百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ

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本編

022 休み明け

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 お盆休みが明けて、久しぶりのシルキスト。
 店の扉を開けた瞬間、ふわっと甘い香りが鼻をくすぐった。お気に入りの柔軟剤の香り、それからランジェリーにほんのり染みついた上質なパウダリーな香り。これこれ、この匂い。すっかりこの匂いで落ち着く自分に、慣れてきたなぁと実感する。

「ラン、おはよう」

 奥から響いたクールな声の持ち主はシンディ先輩だった。シフトに入る頻度は減らしているけれど、今日はたまたま一緒になったのだ。というか、休み明けでいっぱいお客様が来ることを見越してのヘルプみたいな感じ。

「おはようございます、シンディ先輩」
「お盆、ゆっくりできた?」
「まぁ、一応。でもそろそろ体が鈍りそうだったから、仕事モードに戻れて嬉しいかもしれないっす」
「それ、わかるわ。 こちとら久々に入るってのに、忙しそうな日に呼ばれちまったから、リハビリって感じだな」

 そう言いながらシンディ先輩は腰に手を当て、くるっと一回転してみせる。ガウンから覗く黒のセクシー系ランジェリーをこのお店で一番着こなしていると思う。

「リハビリって……そんな激しいことするわけじゃないでしょ?」
「いやいや、久々だと、それこそ歩き方とか姿勢とか忘れちまうもんなんだよ。ほら、立ち姿もちゃんと意識しないとな!」

 言われて私も自然と背筋を伸ばす。たしかに、お店では姿勢や仕草一つで印象が変わるから、気を引き締めなきゃ。

「おはよ、ランちゃん」

 ふわっと優しく香る紅茶のような匂いとともに、サラさんがやってきた。お盆明けで気が緩んでいるのか、少し眠たげな表情。でも、しなやかにまとったランジェリーはやっぱり大人の色気たっぷりで、思わず視線が泳いでしまう。

「あれ? サラさん、今日はちゃんと着てますね?」
「うん? ……あぁ、私が脱ぎがちってこと?」
「そうです、酔うとすぐに……」
「お盆休み明けくらいはね、ちゃんとしておこうかなって」

 サラさんはそう言いながら、小さく笑った。でも、その指先がガウンの胸元をちょっといじっているのを見てしまった。もしかして、すでに少し脱ぐ気がある……?

 店の奥では、モエちゃんとメグさんが開店準備をしていた。モエちゃんは「ランちゃーん!」と駆け寄ろうとしたものの、すぐにメグさんに首根っこを掴まれる。

「ほら、準備まだ終わってないでしょ?」
「だって久しぶりにランちゃんに会えたのに~!」
「仕事は仕事。まずはやることやってから」

 メグさんに窘められて、モエちゃんは口を尖らせながらもカウンターに戻っていった。その後ろ姿が妙に可愛らしくて、思わずクスッとしてしまう。

 開店準備が終わり、シルキストの営業が始まる。
 ドアのベルが鳴り、お客様が入ってきた瞬間、空気が一気に華やぐ。お盆明けでも、お店はいつも通りの賑やかさ。

「さぁ、今日もシルキストを楽しんでもらおう!」

 いつものように笑顔を作って、お客様を迎えた。ここからが本番。ちょっぴりドキドキする、でも心地よい一日の始まりだ。
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