真紅の想いを重ねて

楠富 つかさ

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つきはやものを

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部活が終わると軽く汗を拭って着替えもせずに寮へ向かった。
わたしが住んでいるのは中等部桜花寮。二人部屋の寮である。二人部屋ということもありお互いにちょっとの気遣いが円滑な生活に不可欠で、入室前に念のためノックするようにしている。

「おかえりなさい」

 どうやら既に戻っているようだ。ルームメイトの小太刀紗彩ちゃんは物静かな読書家で、わたしと気質が似通っていることもあり気楽な付き合いが出来る。
 わたしたちの部屋で特徴的なのは大きめの本棚。お互いに本が好きとは言え、実家にある本の全てを持ち込めるわけではない。そこで寮の部屋に本棚を置いて、これから買う本も入る程度にコレクションを保管しているわけだ。

「お風呂行ってくるね。紗彩ちゃんは?」
「もう少しぬるまってから行くよ」

 紗彩ちゃんと唯一決定的な違いがあるとすれば、熱いお風呂が好きか否かだろうか。今がだいたい五時半くらいなのだが、寮の大浴場が開放されたばかりの時間帯なのだ。このタイミングで行くと結構熱い。
 別に江戸っ子というわけではないが、熱いお湯で汗を流してさっぱりするのは心地良いと思う。替えの下着とルームウェアを持って大浴場へ向かう。
 寮の大浴場はまだ人がまばらで洗い場にも余裕がある。さっと汗を流し、ボディーソープをタオルで泡立たせ身体を洗う。それからシャンプーで髪を洗う。
 星花女子学園の寮に置かれているボディーソープやシャンプーは経営母体である複合企業、天寿の製品が置かれている。

「やっほー」
「あ、小春先輩」

 声をかけてきたのは西山小春先輩。気さくな性格で寮のほぼ全員と顔見知りだなんていうウワサもあるイラスト部の先輩だ。わたしは百人一首部の活動場所でもある学校の離れにほど近い場所で花のスケッチをする先輩に遭遇してからの付き合いだから、かれこれ一年半くらいだろうか。

「明日はサウナ行くの?」

 小春先輩とは寮の先輩後輩という関係に留まらず、サウナ友達でもある。彼女さんと一緒に行って以来たまに行っているらしい。

「はい。金曜日に行くサウナは最高ですから」
「そっか。わたし上がるからゆっくりね~」

 先輩を見送ったわたしは浴槽に浸かり、お湯に身体を預ける。
 そう言えば先輩の彼女ってロゼ先輩と同級生だったっけ。何回か会ったことあるけど、明るくて少し軽そう印象を受け、ふんわりとした小春先輩とどういう馴れ初めなのかは知らない。
 小春先輩も彼女さんは年上……。高校生と付き合いたい中学生が多いのか、それとも中学生と付き合いたい高校生が多いのか……。前者の方が健全そうな気がするが、まぁ大差はないのだろう。
 いやいや、別に彼女が欲しいわけではないのだし、そんなことを考える必要なんてないじゃないか。
 明日のサウナと土日の予定を考えた方がよっぽど建設的だ。とはいえ……渚も世音もデートだって言っていたし、久しぶりに永木庵のお菓子でも買いに行こうかな。それも何だか寂しいなぁ。大浴場の丸い照明が水面でまるで月のようにたゆたう。いや、やはり次の終末はお菓子を買いに行こう。中秋は過ぎたけれど、まだ栗の甘味がなにかあるはずだから。
 浴槽のお湯を掬って顔を拭う。涙を流したわけではないけれど、頬を一筋……水滴が落ちていった。
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