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本編
61 縄張りを死守したかったらしい
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エミリオの甘い舌の翻弄により、惚れた弱みに力が抜ける。涙もすっかり引っ込んでしまった。
スイが泣き止んだのを確認したエミリオはぷちゅ、と唇を離して、唾液の糸を引くスイの唇を今一度べろりと舐めてからようやっと顔を離す。
「ん……重くないし、面倒くさくもないよ、スイ。むしろ嬉しい。俺たちの子が欲しいっていうのも遠距離が寂しいっていうのも、俺と同じだから嬉しい」
「…………」
「……付き合い始めたのだって俺が強引に迫ったからだし、その前からも俺の一方的な気持ちをスイに押し付けてただろ。だから、俺の事、スイが俺くらいにそこまで思ってくれてるのか解らなかったから……遠距離が寂しいって思うほど、俺の気持ちに答えてくれてたのが、本当に本当に嬉しいんだ。いろいろ心配かけてすまない。少しずつ向こうでの処理終わらせているところだから……」
「……う……」
「だけど、泣かないで。スイに泣かれたら俺はどうしていいかわからないから……」
「エミさん……」
すでに至近距離ではあるけれど、おいで、と促されたので、スイは思わずエミリオの首に抱き着いた。エミリオのセクシーな汗の匂いがほんのりと香ってスイの脳髄を酩酊させてしまいそうだった。
背中を撫でさすってくれるエミリオの手がこの上なく優しい。こんなに我儘を言っているのに怒るどころかよしよししてくれるなんて、エミリオはどこまでこんな女に優しいんだろうと、恥ずかしいのと申し訳ないのとでスイは自己嫌悪でいっぱいだ。
「エミさん、エミさん、好き」
「俺も。愛してるスイ」
「エミさ……はっ!」
視線を感じてそちらを見れば、エミリオの背後でダイニングテーブルについてピルスナーグラスを傾けているシュクラがニヤニヤ笑いながらこちらを眺めている。うっかり目が合って、スイは赤面してエミリオの肩口に顔を埋めた。
シュクラがそこで見ているのに、その目の前で抱き合ってイチャイチャとか何考えてんだとか、生暖かい目で見守るシュクラの視線が今の自分には痛いとかいろいろ考える。
「あーあ、スイを泣かせたら天罰くだすってシュクラ様に言われてたのにな」
「えっ……」
思わず顔を上げてシュクラを見ると、シュクラはふはははと笑いだした。
「そういえばそうであったのう。さぁて、ドラゴネッティ卿には一体どんな天罰をくれてやろうか」
「俺はスイの為ならどのような罰でも謹んでお受けいたしますよ、シュクラ様」
「その意気やよし!」
「ちょ、ダメダメ! あたし、あたし泣いてないから!」
寂しいと我儘言って勝手に泣いて、それでエミリオに天罰が下るなんてとんでもない。ぶんぶんと激しく首を横に振るスイにシュクラはカラカラと笑いながらグラスを置いてソファーのところに戻ってきた。
「して、スイ。妊娠しているかどうか、確かめるか?」
「あ……ええと」
「わかるのですかシュクラ様?」
「触ればな」
「触る!?」
「おおさ。スイ、準備ができたら服を脱いでここに座れ」
シュクラはソファーに座って自分の横をポンポンと叩いてニコニコしながらスイを促してくる。
ちょっと待って欲しい。エミリオもいるのに服脱いで触診するなんてそんなことできるか、と顔面一杯に「うへあ」という表情を張り付けてシュクラを見る。
「えっと、あの」
「ちょっと待ってくださいシュクラ様。服をって、スイに裸になれというのですか」
「当り前じゃろ。直に触れねばわからぬし。……おっと、この姿ではいかんな。そぉれ」
再びキラリンと光ってから伸びをしたシュクラはまたさっきのムチムチボデーの妖艶な女神に早変わりした。どこぞの魔女っ子か何かみたいだ。
「心配せずともよい、ドラゴネッティ卿。女同志で見て触れてなぞカウントのうちに入らぬわ。のう、スイ」
「え」
「そ、そうなのか、スイ?」
「えーと、えーーーと……うん、まあ……言われてみればそうなのかなぁ……」
ここまで来て調べてもらうかもらわないかを悩むところだ。いくらシュクラが女神になったとはいえ、エミリオもいるのに触診することにちょっと抵抗がある。しかしだからと言って調べないでずるずるとわからないままというのも何だか気持ちがモチョモチョする。
もし妊娠していたら? それはそれで気を付けないといけない事がいっぱいあるけど、嬉しいことこの上ないし、エミリオの子ならスイも本当に欲しいのだ。
でも反対にもしいなかったら? とてもとても残念で寂しい日常に戻るのだけれど、どこか肩の荷が下りるような気がしないでもない。何より断酒しなくてもいい。
知りたいような、知りたくないような。
こんなに悩むくらいならあの避妊薬をちゃんと二日間のうちに飲んでおけばよかったのだ。けどエミリオへの恋慕と寂しさが押し寄せて、エミリオに似た子供でもいたらなあと寂しさのあまり思ってしまったから「飲まない」という暴挙に出てしまったわけだ。寂しいから子供が欲しいなんてちょっと世間様から怒られそうだけれど。
まあそれはともかく。せっかくシュクラが女体化までしてお膳立てしてくれたのに、収穫がシュクラの乳房の柔らかさを知ったことだけなんて、と思ったスイは、しばし考えた末にようやっと顔を上げた。
「……お、お願いします」
「スイ!?」
「多分すぐ済むから……エミさんちょっと待ってて。シュクラ様、あたしの部屋に行こう」
「構わぬが……」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待てって!」
立ち上がり、二人そろってエミリオを置いて居間を出て行こうとするのを、エミリオは必死で呼び止めた。
スイの部屋、イコール寝室だ。寝室というプライベート空間に自分以外をスイが招くのが嫌だった。
あの部屋は、あの濃密な一週間の間でスイと何度も愛し合った、エミリオにとってはスイとの聖域だ。それを、いくら親代わりのような、しかも神であり、今は女体化しているシュクラとはいえ、その聖域に踏み込んで欲しくないという、エミリオの我儘だった。
「……エミさん?」
「スイ、頼む。ここで……」
「え?」
「俺、大人しくしているから! 手出しも口出しもしないから……シュクラ様、どうか、ここでお願いします!」
エミリオのあまりの必死さに呆気にとられたスイとシュクラは、顔を見合わせてからソファーのところに戻ってきた。
結局のところ、最初の提案通りソファーにシュクラと並んで座る。二人掛けソファーなので、エミリオはソファーの前に正坐してスイとシュクラをまじまじと見ている。待てをさせられているワンコみたいだ。
服を脱がないといけないのだが、「エミさん向こう向いてて」とエミリオに言っても「何でシュクラ様はよくて俺はダメなんだ」と駄々をこね始めたので、こちらが折れてやるしかなかった。Tシャツの裾をまくって一息に脱いだ。今日は使い古したベージュのブラなので恥ずかしいが仕方がない。
下着までは脱がなくてもいいんだよなあと思いつつ、上半身ブラだけになったが、シュクラが「これも」といってショートパンツを指さしたので、苦虫を噛み潰したような表情でそれも脱ぐ。結局ブラとショーツだけにされて、ソファーのひじ掛けにもたれ掛かる。
一瞬エミリオのほうをちらと見ると、すぐに心配そうな表情の彼と目が合って、なんだか落ち着かなくて彼に手を伸ばす。
「エ、エミさん、手……繋いどこっか」
「スイ……!」
パッと表情が明るくなってすぐにソファーのところに寄り添ってきたエミリオ。まるでずっと待てをされていて、ようやく良しが出たワンコみたいだ。
エッチのときはこっちもあっちもとおねだりして甘えん坊の雄猫ちゃんみたいだったのになあ。
スイの手の甲に一度キスを落としてから、両手で愛おしむみたいに包み込んで自分の頬にあてる。エミリオの力強い手の力と温度で、さすがに緊張していたところが少々緩和してくる気がした。
一方シュクラは右腕を腕まくりしてから白魚のような女性的な指をわきわきと動かしていた。
「準備はよいかの? では参ろうかスイ」
「は、はい……」
ひじ掛けに背をもたれかけたスイの上にやや覆いかぶさるように上体を傾けたシュクラは、スイのむき出しになった臍から下のあたりの下腹に指を這わせ始めた。
スイが泣き止んだのを確認したエミリオはぷちゅ、と唇を離して、唾液の糸を引くスイの唇を今一度べろりと舐めてからようやっと顔を離す。
「ん……重くないし、面倒くさくもないよ、スイ。むしろ嬉しい。俺たちの子が欲しいっていうのも遠距離が寂しいっていうのも、俺と同じだから嬉しい」
「…………」
「……付き合い始めたのだって俺が強引に迫ったからだし、その前からも俺の一方的な気持ちをスイに押し付けてただろ。だから、俺の事、スイが俺くらいにそこまで思ってくれてるのか解らなかったから……遠距離が寂しいって思うほど、俺の気持ちに答えてくれてたのが、本当に本当に嬉しいんだ。いろいろ心配かけてすまない。少しずつ向こうでの処理終わらせているところだから……」
「……う……」
「だけど、泣かないで。スイに泣かれたら俺はどうしていいかわからないから……」
「エミさん……」
すでに至近距離ではあるけれど、おいで、と促されたので、スイは思わずエミリオの首に抱き着いた。エミリオのセクシーな汗の匂いがほんのりと香ってスイの脳髄を酩酊させてしまいそうだった。
背中を撫でさすってくれるエミリオの手がこの上なく優しい。こんなに我儘を言っているのに怒るどころかよしよししてくれるなんて、エミリオはどこまでこんな女に優しいんだろうと、恥ずかしいのと申し訳ないのとでスイは自己嫌悪でいっぱいだ。
「エミさん、エミさん、好き」
「俺も。愛してるスイ」
「エミさ……はっ!」
視線を感じてそちらを見れば、エミリオの背後でダイニングテーブルについてピルスナーグラスを傾けているシュクラがニヤニヤ笑いながらこちらを眺めている。うっかり目が合って、スイは赤面してエミリオの肩口に顔を埋めた。
シュクラがそこで見ているのに、その目の前で抱き合ってイチャイチャとか何考えてんだとか、生暖かい目で見守るシュクラの視線が今の自分には痛いとかいろいろ考える。
「あーあ、スイを泣かせたら天罰くだすってシュクラ様に言われてたのにな」
「えっ……」
思わず顔を上げてシュクラを見ると、シュクラはふはははと笑いだした。
「そういえばそうであったのう。さぁて、ドラゴネッティ卿には一体どんな天罰をくれてやろうか」
「俺はスイの為ならどのような罰でも謹んでお受けいたしますよ、シュクラ様」
「その意気やよし!」
「ちょ、ダメダメ! あたし、あたし泣いてないから!」
寂しいと我儘言って勝手に泣いて、それでエミリオに天罰が下るなんてとんでもない。ぶんぶんと激しく首を横に振るスイにシュクラはカラカラと笑いながらグラスを置いてソファーのところに戻ってきた。
「して、スイ。妊娠しているかどうか、確かめるか?」
「あ……ええと」
「わかるのですかシュクラ様?」
「触ればな」
「触る!?」
「おおさ。スイ、準備ができたら服を脱いでここに座れ」
シュクラはソファーに座って自分の横をポンポンと叩いてニコニコしながらスイを促してくる。
ちょっと待って欲しい。エミリオもいるのに服脱いで触診するなんてそんなことできるか、と顔面一杯に「うへあ」という表情を張り付けてシュクラを見る。
「えっと、あの」
「ちょっと待ってくださいシュクラ様。服をって、スイに裸になれというのですか」
「当り前じゃろ。直に触れねばわからぬし。……おっと、この姿ではいかんな。そぉれ」
再びキラリンと光ってから伸びをしたシュクラはまたさっきのムチムチボデーの妖艶な女神に早変わりした。どこぞの魔女っ子か何かみたいだ。
「心配せずともよい、ドラゴネッティ卿。女同志で見て触れてなぞカウントのうちに入らぬわ。のう、スイ」
「え」
「そ、そうなのか、スイ?」
「えーと、えーーーと……うん、まあ……言われてみればそうなのかなぁ……」
ここまで来て調べてもらうかもらわないかを悩むところだ。いくらシュクラが女神になったとはいえ、エミリオもいるのに触診することにちょっと抵抗がある。しかしだからと言って調べないでずるずるとわからないままというのも何だか気持ちがモチョモチョする。
もし妊娠していたら? それはそれで気を付けないといけない事がいっぱいあるけど、嬉しいことこの上ないし、エミリオの子ならスイも本当に欲しいのだ。
でも反対にもしいなかったら? とてもとても残念で寂しい日常に戻るのだけれど、どこか肩の荷が下りるような気がしないでもない。何より断酒しなくてもいい。
知りたいような、知りたくないような。
こんなに悩むくらいならあの避妊薬をちゃんと二日間のうちに飲んでおけばよかったのだ。けどエミリオへの恋慕と寂しさが押し寄せて、エミリオに似た子供でもいたらなあと寂しさのあまり思ってしまったから「飲まない」という暴挙に出てしまったわけだ。寂しいから子供が欲しいなんてちょっと世間様から怒られそうだけれど。
まあそれはともかく。せっかくシュクラが女体化までしてお膳立てしてくれたのに、収穫がシュクラの乳房の柔らかさを知ったことだけなんて、と思ったスイは、しばし考えた末にようやっと顔を上げた。
「……お、お願いします」
「スイ!?」
「多分すぐ済むから……エミさんちょっと待ってて。シュクラ様、あたしの部屋に行こう」
「構わぬが……」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待てって!」
立ち上がり、二人そろってエミリオを置いて居間を出て行こうとするのを、エミリオは必死で呼び止めた。
スイの部屋、イコール寝室だ。寝室というプライベート空間に自分以外をスイが招くのが嫌だった。
あの部屋は、あの濃密な一週間の間でスイと何度も愛し合った、エミリオにとってはスイとの聖域だ。それを、いくら親代わりのような、しかも神であり、今は女体化しているシュクラとはいえ、その聖域に踏み込んで欲しくないという、エミリオの我儘だった。
「……エミさん?」
「スイ、頼む。ここで……」
「え?」
「俺、大人しくしているから! 手出しも口出しもしないから……シュクラ様、どうか、ここでお願いします!」
エミリオのあまりの必死さに呆気にとられたスイとシュクラは、顔を見合わせてからソファーのところに戻ってきた。
結局のところ、最初の提案通りソファーにシュクラと並んで座る。二人掛けソファーなので、エミリオはソファーの前に正坐してスイとシュクラをまじまじと見ている。待てをさせられているワンコみたいだ。
服を脱がないといけないのだが、「エミさん向こう向いてて」とエミリオに言っても「何でシュクラ様はよくて俺はダメなんだ」と駄々をこね始めたので、こちらが折れてやるしかなかった。Tシャツの裾をまくって一息に脱いだ。今日は使い古したベージュのブラなので恥ずかしいが仕方がない。
下着までは脱がなくてもいいんだよなあと思いつつ、上半身ブラだけになったが、シュクラが「これも」といってショートパンツを指さしたので、苦虫を噛み潰したような表情でそれも脱ぐ。結局ブラとショーツだけにされて、ソファーのひじ掛けにもたれ掛かる。
一瞬エミリオのほうをちらと見ると、すぐに心配そうな表情の彼と目が合って、なんだか落ち着かなくて彼に手を伸ばす。
「エ、エミさん、手……繋いどこっか」
「スイ……!」
パッと表情が明るくなってすぐにソファーのところに寄り添ってきたエミリオ。まるでずっと待てをされていて、ようやく良しが出たワンコみたいだ。
エッチのときはこっちもあっちもとおねだりして甘えん坊の雄猫ちゃんみたいだったのになあ。
スイの手の甲に一度キスを落としてから、両手で愛おしむみたいに包み込んで自分の頬にあてる。エミリオの力強い手の力と温度で、さすがに緊張していたところが少々緩和してくる気がした。
一方シュクラは右腕を腕まくりしてから白魚のような女性的な指をわきわきと動かしていた。
「準備はよいかの? では参ろうかスイ」
「は、はい……」
ひじ掛けに背をもたれかけたスイの上にやや覆いかぶさるように上体を傾けたシュクラは、スイのむき出しになった臍から下のあたりの下腹に指を這わせ始めた。
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