈が寒気を覚えるような声で切り捨てた。

 こうしたケースでの迫力なら、奏と互角かもしれない。

 内心でそんなことを思いながら、透は他にも持っているソフトの内容だけを告げていく。

「ヤクザ同士の殴り合いのゲーム」

「却下します」

「マフィアの抗争ゲーム」

「却下します」

「武士が斬り合うゲーム」

「却下します」

「犯罪やり放題のゲーム」

 幾度か同じやりとりを繰り返した後、里奈の顔が発熱時よりも真っ赤になる。

「まともなゲームは持ってないの!?」

 怒りを噴火させた里奈は、素の口調で透に詰め寄る。

「そんなこと言ったって、奈流に遊ばせるために買ったわけじゃないしな」

「それはわかってるけど、だからって――あ」

 自分の言葉遣いに気づいたらしく、今度は恥ずかしそうな、それでいて申し訳なさそうないつもの顔に戻る。

 なんだか妙におかしくて、口の中で笑いを噛み殺しながら透は言う。

「丁寧な口調に戻す必要はないぞ。今の感じでいいじゃないか。可愛いし」

「な、何を……」

「別に今すぐでなくてもいいさ。俺も含めて少しずつ変わっていけばいい」

「……はい」

 結局、奈流ができそうなテレビゲームはなかった。その代わり三人で夕食を作り、銭湯へ行き、風呂上りは居間でトランプをした。

 初めての団欒で仲良くいつかのミルクチョコレートを食べる姉妹の姿は、透に家族が増えた実感を与えてくれた。





 町を彩る葉の生命力が増し、花が咲き乱れだす季節。

 妹だと言い張る少女二人との共同生活が始まってから、早くも二週間以上が経過していた。

 まだどことなくよそよそしさなどは残っているものの、当初に比べたらずっと家族らしさがでてきたと透は思っている。

 二世帯生活みたいな感じで大人になるまで少女たちを援助するつもりだったが、気がつけば現在の形になっていた。

 何かあるたびに助力してくれた綾乃は話を聞くなり、亡き武春と透の性格はそっくりなので、決して見捨てられずに情を注ぐようになるのが始めからわかっていたと楽しそうに言った。

 奏はまだ同居を快く思っていないみたいだった。

 収入面や環境面など不安も多く残っているのは確かなので、彼女をわからず屋だと責めるつもりはなかった。

「透さん。テレビ運びたいから手伝ってくださいっス」

 同僚の修治と一緒にバックヤードへテレビを運び、新商品を入れ替える。力仕事は基本的に透たちの役目だ。

 売り場に戻ると、見慣れた顔が左右に首を動かしていた。

「あれ。確か透さんの妹さんっスよね。長女の方で、確か里奈ちゃん」

「お前、よく覚えてたな」

「好みの幼女の顔は――おうぐ」

 修治の細長い体が逆くの字に曲がる。とても痛そうだ。

「戸松君はそろそろ上がる時間だな。明日もよろしく頼む」

 修治の背後に立ち、彼の背中に靴跡を残したのは奏だった。

 売り場で透を探していると思われる里奈の姿を見かけると、おやと少し目を大きくした。

「とお――んんっ。立花君が呼んだのか?」

 透と言いかけたのを途中で修正した奏が聞いた。

「いえ。何か用事でもあるのかな。おーい、里奈」

 名前を呼ぶと、里奈は安心したような顔を透へ向けた。

「お仕事中にごめんなさい」

 ととと。

 音が聞こえそうな小走りで近寄った里奈が、やおら頭を下げた。

「でもお願いがあって」

「お願いはいいけど、奈流はどうしたんだ?」

「奈流はお友達のみっちゃんの家へ遊びに行ってます。それより、さっきも言いましたけどお兄ちゃんにお願いがあるんです」

 やはり口調は丁寧なままだが、それでも雰囲気はずいぶんと柔らかくなった。

 その里奈が顔を上げるなり、真剣にお願いしてきた。

「私を働かせてください!」
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