4 / 16
きりたちのぼる
しおりを挟む
金曜日、授業を終えるとわたしは寮に戻りバスセットを回収する。普段の入浴ではシャンプーやリンス、ボディーソープを大浴場には持ち込まないが、銭湯に行く際には持って行く必要がある。
寮に置かれている天寿の商品はあくまでテスターで、製品版はちゃんと購入して普通に持っている。タオルとかは貸し出しがあるので、置いて行く。
「じゃあ紗彩ちゃん。行ってくるね」
「えぇ。行ってらっしゃい」
紗彩ちゃんに見送られ寮を出る。行き先は市内の銭湯「そら」だ。
そらは手頃な料金ということで人気の銭湯だ。特別な何かがあるというわけではないが、近場だし建物そのものは綺麗ということで、星花のサウナ―の間ではそこそこ人気だ。
サウナそのものが趣味としては新興勢力ということもあり、流行に敏感な星花女子生の間には星川方面のサウナへ通っている人や、わざわざ汐見にある温泉地のサウナへ通っている人もいるという。流石にお嬢様学校なだけある。
もっとも、わたしみたいな庶民側としてはそらの存在はありがたいのだが。
そらへ向かっていると、遠目に小春先輩の姿が見えた。隣にはもちろん彼女さんの五百旗頭先輩がいた。
番台でお金を払った後、脱衣所で先輩たちと挨拶を交す。
「ほいほーい、紅凪ちゃんこんにちはー」
「小春先輩、五百旗頭先輩、こんにちは」
「やっぱ金曜のサウナはいいね」
サウナにはわたしたち学生と、大人の人が三人、それから高齢の女性が一人。合せて七人で、そこそこスペースが埋まっていた。
これが高い料金の温浴施設ならサウナ内にテレビがあることもあるのだろうが、そらにはそういった設備はない。サウナのお供はやはり世間話だ。
「そういえば小春先輩は今三年生ですけど、来年新設の国際科には興味ないんですか?」
星花女子は現在、中等部が四クラス、高等部が普通科四クラスに加えて商業科と服飾科が一クラスずつある。そして来年度からは七組として国際科が設置されるのだ。将来的には中等部のクラス数も増やす予定があるようで、実際のところ星花女子学園には空き教室がけっこうある。
建物を新たに建て直し、それにより経営も立て直そうとした先代の理事長による計画だったのだろうけれど、結局傾いた経営は今の伊ヶ崎理事長によって見直されたわけだ。アパレル系の事業もある天寿が経営に加わったこともあり、国際科を後回しにし服飾科が新設されたなんていうウワサもある。事実かどうかは知らないけれど。
「わたしはねぇ国際科には興味ないなぁ。高等部でも普通科の予定だよ~」
「五百旗頭先輩は将来の夢とかあるんですか?」
「紅凪ちゃんは真面目だねぇ。私かぁ。ブライダル系とかいいかもね。……あは、初めて言ったや」
「わたしはぁ、保育士さんとか憧れるなあ」
……二人ともちゃんと将来の夢があるんだ。小春先輩ですら、とは言ってはいけないが将来、かぁ。てんで考えてないや。サウナや読書は好きだけど、職業からは少し遠い。勉強も苦手ではないけれど、菊花寮に入れるような水準じゃない。それに勉強さえ出来ればいいというわけでもない。
「ねえ紅凪ちゃん。サウナ―歴はわたしの方が短いけどさ、難しいことを考えるより頭をからっぽにする方がサウナ向きだってことは分かるよ」
五百旗頭先輩の言葉にハッとする。確かにそれもそうだ。ならばと、わたしは一声かけてサウナを出て、さっと汗を流すと水風呂に身体を委ねた。
まだ脳内は霧がかかったような気分で、とてもととのいそうにはなかった。
流石に外気浴は出来ないので、風呂椅子に座りながらしばらく待っても、やはりあのふんわりとした心地よさは体感できなかった。先輩達はもう少しゆっくりしていくらしいが、わたしは先に帰ることにした。
銭湯そらを出るとすっかり夕暮れで、秋の深まりをわたしはまざまざと感じるのだった。
寮に置かれている天寿の商品はあくまでテスターで、製品版はちゃんと購入して普通に持っている。タオルとかは貸し出しがあるので、置いて行く。
「じゃあ紗彩ちゃん。行ってくるね」
「えぇ。行ってらっしゃい」
紗彩ちゃんに見送られ寮を出る。行き先は市内の銭湯「そら」だ。
そらは手頃な料金ということで人気の銭湯だ。特別な何かがあるというわけではないが、近場だし建物そのものは綺麗ということで、星花のサウナ―の間ではそこそこ人気だ。
サウナそのものが趣味としては新興勢力ということもあり、流行に敏感な星花女子生の間には星川方面のサウナへ通っている人や、わざわざ汐見にある温泉地のサウナへ通っている人もいるという。流石にお嬢様学校なだけある。
もっとも、わたしみたいな庶民側としてはそらの存在はありがたいのだが。
そらへ向かっていると、遠目に小春先輩の姿が見えた。隣にはもちろん彼女さんの五百旗頭先輩がいた。
番台でお金を払った後、脱衣所で先輩たちと挨拶を交す。
「ほいほーい、紅凪ちゃんこんにちはー」
「小春先輩、五百旗頭先輩、こんにちは」
「やっぱ金曜のサウナはいいね」
サウナにはわたしたち学生と、大人の人が三人、それから高齢の女性が一人。合せて七人で、そこそこスペースが埋まっていた。
これが高い料金の温浴施設ならサウナ内にテレビがあることもあるのだろうが、そらにはそういった設備はない。サウナのお供はやはり世間話だ。
「そういえば小春先輩は今三年生ですけど、来年新設の国際科には興味ないんですか?」
星花女子は現在、中等部が四クラス、高等部が普通科四クラスに加えて商業科と服飾科が一クラスずつある。そして来年度からは七組として国際科が設置されるのだ。将来的には中等部のクラス数も増やす予定があるようで、実際のところ星花女子学園には空き教室がけっこうある。
建物を新たに建て直し、それにより経営も立て直そうとした先代の理事長による計画だったのだろうけれど、結局傾いた経営は今の伊ヶ崎理事長によって見直されたわけだ。アパレル系の事業もある天寿が経営に加わったこともあり、国際科を後回しにし服飾科が新設されたなんていうウワサもある。事実かどうかは知らないけれど。
「わたしはねぇ国際科には興味ないなぁ。高等部でも普通科の予定だよ~」
「五百旗頭先輩は将来の夢とかあるんですか?」
「紅凪ちゃんは真面目だねぇ。私かぁ。ブライダル系とかいいかもね。……あは、初めて言ったや」
「わたしはぁ、保育士さんとか憧れるなあ」
……二人ともちゃんと将来の夢があるんだ。小春先輩ですら、とは言ってはいけないが将来、かぁ。てんで考えてないや。サウナや読書は好きだけど、職業からは少し遠い。勉強も苦手ではないけれど、菊花寮に入れるような水準じゃない。それに勉強さえ出来ればいいというわけでもない。
「ねえ紅凪ちゃん。サウナ―歴はわたしの方が短いけどさ、難しいことを考えるより頭をからっぽにする方がサウナ向きだってことは分かるよ」
五百旗頭先輩の言葉にハッとする。確かにそれもそうだ。ならばと、わたしは一声かけてサウナを出て、さっと汗を流すと水風呂に身体を委ねた。
まだ脳内は霧がかかったような気分で、とてもととのいそうにはなかった。
流石に外気浴は出来ないので、風呂椅子に座りながらしばらく待っても、やはりあのふんわりとした心地よさは体感できなかった。先輩達はもう少しゆっくりしていくらしいが、わたしは先に帰ることにした。
銭湯そらを出るとすっかり夕暮れで、秋の深まりをわたしはまざまざと感じるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
君の瞳のその奥に
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。それは時に甘く……時に苦い。
失恋を引き摺ったまま誰かに好意を寄せられたとき、その瞳に映るのは誰ですか?
片想いの相手に彼女が出来た。その事実にうちひしがれながらも日常を送る主人公、西恵玲奈。彼女は新聞部の活動で高等部一年の須川美海と出会う。人の温もりを欲する二人が出会い……新たな恋が芽吹く。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
深淵ニ舞フ昏キ乙女ノ狂詩曲 ~厨二少女だって百合したい!~
楠富 つかさ
恋愛
運命的な出会いを果たした二人の少女。そう、彼女たちは中二病の重症患者であった。方や右眼と左腕を疼かせる神の使い、方や左目と右腕が疼くネクロマンサー。彼女たちの、中二病としてそして一人の少女としての、魂の物語を綴る。
星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~
楠富 つかさ
恋愛
なろう、ハーメルン、アルファポリス等、投稿サイトの垣根を越えて展開している世界観共有百合作品企画『星花女子プロジェクト』の番外編短編集となります。
単体で読める作品を意識しておりますが、他作品を読むことによりますます楽しめるかと思います。
雪と桜のその間
楠富 つかさ
青春
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
主人公、佐伯雪絵は美術部の部長を務める高校3年生。恋をするにはもう遅い、そんなことを考えつつ来る文化祭や受験に向けて日々を過ごしていた。そんな彼女に、思いを寄せる後輩の姿が……?
真面目な先輩と無邪気な後輩が織りなす美術部ガールズラブストーリー、開幕です!
第12回恋愛小説大賞にエントリーしました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合と雪はどちらも白い
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
恋仲にある幼馴染たちを眺めながら幸せをかみしめる主人公、美羽奈。そんな彼女に、幼馴染たちは思うところがあって……。
甘くとろける冬の百合ラブコメ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる