3 / 16
つきはやものを
しおりを挟む
部活が終わると軽く汗を拭って着替えもせずに寮へ向かった。
わたしが住んでいるのは中等部桜花寮。二人部屋の寮である。二人部屋ということもありお互いにちょっとの気遣いが円滑な生活に不可欠で、入室前に念のためノックするようにしている。
「おかえりなさい」
どうやら既に戻っているようだ。ルームメイトの小太刀紗彩ちゃんは物静かな読書家で、わたしと気質が似通っていることもあり気楽な付き合いが出来る。
わたしたちの部屋で特徴的なのは大きめの本棚。お互いに本が好きとは言え、実家にある本の全てを持ち込めるわけではない。そこで寮の部屋に本棚を置いて、これから買う本も入る程度にコレクションを保管しているわけだ。
「お風呂行ってくるね。紗彩ちゃんは?」
「もう少しぬるまってから行くよ」
紗彩ちゃんと唯一決定的な違いがあるとすれば、熱いお風呂が好きか否かだろうか。今がだいたい五時半くらいなのだが、寮の大浴場が開放されたばかりの時間帯なのだ。このタイミングで行くと結構熱い。
別に江戸っ子というわけではないが、熱いお湯で汗を流してさっぱりするのは心地良いと思う。替えの下着とルームウェアを持って大浴場へ向かう。
寮の大浴場はまだ人がまばらで洗い場にも余裕がある。さっと汗を流し、ボディーソープをタオルで泡立たせ身体を洗う。それからシャンプーで髪を洗う。
星花女子学園の寮に置かれているボディーソープやシャンプーは経営母体である複合企業、天寿の製品が置かれている。
「やっほー」
「あ、小春先輩」
声をかけてきたのは西山小春先輩。気さくな性格で寮のほぼ全員と顔見知りだなんていうウワサもあるイラスト部の先輩だ。わたしは百人一首部の活動場所でもある学校の離れにほど近い場所で花のスケッチをする先輩に遭遇してからの付き合いだから、かれこれ一年半くらいだろうか。
「明日はサウナ行くの?」
小春先輩とは寮の先輩後輩という関係に留まらず、サウナ友達でもある。彼女さんと一緒に行って以来たまに行っているらしい。
「はい。金曜日に行くサウナは最高ですから」
「そっか。わたし上がるからゆっくりね~」
先輩を見送ったわたしは浴槽に浸かり、お湯に身体を預ける。
そう言えば先輩の彼女ってロゼ先輩と同級生だったっけ。何回か会ったことあるけど、明るくて少し軽そう印象を受け、ふんわりとした小春先輩とどういう馴れ初めなのかは知らない。
小春先輩も彼女さんは年上……。高校生と付き合いたい中学生が多いのか、それとも中学生と付き合いたい高校生が多いのか……。前者の方が健全そうな気がするが、まぁ大差はないのだろう。
いやいや、別に彼女が欲しいわけではないのだし、そんなことを考える必要なんてないじゃないか。
明日のサウナと土日の予定を考えた方がよっぽど建設的だ。とはいえ……渚も世音もデートだって言っていたし、久しぶりに永木庵のお菓子でも買いに行こうかな。それも何だか寂しいなぁ。大浴場の丸い照明が水面でまるで月のようにたゆたう。いや、やはり次の終末はお菓子を買いに行こう。中秋は過ぎたけれど、まだ栗の甘味がなにかあるはずだから。
浴槽のお湯を掬って顔を拭う。涙を流したわけではないけれど、頬を一筋……水滴が落ちていった。
わたしが住んでいるのは中等部桜花寮。二人部屋の寮である。二人部屋ということもありお互いにちょっとの気遣いが円滑な生活に不可欠で、入室前に念のためノックするようにしている。
「おかえりなさい」
どうやら既に戻っているようだ。ルームメイトの小太刀紗彩ちゃんは物静かな読書家で、わたしと気質が似通っていることもあり気楽な付き合いが出来る。
わたしたちの部屋で特徴的なのは大きめの本棚。お互いに本が好きとは言え、実家にある本の全てを持ち込めるわけではない。そこで寮の部屋に本棚を置いて、これから買う本も入る程度にコレクションを保管しているわけだ。
「お風呂行ってくるね。紗彩ちゃんは?」
「もう少しぬるまってから行くよ」
紗彩ちゃんと唯一決定的な違いがあるとすれば、熱いお風呂が好きか否かだろうか。今がだいたい五時半くらいなのだが、寮の大浴場が開放されたばかりの時間帯なのだ。このタイミングで行くと結構熱い。
別に江戸っ子というわけではないが、熱いお湯で汗を流してさっぱりするのは心地良いと思う。替えの下着とルームウェアを持って大浴場へ向かう。
寮の大浴場はまだ人がまばらで洗い場にも余裕がある。さっと汗を流し、ボディーソープをタオルで泡立たせ身体を洗う。それからシャンプーで髪を洗う。
星花女子学園の寮に置かれているボディーソープやシャンプーは経営母体である複合企業、天寿の製品が置かれている。
「やっほー」
「あ、小春先輩」
声をかけてきたのは西山小春先輩。気さくな性格で寮のほぼ全員と顔見知りだなんていうウワサもあるイラスト部の先輩だ。わたしは百人一首部の活動場所でもある学校の離れにほど近い場所で花のスケッチをする先輩に遭遇してからの付き合いだから、かれこれ一年半くらいだろうか。
「明日はサウナ行くの?」
小春先輩とは寮の先輩後輩という関係に留まらず、サウナ友達でもある。彼女さんと一緒に行って以来たまに行っているらしい。
「はい。金曜日に行くサウナは最高ですから」
「そっか。わたし上がるからゆっくりね~」
先輩を見送ったわたしは浴槽に浸かり、お湯に身体を預ける。
そう言えば先輩の彼女ってロゼ先輩と同級生だったっけ。何回か会ったことあるけど、明るくて少し軽そう印象を受け、ふんわりとした小春先輩とどういう馴れ初めなのかは知らない。
小春先輩も彼女さんは年上……。高校生と付き合いたい中学生が多いのか、それとも中学生と付き合いたい高校生が多いのか……。前者の方が健全そうな気がするが、まぁ大差はないのだろう。
いやいや、別に彼女が欲しいわけではないのだし、そんなことを考える必要なんてないじゃないか。
明日のサウナと土日の予定を考えた方がよっぽど建設的だ。とはいえ……渚も世音もデートだって言っていたし、久しぶりに永木庵のお菓子でも買いに行こうかな。それも何だか寂しいなぁ。大浴場の丸い照明が水面でまるで月のようにたゆたう。いや、やはり次の終末はお菓子を買いに行こう。中秋は過ぎたけれど、まだ栗の甘味がなにかあるはずだから。
浴槽のお湯を掬って顔を拭う。涙を流したわけではないけれど、頬を一筋……水滴が落ちていった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。

凜と咲く花になりたい
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。それは時に甘く……時に苦い。
私の親友には片想いの相手がいた。私にとっては部活の先輩。その先輩が卒業した今、私と親友は付き合うことになった。でも……彼女は私のことを愛してくれているのだろうか。

百合と雪はどちらも白い
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
恋仲にある幼馴染たちを眺めながら幸せをかみしめる主人公、美羽奈。そんな彼女に、幼馴染たちは思うところがあって……。
甘くとろける冬の百合ラブコメ開幕!

星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~
楠富 つかさ
恋愛
なろう、ハーメルン、アルファポリス等、投稿サイトの垣根を越えて展開している世界観共有百合作品企画『星花女子プロジェクト』の番外編短編集となります。
単体で読める作品を意識しておりますが、他作品を読むことによりますます楽しめるかと思います。

恋は芽吹いて百合が咲く
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
恋心を知らずに育った主人公は二人の後輩と出会うことで、やがて百合の花を咲かせる恋の種を芽吹かせる。

夜空に咲くは百合の花
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
親友と恋人になって一年、高校二年生になった私たちは先輩達を見送り後輩達を指導する激動の一年を迎えた。
忙しいけど彼女と一緒なら大丈夫、あまあまでラブラブな生徒会での日常系百合色ストーリー
火花散る剣戟の少女達
楠富 つかさ
ファンタジー
異世界から侵略してくる魔獣たちと戦う少女たち、彼女らは今日も剣と異能で戦いに挑む。
魔獣を討伐する軍人を養成する学校に通う少女の恋と戦いのお話です。
この作品はノベルアップ+さんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる